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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
六章 初陣
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連戦の狼煙

 ショウ達が砦を奪還し、数日がたった頃、ショウ率いる第三部隊はまるで迷路のような下水道を歩いていた。


「うぇー……クッセー!!」

「ソルさん! 静かにしてください!」

「だってよー! なんでこんなとこ通んなきゃ行けねーんだよ! 鼻が曲がっちまうよ!」

「今さら何言ってんだよ。俺らスラム出身は、汚いのには慣れてるだろうが」


 鼻をつまみながら駄々をこね始めるソルクスを諫め、ショウは進軍を急ぐ。


 砦を奪還したショウ達は、ミシシッピ湾の拠点と、奪還した砦との間に挟まれた場所に位置するデンバー基地へ向かっていた。


 ミシシッピ湾に面した戦場では、敵の手中に落ちた基地からの攻撃に、横腹を突かれる形となり、基地の奪還は急務とされた。


「廃坑を通り、トラックでの長距離移動に加え、ゴーストタウンからの下水移動。流石にこれはキツイものがありますよねぇ、ハイ」

「僕も食欲でないよぉ~」


 ヨダとカールソンはがっくりと項垂れる。


「お前らはしっかりと俺たちの現在地を確認しとけよ。あと、その状況もな。迷ったなんていったらこの作戦ダメになるんだからな」

「わかってますよ、ハイ」


 ヨダはカールソン自作の端末を出し、第二部隊が操作している偵察型ドローンからの映像を眺める。


「まぁ、歩哨やら戦車やらいますけど、ミシシッピ方面へ戦力を投入しているお陰で、手薄ではありますねぇ、ハイ」

「そもそもさ~。なんで丸ごと基地奪われちゃったんだろうね~」

「本当にA派は無能しか残ってないんじゃないですかねぇ、ハイ」

「優秀な兵士ほど、最前線に立たされる。無能な指揮官の命令を聞かなきゃいけないというオプション付きでな」

「隊長も結構言うよね~」


 カールソンは真顔で答える。


「戦場じゃあ、マトモな人から死んでいきますからねぇ、ハイ。真面目すぎたら生きていけませんよ」

「不真面目すぎるのはどうかと思うけどね~」

「カール。あなたがいいます? ソレ」


 こんな場所でもレーションを頬張るカールソンに、ヨダは顔を引きつらせる。


「しっかし、いいよなー第四部隊は砦待機だもんなー! たぁー! 俺も負傷しとくんだったなー」

「ロニー、なんてこと言うんだ! 不謹慎だぞ!」

「いくらなんでもあんまりだよ」


 ランスとマルクスに叱責されたロニーは、口を尖らせた。


「たぁー! ランスよぉ。お前さんは人が良すぎるな。マルクスもいい子ぶってんなよー。コナーみたいにしてたら体壊すぞ?」

「ロニーさん! 僕は別にぶってませんけど?」


 コナーが頰を膨らましながら後ろにいるロニーを睨む。


「お、天使が怒ってるぞ」

「ロ、ロニー! 今それ言うのは――」

「皆さん! 今は立派な作戦行動中ですよ!? お静かに!」


 リカルドがひときわ大きな声で発言し、周りを黙らせようとするが、周りの反応は言うまでもない。


「リッキーの声が一番響いてるわよね」

「リーくんが一番(やかま)しか」

「誰のせいだと思ってるんですか!!」


 緊張感のないやり取りに、ショウは大きく溜息を漏らす。


「お前らいい加減にしろ。黙らないと縛り上げて一生ここで待機してもらう事になるぞ」

「隊長、縛り上げるって具体的にどんなことするのかしら?」


 至って真面目な顔で問うネイサンに、ショウは呆れて物も言えない。


「ネイサン、隊長怒る。喋るの、いけない」

「わかったわよ。だから隊長、そんな顔しないでちょうだい」


 今まさに、敵地へ向かっているというのに、ピクニックにでも来ているような雰囲気の中、ショウは現在地の確認と地上部隊との通信を適宜行なっていた。


『こちら、第一部隊。基地南西に到着。敵影あり、歩哨十五を確認』

『こちら第二部隊。基地北西に到着。敵影あり、戦車二、歩哨十。第三部隊、応答願う。over』

「こちら第三部隊。現在作戦遂行中。現在位置は――」


 ショウがカールソンに目配せすると、カールソンは少し慌てた様子で独自の端末をいじり始める。


「ちょ、丁度、基地の西側の下水まで来たかな~?」

「目標の西側だ。第一、第二部隊はその場で待機。over」

『第二部隊、了解した。out』

『第一部隊、了解。指示を待つ。out』


 通信が切れたことを確認すると、何やら考え事をしているショウに、コナーが不思議そうな顔をして尋ねる。


「どうしました? 傷、痛みますか?」

「いや、ティムのやつ、なんか変わったなって」

「そういえば、あの後なんか吹っ切れたような顔してましたね」

「作戦会議中も積極的に参加してたしな。まぁ、何があったかは知らんが、俺たちも動きやすいし、文句はないさ」


 ショウは野戦病院に駆けつけて来たソルクスを思いだし、目を向けると、相変わらず下水の臭いと格闘しているようだった。ショウはソルクスから視線を前に戻し、改めて気を引き締める。


「さて、もう少しだ。気を抜くなよ」

「は、はい!」


 コナーは元気のいい返事をし、再び下水道を歩き始めた。




    *     *     *




「今回の作戦、うまくいくのか? ペトロフよ」


 砦の司令室で、戦場に似つかわしくない豪華な椅子に座り、ハミルトンは葉巻を吹かしながら、机の前に立つペトロフに訪ねる。


 クルードの命令で、ハミルトンに付いているペトロフは、机の上に広げてある地図を眺めながら目を細めた。


「ええ、彼らなら」

「ほう? スラムの子犬どもに随分と信頼を置いているのだな」

「出身はどうあれ、彼らは私の自慢の部下ですから」

「ふん! まぁ、いいさ。使えるのなら問題ない。しかし、私は彼らに全て任せたが、今回の作戦立案には貴様も随分と助言したようだな」


 少年兵の活躍に一目置いているハミルトンだが、少々不服そうな顔をしていた。


「ええ。彼らが出向くのは全く知らない土地。この土地を長年守り続けて来た我々がここの地理について助言するのは当然のこと。勿論北緯四十度線よりも後方に控えている部隊に助力を求める手筈を整えるのも、我々上官の役目です」

「貴様の人脈か」


 ハミルトンはつまらなそうに鼻を鳴らした。


「して、作戦の進行度合いは?」

「はい。作戦を担当する少年兵部隊第一、第二、第三部隊は無事廃坑を抜け、A地点での戦力合流、及び移動手段の確保ができました。今作戦に同行したラルド・サイラス中尉のおかげで、他部隊との(わだかま)りもなく進められ、B地点である旧アスペンからの作戦も開始済みです」


 ペトロフは地図上に並べられたチェスの駒を動かす。A地点とされる基地の南西と北西にポーンを置き、基地の真ん中にナイトを静かに置いた。


「地上攻撃部隊と地下潜入部隊、か。下水を通るなど、犬というより鼠だな」


 ハミルトンは再び葉巻を吹かすと、地図上に置かれたナイトを指で弾き倒した。




    *     *     *




 下水道を行く第三部隊は五つの班に分かれ、それぞれの待機ポイントに到着した。


 ショウは自分の班にいるソルクス、コナー、ランスを確認し、耳につけた小型無線機に手を当てる。


「テスト、こちらイーグル〇一。各班応答しろ」

『こちらイーグル〇二、感度良好です、ハイ』

『こちらイーグル〇三、問題ないです!』

『イーグル〇四も問題ないわよ』

『イ、イーグル〇五、も、問題ないです!』


 各班の代表であるヨダ、リカルド、ネイサン、マルクスの応答を聞き、ショウは深呼吸をする。


「よし、地上部隊とも連絡ができた。現刻二二三〇より、作戦を開始する」

『『『サー・イエス・サー』』』


 ショウは無線を切り替え、地上部隊に命令を下す。


「ティム、エリック。狼煙を上げろ!」

『『了解!』』


 ショウの合図とともに、ティムとエリックはラウリお手製の金属片が多量に込められた爆弾と閃光弾を放った。


 空から落ちてきたそれは、哨戒任務にあたっていた敵兵を吹き飛ばし、爆風から逃れた者の体に金属片を撃ち込んでいった。


 閃光弾を受けた敵兵の眼には、残像によって夜よりも深く暗い闇が広がる。それは戦車内に待機していた者も同様だった。


「進めー!!」


 ティムの合図で第一部隊の白兵が次々と基地へと乗り込んでいく。見張り台に立つ狙撃兵の目が闇に慣れてくる前に、銃撃兵が的確に撃ち落とす。


「白兵部隊は戦車を奪え! 銃撃兵部隊は敵を一掃しろ!」


 北西から攻め込んだ第二部隊は、エリックの指示で戦車二つを奪い取り、第一部隊と同様に基地へと攻め込んでいった。


どうも、朝日龍弥です。

休む間もなく少年たちは戦場へ。

次回から第三部隊の各班に焦点が当たります。

お楽しみに!


次回更新は、2/6(水)となります。

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