69.炎の剣
「それでは魔術師による模擬演習を始める」
集まったお歴々を前に、ルーディガー様が淡々と言った。
「マティルド、前へ」
「はい」
見学している貴族たちがざわついた。
あれがユニーク魔術の……、という言葉が聞こえる。
フフフ、炎の剣の威力を見せてやるぜー! やるぜやるぜー‼
訓練場は全体が平坦だが、実際の戦場は山あり谷あり森もありだ。この訓練内容がそのままそっくり戦場で再現できるとは思えない。
しかし、障害物がない分、攻撃威力を正確に把握することができる。
ユニーク魔術の力を見せつけるいい機会になるだろう、とルーディガー様は言っていた。
そのとおり、この訓練でわたしの炎の剣の威力を知らしめることができれば、王太子と第二王子、どちらに付くべきか決めかねている貴族たちに、決断を迫ることができるかもしれない。
そうすれば、ジェラルド様の機嫌も直るんじゃなかろうか。
なんかさっきから、観覧席に座るジェラルド様に睨まれてる気がしてしょうがないんだけど。
せっかくコレット様による殺害フラグが消えたと思ったら、今度は将来の主君に嫌われて冷遇される未来が待っていたとか、泣くしかないよ!
わたしは深く息を吸い、炎の剣を構えた。
訓練場の中央付近、端から端まで敵兵を模した人形が並べられている。人形の腹の辺りには呪術による核が埋め込まれているし鉄製の鎧も着せてあるので、これを破壊するにはかなりの火力が必要だ。
わたしの炎の剣でも、できるだろうか。
――いや、できるはずだ。ルーディガー様もそうおっしゃっていた。
何よりこの剣は、勇者さまの炎の剣を模して創り出したものなのだ。
勇者さまの剣なら、何だって燃やせる! 破壊できる! 憧れの勇者さまなら、できるはず!
「ハッ!」
わたしは気合を入れ、炎の剣を思い切り横ざまになぎ払った。
ゴォオオオ! と紫色の炎が噴き出し、標的の人形めがけて飛んでゆく。訓練場の端まで届くだろうか。……ちょっと足りないかもしれない。もう一度!
二回目の攻撃に連動し、ルーディガー様が訓練場の一番奥に並べられた人形に攻撃魔術を放った。すごい。遠方への攻撃はどうしても位置がずれるのに、正確に人形だけに攻撃を当てている。
「敵本陣へ攻撃魔術を放て!」
ルーディガー様の命令を受けて、魔術師たちが中間地点より少し奥に置かれた人形を標的に、攻撃魔術を放つ。こちらも強力な魔術だ。火炎や雷などを使い、敵の本陣を叩いている。
おお! と背後で声が上がった。
最前線と本陣を同時に叩き、さらには退路まで断つ強力な縦深攻撃に驚いているみたいだ。
炎の剣を振るった反動で、熱風に髪を巻き上げられ、頬がチリチリする。しかし次の瞬間、ふっと熱が和らぎ、空気の流れが変わった。ルーディガー様からもらった指輪が機能しているみたいだ。
魔術師たちが間断なく攻撃を続ける中、わたしは最前線の状況を目視で確認した。
まだ二、三体ほど人形が残っている。
もっと強力な炎が必要だ。勇者さまなら、これより威力のある猛火で攻撃できるはず。山をも崩したという、勇者さまなら!
「ぅおおおお‼」
気合を入れてもう一度、炎の剣を振るう。すると、今までで一番大きな炎が剣からほとばしった。紫色の炎はまるで巨大な龍のようにうねりながら、訓練場を端から端まで焼き尽くした。
最前線に置かれた人形すべてが吹っ飛び、わたしは息をついた。
よし! 三回、最前線を叩けってルーディガー様が言ってたし、人形をぜんぶ倒したんだから、炎の剣の威力は十分伝わったんじゃないかな。
どうよ! と後ろを振り返ると、なぜか歓声が止み、しんと静まり返ってしまった。
観覧席の陛下を見上げても、青ざめた顔を強張らせ、何のお言葉もない。
え……、え、なんで? 割と強力な攻撃だったと思うんだけど。
火力足りなかった? 三回じゃなく一回でやれよってこと?
でも、実際に炎の剣を使ったのってこれが初めてだし、初回からあまり多くを期待されても……。
えええ、どうしよう。
ジェラルド様の機嫌を取るはずだったのに!




