83.予定外の参加希望者
「シモン様、お久しぶりです。お会いしたかったですわ!」
コレット様がいそいそとシモン様に近づく。
「あ、ああ」
シモン様はコレット様、わたし、ランドール様とせわしなく視線をさまよわせた。
「今、おまえたちは何を……」
「コレット様、早く食堂に参りましょう!」
失礼は百も承知で、わたしはシモン様の言葉をさえぎった。
頼む、その話は蒸し返さないでくれ!
恥ずかしさで死ぬ!
「何よ、マティルドったら真っ赤になっちゃって」
コレット様はおかしそうに笑った。
「いいわ、この話はまた後でね。シモン様、食堂に移動しましょう。……ランドールも一緒でいいわよ」
えっ!? とわたしは驚いてコレット様を見た。
あんなにランドール様を嫌う……というか、無視していたコレット様が! いったいどうした!?
「マティルドはわたしの友達だもの、仕方ないわ。趣味が悪いとは思うけど、我慢してあげる」
コレット様はにこっと笑った。う~ん、美少女が微笑むと周囲の空気が輝くね!
しかし、趣味が悪いってなんだ。コレット様にだけは言われたくないよ。
ランドール様の様子を窺うと、わたしの視線を避けるように顔を逸らされてしまった……、あああ! さっきのアレ、やっぱり聞かれてしまったんだー!
ううう、おおお、もう穴を掘って埋まってしまいたい……。
誤解だけど。誤解なんだけど! でも、大声で「好き!」って宣言した相手と、その直後一緒に昼食を食べなきゃならないなんて、どういう罰ゲームだよ……。
意気揚々と食堂へ向かうコレット様と、どこか動きのぎこちないシモン様とランドール様、うなだれるわたしというカオスな四人組に、周囲の視線が突き刺さる。
ああ……、またこれ、ひどい噂になって広まるんだろうなあ……。王太子殿下に求婚されている身でありながらソレル魔法伯をたぶらかし、ガブリエル様にちょっかいをかけ、ランドール様に「好き」と告白する女。
……うわあ、自分で言ってて引くわー。なにこの女、最低じゃない? って、わたしのことなんですけどね、ハハハ……。
食堂につくと、コレット様は上機嫌で「シモン様は何になさいます? わたしはどうしようかしら……、マティルドは何にする?」とメニュー表を前に悩んでいた。わたしもランドール様も本日のおすすめ一択なのだが、そう言うとコレット様はますます楽しそうに笑い、「それならわたしも同じにするわ」と言った。
するとシモン様も本日のおすすめを選んだ。……シモン様って態度はでかいんだけど、変なところで小心者というか、右にならえなところがあるんだよね。過半数の意見には逆らえないというか。
わたしは値段の理由で本日のおすすめ以外頼めないんだけど、いつかお金を貯めたら他のメニューも食べてみたい。前回、ジェラルド様が注文していたソラル鹿のシチューとか、美味しそうだったなあ。
「シモン様、週末はどのようにお過ごしでしたの?」
コレット様がにこにことシモン様に話しかける。
「特に何も……。タウンハウスにいた」
「まあ、そうでしたの? それなら、王宮で開催された軍事訓練を見学なさればよろしかったのに。たいそう素晴らしかったですわ」
まあね、たしかにサヴィニー伯爵や騎士たちの剣技には目を見張るものがあったし、ルーディガー様はじめ魔術師の皆様の魔術やその連携は素晴らしかった。
でもコレット様が言いたいのは別のことだろう。
「訓練の前に、参加者たちが意中のご令嬢に愛を告げ、活躍を誓う慣習があるのはご存じでしょう? 今回、マティルドはソレル魔法伯に求婚されましたのよ」
ふふっと楽しそうに笑うコレット様。
「わたし、感動してしまいましたわ。ソレル魔法伯は、マティルドと結ばれる日をいつまでも待つ、っておっしゃったの。なんて情熱的でロマンチックなのかしら!」
ああ……、うん、言葉だけを抜き出してみるとそうなるね……。なんだろう、事実との乖離が激しくてもう何も言えない……。
すっかり食欲も失せた頃、本日のおすすめメニュー四人分が運ばれてきた。
今日は白パン、豆のスープ、人参の甘煮、塩漬け猪肉の林檎酒煮込み、マルメロの砂糖漬けだった。
マルメロの砂糖漬けを食べると、冬が来た~って感じがする。ああ、学院に入学してもうそんなに経ってしまったのか……。
ランドール様が無言でわたしにマルメロの砂糖漬けの皿を差し出す。うう、いつもと変わらないその親切が、今は辛いよ……。本当に申し訳ありません、ランドール様。
わたしは意を決し、ランドール様を見た。
「……あの、ランドール様。今週末の予定は空いていらっしゃいますか?」
「は?」
「あら」
わたしの言葉に、ランドール様ではなくシモン様とコレット様が反応した。
「おまえ何を考えている? 王家はどうせおまえとの婚約なんて認めないだろうが、ソレル魔法伯は違うだろ。そっちの求婚はどうするつもりだ?」
「もう、マティルドったら、最初から素直に打ち明けてくれればよかったのに。わたしは別に反対したりしないわよ?……けど、シモン様のおっしゃるとおりだわ。ソレル魔法伯はどうするつもりなの?」
無視だ、無視!
「あのですね、今週末、ミレー家のガブリエル様のお屋敷で、小テスト対策の勉強会をする予定なんです。よければランドール様もいらっしゃいませんか?」
ランドール様は思いもかけないことを言われたようで、ぱちぱちと瞬きした。
「勉強会?」
「はい。ランドール様も第二外国語にピルシュカ語を選択されていますよね。わたしもガブリエル様もピルシュカ語を選択しているのですが、よければ教えていただけませんか?」
「それはかまわないが……」
ランドール様は戸惑ったようにわたしを見た。
「俺が行っても大丈夫だろうか? ミレー家のご子息は、俺の父親が平民であることを知っているのか?」
「大丈夫です! ガブリエル様はそういうの気にしない方なので!」
ガブリエル様は魔術にしか興味ないし、ジェラルド様に重用されているランドール様に好意的だからね!
「では行こう」
「ありがとうございます!」
よし、これでガブリエル様とランドール様の顔をつなぐことができたぞ!
しかし、
「あら、それならわたしも一緒に行くわ」
コレット様が当然のように言った。
「わたしはマティルドの友達だもの、勉強会だって一緒に参加しなきゃ」
ええ!? コレット様って勉強大嫌いじゃなかった!? いったいどういう風の吹き回し!?




