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夜になると、ホテルを出て、海岸沿いを散歩した。月に照らされた砂浜は美しく、幻想的だった。お酒をたんまり飲んだであろう女性が前から歩いてきた。「大丈夫ですか?」と声を掛けると、「もう無理」と返ってきた。彼女をその場に残し、私は水を買いに、コンビニへ行った。戻ると、あなたは大人しくしていた。
「はい、水」と手渡すと、「優しいね、惚れちゃうぞ」と言われたので、「惚れてみろよ」と返した。抱き着かれた。私もあなたの背中に腕を回し、キスをした。アルコールの強い香りがした。目がとろんとしていた。私に灯るものがあった。
砂浜へ出た。あなたが腰を降ろした。私もそれに倣った。「私、旅行者なのね、会社の人員整理でクビになっちゃって、もうどうでもよくなっちゃったの」「自棄になってるんだ?」「そう、今ならちょろいよ、私」と誘われたので、胸に触れた。豊かだった。Fカップほどありそうだった。あなたは大人しくしていた。
キスをして、首、耳を愛撫した。あなたから色のある息が漏れた。「海でしてみたかったんだよね、ここでしよ」と言われたので、私はそれを受けた。服は完全に脱がせず、捲り上げた。ホックを外し、胸を自由にさせた。私の愛撫にあなたは敏感に反応を見せた。
「慣れてるね、触り方が優しい」「もっと激しくも出来るけど?」「ううん、優しくして、慰めて」と言われたので、髪を撫で、肌に甘く触れた。むっちりしており、健康的だった。
内腿に触れ、あなたを騒がせた。スカートのなかへ手を送り、ショーツを脱がせた。あなたも私のズボンの前を開き、愛撫してくれた。
私たちはひとつになった。あなたは手の甲を口に寄せ、声を押し殺していた。その様がエロティックだった。月の光にあなたの目は濡れていた。「綺麗だよ」と言うと、「もっと言って」と返された。
「胸も、目も、脚も、君のすべてが美しい」「優しい、本当に惚れちゃうぞ」「待ってるよ」「名前、教えて」「後でな、今はただの男と女でいい」とあなたを抱いた。
私が果てるまでに、あなたは何度か達した。その度に、声が高くなった。砂浜には誰も来なかった。広い貸し切りだった。仰向けになった。あなたが身を寄せてきた。
「良い思い出が出来たわ、ありがとう」「俺も、じゃあこのまま名乗らず、別れよう、思い出にはそのほうがいいだろう」「そうだね、そうしよう」「君のホテルまで送るよ」「ありがとう、ここから近いけどね」「もう少し、ゆっくりしてから行こうか」とあなたを抱きしめた。
あなたのホテルは海岸沿いだった。無職になったというのに、良さげなホテルだった。貯金を使い果たすつもりの旅行かもしれなかった。「お互い人生を諦めないようにしよう」とキスをした。「分かった、元気出た、ありがとう」と返してくれた。それは本音だったかは分からないが、笑顔が眩しかった。
ひとりでしばらく散歩していると、道路の真ん中にドアがあった。昼間にはなかったものだ。私は楽しくなり、それに近付いていった。それを開いても、何にもならないのだろうが、強くそそられた。私はドアを開いた。強い引力に引っ張られ、吸い込まれていった。
そこは真っ暗だった。私以外にひとの気配はなかった。歩いてみると、すぐに壁にぶち当たった。狭い部屋のようだった。ドアはもう無くなっていたので、もとの世界には戻れなかった。私は諦めて腰を降ろした。
すると、突然ブザーが鳴り、壁に映画のような映像が流れ出した。主演は私だった。当然、見に覚えはなかった。他の出演者にも見覚えはなかった。ある女性と出逢い、恋をして、結婚をするが、私は彼女を裏切り、不倫に明け暮れていた。酷い男だと思ったが、今、結婚するとしたなら、こうなるような気がした。
ラストは奥さんにこっぴどくフラれてしまった。慰謝料も請求され、私の生活はズタボロになった。音楽でも売れなくなり、不倫相手にも捨てられ、惨めにひとりで生きていた。歳を取り、モテなくなり、もうどうにもならなかった。
誰かに脅されているような気がした。不倫をしたら、あるいは結婚をしたら、こうなるぞ、と。私は背筋が冷えた。怖かった。早く、この部屋から出たかった。エンドロールが終わると、仄かに明かりが点き、壁にドアが埋め込まれていることに気付いた。私は喜び勇んで、ドアノブに手を掛けた。
それを開くと、私のホテルの部屋だった。私は安堵し、ベッドへ横になった。一体、あの映画はなんだったんだろう、と考えても、答えは出なかった。そのうち、眠くなり、落ちてしまった。




