72.目標は高く
「あれ、君は……、ルブラン伯爵令嬢だね? さっき、炎の剣を使っていた」
訓練場の隅っこに固まっている学院の生徒たちのところに行くと、大柄な男子生徒に声をかけられた。
学生とは思えない大柄な体格……、ランドール様と模範試合で戦った六年生のクレマン様だ。
「はい、合同訓練では学院の生徒として参加したいと思います」
「生徒として? ……もったいないんじゃないか? あの炎の剣、すごかったよ」
クレマン様の褒め言葉に、わたしは嬉しくなった。
いい人だ!
見学している貴族の皆様も、何もあんな風に沈黙しなくたってさあ……。学院に入学したばかりの一年生が、頑張って炎の剣を使ったんだよ。ちょっとくらい褒めてくれたっていいじゃない!
生徒たちを引率する講師がやって来た。馬術のロイド先生だ。
「マティルド君、先ほどは恐れ入ったよ。さすがはユニーク魔術の使い手だな。騎士たちの演習には参加しないのかい?」
「はい、合同訓練も学院の生徒として参加いたします」
「そうか。ちょっと残念な気もするが……」
ロイド先生はちらっと観覧席に目を向けた。
「まあ、そのほうがいいかもしれないな。……生徒の安全を守るのが私の仕事だ。マティルド君は安心して演習を見学してくれ」
うわー、ロイド先生もサヴィニー伯爵やルーディガー様と同じような事を疑っているのか。
こ、これは本当に注意しないと。
少しビクビクしながら、わたしは騎士団の模擬演習を見学した。
騎士団長は高齢のため、実質指揮を執っているのはサヴィニー伯爵らしい。
「今回は丘陵地帯における敵軍防衛線突破の演習となる。各小隊はそれぞれ指定された地区における敵軍の各個撃破に当たれ。トラップは私が排除する」
サヴィニー伯爵の宣言とともに、地響きをたてて訓練場の土が盛り上がり、奥に向かうにつれて高くなってゆく。瞬く間に、訓練場に小さな山が出現した。
訓練場は平坦で起伏がないから、一時的に土魔術で丘陵を作ったんだろうか。
「すごいですね! 地形を変えるなんて」
感心するわたしに、ロイド先生が教えてくれた。
「訓練場には、演習内容に応じて地形変化できるように魔術がかけられている。他にもいろいろと仕掛けがあるぞ」
へー。そういえば合同訓練は森を挟んで戦うっていう設定だったっけ。丘陵はともかく、森はどうやって作るんだろう。ちょっと楽しみ。
魔術師団は地形にあまり影響を受けない遠隔攻撃をしてたけど、騎士団は接近戦が主体となる。弓を使うにしても、丘陵地帯は守るに易く攻めるに難い。しかも魔術師抜きでどうやってトラップを回避するんだろう。
そう思ったら、おもむろにサヴィニー伯爵が剣を抜き、炎の効果を付与した。
わあっと歓声が上がる。もちろんわたしも拍手喝采だ。
自分が使っている時は無我夢中で鑑賞する余裕なんかないけど、こうしてじっくり見ると、改めて炎の剣ってすごくカッコいい。本当に素敵だ。
また、サヴィニー伯爵って背がスラッと高くて見栄えがいいから、余計にカッコよく見える。いいなあ、わたしも身長が高くなれば、もう少しカッコよくなれるかなあ。
「ハッ!」
サヴィニー伯爵が炎の剣を振るう。
すると、蛇のように炎が地面を這い、設置されていたトラップがポンポンと弾けた。
おお、すごい。
わたしはサヴィニー伯爵の繊細な技術に感心した。
今回は演習だから無害な煙が上がるだけだけど、戦場でこのトラップに引っかかったら爆発に巻き込まれ、治癒魔術が間に合わなければ最悪、死ぬこともある。
サヴィニー伯爵は、最小限の魔力消費で的確にトラップを感知し、それを排除している。
……考えてみれば、わたしの炎の剣の使い方って力任せというか、とにかく火力最大! 焼き尽くせ! って感じで、サヴィニー伯爵みたいに頭を使ってなかったな……。
ああ……、そりゃ貴族の皆様だって沈黙するよね。
わたしのやり方は大ざっぱすぎる! それなのに、褒めてくれないのを不満に思うなんて、自分が恥ずかしい~。
わたしがうなだれていると、
「マティルド君、どうした? エドガーの炎の剣もなかなかだろう。君の威力には敵わないかもしれんが、あの技術の高さは見習うべきところがあると思うよ」
ううう、サヴィニー伯爵に比べれば、わたしの技術なんか底辺だ。
「……サヴィニー伯爵の、あのトラップ破壊はどうやってるんでしょうか。まるで炎を生き物のように操って、感知したトラップだけを壊してますよね」
「あれか。たしか探索魔術を重ねがけしていたはずだが、詳しい方法は私もわからないな。エドガーかソレル魔法伯に聞けば教えてくれるだろう」
「わかりました!」
あー、今回の訓練に参加してよかった。
自分がどれだけ低レベルなのか、身に染みてわかった。
よし、これからは力だけじゃなく技術も高めていくぞ!
勇者さまの炎の剣に恥じない、立派な魔法騎士になるんだ!




