81.ふしだらな女
翌日、何故かまたもやリヴィエール侯爵家からルブラン家のタウンハウスに馬車が到着した。
「コレット様と仲良くお話でもすれば、気も晴れるでしょう。……マティルド、男はこの世に殿下しかいない訳ではありません。たくさんの人と話をし、見識を広めなさい」
そうすればあなたの気持ちも変わるかもしれません、と悲しそうな笑みを浮かべてグレース伯母様が言った。だから誤解です、グレース伯母様!
馬車に乗り込むと、穏やかに微笑むコレット様がいた。たった数日前のやつれた姿とはまるで別人だ。
「おはよう、マティルド」
にこにこと機嫌よく挨拶される。
「昨日は素晴らしい一日だったわね! あなたの魔術も素晴らしかったわ! それに、ソレル魔法伯のあの求婚!」
コレット様は瞳をキラキラさせて言った。
「集まった貴族全員が見ていたわよ! 立会人が王宮騎士団の副団長だし、あれだけ派手にやればケルテス辺境伯家にもすぐ、知らせが入るでしょう!」
喜んでいただけて何よりです。
ふう、とため息をつくわたしにコレット様が首をかしげた。
「どうしたの、マティルド。なんだか疲れているみたいね」
「あ、ええ……、軍事訓練でいろいろあったので、まだ疲れが抜けないのかもしれません」
「まあ、そうなの。だったら今日はお休みすればよかったのに」
そういう訳にはいかない! いかにユニーク魔術が使えるとはいえ、わたしの技術はまだまだ未熟だ。魔術にしても剣術にしても、毎日努力しなければ魔術師の塔、王宮騎士団、どちらにもふさわしいレベルに到達しないだろう。
「ねえ、これから毎日、一緒の馬車で学院に登校しない?」
コレット様の提案に、わたしは思わず咳き込んだ。
「……っ、え、あの、何故……」
「だってわたしたち、お友達でしょう? 一緒の馬車で学院に通ったっていいじゃない。お父様にお願いしておくわ。いいでしょう、マティルド?」
良くはない! 良くはないけど……。
「わかりました……」
わたしは涙を呑んで頷いた。
ああ、毎日わたしの死亡フラグと一緒に登校かあ……。胃に穴が空きそう……。
一限目の魔術の授業では、待ち構えていたガブリエル様に「こっちだ、マティルド嬢!」と隣に座らされた。なんでわたしの周りには強引な人ばかり集まるんだろう。
「昨日の魔術は素晴らしかった! ……が、途中で何か妙な騒ぎがあったな」
「あ、ええ、ガブリエル様は大丈夫でしたか?」
ガブリエル様は肩をすくめた。
「僕は観覧席の後ろに座って見学していただけだからね。何の問題もなかったよ。……しかし、爆発とは穏やかじゃないな」
ガブリエル様は声をひそめ、
「おおかた、王太子派と敵対する輩がやったことじゃないか? まったく馬鹿な奴らだ。殿下と第二王子、どちらが次期王にふさわしいかなど、考えるまでもないだろうに」
「ガブリエル様!」
わたしは思わずガブリエル様の口を塞いだ。
いくら声をひそめているからって、話している内容が不穏すぎる!
「どうした、マティルド嬢。君は王太子派なんだろう? ……もしかして実家が中道派だから、何か揉めているのか?」
「そういう訳ではありません」
言いながら、わたしはグレース伯母様を思い出した。揉めている訳ではないけれど、誤解はされているなあ……。
ガブリエル様と話していると、
「まあ、はしたない。男性にべたべたと触るなんて」
「あんな風にして殿方の気を引いているのね。なんてみっともない方なの。あれでソレル魔法伯もたぶらかされてしまったのかしら」
「王太子殿下に求婚されているというのに、ふしだらな方だこと」
おおう……、忘れていた。魔術の授業にはデルフィーヌ様とその取り巻き令嬢たちもいるんだった……。
あー、朝から気が重い。
デルフィーヌ様たちは、わたしとガブリエル様から一番離れた席に座った。いつもと同じ行動だが、さらに憂鬱な気持ちになる。これから少なくとも一年間、こういう仕打ちを受けなきゃならないのか……。
バベット先生は「来週は小テストを実施します。皆さんの魔術のレベルを確認しますから、準備をしておくようにね」とにこやかに言い放った。バベット先生はいつもにこやかにキルワードを発するから油断ならないよ。
小テストは、中間考査前に行われる。成績に大きく影響するから、頑張らなければ!
「マティルド嬢、前にも言ったが、小テスト前に僕の屋敷で勉強会をしないか?」
「いいですね、では今週末はいかがでしょう? 友達の予定が空いているか確認して、後ほど連絡します」
なんとかしてランドール様とガブリエル様を引き合わせないと!
「わかった。じゃあまた明日、魔術の授業で」
ガブリエル様と話していると、またもやデルフィーヌ様たちの取り巻き令嬢に睨まれた。
もう気にしてもしかたない。と思うんだけど……でも、デルフィーヌ様の突き刺すような視線が痛いよ……。ううう。




