94.コレット様の未来
「マティルド?」
コレット様の顔が間近に迫り、わたしは仰け反った。
「ぅおっ、え、ななんでしょうか?」
「なんでしょう、じゃないわよ。いきなり黙ってどうしたの?」
わたしはまじまじとコレット様を見つめた。
妖精のように可憐な容姿のコレット様。
本来ならわたしを刺し殺す、死神的立ち位置にいるはずの女の子だ。……けど、わたしの運命が変わるなら、コレット様だってそれは同じじゃないだろうか。
将来、わたしが魔法騎士になって北部に戻らなければ、少なくともコレット様に殺される未来は消えるはずだ。
でもコレット様はシモン様を大好きだから、今の時点ではケルテス辺境伯領に嫁ぐ流れは変わっていない。だから、このままいけばわたしの死を除き、コレット様の未来に変更はないだろう。
でも、何か……、どうにかしてコレット様の運命も変えられないだろうか。
たしかマンガでは、第二王子に与した貴族たちは、領地を失ったり閑職に追いやられたりといった憂き目に遭う。
そしてケルテス辺境伯家はどうなるかというと、まず、ランドール様のスキルが覚醒することによって、シモン様は辺境伯の地位を失う。
マデリーン夫人とシモン様、それにコレット様は無実の人を陥れ、殺害した罪を問われて投獄される。これは、まあ仕方ない……っていうか、殺害された人たちの中には、わたしもいたしね!
マデリーン夫人、シモン様、コレット様の三人は、王太子派との政争に敗れ、ケルテス家からも放逐されたショックで精神を病んでしまう。
そのため、本当は斬首刑に処されるはずだったんだけど、聖女さまの慈悲により命だけは助かり、罪人の塔に幽閉されることになる。
ただこれ、聖女さまの名前を借りて刑罰に手心を加えたんじゃないかなーって気がする。貴族に対してあまりに苛烈な処罰を下すと、将来、禍根を残すことになるだろうし。
つまり、もしわたしを殺したとしても、コレット様は死なない。
死なないんだけど……、精神を病んで罪人の塔に終生、閉じ込められたまま、って、ある意味、死ぬより辛い罰じゃないかなあ。その頃にはリヴィエール侯爵家は代替わりしていて、コレット様を嫌っているクリストフ様が当主になっているから、幽閉生活を気遣ってくれるような家族もいないだろうし。
わたしを殺すはずの人に、情けをかけてどうする、とも思うけど。
でもコレット様は、いわゆる『いい人』ではないかもしれないが、一途だったり面倒見が良かったりと、ちゃんと長所もある。
なんていうか、本当に普通の女の子だ。
ただ好きになった男の子がどうしようもないクズだったというだけで、精神を壊して一生幽閉なんて、そんなの悲しすぎる。
いや、だからってわたしや他の女の子を殺しまくったのは許せないけど!
でも、今はまだ、コレット様は誰も殺してはいない。
そして、これからも殺さずに済むかもしれないのだ。……わたしの行動次第で。
考え込んでいると、なんか廊下のほうから人の話し声が聞こえてきた。と思ったら、
「マティルド!」
バン! と図書室の扉を開け、ルーディガー様が入ってきた。なんかたくさん書類を抱えている。その後ろには、ミレー伯爵の姿もあった。
「叔父上? 父上も、どうなさったのですか?」
「マティルド、どのようなデザインの宝飾品がいいか、考えは決まったか?」
ルーディガー様は長テーブルまでやってくると、わたしとガブリエル様の間にぐいぐいと割り込んできた。
「叔父上、今勉強中なので邪魔しないでください。……父上、なぜ叔父上を連れてきたのですか」
「いや、うん、マティルド嬢が屋敷に来たら連絡しろと、ルーディガーに言われていてな。……それに、婚約の贈り物を作り直さねばならんし」
ミレー伯爵がニコニコして言う。やめて、ただでさえルーディガー様は暴走気味なのに、これ以上焚きつけるようなことしないで!
「どのような要望にも応えられるよう、最上級の職人をそろえたぞ。……私も一応、何種類かデザインを考えてみたのだが」
ルーディガー様がどん! とテーブルの上に書類を置いた。
えええ……、抱えていた書類って、ぜんぶ宝飾品のデザイン画だったの?
「……ソレル魔法伯って、なんていうか……、自由な方なのね」
コレット様が言いにくそうに言う。
ちょっとコレット様、なんで憐れみの目でわたしを見るんですか!




