71.苦手分野
次は騎士団の模擬演習だ。
魔術師たちと場所を入れ替え、わたしたちは騎士団の後ろに移動する。……と思ったら、
「マティルド嬢、よかったら騎士団の演習に参加しないかい?」
サヴィニー伯爵にいきなり誘われた。
「マティルドは魔術師として合同訓練に参加するよう、学院に申請してある。騎士団には渡せんぞ」
「合同はね。今はまだ、それぞれ単独の演習だろう」
「魔術師団、騎士団、合同と、三回もマティルドに参加させるのか? 負担が大きすぎる」
わたし本人を無視して、ルーディガー様とサヴィニー伯爵が言い合いをしている。
サヴィニー伯爵の申し出は嬉しいけど、今のわたしの剣術はまだ、王宮騎士団のレベルには達していないと思う。
「あの、お申し出は大変光栄ですが、わたしはまだ未熟で王宮騎士団の皆様と一緒に戦えるレベルではありません」
「そんなことはないと思うけど」
サヴィニー伯爵はわたしを見つめ、肩をすくめた。
「正直、マティルド嬢よりよほど基礎ができていない騎士もいるけどね。……まあ、マティルド嬢はまだ一年生だし、あまり目立ちすぎるのも良くないか」
ああ、うん……。サヴィニー伯爵のおっしゃるとおり、わたしはあちこちで恨みを買っているみたいだから、そこら辺も気を付けたほうがいいんだろうなあ。
「あの、ルーディガー様。合同訓練では、わたしは魔術師ではなく学院の生徒として参加したほうがいいのではないでしょうか」
「今さらか?」
まあそうなんだけどさ。
「ふむ。……そうだな」
ルーディガー様はちらっと観覧席に目を走らせ、頷いた。
「合同訓練になると、魔術師と騎士は行動を共にする必要がある。……もちろんおまえの安全は私が守るが、不測の事態が起こった場合、他の魔術師たちの身も守らねばならんからな……。学院側にいたほうがより安全ではあるだろう」
なんだか悔しそうなルーディガー様に、わたしはちょっと笑ってしまった。
ほんとに子どもみたい。
ていうか、ルーディガー様は魔術師団長なんだから、わたしより塔の魔術師の安全を優先するのは当然のことだ。
それに、自分の身くらい自分で守ってみせる。わたしはルブラン家の娘なんだからね!
そう告げると、
「いざとなったら転移魔術を使え。合同訓練中は訓練場に結界が張ってあるから、それを破るのは難しいだろう。訓練場内で、とりあえず安全そうな場所……、私のそばに転移しろ」
深刻そうな表情でルーディガー様が言った。
「そこまでの事態にはならないと思いますけど。生徒は後方支援というか、ほとんど見学なので」
聞いた話では、毎年学院から参加する生徒は、ほぼ憧れの騎士様への応援しかしていない。たま~に騎士側の要請に応じて替えの武器を届けるとか、それくらい?
しかしサヴィニー伯爵も、
「こういう事は、念には念を入れて備えたほうがいいんだよ。……マティルド嬢は、突如として現れた将来の魔法騎士候補であり、王太子殿下や魔術師団長に求婚された令嬢でもある。現在の宮廷のろくでもない状況を鑑みるに、慎重すぎるほど慎重に動いたほうがいいだろう」
真顔で忠告され、わたしはちょっと怖くなった。
ケンカを売られるとか、勝負を申し込まれるとかなら全然問題ないんだけど、陰謀は苦手なんだよね……。
そうか、でもわたしは既に王太子側の人間と見なされているから、こうした場では気を付けて振る舞わないと、足元をすくわれかねないんだ。
ひえー。ジェラルド様の機嫌を取るどころじゃないよ。
一番苦手な分野、陰謀に対処しなきゃならないんだ。参ったなあ。
「君のような女の子を、こんな状況に放り込むなんて。……王太子殿下には、ひと言物申してやりたいね」
サヴィニー伯爵が苦々しい口調で言う。
うーん。確かに王太子殿下の求婚によって、政争に巻き込まれたといえばその通りなんだけど。
でも、これは言えないけど、ジェラルド様は将来、必ず王位争いに勝利してソラン王国の王となる。わたしはジェラルド様の求婚のおかげで、自動的に勝馬に乗れたわけだ。
それにあの求婚がなければ、わたしはシモン様の婚約者にされていたかもしれない。
そう考えると、ジェラルド様はわたしの命の恩人と言っていい。しかも、わたしを正式な婚約者にするとまでおっしゃってくれたのだ。
今はなんかご不興を買ってしまっているけど、このご恩に報いるべく、頑張って働かないと!
「あの、わたしは王太子殿下の剣として、お仕えできればと思っております」
わたしの言葉に、サヴィニー伯爵もルーディガー様も微妙な表情になった。
「剣として、ねえ。……まあ、マティルド嬢がそうしたいなら、それでいいと思うけど。ちょっと王太子殿下が不憫かなあ……」
「剣としてではなく、魔術師として、と言い換えたほうがいい。それだとまるで、魔術を使わんように聞こえるぞ」
二人とも何を言っているんだよ。




