79.わたしの護衛?
いったん学生たちの待機場所に戻ることになり、わたしとジェラルド様は幻影の森を後にした。
他にも待機場所へと戻る生徒たちがいたのでその集団に合流したのだが、
「殿下も訓練に参加されたのですか!?」
「先ほど爆発があったと伺いましたが、お怪我はありませんか!?」
「その武器は重そうですから、私が運びます!」
あっという間にジェラルド様は屈強な男子生徒たちに囲まれてしまった。
うーん、掃き溜めに鶴。なんて言ったら悪いか。皆さん、将来はソラン王国を背負って立つ騎士の卵だもんね。
その中にはクレマン様もいた。
「殿下、マティルド嬢、ご無事ですか」
「ああ、特に何もなかった。安全のため、待機場所に戻るようにと騎士から伝言を受けてね」
そ、そうなんだ。そういう設定なんですね。
「そうなのですね、安心いたしました」
よかった、と胸を撫で下ろすクレマン様。いい人だ。
待機場所に戻ると、ロイド先生とルーディガー様が走ってきた。
「マティルド、無事か!」
「殿下、お怪我は!?」
ルーディガー様にバシバシと全身を確かめるように叩かれ、微妙に痛い。顔をしかめると、ルーディガー様が焦ったように叫んだ。
「痛むのか!? どこを怪我した!?」
ルーディガー様のせいだよと思ったけど、一応、心配してくれたんだよね。
「いえ、怪我などはしていません。……えーっと、何事もありませんでした。安心安全でした」
「ふうん?」
ルーディガー様は目を細め、じっとわたしを見た。
「どこか妙だが……、まあ、無事ならばいい」
うお、ルーディガー様ってさすが魔術師団長というか、カンがいいからヒヤヒヤするよ。
「指輪の防御魔法も発動しなかったようだし、危険はなかったということなのだろう」
「ああ、そういえば炎の剣を使った時、熱風から守ってくれました。これって自然現象からも守ってもらえるんですかね?」
ルーディガー様は首をかしげた。
「自然現象……、炎の剣によって生まれた熱風は、厳密には自然現象ではない。そうだな、悪意のない単なる自然現象からも、使用者を守る機能が必要だ」
おお、ルーディガー様の目がキラキラしてる。
早く塔に戻って魔道具の修正したい、って顔に書いてあるよ。
「ルーディガー師団長」
ロイド先生と話していたジェラルド様が、わたしとルーディガー様の間に割り込むようにして言った。
「この爆発で怪我などをした生徒はいないとロイド講師から報告を受けた。騎士団や魔術師団にも被害はないようで、不幸中の幸いだった。……が、これはいったい誰の仕業だ? 本陣とこの待機場所、二か所に爆発物を仕掛けたのは」
「今のところはまだ何とも。ただ、爆発物は今日以前に仕掛けられたもののようだ」
訓練場に何かトラップを仕掛けるなんて、王宮騎士団か魔術師団でなければ無理なのでは?
しばらくすると王宮騎士団や魔術師団の皆様も待機場所へ戻ってきた。
サヴィニー伯爵が、苦虫を噛みつぶしたような顔でわたしたちの許にやって来る。
「……殿下、申し訳ございません……」
「サヴィニー伯、あなたのせいではない」
「しかし」
尚も言いつのろうとして、サヴィニー伯爵はわたしを見て口をつぐんだ。
うーん。わたしには聞かせられない話ということかあ。
仕方ない。わたしにはまだお二方の信頼を勝ち得るような実績とか、何もないしね。
これからだ、これから!
「殿下、わたしは向こうで休んでもよろしいでしょうか」
待機場所の入口近くには簡易テーブルや椅子が並べられ、休めるようになっている。ジェラルド様は頷いて言った。
「ああ、もちろん。今日は疲れただろうから、もう屋敷に戻ってかまわない。……ロイド先生、問題ないですね?」
ロイド先生も頷いてくれた。
「今日はこんなこともなってしまったからね、屋敷に戻ってゆっくり休みなさい」
「じゃあ私も一緒に帰る」
何故かルーディガー様がわたしの肩に腕を回して言った。
「……ルーディガー師団長、今回の件は魔術師団と王宮騎士団、ともに連携して犯人の特定にあたってほしいのだが」
ジェラルド様が冷ややかな口調で言う。しかしルーディガー様はまったく気にした風もない。
「それはわかっているが、マティルドが帰るなら誰かが送っていったほうがいいだろう」
そう言うと、ルーディガー様は嬉しそうにわたしを見下ろした。
「これからは私がおまえの護衛を務めてやろう。……いっそ、もう学院には通わず魔術師の塔に就職しないか?」
「いい加減にしろルーディガー! どさくさにまぎれて勧誘するな!」
サヴィニー伯爵が額に青筋を立てて怒鳴った。
ひえー、怖い。サヴィニー伯爵、今回の件でめっちゃイラついてるみたい。
普段、温厚な人が怒ると怖いって本当だな。ジェラルド様までびっくりしてるよ。




