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「わたしのために死んでちょうだい」と言われて殺されるモブ令嬢に転生しましたが、生き延びるため魔法騎士を目指します  作者: 倉本縞


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90.呪術入門書


 図書室の中央に置かれた長テーブルに、ランドール様、ガブリエル様、わたし、コレット様の並びで座る。

 すると、お茶を運ぶメイドとともに、眼鏡をかけた上品そうな夫人が図書室に入ってきた。

「こちらはステファニー・カイエ夫人だ」

 ガブリエル様が夫人を紹介してくれた。


「カイエ夫人はミレー家に連なる者で、薬学に秀でている。僕も学院に入る前、夫人から薬学を教えていただいたんだ」

 へー、ガブリエル様が師事した方か。

「そうですか、今日はよろしくお願いします」

 コレット様が穏やかに応じる。


「あの、わたしも後で受講させていただいてかまいませんか?」

「ええ、もちろんです」

 わたしの申し出に、カイエ夫人はにっこり笑って頷いた。

「薬学に興味をお持ちの方が増えてくださるのは、嬉しいことですからね」


 わたしは薬学に興味があるというよりは、売れる薬草を知りたいという不純な理由なんだけど。

 今度、エミール様、ジャン様と一緒に学院の森で狩りをする時、獲物を探しながら薬草を採集できたら効率よくお金を稼げると思ったんだよね。


「僕も薬学を復習したいが、まずは小テスト範囲内のピルシュカ語を勉強するということでいいだろうか?」

「ええ」

 その後に数学をやり、最後に薬学。

 ランドール様も薬学の講義を受けたいということだったので、最終的に全員がカイエ夫人に教えてもらうことになった。


 コレット様は薬学の教科書をめくり、カイエ夫人に「小テストの範囲外ですけど、北部の植生について教えてくださらない?」と聞いていた。

 おお、勉強嫌いのコレット様が真面目に頑張っている! わたしも頑張らねば!


「ランドール様は一年生の頃からピルシュカ語を習っていらっしゃるんですよね」

「ああ」

「三年生になるとどのような内容になるのだろうか」

 ガブリエル様の質問に、ランドール様は三年生の教科書を取り出した。ずいぶん分厚いな。


 ちなみに一年生用のピルシュカ語の教科書はない。

 授業のたびに先生が石盤にピルシュカ語を書き、生徒がそれを自分の石盤に書き写すやり方だ。

まだそれほど長い文章や難しい文法にまで進んでいないからいいけど、これだと復習しづらいんだよね。最初の授業では石盤すら使わなかったし、語学というより文化を学んでいるレベルだ。


「三年生では、簡単な物語を読み、その内容を正しく理解できているか、ピルシュカ語で確認する程度だ」

「そうなのですか。わたしはピルシュカ語の文法も単語もほぼわからない状態ですので、物語を読み解くレベルではありませんわ」

「僕は簡単な文章を作れるくらいだ」


 ガブリエル様は立ち上がり、棚から二、三冊本を抜き出した。


「これは叔父上がピルシュカから持ち帰った本なのだが、僕の知識では歯が立たない。単語の意味くらいはわかるが、やはり文法をきちんと勉強せねば駄目だな」

「……それは何について書かれた書物ですの?」


 革の表紙に金属の留め具、飾り鋲などで装丁された豪華な本だ。

 ガブリエル様は本をパラパラとめくりながら言った。


「これはピルシュカの呪術書だ。……まあ、初歩的な入門書のようなものだけどね。専門的なものは、叔父上が魔術師の塔に保管していらっしゃる」

 呪術書!


 わたしはガブリエル様の持つ書物に目が釘付けになった。

「まあ……、ピルシュカの呪術書ですか。ガブリエル様は単語程度ならお分かりになるのですよね? どのような呪術について書かれてありますの?」

「大したものは載っていない、……と思う。単語から類推するに、恋占いとか日々のおまじないとか、そんなものだな」


 そうか~。まあ、誰でも手にとれる場所に置いてあるんだから、そんな危険な呪術について書かれているはずはないか。しかし、


「ランドール様、こちらの書物を読むことはできますか?」

 わたしはドキドキしながら聞いた。


 ランドール様は何度もその身に呪術をかけられている。

 まあ、呪術っていうか、呪術と魔術のハイブリッド版である闇術だけど、根っこのところはピルシュカの呪術と考えていい。

 呪術の本を読むことで、自身にかけられた呪いに気づく……、とか、あってもいいんじゃないの? 希望的観測ですが!


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