デンバー基地殲滅作戦(前編)
重く鈍い音が地響きとして、地下の下水道まで伝わってきたのを合図に、ショウは声を上げる。
「行くぞ!」
爆発音を作戦開始の狼煙とし、それぞれのポイントから基地内部へと侵入する。
ショウ率いるイーグル〇一は、下水道から出ると、基地内部の敵の殲滅にかかる。自分たちの役目は基地の外で戦うティムとエリック同様、内部での敵の攪乱、そして外の敵兵との戦力合流をさせない事。
「あー! 外の空気うめー!」
「ソルさん! あんまり大声出しちゃ――」
「誰だ!」
「うわ! やべ!」
ソルクスの横で、自動小銃の破裂音が連続して鳴り響き、敵兵の体にいくつもの風穴があいた。
「ショウ! いきなり耳元で銃ぶっ放すなよ!」
「うるさい。気を抜くな、俺たちは騒ぎ立てるのが役目だが、部隊を危険に晒せとは言ってない」
「わ、悪かったって!」
「悪かったと思うなら、とっとと遊んでこい」
「へ! やってやるぜ!」
ソルクスは口角を上げると、銃声を聞きつけてきた敵兵の喉首を、出会い頭に掻き切った。
「ソルさん、一人で――」
「コナーは後ろに下がれ」
「は、はい!」
「あと、拳銃を抜け。安全装置も外しておけよ」
「あ、えっと――」
「間違っても俺達を撃つなよ」
コナーは慣れない手つきで安全装置を外し、震える手を何とか抑えようとする。手に持った拳銃がいつになく重く感じる。
――震えが止まらない。手がうまく動かない。こんなんじゃ!
「コナー」
「は、はい!」
「俺の後ろにいろ」
「で、でも――」
「慣れろとは言わない。その引鉄は殺す為じゃなく、仲間を守るために引け」
「……はい」
「行くぞ!」
前を行く黒髪の少年の小さな背中が、コナーの目にはとても大きく見えた。
* * *
リカルド、ラウリ率いるイーグル〇三は東側武器庫周辺から基地内へと潜入していた。
「リーくん、だいじ?」
長剣を見つめ、固まっていたリカルドをラウリは下から見上げるように声をかける。
「大丈夫です。僕はもう決めましたから」
「ん。仕事さすっか」
リカルドは頷く。
「隊長達はもう始めています。我々も敵を引き付け、武器の補充をさせないようにしなければいけませんからね」
「なるべく基地さ傷つけねようにせないけんが。やねこいわ。みな、アテの爆弾で吹き飛ばしたら楽だで」
ラウリは自作の手榴弾を弄ぶ。
「ダメですからね!」
「わかっとる。ちと、実験さすっかな」
「え? 実験?」
ラウリは通路に周辺に小さな機械を設置し始める。
「それ、なんです?」
「そのうちわかるが。カーくんに手伝って貰ったもんだでな。よし、みなここ通っちゃダメだかんな」
赤く点滅するそれに、リカルドは眉を寄せる。
「なんか、とてつもなく嫌な予感がするんですけど」
「後ろはええから、前さ行くが」
「わかりましたよ! しかし、敵を引きつけると言ってもどうやって――」
「そんなん、こうすればよかよ」
ラウリは自分の体の大きさに釣り合わない小銃を天井に向け連射した。
「な!? 何してるんですか!」
「弾は武器庫さたんとある。気にすっことなか」
「そう言うことじゃ――」
「敵を引きつけるだら、おだてばいいが。ほれ、獲物がかかりよる」
リカルドが後方を見ると、敵が拳銃を構えているのが見えた。
「全速前進!」
リカルド達は大急ぎで曲がり角を曲がり、壁を使って銃弾を回避する。
「こんな遮蔽物のない通路じゃ当たっちゃいますよ! こんな所で騒ぎを起こしたら持つわけないじゃないですか!」
「さすけね。リーくんはいちいち喧しか」
「この状況で怒らない方がおかしくないですか!?」
「今はそだなことどうでもよか! 敵さ、どないしちょる!?」
そんなことって、とリカルドは憤懣とする。
「こっちに向かっていますよ!」
「なら、よか! 今は前の敵さ集中せな!」
「わかりましたよ!」
リカルドは長剣を携え、前方に来る敵をソルクスと同様、出会い頭に叩いて行く。
「このままじゃ、追いつかれ――」
挟撃を心配したリカルドだったが、後方で大きな爆発音が聞こえてきた。
「お! うまくいったが!」
「な、なんです!? 今のは!」
「カーくんに頼んだセンサー式爆弾だで! 使ってみたかったでな!」
爆弾が作動し、一気に興奮状態になっているラウリは、後方の様子を見に行く。爆弾を仕掛けた場所には無数の人だった物が転がっており、爆弾を仕掛けた位置から遠いものは、なんとか原型をとどめていた。
「威力は申し分なかね!」
一番遠くに転がっている敵兵の様子を見ると、まだ苦しそうに呻き、息がある様子だった。
「仲間の体で爆風さ凌いだんか? まぁ、よか」
ラウリは瀕死の敵兵の頭に銃口を押し当て、躊躇なく引鉄を絞った。
「苦しいのはいけねな」
ラウリは胸元をぎゅっと握りしめた。
* * *
基地の南東に出たネイサン、レオン率いるイーグル〇四は、リカルドとショウの班により、より手薄になった内部を叩く。手薄になったと言っても、作戦開始後十分程度、効果はまだ出ていない。
「レオン! 前に出過ぎよ!」
「敵倒す、己の仕事!」
レオンの紫暗の瞳が見開かれ、煌々と光っていた。
「レオ! ちょっと落ち着きなさい! あなたの仕事はまず、捕虜を逃す私達を守ることよ!」
ネイサンはレオンの腕を引っ張り、自分の目線にしゃがませ、レオンに言い聞かせる。
興奮していたレオンは徐々に落ち着きを取り戻していく。
「いい? 一人で行っちゃダメ。一緒に行くの。わかった?」
レオンは静かに頷いた。
「さて! 行くわよ!」
「諾!」
レオンは戦斧を握り直し、捕虜の奪還に向けて、一人先行せず、イーグル〇四の班員と共に動き出した。
* * *
ヨダ、カールソン率いるイーグル〇二は、敵兵に見つからずに潜入ポイントから下水を抜けた。基地の電力及び全ての回線をジャックする為、監視カメラやその他の制御システムが集中するモニター室へと向かう。
ティムやエリックの部隊が外で騒ぎ立てている為、ショウの読み通り、内部が手薄になっている。
「こりゃー楽そうですねぇ、ハイ」
「でも、はぁ、油断、はぁ、禁物だよ~」
後ろで汗だくになっているカールソンを見て、ヨダはこんな状況でも呆れ返ってしまう。
「やっぱり、少し痩せた方がいいと思いますよ、ハイ」
「え? はぁ、何か、言った?」
「何でもないです、ハイ。お?」
「どうしたの~?」
ヨダがカールソンとその後方で控える仲間にハンドサインを出して、黙らせる。
「目標確認、敵影三。私と前三人でやります。カールはその後すぐに解錠して、システムジャックしてください。後方警戒に留意してください、ハイ。では、お仕事の時間ですよ」
そう言ってヨダは自動小銃の安全装置を外し、角から体を乗り出して引き金を絞った。
盛大に鳴り響く撃鉄の後に三つの死体が転がり、床を血溜まりが彩っていく。音を聞きつけた敵兵が、数は少ないが、前方、後方から湧き出てくる。
ヨダに続き、三人の白兵が前方の敵を一掃する。後方からくる敵兵には銃撃兵がもれなく鉛玉を食らわせる。
「カール急いでください」
「わかってるよ~! 暗証番号変わってて」
「あー……詰んでませんか? ソレ」
「もうちょっと待ってて!」
後方で応戦していた二人の銃撃兵が肩と足を撃ち抜かれ、ヨダの顔に焦りがでてくる。
「あ、開いた! ヨダ!」
「いい仕事ですよ、カール。後方、下がってください! 負傷者援護を! 中にも敵兵がいるはずです! 前方こちらに来て用意を!」
ヨダは開いたモニター室へと手榴弾を投げ込んだ。敵は爆発に備える。だが、それの中には火薬が入っていなかった。
敵兵が一瞬怯んだところで、白兵とヨダがモニター室へ入り、システムを破壊しないように、中の敵を白兵戦で推しきる。
「殲滅完了! 全員制御室へ退避! カール閉めてください!」
負傷者を連れ、何とか制御室に退避し、カールソンに扉をロックさせる。
「今のは、流石に死ぬかと思いましたよ」
「暗証番号変更したから、そう簡単にここには入れないと思うよ~」
「ソレは何よりですよ、ハイ。さてと……」
ヨダは負傷者を確認し、モニターを一瞥する。
「衛生兵であるあなたに負傷者を救護していただきたいですが、それは我々でなんとかします。カールは自分の仕事に集中してください」
「あ~、肩凝るんだよなぁ~」
「文句は隊長に言ってくださいね、ハイ」
カールソンはモニター前の椅子に座り、伸びをした後、目の前のキーボードをいじり始める。
「ちゃっちゃとやろうかな~」
巨漢に似合わず、カールソンの手は忙しく動き始める。
「あ、ネイサン達到着したのかな~? 捕虜のみんながいる部屋のロックも解除、解除。防火シャッター作動。エリア三、四封鎖しま~す」
カールソンの手により、ネイサン達がいるエリアが封鎖され、敵の侵入を拒絶する。
「これで下水道から捕虜の皆さんは逃がせますねぇ、ハイ。人質にされる心配もありません」
「みてみて、隊長達凄いよ~!」
モニター越しに映るソルクスとショウを見て、ヨダは苦笑いをする。
ソルクスが戦っているというのに、ショウは構わず銃を撃ちまくっている。ソルクスの戦闘能力には畏怖の念を抱くが、ソルクスに当たらないように銃を撃つショウも引けを取らない。
「相変わらずイグルスは人外ですねぇ、ハイ。あそこには敵をどんどん倒してもらいましょう。リッキー達の方に向かっている敵も隊長達の方に流しちゃいましょう」
「いいのかな~そんなことしちゃっても」
「安定感のある方に任せましょうよ。リッキーもラウリも、アレはアレで結構きてますからねぇ、ハイ。隊長達の方には、一遍に流すんじゃなくて徐々に流しましょう。私達が隊長達に敵の位置を知らせればいいだけですしねぇ、ハイ」
張り付いた笑みを浮かべるヨダに、カールソンはううんと唸りながら手を動かす。
「まぁ、そうしても隊長もソルくんも別に怒んないと思うからいいけど、コナーは大丈夫かな~?」
「あー、まぁ、なんとかなるでしょう。彼をあまり見くびらない方がいいかもしれませんよ?」
「そうかな~? まぁ、僕もヨダの案には賛成だから乗るけどね」
カールソンは手際よく防火シャッターを開閉し、敵の分断、誘い込みを始めている。
「お、外に行った部隊もそろそろですかねぇ、ハイ」
ヨダは外の監視カメラから流れてくる映像を眺め、ニヒルに笑った。
* * *
デンバー基地北側に出たマルクス、ロニー、クラークのイーグル〇五は、外側から攻撃するティムとエリックの援護へと向かっていた。内側から挟撃することで、少ない人数でも敵の虚をつくことができる。
初めて班長を任されたマルクスは緊張と恐怖感に呑まれ、足を止めることが多くなっていた。
「マルクス! お前は退がれ! お前は前に立つな!」
「でも!」
「マルクスさんには、やることがあるっすよ! ここは、オイラ達に任せてくださいっす!」
「わ、わかった!」
マルクスは二人の声掛けに落ち着きを取り戻そうと、大きく深呼吸をすると、一人見張り台へと向かった。
見張り台へ登ると、死体の横に転がっているライフルを構え、基地内部の一室に狙いを定める。
スコープを覗いた先、そこにはデスクを叩きながら指示を飛ばす男の姿が見える。
「凄い。ヨダさんの言った通りだ」
予め偵察型ドローンで基地内を外から探っていたヨダの助言を受け、この場所を確保した。
この見張り台だけ、司令室が丸見えになる。だが、それなりに距離があり、部下という遮蔽物に囲まれている司令官一人を撃ち抜くのは至難の技と言える。
マルクスは司令官に狙いを定め、大きく息を吐く。
――射撃の基本は、”狙い”と”構え方”
マルクスは膝を立て、見張り台で銃身を固定し、その時を待つ。司令官の前を右往左往する部下達の隙間、その一瞬。マルクスは息を止めた。
静かに放たれた弾丸は綺麗に敵兵の隙間をぬって、司令官の眉間に風穴を開け、脳漿をまき散らした。
「よし! 当たった!」
狙撃を成功させたマルクスは、難題をクリアしたことで、高揚感を感じつつ、次の標的に銃を向ける。戦車に搭乗する機銃手の頭を一人ずつ、確実に撃ち抜いていく。
「マルクスのやつ! 見せつけてくれるぜ! こりゃあ負けてらんねぇな!」
「負傷者はこっちっす! 急いで!」
ロニーもクラークも、自分にできることを着実にこなしていった。
「逃さない!」
マルクスは基地内部に逃げようとする敵兵を狙撃する。
もう彼の中の緊張と恐怖は消え失せていた。
どうも、朝日龍弥です。
それぞれの視点。それぞれの戦場で何を思うのか。
次回は敵を殲滅するショウ達にスポットライトが絞られます。
よろしくお願いします。
次回更新は2/13(水)となります。




