97.休憩?
「……マティルド」
そっとコレット様に腕を引かれ、わたしはハッとした。
しまった、コレット様のことを忘れていた。
そうか、ランドール様がケルテス家の血を引いている……、もっと言えばケルテス辺境伯の実子だということがわかれば、シモン様は次期当主の座から追われる。
というかこれは立派な犯罪なので、マデリーン夫人ともども罪に問われることになるだろう。
実際のところ、シモン様がランドール様とすり替えられた偽の後継者であることを知っているのは、マデリーン夫人とピルシュカの呪術師だけだ。
シモン様は、自分がケルテス家の跡取りであると信じ切っている。髪や目の色を変えているのも、「そのほうがあなたに似合っているわ。貴族らしくて素敵よ」とマデリーン夫人に言われたからだ。
だから、この件でシモン様まで罪に問われるのはちょっと酷な気もするが……。
それに、シモン様が平民になったらコレット様はどうするんだろう。
マンガでは最後までシモン様を庇いつづけたコレット様だけど、結婚前に事実が発覚すれば、また考えも変わるかもしれない。
ていうか、そんなことになればリヴィエール侯爵がシモン様との婚約を解消させるだろう。ケルテス辺境伯の後継者だと思えばこそ、コレット様との縁組を申し出たのだ。本当の後継者がランドール様だとわかれば、……もしかしたらシモン様からランドール様へ、婚約者のすげ替えを要求するかもしれない。
いや、でもコレット様がそれを受け入れるだろうか。
……わからない。この件は不確定要素が多すぎて、確実にこうなる! という予測が立てられないよ。どうしたらいいんだろう。
「ランドールの血筋を、ソレル魔法伯の呪術で判断できるというなら、してもらえば?」
コレット様がささやくようにわたしに言った。
「えっ? ランドール様の血筋を……、でも、コレット様はそれでかまわないのですか?」
「別にいいわよ。ランドールがケルテス家の血を引いていると分かれば、シモン様だってケルテス家の保有する爵位を、一つくらいランドールに分けてくださるかもしれないでしょ。そうすればランドールは平民ではなくなるわ」
ああー、そういう解釈なのか……。まあそうだよね、まさかランドール様がケルテス家の後継者だとは思わないよね……。
でも、どちらにしてもランドール様にその気がなければどうにもならない。
うーん、困った……。
ルーディガー様は机に突っ伏したわたしの頭を軽く撫でた。
「どうした、勉強のしすぎで疲れたのか? そういう時は魔術を使うに限る。結界の張られた場所へ移動しないか? 一緒に魔術を使おう」
どこまでも魔術愛にあふれた人だな。でも、たしかに考えすぎて疲れちゃったかも。
「結界の張られた場所ですか……」
「マティルド嬢、ユニーク魔術を使うのか!?」
ガブリエル様が身を乗り出した。
ここにもう一人、魔術愛あふれる人がいたよ。
「魔術って、この前の軍事訓練みたいなことをするの? イヤだわ、危ないじゃない」
コレット様が眉をひそめた。
「じゃあ、炎の剣を使うのは止めておきます。他には……、えーっと」
『逃走』は移動魔術だし、何かコレット様も楽しめるような魔術は……。
「そうだ、ユニーク魔術でお花を創造してみます!」
コレット様は薬草学に興味を持っているし、この前シモン様に贈る手巾にも小さな花を刺繍していた。綺麗なお花を魔術で創造すれば、気に入ってくれるだろう。
わたしの提案にコレット様が首をかしげた。
「お花を創造? 魔術で花を生み出せるの?」
「わからないけど、やってみます!」
「ふーん……。それならかまわないわよ」
コレット様のお許しが出た!
「ランドール様も一緒に行きませんか?」
「わかった」
ランドール様はお花にあまり興味はなさそうだけど、承知してくれた。
「では私は花と相性のよい水魔術を使おう!」
「僕は光魔術を!」
ルーディガー様とガブリエル様が嬉しそうに言った。叔父と甥というより兄弟みたい。




