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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
七章 キズ(後篇)
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一時帰宅

「お? あれじゃねぇーの?」


 仮設住宅が立ち並ぶ中に、廃墟になっていたアパートをソルクスが指差す。


「ああ、多分あの建物の中のどれかだろう」

「えっとぉ? ”205”って書いてあるけど、どゆこと?」


 尋ねられたショウは、少し間をおいて答える。


「……さぁ?」

「何だよ、ショウも知らねぇーのかよ!」

「行けばわかるもんだと思うだろう」

「ま、確かにな」


 二人が首をかしげている姿に、コナーとマルクスは苦笑いになる。


 マルクスは家族が同じ場所に住んでいると聞いて、ここまで同行してきたのである。


「ショウさん、それは二階の五番目の部屋って事ですよ」

「お! 流石コナー薄情だな!」

「それを言うなら博識な……」

「あ、そうだっけか?」

「もう、ソルさんてば……」


 相変わらずのソルクスに、コナーは怒る気力もわかない。


「隊長もソルさんも、意外と抜けてるところあるんだな……」

「まぁ、僕もさっきマルクスさんに聞いたばかりだから、人の事言えませんけどね」

「何だよ、コナーはカンニングしてたのかよ!」

「僕はともかく、自分達の家の場所くらい、ちゃんと分かってると思うじゃないですか」


 コナーは頬を膨らませてそっぽを向いた。


「コナー、許してやってくれ。ちゃんと調べてない俺も悪かったしな。あ、そう言えばマルクスの家はどこなんだ?」


 ショウの問いに、マルクスはにこやかに答える。


「ああ、僕は201です」

「となると? 二階の一番目って事か」

「はい。隊長達とはご近所さんですね」

「確か、お袋さんと妹がいたんだったな」

「はい。隊長は確か……」

「妹と双子の弟がいる」

「あ! ショ、ショウさん!」


 ショウの言葉を聞いて、先程まで膨れていたコナーは唐突に声を出した。


「どうした? 何か忘れ物でもしたか?」

「あ、あの、そうじゃないんです。ただ……。本当に良かったんですか? 折角の家族水入らずなのに……」

「なーんだよ! そんな事気にすんなって! 俺達が誘ってんだから大丈夫だって! スーヤもチビ達も気にしねーよ」


 ソルクスはコナーと肩を組むと、ニシシと笑う。


「そ、そうは言っても……」

「本当に大丈夫だ。それに言ったろ。コナーに頼みたいことがあるって」

「は、はい……」


 そうこう言っている間に、目的のアパートまで来ると、四人は二階へ向かった。通路を行くと、等間隔にドアが並んでいて、ドアの中央には数字が書いてあった。


「じゃあ、僕はここで失礼します」


 201と書かれたドアの前で、マルクスは軽くお辞儀をした。


「ああ、また後で」


 そう言って、三人はマルクスと別れ、通路の奥へと進む。


「お兄! お帰りなさい!」


 歓迎の声を聞き、コナーは思わず振り返る。

 そこには、マルクスに無事で良かったと泣きついている妹と、二人を包むように抱きしめる母の姿があった。それを見たコナーは動けずにいた。


「ん? コナー! 何してんだぁー?」


 ソルクスに呼ばれ、コナーはゆっくりと向き直り、一層重くなった歩を進めた。


「どした? 腹でもいてぇーのか?」

「……何でもありません」


 温かく迎える家族の姿を目の当たりにし、コナーはより、いたたまれない気持ちに苛まれる。


 205と書かれたドアの前で、ショウは円形のドアノッカーを叩いた。ノックしてすぐに、足音が近づいてくるのがわかる。


 ――きっとショウさん達も、マルクスさんの家族のように温かく迎えられる。僕には無いなぁ。あそこにはもう、戻れないし、戻ったところで誰も歓迎してなんかくれないだろうな。家族って本来ああいうものなんだろうな。……あれ? 何で僕、ここにいるんだろう?


 鍵の開く音が聞こえ、ドアが開かれる。


「はいはーい。どちら様ですかー?」


 開かれたドアの先には、エプロン姿の少女が立っていた。ショウと同じ黒髪をしている。


 少女はショウとソルクスの顔を見た瞬間、目を見開いた。


「ただいま」

「よっ! 元気してたか?」


 ぎこちなく笑うショウと、いつものようにニシシと笑うソルクスを見て、見開かれた瞳は潤んだように見えた。


「お兄……ちゃん? ソル?」


 ――ああ、やっぱり僕は、来るべきじゃなかったんじゃ……


「ふんっ!!」


 ショウの顔面に向けて繰り出された拳は空を切り、勢いそのままにソルの顔面へと直撃した。


「ふごっ!!」


 殴り飛ばされたソルクスは、勢い余って仰向けに倒れこんだ。


「え? えぇー!?」


 コナーは自分の予測と違う結果に、戸惑いを隠せないで居た。


「ソ、ソルさん! 大丈夫ですか!?」

「うん。中々良い拳だ」

「えぇ!?」


 屈んで拳を回避したショウは、淡々と感想を述べる。


「ふふん! 当然! じゃなくて、お兄ちゃん?」

「ん?」

「ん? じゃない! またそんなに怪我して、何なの!?」

「え、いや、何なのって言われても……。名誉の負傷と言うか、何と言うか」


 ショウの言い訳に、スーヤは柳眉を吊り上げる。


「はぁ? 名誉の負傷? 怪我に名誉もクソもないわ! そんなに怪我して!」

「う、それは……。面目無い……」

「いってぇー……」


 綺麗に吹っ飛ばされたソルクスが頰をさすりながら体を起こすと、スーヤの鋭い眼光がソルクスを捉える。


「ソル? あんた”俺が付いてるから、ショウには怪我ひとつさせない”って意気揚々と付いて行ったクセに、お兄ちゃんの方が怪我してるってどう言う事?」

「あ? そんな事俺言ったか? てかショウが治り遅いだけで、俺だって一応怪我人なんだぞ!? ちっとは力加減考えろよ! ゴリラかよ」


 スーヤの静かな笑みを見て、ショウはゆっくりとその場から離れる。


「だーれがゴリラだってぇ!?」


 スーヤは玄関に置いてある棒を持ち出した。


「え、ちょ、待って。鈍器はダメっしょ? スーヤさん? 死んじゃうよ? な、なぁ! ショウ!」

「知らん」

「あ! 逃げんなコラー!」

「さぁー覚悟しな! クソソル!」

「ま、待ってください! ソルさんも怪我人なんです! それに、女の子がクソとか言っちゃダメですよ! それと、そんなもの振り回したら危ないです!!」


 コナーが意を決してソルクスとスーヤの間に入る。


「はぁ? 何言ってんの?」

「ひぃ! ごめんなさいぃ!!」


 コナーは殴られると思い、目をぎゅっと瞑り、頭を守る。


「冗談よ、冗談」

「へ?」

「まさか、本気で殴ると思ったの? コレで? 無い無い。流石に死んじゃうでしょ。あはは。軽いジョーク!」


 ――全然笑えないよ! だって殺気が凄かったもん!


「あー、でも本当にあの拳は良かったなー。良い感じでグラって来たもん。成長したな!」

「ふふん! そうでしょう?」

「え? え?」

「コナー、気にするな。いつもの光景だ」


 ――え? いつもこんな殺意高い系ジョークするの? イグルスジョーク怖過ぎるよ!


「所で、そちらは?」


 しどろもどろになっているコナーを見て、スーヤは不思議そうに首をかしげる。


「ああ、紹介が遅れたな。こちらはコナー・ウェーダー二等兵。俺達と同室で、部隊では衛生兵長をしてくれている。一応俺の部下にあたる。休暇の三日間、ここで過ごしてもらうことになった」

「コ、コナーです! よ、よろしくお願いします!」


 改めて紹介されて硬くなるコナーを見て、スーヤはにこやかに応える。


「こちらこそよろしくね、コナーちゃん。私は妹のスーヤ。いつもお兄ちゃんとソルがお世話になってます」

「え、いや、お世話になってるのは僕の方というか……」


 礼儀正しく挨拶をするスーヤに、コナーは慌ててしまう。


「もう、お兄ちゃん達が戻ってくるなんて、それもお客さんも一緒なんて聞いてないから、何にも準備してないんだけど!」

「手紙出したって字が読めないだろう?」

「それでも何かは欲しかった! 手紙が来たら、近所のクレイさんに読むの手伝ってもらえたのに」


 聞き覚えのある名前に、ショウは目を丸くした。


「クレイさんて、マルクスの家か?」

「そう! マルクスさんの妹のモニカさんとも仲良くなったんだから!」

「そうか。上手くやれてるみたいだな」

「勿論! あ、そうだ」


 スーヤは踵を返し、部屋の中へと呼びかける。


「リアン! ルイス! お兄ちゃん達帰って来たよ!」


 スーヤの声を聞くなり、慌ただしい二つの足音が聞こえてくる。


「「兄ちゃん帰ってきたー!!」」




挿絵(By みてみん)




 ショウに向かって、玄関から大ジャンプを決めた弟達に圧倒されながら、ショウは二人を受け止める。


「いてて。ただいま。ちゃんと姉ちゃんの言う事聞いてたか?」

「聞いてたよな!」

「な!」


 ショウよりも目が丸く、懐っこい顔をした双子は、顔を見合わせて頷きあっている。


「本当に言うこと聞いてたのかぁー? 怪しいもんだぜ?」

「「ソル兄だ!」」


 ソルクスの姿を確認するなり、ショウからソルクスへと飛び付き始める。


「おうおう! チビ達も元気そうだな!」


 ソルクスが二人の頭をグリグリと撫でていると、双子の目線は自然とコナーに集まっていった。目があったコナーは、取り敢えず挨拶をする。


「こ、こんにちは」


 双子はジッとコナーを見つめた後、顔を見合わせて目を輝かせた。


「兄ちゃんが女連れて帰ってきた!」

「きた!」

「「え?」」

「あ、やっぱりそうだよね。そうじゃないと連れて来ないもんね!」

「ぎゃはははははは! マジかよ! あっはは!」


 ショウとコナーは呆然とし、ソルクスは爆笑していた。


「スーヤ、真に受けるな。こら待て! リアン! ルイス! ったく……」


 走り回るリアンとルイスを止めるため、ショウは部屋の中へと入って行った。


「ここで話していても仕方ないし、私達も中に入りましょう。コナーちゃんもどうぞ!」

「は、はい。お邪魔、します」

「おう。入った入った!」

「もう! 帰ってきて早々我が物顔ね? まぁ、間違ってはないからいいけど」


 コナーは少し戸惑いながらも、マクレイア家へと足を踏み入れた。


どうも、朝日龍弥です。

新キャラというわけではございませんが、prologueから名前しか出てきていなかった、ショウの弟妹のお披露目となりました!

長かったなぁ……。


次回更新は、7/10(水)となります。

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