ショウとレイチェル
第四研究所の三階の一室で開かれる会議に、少年兵第三部隊の教官であるペトロフは、真剣な面持ちで出席する。
そこにはダナーを初め、第七連隊の顔なじみが並んで座っていた。そんな中、見覚えのない白衣姿の男がブツブツと呟きながら座っているのが見える。四十代後半くらいだろうか、その顔は焦りと疲れが見て取れ、実年齢よりも歳をとっているかのようにも見える。
ふと周りを見回してみると、空席が二つあるのがわかる。空席のうちの一つは一際目立つ上座の席、そしてダナーの落ち着きのない様子。それを見たペトロフは、ダナーが自分を呼んだ本当の理由に察しがつき、大きな溜息をついた。
ペトロフの呆れたような溜息に、ちょうど右隣に座っているダナーが、ペトロフの顔色を伺うように覗き込む。
「ど、どうした、アル? 浮かない顔をして」
「どうしたもこうしたもないです。大将閣下がわざわざ私に召集令状を送りつけてきた理由がわかりましたので」
「な、何のことだ?」
「ダナー大将。なぜ貴方は元帥閣下とお会いになる機会があると、私を呼びつけるのでしょうね」
ダナーの目論見に気づいたペトロフは、ダナーを冷ややかな目で見据える。
「あー……私ははまだ元帥閣下が来るなど一言も――」
「不自然な召集令状と、あなたのそのソワソワした感じで大体察しがつきます」
「よくわかったな! 流石はアルだ!」
「誰だって察しがつきますよ」
先ほどとは打って変わって開き直るダナーに、もはや何もいうまいとペトロフは叱責するのをやめる。
「しかしなぁ、私はあのお方がどうしても苦手で……」
「ダナー大将が元帥閣下を毛嫌いしているのは、聞かずとも知っていますよ」
「毛嫌いしているなんて人聞きの悪いこと言うな! 私はただ元帥閣下に一目置かれてるアルに、そばにいてもらえたら気が楽だなと思ってだな?」
年をたっても変わらぬ男に、ペトロフは再び大きな溜息を漏らす。
「私は貴方の御守ではないのですが……。もう既に呼びつけられているので、仕方がないですが」
「そう言うな。元同期の仲だろ?」
ペトロフは一瞬の沈黙の後に続ける。
「大きな声では言えませんが、私と同じくあの人に仕えた貴方なら、私が元帥閣下をどう思っているかお分かりになるでしょうに」
ペトロフは誰が見てもわかるような苛立ちと嫌悪の表情を浮かべた。それを見て、ダナーは少し悲しそうな目をしていた。
「元帥閣下が入られます!」
扉の外で警備をしていた軍曹階級の者の声が聞こえ、ダナーは会議室にいる者達に号令をかける。
「一同起立! ライオネル・ブラッドフォード元帥閣下に敬礼!!」
座っていた者達が一斉に立ち上がり、その場で敬礼をする。そこに一人の男が近衛兵を連れて入って来た。
男は入るだけで場を凍りつかせるような緊張感を漂わせ、正装を着こなし、威圧感のある出で立ちをしている。
席に着くと、ダナーが着席の合図を出し、全員が音を立てずに着席する。
白衣の男は何かに怯えるように肩を震わせていた。
「ご苦労。始めろ」
ブラッドフォード元帥の目線がダナーへと移る。ダナーは真剣な面持ちで会議を始めた。
「は。では、始めさせていただきます。まず報告から。警備部隊」
若い軍人が少し慌て気味に立ち上がり、報告書を読み上げる。
「はい! オルニー軍曹であります! ケスラー曹長の代理でご報告いたします! 第四研究所周辺でS派の偵察部隊と思われる者を三名捕縛。捕虜として身柄を拘束しております。ライフルで武装をしていたのを見るに、デニス・ランドルフ博士と、その娘レイチェル・ランドルフを前回と同様に殺害を目論んだ可能性があるとご報告いたします」
その報告を聞き、白衣の男の顔が青ざめる。
――大将閣下の言っていた娘はこの博士の娘か。我々が娘を人質にとることで従わせ、S派は娘を殺すことで、我々に従わなければならない理由を取り払いに、もしくは脅しに来ているのか……。こんなところでも、子供が道具にされるとは……
ペトロフは歯がゆい思いでデニスから目をそらす。
「次、衛生兵部隊」
「はい」
ダナーの呼びかけに、リドナーが立ち上がる。
「衛生兵部隊長のリドナー軍曹であります。ご報告いたします。前回の襲撃時に銃撃を受けた警備隊の者が、何らかの中毒症状を起こした件ですが、舎密博士の助力により負傷者全員が一命を取り留め、現在療養中で――」
「そんなことはどうでもいい」
その場の全員が言葉の主の方へ一斉に目を向ける。
そこには片肘をつき、表情を一切変えずに座るブラッドフォード元帥の姿があった。
「ダナー大将」
「は、はい」
「私はそんな事を聞くために来たのではない。状況確認は他でやれ。デニス・ランドルフ博士」
ビクリと肩を震わせて、名前を呼ばれた白衣の男は、頼りなさげに顔を上げる。
「は、はい……」
発せられた声もどこか力無い。
「研究は進んでいるのか?」
「は、はい……。この間お伝えしたように、遺伝子操作して、作成された個体を作出することに成功し、い、今人間との合成について研究を――」
「それは前にも聞いた。で、お前は私に同じ話を聞かせて何がしたいのだ?」
威圧的に突き詰めていく元帥を見て、ランドルフ博士は額に脂汗をかき始める。
「い、いえ、その、あの――」
「研究は進んでおらず、大した成果もない。そう言うことでいいのか?」
「あ、あ……」
問い詰める元帥の言葉に、ランドルフ博士は次第に発言できなくなっていく。
「どうやらランドルフ博士。なにか勘違いをしているようだから教えてやろう」
元帥は立ち上がると、ランドルフ博士に詰め寄る。
「S派のお前に猶予はない。何かの時間稼ぎをしているのか、我々に情報を渡さないようにしているのか知らんが、利用価値があるから生かされているだけだとその合理的な脳みそで理解しろ。結果を出さねばお前の娘も、お前の妻と同じ道を辿ることになるぞ」
俯いていた顔を反射的に上げ、ランドルフ博士は勢い良く立ち上がる。
「ア、アリシア!? つ、妻に何をした!!」
「お前がモタモタしているせいで、あいつは待ちきれなかったのだろうな、勝手に実験に使ってしまったようだからな」
元帥は残り一つの空席を一瞥し、ほくそ笑んだ。
「そ、そんな! う、嘘だぁあああ!!」
「お前が非協力的なせいで、お前の妻は醜いトカゲの姿となって死んだ。どうやら、実験は失敗したらしいな」
「あ、ああ! ぁああああ!!」
ランドルフ博士はその場で涙を流し、崩れ落ち、妻を亡くした事実に打ちひしがれる。
ペトロフは下士官宿舎に現れた被験体を思い出し、顔が強張った。
「惨い……」
ペトロフがそう呟く声が聞こえたのか、元帥に視線を向けられペトロフは色を失う。
「ダナー大将。舎密はどこだ?」
元帥はこの場所にいるはずの舎密の姿がないことに気がつき、呆れたように問いただす。
ペトロフは視線をそらし、少し緊張の糸を解す。
「そ、それが、調べ物をしてくると言ってから戻ってこられません」
「ふん。まぁ好きにさせてやろう。……今はな」
元帥は泣き崩れるランドルフ博士を一瞥し、話を戻す。
「ランドルフ博士。あと二週間やろう。難しいことではないはずだ。娘が大切であるなら、やることは決まっているのではないのか?」
「うぅ……娘だけは……あの子だけは!」
縋る様に声を絞り出すランドルフ博士に、元帥は冷淡に答える。
「それはお前の行動次第だ。お前の行動一つで、アレの生死は決まるのだから」
* * *
長い黒髪を風が撫でる。少女の澄んだ瞳は自分の心の中を見透かされるようだった。それはショウに、幼いころに見た母の面影を感じさせた。
「軍人さん? 軍人さんてば!」
ショウはハッとして我に返ると、見惚れていた少女が自分の目の前まで顔を近づけていることに気が付いた。
「っ!?」
驚いて赤面するショウに、少女が不思議そうな顔をして問いかける。
「何処か具合でも悪いの? その左腕の怪我が痛むの? あ! それともあなた、迷子だったりするの?」
少女がずいずいと顔を近づけてくる。ショウは思わず耳まで真っ赤になった顔を背ける。
「い、いや! 大丈夫だ。それより!」
「何?」
「近い……」
「あら! ヤダ! ごめんなさい!!」
少女も慌てて後ろに下がり、ショウは深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとしていた。
二頭の狼らしきものが、こちらに唸り声をあげながら警戒し、様子を伺っている。
「こら! ダメだよ、ヴォルフスブルク! リチャードも!」
二頭は耳を下げながら伏せの姿勢をして少女を見守る。
「あの、君が、レイチェル・ランドルフなのか?」
ショウの問いかけに、少女はゆっくりとこちらに顔を向け、にっこりと笑った。
「そうよ! こっちの子はヴォルフスブルク。こっちの少し小柄な方がリチャード。二人共とてもいい子なのよ?」
レイチェルはそう言うが、警戒心剥き出しの二頭の獣に、ショウは近付こうとは思えない。
「さて、軍人さん。私は名乗ったし、この子たちも紹介したわ。今度はあなたのことを聞かせてくれる?」
レイチェルの言葉に、ショウはまだ自分が名乗ってすらいないことに気がついた。ショウは慌てて敬礼の姿勢を取る。
「失礼しました。少年兵第三部隊所属、ショウ・マクレイア上等兵であります。度重なる失礼をお許しください、ランドルフさん」
「ふふ、あははは!」
――どこか変だったか!?
ショウは突然笑い出した少女に困惑する。
「やめてよ軍人さん! ランドルフさん、なんて。レイチェルでいいわ。私を〝さん〟付けで呼ぶなんて、とっても真面目な人なのね!」
天真爛漫に接するレイチェルに対して、ショウは未だにペースを取りづらい様子でいた。
「ところで軍人さん! いいえ、上等兵さん? なんて呼んだらいいかしら?」
「お好きにお呼びください」
「そう? じゃあ軍人さん!」
――結局軍人さん……
「あなた外から来たんでしょう?」
少女の質問の意図がわからず、ショウは首をかしげる。
「外? まぁ研究所の外から来たことには、違いありませんが……」
「じゃああなたが見て来た外の世界を私に教えて欲しいの!」
あまりに突飛な頼みに、ショウは思わず首をかしげる。
「……そんなことを聞いて、どうするのですか?」
「だってただボーッと立ったまま護衛しているなんて、あなたもつまらないでしょう? 私もただボーッと護衛されているなんて、つまらないわ」
レイチェルは両手を広げてくるくると回って見せる。
「私ね、ここを含めて研究所にずっといるから、外のことはあまり知らないの。あと、その敬語なんとかしてね」
「……? あの? 小官の言葉は可笑しいでしょうか?」
ショウはこの数ヶ月で上達した自信があっただけに、言葉遣いが変だったのかと羞恥心がこみ上げて来た。
「ええ。私はあなたより年下よ? 敬語はおかしいわ。それに、護衛という話だろうけど、実際は見張りでしょう?」
ショウは自分が考えていたのと全く正反対な回答が返って来て、拍子抜けしたが、少し引っかかることがあった。
「見張り? 小官は護衛と聞かされてましたが?」
「あら、何も聞いてないの? まぁ、あの大将も変わったお方だものね」
レイチェルはキョトンとした後、納得がいったのか独りでに頷いた。
「まぁ、そのことについては立場上同意し兼ねますが――」
「ほら! また敬語! やめてね!」
ショウは口を紡ぎ、大きく息を吐いてから再び話し始める。
「レイチェル。”何も聞いてない”とは?」
レイチェルはショウの言葉遣いに満足したようで、嬉しそうに微笑んだ。
「だって私の父はS派の科学者だもの。つまり、私はあなたにとっては敵ってことよね? 父は捕まってここで研究しているのよ?」
「……そういうことか」
――レイチェルの父がS派の科学者であり、第四研究所で研究を続けているとなると、娘は人質といったところか……。まだ長く接してはいないが、あのダナー大将がそういう事をするようには思えない。ダナー大将に圧力をかけられる人間か、それとも俺がダナー大将を見誤っていたらそれまでだが……
秘匿されていた情報と湧き上がる疑問に、ショウは黙考する。
「軍人さん!」
「ん? ああ、なん、ですか?」
「急にどうしたの?」
「いや、なんでもない、です」
未だにぎこちないショウの言葉遣いに、レイチェルは小さく笑う。
「まぁいいわ。座っておしゃべりしましょう? 立ったままだと疲れちゃうし。それにここの花畑で寝転ぶと、とても気持ちがいいのよ?」
レイチェルはその場に座り込んで、ふうっと息を吐いた。
「久々に自分の足で立っているって疲れるわね。軍人さんもほら! 早く座って!」
急にレイチェルに手を取られたショウは身体を強張らせながらも、そのまま流れるように座り込んだ。
二人が座り込むのを確認すると、二頭の狼がこちらへ寄ってくる。ショウが少し警戒していると、レイチェルがショウの握っていた手に、もう片方の手をかぶせる。
「大丈夫。この子達はとてもいい子よ。私が保証するわ。警戒心を解いて。そうじゃないと、この子達も緊張してしまうわ」
――警戒心を解くって言ったって……
ショウは無理だと思いながらも、なるべく平常心を保とうと努力することにした。
「ふぅ……」
「そうそう! そんな感じよ! じゃあ触ってみる? この子達モフモフで一緒に寝ると心地いいのよ!」
「いや、大丈夫だ」
急に難易度が上がり、ショウは思わず拒否する。
「あら? そう? イヌ科は苦手だったかしら。まぁいいわ。ヴォルフスブルク、リチャード。ここで伏せよ!」
二頭の狼は、ショウとレイチェルを囲むように伏せをする。
「いい子ね」
レイチェルは小さな手でゆっくりとリチャードの大きな頭を撫でる。リチャードは甘えた声を出しながら心地よさそうに目を閉じる。
「怖くないのか?」
「ええ、勿論。この子達が産まれた時から一緒にいるもの。まだ三ヶ月だけどね。この子達は父にイデンシソウサで、作られたらしいのよ。難しいことはよくわからないけど、丈夫で寿命が長いんですって。ウェアウルフを作る前段階で作られた子らしいけど、難しいことは私にはわからないわ」
狼の頭を撫でながら、レイチェルは続ける。
「”生”あるものは美しいわ。例え作られた子達でも、命は平等にあるんだもの」
愛おしそうに撫でるレイチェルの横顔は、十歳の少女とは思えないほど慈愛に満ちていた。
「小官にはよくわかりませんが――」
ショウが喋り始めると、レイチェルが眉をひそめ、頬を膨らませてこちらを見ていた。
ショウは溜息を漏らし、喋り方を改める。
「俺にはよくわからないが、レイチェルは俺より難しいことをよく知っているらしいな」
レイチェルは可愛らしく微笑む。
「そうかしら? いえ、そうね! よく父や周りの人に『十歳とは思えない! 子供らしくないぞ!』なんて言われることが多いし。多分本をたくさん読んでるからかしら? でも私には科学はわからないわ。とても難しいもの。それに本は物語の方が面白いわ!」
レイチェルの純真無垢な笑顔に、ショウはなにか惹かれるものを感じ、また見惚れてしまいそうになる。
「あなたあまり喋らないのね。ケスラー曹長みたい!」
「俺はあそこまで寡黙では無い」
「そうなの? じゃあまだ緊張してるのね?」
そう言われてショウは一瞬心臓が止まりそうになる。
「そんなにこの子達が怖いの?」
自分の心が見透かされていないことを知り、ショウは少し安堵の表情を浮かべる。
「いや、そういうわけじゃ無い。あなたみたいな女の子とあまり会話したことがないからどう接していいかわからない。軍は男所帯だし、まぁ妹はいるが……」
「そうなの? 私も同じくらいの歳の子と話すのは初めてよ? あ! じゃあ妹さんとお話ししている時みたいに話せばいいわ」
「まぁ、努力はします」
――よく笑う子だな……
嬉しそうに笑うレイチェルの顔をショウは何故だか直視できない。
「じゃあ、軍人さん! そろそろあなたの事を聞かせてくれない?」
「俺はあんまり他人に自分の過去を喋る趣味はないんだが……」
あまりいいとは言えない過去の暮らしを思い出し、ショウは少し嫌な顔をする。
「そう? そうよね。じゃあ何でもいいわ! あなたが喋りたいことを聞かせて!」
「そう言われても……」
「じゃあ質問していくわ! 答えたくないことは言わなくていいから!」
「いや、あの――」
「じゃあ始めるわね! まずは……そうね。軍人さんは何人家族なの?」
有無も言わせないレイチェルの問いかけに、ショウは根負けして答え始める。
「……五人だ」
「五人家族なんだ! 私は三人よ。父と母と私で三人! どこで暮らしてるの?」
「……イグルスだ」
「そこってどんなところ?」
ショウは一瞬言葉に詰まった。
「……答えられるような所じゃない」
「そう。じゃあ、軍人ってやっぱり大変?」
「まぁ、楽ではないとは思う。まだ戦場には出たことないから、憶測でしか言えないが、辛いものだと思う」
レイチェルも察しているのか、深くは聞いてこようとはしない。だがレイチェルの質問の嵐は止むことはなかった。
「軍人さんには部下がいるの? 何人くらい?」
「軍事的なことだから答えられない」
「そうよね。じゃあ軍人さんは好きな人はいるの?」
「……さっきからプライベートなことばかりなんだが?」
「あら、ごめんなさい? じゃあ質問を変えるわね。軍人さんは海を見たことある?」
まったく種類の違う質問に、ショウは一瞬答えが遅れる。
「……いや、ない」
「砂漠は?」
「ない」
「大きな街は?」
「ない」
「山とか谷は?」
「それはある。演習で使われたとこがそうだった」
ショウは演習時の事を思い出す。
「そうなんだ! そこには動物とか植物とか自然のものが沢山あったのかしら?」
「ああ、まぁそうだな。数日通して籠ったこともあるし、食事とか足りない分は採って食べてたから」
「すごい楽しそうね! 私もその演習に参加したいわ!」
思わぬ返答に、ショウは面食らった。
「でも虫は沢山いるし、危険な道を通るから、女の子があの場所にいるのは大変だと思うぞ」
――コナーはムカデ食ってたけど……
「そう? でも見くびらないで! 私こう見えて虫も平気だし、危険な道もヴォルフスブルク達がいれば大丈夫よ! まぁ、口ではなんとでも言えるけどね。山とか谷があったってことは当然川もあったのよね?」
「ええ、まぁ、そうですね。川を目指してそこを拠点にしたこともありました」
「そうなの! 綺麗な川だった?」
「確かに綺麗な川だったかな。演習中だってのにソルのやつが遊び始めるし……魚釣り大会始めるし。自由行動していいとは言ったが、俺は遊んでいいとは一言も言ってない。まぁ、おかげで飯には困らなかったけど……」
愚痴混じりに喋り始めていたことに気づき、ショウは自分の失態に焦り始める。
「ふふ。本当に楽しそうね!」
「あ、いや、今のは内密に……と言ってもドローンで監視されてるから、ペトロフ准尉には筒抜けか……」
気分を害していないのを確認し、ショウはホッと息をつく。
「軍人さんが行ったことあるその場所に、私も行ってみたいわ!」
「いや、あそこはちゃんとした道もないしな……。そんなに興味深い話だったか?」
「ええ! とっても!」
レイチェルは年相応の満面の笑みをこぼした。彼女が笑うたびに、ショウは胸の奥が熱くなる感覚を静かに感じていた。
「軍人さん。私ね」
突風が吹き、雲が太陽の光を遮る。
明るかったレイチェルの笑顔に影が落ちた。
「この世界を旅するのが夢なの」
変わらずショウに向けられるレイチェルの微笑みは、どこか寂しく見えた。
どうも、朝日龍弥です。
最近一節がどんどん長くなってしまう。
書きたいことが多くて悩むのは、贅沢ですね。
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