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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
六章 初陣
48/446

デンバー基地殲滅作戦(後編)

「どうなってんだよ!」

「防火シャッターが勝手にしまったぞ!?」

「司令室と連絡はつかないのか!?」

「ちくしょう! モニター室の連中は何やってんだ!」


 奇襲を受け、援護するために外へ向かっていたS派の兵は、退路も絶たれ、混乱状態に陥っていた。


 司令室へ連絡を取るために無線を使うものの、雑音しか聞こえない。こんな状況が、デンバー基地内部のあちこちで起こっていた。


「ダメです! 繋がりません!」

「うろたえるな!! 司令室とはそのまま繋げておけ! それと、本部への通信も急げ! 連絡がついたら報告しろ! いいかお前ら! モニター室は敵の手に落ちていると考えていいだろう。すでに我々の目的は外にいる味方の援護ではない! この拠点から生きて脱出する事だ! 戦闘準備! どこから敵が攻めてくるかもわからんぞ!」

「りょ、了解!」


 分隊長と思われる尉官階級の男が、冷静に状況を整理し、部下に指示を飛ばす。すると、先程まで右往左往していた下士官連中は落ち着きを取り戻し、隊列を組み始める。


「分隊長! シャッターが開きます!」


 部下の報告を受け、眼前のシャッターが開き始めたのを確認する。


「総員構え! 罠かもしれ――」


 S派の分隊長が言い終える前に、赤い閃光が喉を貫いた。首から勢いよく血を吹き出し、分隊長は力なくその場に崩れ落ちる。


「え?」


 一人の兵士は、視界がスローモーションで流れる刹那の時間、その赤が炎髪の少年だと認識した。それと同時に、彼の喉元には小型ナイフが突き立てられていた。


 突き立てたナイフを引き抜き、ソルクスは炎髪を更に赤黒い血で染め上げて行く。


「こ、子供!?」

「構うな! 撃ち殺せ!」


 瞬く間に指揮官と仲間一人を失ったS派の兵士は、迷う事なく小型ナイフを振るう少年に小銃を向け、引鉄を絞る。その瞬間、彼のこめかみには一発の弾丸が撃ち込まれていた。


 銃撃に倒れた友を見て、男は射線の方へ小銃を向けた。そこにはやはり体に見合わない小銃を構える黒髪の少年の姿が目に映る。


 友を失った男は仇を取るために引鉄を絞ろうとする。そこにはもう迷いはなかった。しかし、男の視界が急に落ち込むと同時に、両足から鋭い痛みが駆け上がる。


「な――」


 足首の健が切られ、立つこともままならなくなった男の眉間に、ショウは容赦なく弾丸を撃ち込む。銃弾を撃ち込まれた勢いそのままに、男はゆっくりと倒れていった。


 ソルクスの周りにいない兵士は、少年兵から容赦なく繰り出される銃撃に晒されてた。


「このクソガキ!!」


 不気味な笑みを浮かべるソルクスに対し、残った四人の兵士は白兵戦を挑み、銃撃を避けようと試みる。その様子を見ていたショウは、イーグル〇一のメンバーに銃撃をやめるようにハンドサインを送る。


 不規則な動きで斬撃を躱すソルクスを相手に、四人の兵士は中々捉えられないでいる。それは逆も然り。


 ソルクスも一度に四人の大人が相手では分が悪い。距離を取ろうにも四人の兵士は中々距離を取らせてはくれない。四人の兵士は少年達が加勢に来ないのを見て、銃撃も加勢も無いと確信する。


 しかし、未だに笑みをこぼすソルクスの顔を見て、四人は底知れぬ恐ろしさを感じた。


 一人の兵士がソルクスの殺気に当てられ、大きく横薙ぎにナイフを振るう。ソルクスが屈みこんで斬撃を躱した瞬間、一人(はや)った兵士は、眉間に銃弾を食らっていた。


 銃撃は無いと高を括っていた事で、他三人の兵士に一瞬の隙が生まれる。ソルクスはその一瞬を見逃さなかった。


「がっ!」

「ごぼっ!」


 一人の首を掻き切り、もう一人の斬撃を躱し、心臓にナイフを突き立てると、兵士から新たにナイフを奪い取り、次の標的へと向かう。


 「くそっ!」


 最後の一人となった兵士は降参せずに、ナイフを振るおうと決めた。


 目の前にいる炎髪の少年が危険だと。たとえ相打ちになったとしてでも、殺しておかなければならないと。勝利を誓い合った仲間達のためにと。


 兵士は突貫してくるソルクスに、ナイフを振り下ろす。だが、そのナイフはソルクスに届くことはなかった。


 ナイフを握っていた右手は、ショウが放った弾丸によりナイフごと吹き飛ばされ、無力化された兵士はそのままソルクスの斬撃に倒れることとなった。


「す、すごい……」


 イーグル〇一の班員として同行したランスは、二人の戦う姿に羨望と畏怖の念を抱き、呆然とその場に立ち尽くしていた。


「ソルさん! 大丈夫ですか? 怪我は?」


 コナーは血塗れになっているソルクスへと駆け寄り、怪我がないか確認する。


 ソルクスは少々肩で息をするような形で、その場に座り込んでいた。


「へーき、へーきっ! こんくらい。……なんて事ないって」


 ソルクスの身体の血が全て返り血だと確認し、コナーは胸をなでおろす。そして、ふと周りを見回し、見慣れていない蜂の巣状の死体を見て、ぎゅっと口を結ぶ。


 死体が転がっている状況に慣れ始めてきている事に、なんとも言い難い気持ちになり、胃から迫り上がるものを堪え、ぐっと再び喉の奥へと押しこむ。


 口に手を当て、眉をひそめるコナーの肩に、ショウは優しく手を置き、改めて周囲を見回す。味方以外動くものがないのを確認し、小型無線機でモニター室にいるイーグル〇二に連絡を取る。


「イーグル〇一からイーグル〇二へ。状況はどうなっている」

『こちらイーグル〇二。モニター室オールグリーン。〇三は武器庫周辺をスナッチ完了。今後合流予定です。〇四には捕虜の救出を急がせていますよ。隔離できているため、そんなに時間はかからないでしょう。〇五と地上部隊は交戦中。マルクスは仕事しました。基地内部の残存兵の残りを〇一寄りに誘導中です、ハイ』


 ヨダの報告に、ショウは頷く。


「了解。次の接敵に備える」

『了解です。しかし、流石ですねぇ。もう隊長とソルさんだけでいいんじゃないんですか?』

「そういうな、ソルの体力も無限じゃない。それに残弾も少ない。みんなにも参戦してもらっているからここまで弾が持ったが、もう限界だ」

「なっ! 俺はまだいける! 弾がなくなったって、俺がいればなんとか――」


 座り込みながら声を荒げるソルクスを、ショウは手で制してヨダとの話を続ける。


「こちらに敵兵を寄せるのは構わないが、さっきも言ったように、無駄撃ちして無いにしても弾が足らん」

『あー……もう大体やり終わりましたし、残しといてもいいんじゃないですかねぇ? ハイ』

「お前も聞いていたろ? 大佐殿はデンバー基地内にいる敵の”殲滅(せんめつ)”をご所望だ。これは基地の奪還作戦なんかじゃない。一方的な”蹂躙(じゅうりん)”だ」

「……」


 ”蹂躙”という言葉を聞き、コナーは再び眉をひそめ、俯いた。


『コレもまた仕事ですからねぇ、ハイ。イーグル〇四の捕虜の救出が終わったら、そちらにも流す事にしましょう。レオさんいますし、上手く対処してくれると思いますしねぇ、ハイ』

「レオ達には悪いが、それで頼む」


 ショウはソルクスの様子を一瞥しながら答える。


『了解です。隊長達は次のシャッターまで前進してください。それまでに食糧庫があります。敵影は確認できていませんが、念の為ご注意を』

「了解した。out」


 ヨダとの連絡を終え、軽く息を吐く。ふと下を向くとコナーと目があった。


「ショウさん、まだ続きますよね?」

「ああ。外の連中も頑張ってくれている。まぁ、マルクスが仕事をしてくれたから、そう難しくは無いだろうな」

「そう……ですか……」

「……もう少しだ」


 俯いているコナーの頭に、ショウはそっと手を置く。


「でもさー、どうすんだよー。ショウ以外は、みんな近接苦手だからよー。弾切れしちまったら、相手の小銃に拳銃で挑む事になるぜ?」


 ソルクスがつまらなそうに胡座をかきながら頬杖をつき、イーグル〇一の班員に目を向ける。その中でも、ランスは自分の小銃の残弾を確認して青ざめていた。


 そんな班員の様子を見て、ショウは頭を掻きながら、小さく唸る。


「あ、あの!」


 ショウは視線を下に向けると、心苦しそうな顔をしているコナーと目があった。


「僕に……考えがあるんです」




    *     *     *




「なぁ、これ本当に上手くいくのか?」


 大きめの茶色い紙袋に包まれた物を担ぎながら、ソルクスが怪訝そうな顔をして、ショウに尋ねる。ソルクスと同様に、なんとも微妙な顔をしながら、イーグル〇一の班員は袋を一つずつ担いでいる。


「弾切れも近いし、試して見る価値はある」


 ショウがコナーを横目で見やると、コナーは視線に気づき静かに頷く。


『イーグル〇二からイーグル〇一へ。隊長、敵兵を一ヶ所に誘導完了です。相手も馬鹿ではありませんから、コレが罠だとはわかっていると思いますよ?』

「問題ないさ。そんなことは想定済みだ。カールは準備できてるか?」

『こちら、カールソン。いつでもいいよ~』

「よし、こちらも目標に到達した。手筈通りに頼む」

『了解』


 防火シャッターの前に立ち、一列に並ぶ。


「開けろ」

『りょうかーい! 開門ー!』


 素早くシャッターが上がり、すぐさま集められた敵影が確認できた。S派の兵士はシャッターの上がる音に反応し、すぐに銃を構えた。


「やれ!」


 ショウの号令にイーグル〇一の隊員は、担いでいた物を一斉に放り投げる。


 ショウの声に反応し、S派の隊長も銃撃の合図を出す。


「カール!!」

『はーい』


 ショウが声を上げると同時に、防火シャッターが降り始める。


「退避!」


 ショウはイーグル〇一の班員を急いで後退させる。


「コナー! 頭下げろ!」


 ソルクスがコナーの頭を手で強引に低くし、その場から離れる。

 S派の部隊が、ショウたちが放った紙袋を撃ち抜くと、真っ白な粉が宙に舞い、S派の兵士たちに降り注ぐ。撃ち抜いた紙袋には”小麦粉”と書かれていた。


「シャッターが閉まります!」

「くそ! 目くらましだ! このまま追撃します!」

「この粉……」


 指揮官の男は何かに気がつき、一瞬にして顔が青ざめた。


「待て! 撃つな!」


 男の制止は間に合わず、複数の小銃の引き金が絞られた。


 シャッターが閉まると同時に大きな爆発音が地響きとなって基地内に重く響いた。


『ヒュー! 上手くいきましたねぇ。ラウリも驚きの威力ですねぇ、ハイ』

「本当に爆発が起こるとはな……」


 ショウは感心するように言葉をこぼす。


「粉塵爆発です。以前軍事施設の事故の資料を見た事があったので」

「まさか小麦粉がな……」

「もう俺、炊事当番の時に小麦粉で遊ぶのやめよ……」


 ソルクスは肩をブルッと震わせた。


「可燃性の粉塵があればできます。燃えやすさもありますけどね」

「コナー怖ぇ……」

『隊長、盛り上がっているところすみません』

「なんだ?」

『シャッター内のカメラが爆発で故障していて、中の様子は見えませんので――』

「ああ、わかってる」


 ショウは拳銃を抜き、安全装置と弾を確認する。


「ソル」

「んあ? ああ」


 ソルクスはショウが拳銃を抜いているのを確認し、やれやれと頭を掻く。


「あの、ショウさん!」

「コナーは怪我人のチェックを頼む。まともには弾を食らっていないだろうが、弾創がある奴もいるだろう」

「でも――」

「コナー」


 ショウは静かな声でコナーの言葉を遮る。


「お前はよくやったよ」


 ショウはコナーの方を振り向かずに言った。コナーは目を見開いて固まっていた。


「開けろ」

『了解です』


 防火シャッターが開き、肉の焼け焦げた臭いが鼻をかすめていく。


「行くぞ」

「はいよ」


 二人は焼けた窯のような耐え難い熱気の中に躊躇なく足を踏み入れる。コナーはそんな二人の背中を見ながら、ただただ立ち尽くすしかなかった。


 ショウの優しさが、コナーの心に突き刺さる。


 コナーの伸ばした手の先に見える背中は実際の距離よりも、遠く、遠く感じた。




    *     *     *




 ショウは防火シャッターの向こうへ足を踏み入れると、身体中から暑さで汗が吹き出し、むせ返る程の人の焼ける臭いに顔をしかめた。


「あっちぃし、ひでぇ臭いだな」


 額から吹き出た汗を拭いながら、ソルクスは辺りを見回す。


「生きてる奴いねーんじゃね?」

「油断するな」

「はいはーい」


 ショウは面倒臭がるソルクスを諌め、生存者を探す。


 粉塵爆発により死亡した者もいるが、自分が持っていた武器の火薬に引火して誘爆した者も多かった。


「……うぅ……ぁあ」


 呻き声の先を見ると、体が半分焼け焦げて痛みに耐えながら武器を探す者や、喉が焼けて上手く呼吸出来ない者がいた。


「ショウ」

「わかってる」


 ショウは呻き声をあげながら床を這う男の頭に銃弾を撃ち込む。それを生きている者がいなくなるまで繰り返す。


 引鉄を引き、弾を込め、また引鉄を引く。ソルクスはその様子を見守っていた。


「ソル、生きてる奴は?」

「ああ……多分いねぇーよ。気配はもうない」

「そうか」


 ショウは焼け焦げた死体を見つめる。


「ショウ」

「……大丈夫だ。こんな所、コナーには見せられないな」

「やっぱり甘ぇよ。ショウはよ」

「そうかもな……。今のコナーには、耐えられないだろう」

「……ああ」


 ソルクスは拳銃を持ったまま、死体を見下ろすショウの肩を軽く叩いて、コナー達の所に戻るように促す。


 ショウは拳銃をホルスターにしまい、ソルクスの後を追った。




    *     *     *




          挿絵(By みてみん)




 銃声を聞き、コナーは包帯を巻く手を止めた。


「コナー?」

「あ、すみません、ランスさん! はい! 終わりましたよ! 基地の医務室が使えるようになったら、もっとちゃんとした治療ができますから」

「ありがとう」


 ランスは肩口に受けた弾創を手で押さえながら、コナーに礼を言う。


「コナーは、さ」

「え?」

「凄いな……」

「あの、僕は……」

「隊長も、ソルクスも、コナーも俺より年下なのに、次元が違うっていうかさ……」

「僕はショウさんやソルさんと肩を並べられるほど、強くない……です」


 コナーは二人の遠く見えた背中を思い出し、俯く。


「いや、さ……。コナーはあの二人と違った強さっていうかさ。それがあると思うんだ」

「違った強さ?」


 コナーはランスの言葉に首をかしげる。


「えーと……ほら、今回のコレもそうだけど、コナーは頭がいいからさ。こういう機転が利かせられる。だから、コナーは隊長たちと肩を並べられるんだと思う」

「そんなことは……」


 コナーは二人の遠い背中を思い出す。


「謙遜するなよ。コナーが居なかったら、俺達だけじゃない。隊長たちだってここまでこれなかったと思うぞ」

「そうでしょうか……」


 落ち込むコナーを見て、ランスは何かないかと辺りを見回す。


「ほ、ほら。俺なんて、まだ手足が震えてるしさ。ほんと、俺よりみんな小さいのに……凄いな」


 自分で言って、ランスはだらしないなぁと漏らす。

 コナーは緊張感と恐怖で震えるランスの手を見て微笑む。


「僕も同じですよ」

「……そうか? ああ、そうだよなぁ。怖くない訳、ないもんな」


 眉を下げて笑うランスが、コナーには悲しそうに見えた。


「きっとコナーの強さは、隊長たちとは対極にあるんだよ」

「え?」

「何となくだけど、見ててそう思ったよ。コナーの悔しい気持ちはわかるよ。でも恥ずかしがることじゃない。俺もこんなんだしさ」


 優しく頭を撫でるランスに、自然と張りつめた心が安らいでいく。


「ありがとうございます。ランスさんはとっても優しい人ですね」

「そんなことないさ」


 コナーのその言葉に、ランスは困ったように笑い、天井を仰ぐ。


「俺も、三人みたいに強かったらなぁ……」

「ランスさん?」

「ああ、何でもない。手当もしてもらったことだし、班員の武器の確認をしてくるな」

「はい。お願いします」


 ランスに励まされ、ふと熱気が立ち込める方を見た。


 今回は上手くいった。だが、中途半端な自分の覚悟だと、いつかは自分のせいで仲間が死ぬ事になるかもしれない。そんな思いがよぎり、コナーはぎゅっと拳を握りしめた。


 ――慣れろとは言わない。その引鉄は殺す為じゃなく、仲間を守るために引け


 基地内部へ侵攻した時のショウの言葉を思い出す。


「守るため……」


 自分の腰にあるホルスターに手を当て、静かに目を閉じた。

どうも、朝日龍弥です。

ショウとソルクスの連携。機転を利かせたコナー。

二人との差を感じるコナーですが、これからに期待ですね。


次回更新は、2/20(水)となります。

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