91.恋占い?
「……そうだな。読めると思う」
ランドール様の返事に、わたしもガブリエル様もそわそわしてしまった。
「ランドール殿、すまないが、ちょっとソラン語で読んでもらえないだろうか」
「お願いします、ランドール様! わたしも内容を知りたいです」
ランドール様は「わかった」と頷き、ガブリエル様言うところの呪術入門書を、淡々と読み始めた。
「……『あの人はわたしをどう思っているのかしら? 気になる片思いの行方を占ってみよう! 必要なものその一、相手に見立てた藁人形』」
「ちょっと待ってください」
わたしは思わずストップをかけた。
「それって一応、恋占いなんですよね? なんで恋占いに藁人形が必要なんですか?」
「俺に聞かれても……」
ランドール様は困ったように本に目を落とした。
「どうやら藁人形は、相手用と自分用の二つ分、必要なようだな」
「えええ……、自分の分も?」
藁人形でいったい何を占うんだよ。
わたしはドン引きしたが、ガブリエル様は平然と言った。
「ソラン王国では恋占いというとまず、カードなどが使用されるが、ピルシュカではカードの代わりに藁人形が使われるんだろうな」
「どういう占いですか、それ」
ランドール様が続きを読み始めた。
「占いのやり方は……『藁人形の中に、占いたい相手の髪や皮膚などを入れて』」
「ヒィイイ! なんですかそれ!」
「マティルド嬢、静かに。ランドール殿、続きを読んでくれ」
「わかった。……『できれば相手の血を心臓部分に一滴、たらせば完璧ですが、なくても大丈夫です』」
怖い! なにそれ怖すぎる!
わたしは声を出さないよう、両手で口をおおった。
気になる片思いの行方を占ってみよう! なんてポップな出だしからは想像もできない恐怖の展開だ。相手の血って……。
「『自分の藁人形にも同じように髪や皮膚を入れ、心臓部分に血をたらせば準備OK! いよいよ占いを始めましょう』」
内容はヘビーなのに文体が明るいのは何故なんだ。また、それを読んでいるのがランドール様だから違和感がひどい。
「『相手と自分の藁人形を十字の形になるように重ね、陶器や銀器など、燃えにくい皿の上に置きます。そして呪文を唱えながら藁人形に火を付けます』」
「呪文?」
ガブリエル様が首を傾げた。
「呪文は……、この頁の下部に書かれている呪文その一だろう。これはピルシュカ語のまま、読んだほうがいいだろうか?」
「原語のまま読んだら、内容を翻訳してほしい」
「わかった。……『パフパフリリー、チルチルラーン、ミルチョンピンパッパオンベリニャーン』……これを訳すと、『月夜の花、輝く星、どうか私をお導きください』となる」
ランドール様が厳かに言った。
なんか語感がポップすぎてちょっと……。
「おんべりにゃーんって……」
わたしが力なく言うと、
「導く、の部分だな。厳密に言えば『オンベリ』はピルシュカ語で流星を意味していて……」
ランドール様が真面目に解説してくれるのだが、何故か激しく申し訳なさを感じる。
すみません、ランドール様にぴんぱっぱとかにゃーんとか言わせてしまって……。
しかし、ランドール様の件を除いても、ピルシュカ語の習得は大事だ。
ピルシュカはソラン王国に隣接する南の大国で、経済的な結びつきも強い。ただ、大陸戦争ではソラン王国の敵対勢力に経済援助をしていた疑惑がある。国防を担う魔法騎士を目指すなら、絶対に習熟が必要だ。
「ランドール様はピルシュカ語をどのように学ばれたのですか?」
節約を心がけるランドール様だから、参考書を買い漁ったり家庭教師を雇ったりはしていないだろう。しかし、呪術入門書をスラスラ読めるところを見ても、ランドール様はかなりピルシュカ語が堪能なようだ。
「俺は教科書のほか、学院の図書室を利用した。貸出可能なピルシュカ語の本をくり返し読み、文法や単語変化に慣れるようにした」
「慣れ、ですか」
「そうだ。例えばピルシュカ語で「星」はラーンだが、複数形になるとラーナンもしくはラーニャンになる。これは他の単語にも当てはまるんだが……」
ランドール様がピルシュカ語の語形変化について説明してくれる。
意外。ランドール様は饒舌なタイプじゃないから人に教えるの苦手そうって勝手に思ってたけど、すごくわかりやすい。
アルバイトで豪商の子息の家庭教師とかやったら、人気が出そう。




