指名依頼(1)
レムリアの街を包む風は、日ごとに冷たさを増していた。
孤児院の広い居間では、パチパチと薪がはぜる心地よい音が響き、漂うカボチャと根菜のスープの甘い匂いが、腹を空かせた子どもたちの鼻腔をくすぐっていた。
「はい、レオはそっちのテーブル拭いて! トビー、靴はちゃんと揃えて玄関に並べるって言ったでしょ! もう、何回言わせるの!」
居間の中心で、手に布巾と帳簿を抱え、パタパタと忙しなく立ち回っているのは、十二歳のエレナだった。
14歳のダグやキース、コレットたちのすぐ下に位置する彼女は、この孤児院において誰もが認める「小さな院長代理」であった。
栗色の髪を後ろでひとつにまとめ、エプロン姿で子どもたちにテキパキと指示を飛ばす姿は、まだ幼さの残る顔立ちに似合わず、恐ろしいほどの貫禄を醸し出している。
「うう、エレナ姉ちゃん厳しいよぉ……」
「文句を言わないの! マーサ院長が今、奥で今週の支出の計算をしてくださってるんだから、静かにしなさい!」
ビシッと人差し指を立てて注意するエレナに、小さな子どもたちは「はぁい……」と縮こまりながらも、楽しそうに掃除や手伝いに励んでいた。
居間の奥、小さな木製デスクで羽ペンを走らせていたマーサは、そんな子どもたちのやり取りを目の端で捉え、クスリと優しく微笑んだ。
「エレナ、あまり子どもたちにきびしくしないでやってね。みんな、エレナが大好きだからお手伝いしてくれているんだから」
「きびしくなんてありませんよ、院長! この子たち、ちょっと目を離すとすぐ泥だらけの靴で居間に上がってくるんですから。院長が優しすぎるから、私がちゃんと言わないと孤児院が豚小屋になっちゃいます!」
プンプンと頬を膨らませるエレナだったが、マーサへ向ける瞳には深い尊敬と親愛の情が溢れていた。
エレナは七歳の頃、親を流行り病で亡くし、この孤児院に引き取られた。最初は心を閉ざし、誰とも口を利こうとしなかった少女だったが、マーサの深い愛と、ダグたち年長組の無邪気な温もりに触れるうちに心を開き、今では孤児院の家事全般とお金の計算を仕切る、なくてはならない存在となっていたのだ。
「ふふ、頼りにしているわ、小さな院長さん。……でも、本当に助かっているのよ。エレナが算術を手伝ってくれるようになってから、帳簿の数字が少しもズレなくなったもの」
「当然です! 私はガルムさんから貰った古い計算板で毎日練習していますから。将来は街の大きな商会で番頭になれるくらい、きっちり計算してみせます!」
胸を張るエレナの姿は、十二歳という年齢以上に頼もしく映った。
そこへ、玄関の重い扉が勢いよく開かれ、冷たい秋風とともにドタバタと騒がしい足音が飛び込んできた。
「ただいまーっ!! 腹減ったー!!」
「おいダグ、足! 靴を拭けってエレナに怒られるぞ!」
「コレット、杖を壁に立てかけるならちゃんと奥にしなさいって言ってるでしょ」
飛び込んできたのは、14歳になったばかりのダグ、キース、コレットの三人だった。
先日の『深緑の森』での見事な討伐と救出劇を経て、彼らの立ち振る舞いには、どこか冒険者としての自信と引き締まった気が宿るようになっていた。ダグの腰には小ぶりのブロードソードが揺れ、キースの帯には手入れの行き届いた双小刀、コレットの腕には馴染んだ短杖がある。
「あーっ! ダグ兄ちゃん! また泥のついた靴で上がってきたでしょう! 今さっき拭いたばっかりなのに!」
案の定、エレナの雷が落ちた。
「げっ……!? ご、ごめんエレナ! ほら、ちゃんと玄関でパンパン叩いたんだぞ!?」
「全然落ちてません! ほら、そこに立ち止まって! 動いたら晩ご飯のカボチャスープ、大盛りにしてあげませんからね!」
「ええっ!? それは勘弁してくれよ~! 一番でかいパンも食べたいんだよ~!」
頭を抱えて降参する大柄なダグと、それを仁王立ちで叱りつける小さなエレナ。その光景に、居間中からドッと温かな笑い声が巻き起こった。
キースとコレットは慣れた手つきで靴を磨き、丁寧に脱いで上がると、マーサのデスクへと歩み寄った。
「院長、ただいま戻りました。ガルムさんたちとの今日の基本稽古、無事に終わりました」
「お帰りなさい、キース、コレット、ダグ。怪我はなかったかしら?」
「うん! ガルムさんの『突き』を丸盾で受け流す練習と、シルヴァさんの足払いのかわし方をやったんだ。オルランドお師匠様には、魔法の発動速度をあげる呼吸法を教えてもらったよ!」
コレットが嬉しそうに報告する。
先日の森での実戦を経て、老兵三人——ガルム、シルヴァ、オルランドの指導は、より具体的で実践的なものへと進化していた。単なる個人の技術だけでなく、前衛と後衛がどう連携し、互いの死角を補い合うかというパーティとしての戦術が叩き込まれつつあったのだ。
「そう……三人とも、本当に良い顔つきになってきたわね」
マーサは愛おしそうに三人の顔を見つめた。成長期を迎えた彼らは、日に日に背が伸び、体つきも大人びてきている。けれど、こうして孤児院に帰ってくると、変わらない子どもらしい笑顔を見せてくれるのが、マーサにとってはたまらなく愛おしかった。
賑やかな夕食の時間が終わり、幼い子どもたちが満足そうな顔で寝室へと引き上げていった頃。
居間では、マーサと14歳組、そしてエレナが温かいハーブティーを囲んで、明日の買い出しや冬の薪の備蓄について話し合っていた。
トントン、と穏やかなノック音が玄関の扉を叩いたのは、そんな静かな夜のひとときのことだった。
「あら……こんな夜遅くに誰かしら?」
マーサが立ち上がり、扉を開ける。
そこに立っていたのは、厚手の毛織物の外套を羽織り、旅の汚れと汗に塗れた中年男性だった。レムリアの街の近郊にある農村——ミレット村の村長であった。
「マーサ様……! 夜分遅くに申し訳ありません!」
「村長さん!? どうされたのですか、そんなに息を切らせて……」
村長は深く頭を下げ、切羽詰まった様子で居間へと上がり込んできた。ダグたちも異変を察知し、表情を引き締めてテーブルを囲む。
ミレット村といえば、先日の『深緑の森』でダグたちが助け出した少女、リリの故郷である。
「実は……街の冒険者ギルドへ指名依頼を出しに来たのですが、受付の時間が過ぎておりまして。いてもたってもいられず、マーサ様の孤児院へ直接伺ったのです」
「指名依頼……? 私たちに、ですか?」
キースが尋ねると、村長は強く頷いた。
「ええ! 先日、うちのリリをあの恐ろしい魔角狼の群れから無傷で救い出してくださった、ダグ様、キース様、コレット様……そしてマーサ様へのお願いです!」
村長は切痛な面持ちで語り始めた。
「ここ数日、我がミレット村の裏手に広がる岩山エリア……その麓にある自然洞窟に、どこから流れてきたのか『ゴブリンの群れ』が棲みついてしまったのです」
「ゴブリン……」
ダグが低く呟いた。
ゴブリン。体長は子どものように小柄だが、凶暴で知恵が回り、集団で行動する魔物だ。一匹一匹は弱いが、暗闇での視界を持ち、粗末な錆びた剣や毒入りの剣、投石器、小弓などを扱ってくるため、駆け出し冒険者にとっては十分に脅威となる相手だった。
「最初は村の畑の芋や麦が荒らされる程度だったのですが……昨夜、ついに村の家畜小屋が襲われ、山羊が二頭殺されました。このままでは、冬を越すための備蓄が食い荒らされ、いずれ村の人間や子どもたちにまで被害が及びかねません!」
村長は膝の上で固く拳を握りしめ、マーサと14歳組を見つめた。
「ギルドを通じて正式な報酬金——村で集められる限りの銀貨三十枚をお支払いします! どうか、あのゴブリンどもを退治し、洞窟から掃討してはいただけないでしょうか……!」
言葉を詰まらせる村長の訴えに、ダグとキース、コレットは顔を見合わせ、それから力強く頷いた。
「村長さん、任せてくれよ! リリちゃんがいる村を、そんなゴブリンなんかに荒らさせやしないさ!」
ダグがポンと胸を叩く。
「ゴブリンの習性なら、シルヴァさんから教わった。暗闇での連携と、洞窟内での罠にさえ気をつければ、僕たちで対応できるはずだ」
キースも冷静に分析を加える。
しかし、マーサは少し思案する表情を見せた。
(ゴブリン討伐……相手は集団で、しかも生息地は暗く狭い洞窟。……いくらみんなが育ってきたとはいえ、狭所での戦いは一歩間違えれば退路を断たれる危険があるわ)
何より、先日の森での戦いとは異なり、今回は相手の「陣地」へ乗り込む攻撃戦だ。奇襲や乱戦は避けられない。
マーサは深呼吸をし、子どもたちの真っ直ぐな瞳を見つめ返すと、静かに、けれど揺るぎない声で言った。
「分かりました、村長さん。その依頼、お受けいたします」
「本当ですか……! ありがとうございます、マーサ様!」
「ただし……今回は、私もパーティに同行します」
「えっ!? 院長も!?」
コレットが目を丸くした。
「ええ。前回の森での戦いでは、私は留守番をしてポーションを預けるだけだったけれど……今回は暗い洞窟での討伐戦よ。怪我や毒のリスクが段違いに高いわ。私という回復役が後ろにいてこそ、ダグやキースが存分に前衛としての技術を発揮できるはずでしょう?」
マーサの言葉に、ダグとキースは胸を熱くした。
普段は優しく子どもたちを包み込む「院長先生」であるマーサだが、かつてはハーフエルフの神官として荒波を潜り抜けてきた元冒険者だ。その真剣な眼差しには、仲間を守り、背中を預け合う覚悟が満ちていた。
「嬉しいよ、院長! 院長が後ろにいてくれたら、俺、何百匹のゴブリンが来ても倒せる気がするぜ!」
「調子に乗らないの、ダグ。油断は禁物よ」
マーサは苦笑しながらダグの頭を軽く小突いた。
「……でも、院長。院長まで遠征に行っちゃったら、孤児院のことが心配じゃない?」
キースがふと懸念を口にした。今回の討伐は、洞窟の規模によっては数日間の遠征になる可能性がある。幼いトビーたちを含め、十人を越える子どもたちが残されるのだ。
すると、それまで静かに話を聞いていたエレナが、パンッと自分の胸を威勢よく叩いた。
「何言ってるんですか、キース兄ちゃん! 孤児院の留守なら、この私が完璧に仕切ってみせます!」
「エレナ……?」
「料理も、掃除も、洗濯も、みんなの着替えも、全部私が指示を出してやってみせます! 今週の買い物計画もバッチリですから、三日や四日、院長がいなくたってびくともしません!」
エレナの力強い宣言に、居間の空気がパッと明るくなった。
マーサはエレナの前にしゃがみ込み、その小さな手を両手で優しく包み込んだ。
「エレナ……本当に頼んでも大丈夫かしら? あなたに重荷を背負わせてしまわない?」
「重荷なんかじゃありません! 院長たちが村の人たちを助けるために戦いに行くんです。私はここで、みんなが帰ってくる場所を守る……それだけです!」
エレナの瞳には、14歳組に負けないほど強い「家族を守る覚悟」が宿っていた。
十二歳。まだ小さな少女だが、彼女もまた、この孤児院という温かな我が家を愛し、自分にできる最高の役割を果たそうとしているのだ。
「ありがとう、エレナ。……本当に、頼もしいわね」
マーサはエレナを深く抱きしめた。
「その代わり! ダグ兄ちゃんも、キース兄ちゃんも、コレットおねえちゃんも……院長をちゃんと守るって約束してください! それから……絶対、大怪我して帰ってきちゃダメですからね!」
エレナが目角を立てて釘を刺すと、ダグたちは頭を掻きながら「お、おう!」「任せとけって!」と苦笑い交じりに応じた。
「決まりね。明日の早朝に出発します。今夜は早く休んで、万全の準備を整えましょう」
マーサの号令のもと、一同はそれぞれの準備へと動き出した。
夜が深まり、孤児院全体が静かな寝息に包まれた頃。
ダグとキースは、一階の物置部屋で、月明かりを浴びながら己の武器を静かに磨いていた。
ダグは小ぶりのブロードソードの刃に油を塗り、砥石で滑らかに整えている。ガルムから教わった「刃の角度」を意識しながら、一枚の鉄を慈しむように研いでいく。
キースは双小刀の柄の目釘を点検し、刃こぼれがないか細かくチェックしていた。
「……ダグ」
「ん? なんだ、キース」
「今回の戦い……僕たちが前衛として、どれだけやれるかが勝負になるぞ」
キースの静かな声に、ダグは研ぐ手を止めた。
「ゴブリンは集団で襲ってくる。狭い洞窟の中じゃ、コレットの大規模な魔法は味方を巻き込む危険があって使いづらい。マーサ院長の『軽傷治癒』だって、魔力の限界があるはずだ」
「ああ……分かってる」
ダグはブロードソードの平をじっと見つめた。
「俺たちが正面で敵の刃を食い止め、受け流し、隙を作らなきゃならない。前回の森では、俺の力不足で左腕をやられそうになって、コレットに無理をさせた……。今回は、絶対にそんな思いはさせねえ」
ダグの手に、強い力がこもる。
「ガルムの親父が言ってた。『盾を持つ者は、ただの木切れを抱えてるんじゃない。仲間の命と、自分の命の境界線を握ってるんだ』ってさ。俺は、そのラインを何があっても割り込ませない」
「ふ……頼もしいね」
キースは小刀を鞘に納め、カチャリと心地よい金属音を響かせた。
「僕も、シルヴァさんに教わった罠の解除と、暗闇での『気配の察知』で道を作る。二人で完璧な前衛になろう」
「おう!」
少年二人が力強く拳を交わし合わせた、その時だった。
カツン……と、裏庭の勝手口の扉が軽くノックされた。
「……誰だ?」
キースが警戒して小刀の柄に手をかけ、扉をすっと開ける。
そこに立っていたのは——月光を背に受けた三つの影だった。
ガルムとシルヴァ、そしてひょっこりと後ろから顔を出したオルランドの老兵三人衆である。
「親父……!? シルヴァさんにオルランドお師匠様まで! こんな夜更けにどうしたんだよ!?」
ダグが目を丸くすると、ガルムは「フン」と不機嫌そうに鼻を鳴らし、手に持っていた革袋をダグの方へ放って寄越した。
「裏の酒場で飲んでたら、ミレット村の村長が駆け込んでいくのが見えたんでな。……明日からゴブリン退治だと?」
「あ、ああ! 村が困ってるんだ、俺たちで行くんだよ!」
「ガキが……調子に乗るなと言いたいところだが」
ガルムは腕組みをして、ダグを見下ろした。
「その袋を開けてみな」
ダグが革袋の紐を解くと、中から出てきたのは——上質な硬質革と金属の留め具でしっかりと補強された、前腕用の鉄補強の腕甲だった。
「それはな、俺が昔使っていた腕甲だ。丸盾で受け流し損ねた時、腕の骨が砕けるのをごまかす。……サイズを少し詰めておいた。お前さんでも扱えるはずだ」
「親父……!」
ダグが感激して腕甲を抱きしめると、隣のシルヴァも苦笑しながら、キースの手元へ革包みを投げ渡した。
「キース、それは僕が使っていた『罠解除の精密爪細工』と、襲いかかってくる敵の目や鼻を潰す『濃縮唐辛子粉』だ。ゴブリンの洞窟は狭くて、一匹ずつ相手にできない乱戦になる。いざという時はその唐辛子粉を敵の顔面に吹きつけて隙を作れ」
「シルヴァさん……! ありがとうございます、道具も唐辛子粉も実戦でしっかり使います!」
キースが力強く頷くと、最後にオルランドがボサボサ頭を掻きながら、居間の奥から目をこすりつつ起きてきたコレットのもとへ歩み寄った。
「コレットや。洞窟攻略と聞いて黙っていられんくてな。狭い洞窟で『光の矢』のような攻撃魔法を振り回せば、壁の崩落や味方への暴発を招く。……これを持っていけ」
オルランドが懐から取り出して差し出したのは、羊皮紙がしっかりと装丁された古い一冊の本だった。
「わ、これ……魔導書?」
「そうじゃ。攻撃以外の基礎補助魔法……暗闇を照らす『光』の術や、味方の気配をわずかに覆い隠す術やらがまとめられた本じゃ。今日まで叩き込んだ魔力があれば、お前ならすぐに読み解いて使いこなせるはずじゃ。攻撃だけが魔法ではない。仲間を導く灯りとなり、前衛を支える術を身につけよ」
「補助魔法の魔導書……! ありがとう、オルランドお師匠様! あたし、今夜のうちに読んで『光』の魔法を絶対にマスターしてみせる!」
コレットは魔導書を胸に抱きしめ、瞳をキラキラと輝かせた。
老兵三人は、口では厳しく突き放しながらも、子どもたちが初めて挑む本格的な洞窟討伐戦を深く心配し、それぞれの技術と知恵に合った餞別を用意してくれていたのだ。
「勘違いするなよ」
ガルムが野性的な眼光で子どもたちを睨みつけた。
「俺たちが鍛えた手前、無様な傷を負って帰ってこられたら名刺の傷になるんだよ。……ゴブリンごときに足元をすくわれるようなら、帰ってきたら倍の特訓だと思え」
「言われなくたって! 完璧に掃討して、無事に帰ってくるさ!」
ダグが新しく貰った鉄補強の腕甲を叩くと、ガルムは口元をわずかに歪めてニヤリと笑った。
「へっ、威勢だけは一人前だな。……マーサをしっかり守れよ。あいつはハーフエルフだが、無理をしすぎるきらいがある」
「分かってる!」
「それじゃな。……無事で帰ってこいよ」
シルヴァとオルランドも手を振り、三人の老兵は夜の闇の中へと静かに姿を消していった。
手元に残された、使い込まれた武具と道具、そして魔導書の温もり。
ダグ、キース、コレットの三人は、自分たちが受け継いだ技術と期待の重さを改めて噛み締め、明日への闘志を胸の中で静かに燃やし尽くすのだった。
翌朝。薄明かりの射し込む東の空の下。
孤児院の玄関前には、完全武装を整えたマーサ、ダグ、キース、コレットの四人が並んでいた。
マーサは純白の神官服の上に頑丈な革のチェストプロテクターを着用し、手には光の加護を宿す木製の神官杖を携えている。ハーフエルフ特有の美しい佇まいに、元冒険者らしい凛とした気が漂っていた。
「みんな、準備は良いかしら? 薬草、水、松明、予備のロープ……忘れ物はないわね?」
「バッチリだよ、院長!」
「ポーションも三人分、各自のベルトにセットした」
「あたしの魔力も満タンだよ! 昨日の夜、魔導書を読んで『光』の魔法のイメージもバッチリ掴んだから!」
三人が頼もしく応じる。
玄関の扉が開かれ、エレナを筆頭に、幼いトビーや子どもたち全員がワッと外へ飛び出してきた。
「院長! ダグ兄ちゃん! 気をつけてねー!」
「ゴブリンなんか、やっつけちゃえー!」
子どもたちの声援が朝の清々しい空気に響き渡る。
エレナはマーサの元へ歩み寄り、ぎゅっとその手を握りしめた。
「院長……絶対に、無理はしないでくださいね。みんなで、無事に帰ってきてください」
「ええ、約束するわ、エレナ。孤児院を頼んだわね」
マーサが優しく微笑み、エレナの頭を撫でる。
「さあ……行きましょう! ミレット村の平穏を取り戻しに!」
「「「おおーっ!!」」」
ダグたちの力強い勝ちどきとともに、四人のパーティは朝日が昇り始めるレムリアの街をあとにした。
前方に広がるのは、豊かな秋の田園風景と、その奥にそびえる荒々しい岩山。
そこには、自分たちを待ち受ける暗い洞窟と、未だ誰も知らない秘密が眠っている。
14歳の少年少女たちと、彼らを温かく見守る母であり神官であるマーサ。
四人の絆と技術が試される、新たな冒険が、いま静かに幕を開けたのだった。




