95.思いがけないきっかけ
「ルーディガー様、お気持ちはありがたいのですが、本当に宝飾品は必要ありません。軍事訓練の時、紅玉の指輪をいただいたでしょう? あれで十分です」
「だが、あれは試作品だ」
ルーディガー様は不満そうに言った。
「デザインも性能も改善の余地がある。……完成品はまだ出来上がっていないから贈れぬし」
わたしはジェラルド様の言葉を思い出した。軍事訓練の時、「完成品を君に贈るよ」って言ってくださったっけ。それに、たしか……。
「王太子殿下から、他の方から宝飾品は受け取らないように、と言われているので」
「なに!?」
ルーディガー様ではなく、ミレー伯爵が反応した。
「王太子殿下が……。向こうも本腰を入れてきたということか! ルーディガー、しっかりしないか! やっと見つけた婚約者を、王家に奪われるわけにはいかん!」
「わかっている」
ルーディガー様は頷き、わたしを見た。
「では、宝飾品ではなく結婚式用のドレスを注文しよう」
あまりに飛躍したその結論に、わたしはテーブルに突っ伏した。
「なんでそうなるんですか……」
「そうだな、それがいい!」
ミレー伯爵は手を打ち、わたしに向き直った。
「マティルド嬢、この後時間があれば、ドレスのデザインを選んでもらえないだろうか?」
「……いや、今日は勉強会のつもりで来ましたので、そういうのはちょっと……」
やんわりお断りすると、ガブリエル様も加勢してくれた。
「父上、せっかく友達を招いての勉強会なのに、これ以上邪魔をしないでください」
いくら父親とはいえ、伯爵家の当主にそんなにハッキリ文句を言って大丈夫なのかと思ったが、ミレー伯爵はあっさり頷いた。
「そうか、たしかにこれ以上勉強の邪魔をするのは良くないな。……ではドレスについてはまた今度、日を改めて決めることにしよう」
問題は先送りされただけだった。
「マティルド、来週は魔術師の塔へ来られるか?」
ルーディガー様がソワソワした様子で聞いてきた。
「来週ですか? なぜ?」
閲兵式でおこなわれる魔術披露で、わたしにも何か役割が課せられるのだろうか。
と思ったら、
「特に用事はない。ただ、マティルドの使う魔術をもっと見たいし、魔術について話し合いたいのだ」
ルーディガー様が堂々とのたまった。
うん……、そうだった、ルーディガー様って基本的に魔術のことしか考えてないんだよね……。
「来週は小テストが始まりますし、時間がとれないかもしれません」
「小テスト期間中は早く帰れるだろう」
不思議そうなルーディガー様に、わたしは頭痛を覚えた。
「申し訳ありません。テストに集中したいので……」
「ふうん? まあ、嫌ならしかたない。では、小テストが終わったら塔へ来てくれないか?」
まあ、それならいいか。
「わかりました」
わたしが頷くと、ルーディガー様は嬉しそうに微笑んだ。
なんか、仲良しの子と遊ぶ約束をして喜んでいる子どもみたい。十歳も年上なのに可愛く見えてしまうんだから不思議だ。
「ではそろそろ帰るか、邪魔したな。……うん?」
ルーディガー様はテーブルに広げた書類を抱え直すと、ランドール様に気づいた様子で顔をしかめた。
「おまえはケルテス家の嫡男だな。マティルドに婚約を無理強いするのはよせ」
「ルーディガー様!」
とんでもないいいがかりに、わたしは思わず椅子から飛び上がった。
「何をおっしゃるんですか! こちらはランドール様で、ケルテス辺境伯家のご次男です!」
「は? 次男?」
ルーディガー様は首をひねり、ランドール様をしげしげと眺めた。
「……そんなはずはない。この男は、ケルテス辺境伯家の血を引いている」
「え」
「北部の人間は、王都の人間とは違う。魔力の質が変わっているというのか……、特にケルテス辺境伯家はその違いが顕著だ。一目でわかるだろう」
なぜわからない? と言われ、わたしは困ってしまった。
「いや、そんなこと言われてもわたしは『鑑定』のスキルを持っていないので」
言いながら、わたしは思った。
……もしかして、これは……、うまくすればランドール様の本当の血筋が明らかになる流れなんじゃないの!?




