一時帰宅
「お? あれじゃねぇーの?」
仮設住宅が立ち並ぶ中に、廃墟になっていたアパートをソルクスが指差す。
「ああ、多分あの建物の中のどれかだろう」
「えっとぉ? ”205”って書いてあるけど、どゆこと?」
尋ねられたショウは、少し間をおいて答える。
「……さぁ?」
「何だよ、ショウも知らねぇーのかよ!」
「行けばわかるもんだと思うだろう」
「ま、確かにな」
二人が首をかしげている姿に、コナーとマルクスは苦笑いになる。
マルクスは家族が同じ場所に住んでいると聞いて、ここまで同行してきたのである。
「ショウさん、それは二階の五番目の部屋って事ですよ」
「お! 流石コナー薄情だな!」
「それを言うなら博識な……」
「あ、そうだっけか?」
「もう、ソルさんてば……」
相変わらずのソルクスに、コナーは怒る気力もわかない。
「隊長もソルさんも、意外と抜けてるところあるんだな……」
「まぁ、僕もさっきマルクスさんに聞いたばかりだから、人の事言えませんけどね」
「何だよ、コナーはカンニングしてたのかよ!」
「僕はともかく、自分達の家の場所くらい、ちゃんと分かってると思うじゃないですか」
コナーは頬を膨らませてそっぽを向いた。
「コナー、許してやってくれ。ちゃんと調べてない俺も悪かったしな。あ、そう言えばマルクスの家はどこなんだ?」
ショウの問いに、マルクスはにこやかに答える。
「ああ、僕は201です」
「となると? 二階の一番目って事か」
「はい。隊長達とはご近所さんですね」
「確か、お袋さんと妹がいたんだったな」
「はい。隊長は確か……」
「妹と双子の弟がいる」
「あ! ショ、ショウさん!」
ショウの言葉を聞いて、先程まで膨れていたコナーは唐突に声を出した。
「どうした? 何か忘れ物でもしたか?」
「あ、あの、そうじゃないんです。ただ……。本当に良かったんですか? 折角の家族水入らずなのに……」
「なーんだよ! そんな事気にすんなって! 俺達が誘ってんだから大丈夫だって! スーヤもチビ達も気にしねーよ」
ソルクスはコナーと肩を組むと、ニシシと笑う。
「そ、そうは言っても……」
「本当に大丈夫だ。それに言ったろ。コナーに頼みたいことがあるって」
「は、はい……」
そうこう言っている間に、目的のアパートまで来ると、四人は二階へ向かった。通路を行くと、等間隔にドアが並んでいて、ドアの中央には数字が書いてあった。
「じゃあ、僕はここで失礼します」
201と書かれたドアの前で、マルクスは軽くお辞儀をした。
「ああ、また後で」
そう言って、三人はマルクスと別れ、通路の奥へと進む。
「お兄! お帰りなさい!」
歓迎の声を聞き、コナーは思わず振り返る。
そこには、マルクスに無事で良かったと泣きついている妹と、二人を包むように抱きしめる母の姿があった。それを見たコナーは動けずにいた。
「ん? コナー! 何してんだぁー?」
ソルクスに呼ばれ、コナーはゆっくりと向き直り、一層重くなった歩を進めた。
「どした? 腹でもいてぇーのか?」
「……何でもありません」
温かく迎える家族の姿を目の当たりにし、コナーはより、いたたまれない気持ちに苛まれる。
205と書かれたドアの前で、ショウは円形のドアノッカーを叩いた。ノックしてすぐに、足音が近づいてくるのがわかる。
――きっとショウさん達も、マルクスさんの家族のように温かく迎えられる。僕には無いなぁ。あそこにはもう、戻れないし、戻ったところで誰も歓迎してなんかくれないだろうな。家族って本来ああいうものなんだろうな。……あれ? 何で僕、ここにいるんだろう?
鍵の開く音が聞こえ、ドアが開かれる。
「はいはーい。どちら様ですかー?」
開かれたドアの先には、エプロン姿の少女が立っていた。ショウと同じ黒髪をしている。
少女はショウとソルクスの顔を見た瞬間、目を見開いた。
「ただいま」
「よっ! 元気してたか?」
ぎこちなく笑うショウと、いつものようにニシシと笑うソルクスを見て、見開かれた瞳は潤んだように見えた。
「お兄……ちゃん? ソル?」
――ああ、やっぱり僕は、来るべきじゃなかったんじゃ……
「ふんっ!!」
ショウの顔面に向けて繰り出された拳は空を切り、勢いそのままにソルの顔面へと直撃した。
「ふごっ!!」
殴り飛ばされたソルクスは、勢い余って仰向けに倒れこんだ。
「え? えぇー!?」
コナーは自分の予測と違う結果に、戸惑いを隠せないで居た。
「ソ、ソルさん! 大丈夫ですか!?」
「うん。中々良い拳だ」
「えぇ!?」
屈んで拳を回避したショウは、淡々と感想を述べる。
「ふふん! 当然! じゃなくて、お兄ちゃん?」
「ん?」
「ん? じゃない! またそんなに怪我して、何なの!?」
「え、いや、何なのって言われても……。名誉の負傷と言うか、何と言うか」
ショウの言い訳に、スーヤは柳眉を吊り上げる。
「はぁ? 名誉の負傷? 怪我に名誉もクソもないわ! そんなに怪我して!」
「う、それは……。面目無い……」
「いってぇー……」
綺麗に吹っ飛ばされたソルクスが頰をさすりながら体を起こすと、スーヤの鋭い眼光がソルクスを捉える。
「ソル? あんた”俺が付いてるから、ショウには怪我ひとつさせない”って意気揚々と付いて行ったクセに、お兄ちゃんの方が怪我してるってどう言う事?」
「あ? そんな事俺言ったか? てかショウが治り遅いだけで、俺だって一応怪我人なんだぞ!? ちっとは力加減考えろよ! ゴリラかよ」
スーヤの静かな笑みを見て、ショウはゆっくりとその場から離れる。
「だーれがゴリラだってぇ!?」
スーヤは玄関に置いてある棒を持ち出した。
「え、ちょ、待って。鈍器はダメっしょ? スーヤさん? 死んじゃうよ? な、なぁ! ショウ!」
「知らん」
「あ! 逃げんなコラー!」
「さぁー覚悟しな! クソソル!」
「ま、待ってください! ソルさんも怪我人なんです! それに、女の子がクソとか言っちゃダメですよ! それと、そんなもの振り回したら危ないです!!」
コナーが意を決してソルクスとスーヤの間に入る。
「はぁ? 何言ってんの?」
「ひぃ! ごめんなさいぃ!!」
コナーは殴られると思い、目をぎゅっと瞑り、頭を守る。
「冗談よ、冗談」
「へ?」
「まさか、本気で殴ると思ったの? コレで? 無い無い。流石に死んじゃうでしょ。あはは。軽いジョーク!」
――全然笑えないよ! だって殺気が凄かったもん!
「あー、でも本当にあの拳は良かったなー。良い感じでグラって来たもん。成長したな!」
「ふふん! そうでしょう?」
「え? え?」
「コナー、気にするな。いつもの光景だ」
――え? いつもこんな殺意高い系ジョークするの? イグルスジョーク怖過ぎるよ!
「所で、そちらは?」
しどろもどろになっているコナーを見て、スーヤは不思議そうに首をかしげる。
「ああ、紹介が遅れたな。こちらはコナー・ウェーダー二等兵。俺達と同室で、部隊では衛生兵長をしてくれている。一応俺の部下にあたる。休暇の三日間、ここで過ごしてもらうことになった」
「コ、コナーです! よ、よろしくお願いします!」
改めて紹介されて硬くなるコナーを見て、スーヤはにこやかに応える。
「こちらこそよろしくね、コナーちゃん。私は妹のスーヤ。いつもお兄ちゃんとソルがお世話になってます」
「え、いや、お世話になってるのは僕の方というか……」
礼儀正しく挨拶をするスーヤに、コナーは慌ててしまう。
「もう、お兄ちゃん達が戻ってくるなんて、それもお客さんも一緒なんて聞いてないから、何にも準備してないんだけど!」
「手紙出したって字が読めないだろう?」
「それでも何かは欲しかった! 手紙が来たら、近所のクレイさんに読むの手伝ってもらえたのに」
聞き覚えのある名前に、ショウは目を丸くした。
「クレイさんて、マルクスの家か?」
「そう! マルクスさんの妹のモニカさんとも仲良くなったんだから!」
「そうか。上手くやれてるみたいだな」
「勿論! あ、そうだ」
スーヤは踵を返し、部屋の中へと呼びかける。
「リアン! ルイス! お兄ちゃん達帰って来たよ!」
スーヤの声を聞くなり、慌ただしい二つの足音が聞こえてくる。
「「兄ちゃん帰ってきたー!!」」
ショウに向かって、玄関から大ジャンプを決めた弟達に圧倒されながら、ショウは二人を受け止める。
「いてて。ただいま。ちゃんと姉ちゃんの言う事聞いてたか?」
「聞いてたよな!」
「な!」
ショウよりも目が丸く、懐っこい顔をした双子は、顔を見合わせて頷きあっている。
「本当に言うこと聞いてたのかぁー? 怪しいもんだぜ?」
「「ソル兄だ!」」
ソルクスの姿を確認するなり、ショウからソルクスへと飛び付き始める。
「おうおう! チビ達も元気そうだな!」
ソルクスが二人の頭をグリグリと撫でていると、双子の目線は自然とコナーに集まっていった。目があったコナーは、取り敢えず挨拶をする。
「こ、こんにちは」
双子はジッとコナーを見つめた後、顔を見合わせて目を輝かせた。
「兄ちゃんが女連れて帰ってきた!」
「きた!」
「「え?」」
「あ、やっぱりそうだよね。そうじゃないと連れて来ないもんね!」
「ぎゃはははははは! マジかよ! あっはは!」
ショウとコナーは呆然とし、ソルクスは爆笑していた。
「スーヤ、真に受けるな。こら待て! リアン! ルイス! ったく……」
走り回るリアンとルイスを止めるため、ショウは部屋の中へと入って行った。
「ここで話していても仕方ないし、私達も中に入りましょう。コナーちゃんもどうぞ!」
「は、はい。お邪魔、します」
「おう。入った入った!」
「もう! 帰ってきて早々我が物顔ね? まぁ、間違ってはないからいいけど」
コナーは少し戸惑いながらも、マクレイア家へと足を踏み入れた。
どうも、朝日龍弥です。
新キャラというわけではございませんが、prologueから名前しか出てきていなかった、ショウの弟妹のお披露目となりました!
長かったなぁ……。
次回更新は、7/10(水)となります。




