82.恋をしている?
「コレット様、食堂に参りましょう」
「ええ! その前に大講堂に行ってシモン様をお誘いしなくちゃ」
浮かれるコレット様とは反対に、わたしの気分はさらに落ち込んだ。
ああ……、シモン様と一緒に昼食かあ……。
まあ、昨日ルーディガー様に求婚されたことはシモン様も知ってるだろうから、また婚約うんぬんを言い出すようなことはないと思うけど。
大講堂前でコレット様と一緒にシモン様を探していると、ランドール様がわたしたちに気づいてくれた。
「マティルド。……とリヴィエール侯爵令嬢。兄上を探しているのか?」
つんとそっぽを向くコレット様に代わり、わたしが答えた。
「はい、昼食をご一緒したいとコレット様がおっしゃっています」
「わかった、待っていてくれ」
ランドール様がふたたび大講堂に入っていくと、コレット様が文句を言った。
「マティルド、なんで平民の男なんかと口をきくのよ」
「何度も言いましたが、ランドール様はシモン様の弟君です。……それに、学院を卒業する時は平民になっていても、ランドール様ならいずれ、爵位を得られる可能性が高いと思います」
コレット様が首をかしげた。
「何故ランドールが貴族になるのよ? シモン様はランドールに爵位を与えたりはなさらないと思うわ」
「……ランドール様には類まれな剣術の才があります。大陸を二分する大戦争が終結したのはつい数年前の話ですし、優れた騎士が手柄を立てて爵位を得るのはおかしな話ではありませんわ」
ていうかランドール様が『召喚』のスキルを覚醒させれば、自動的にケルテス辺境伯になるんだけどね。まあ、それは置いておいても、ランドール様なら王宮騎士団に入団後、サクサク出世されるだろう。サヴィニー伯爵にも目をかけられているみたいだし。
「あら……」
コレット様はわたしをまじまじと見つめた。
「マティルド、あなたってひょっとして」
「な、なんでしょう?」
コレット様の探るような目に、わたしは身体を硬くした。
き、緊張するんですけど。いや、わたしにはやましいことなど何もない! シモン様との再婚約も、全力で潰しにかかっているし!
しかしコレット様の発言は予想外のものだった。
「ひょっとしてあなた、ランドールに恋しているの?」
「……えっ?」
わたしは驚きのあまり、動きを止めた。
恋? わたしがランドール様に? 何故!?
「えっ? 恋って……、なんで?」
「だってマティルドって、いつもランドールを庇うじゃない。それに子どもの頃から、あんなに素敵なシモン様に目もくれず、いつもランドールと一緒にいたんでしょ?」
「それは……、そう、ですが」
それは別に恋とか関係ない。ただ一緒にいて楽しかっただけで……、だいたい五歳の子どもなんだからさあ。いつも意地悪する子より、優しくしてくれる子と遊びたいに決まってるじゃん。
ていうか、コレット様の趣味が特殊なだけだよ!
……と思ったけど、そんなことは言えない。
「いえ、その、わたしは別に恋とかそういうのではなく、ランドール様を尊敬しているというか」
剣術のお手本だと思っているしね!
「尊敬って、つまり好きってことでしょ?」
「いや、その、好きかと言われると……」
「じゃ嫌いなの?」
「嫌いではありません!」
これは断言できる! 子どもの頃からいつも優しくしてくれる、カッコいい親戚のお兄さんを嫌いな女子などいない!
しかしコレット様は納得せず、尚も言いつのった。
「何よ、はっきりしないわね。結局、ランドールを好きなの、嫌いなの?」
めんどくせえ!
「好きです!」
もう会話を終わらせたかったわたしは、やけくそで叫んだ。
「わたしはランドール様が好きです!」
しーん、と周囲が静まり返り、生徒たちがこちら注目するのがわかった。
あっ、マズい……。ここ大講堂の前だった……。
「あ、シモン様!」
コレット様がわたしの後ろを見て、弾んだ声を上げた。
ウソ、こんな時に! まさか今の、聞かれてないよね!?
ギクシャクと振り返ると、後ろにランドール様とシモン様が並んで立っていた。
シモン様は唖然としているし、ランドール様は……、なんだろう、驚いている? 固まっている?
灰色の目は見開かれ、口元もかすかに開いている。こんなに驚いているランドール様を見るのは初めてだ。
……ああ‼ ランドール様が驚くのも当然だよ! 何を言ってるんだ、わたしは!




