68.ドレスを作ろう?
「『炎の剣』」
まだ指示は受けていないが、待ちきれない。
右手を掲げてユニーク魔術で炎の剣を創り出すと、
「おお!」
歓声が上がり、魔術師の皆さんに取り囲まれた。
「炎の色が紫なのですね!」
「たしかに魔力の消費が少ない。……通常の付与魔術とは違い、炎ではなく剣自体に魔力が込められている」
皆さん、目が輝いている。魔術に対する愛を感じるよ。
「マティルド」
ルーディガー様の目もキラキラだ。
「すみません、もう炎の剣を出してしまいました」
「かまわん。それより、今回の訓練内容について説明する」
かまわないんだ。
魔術師の皆さんを見ても、規則に縛られないのびのびした気風……というか、自分勝手しても許される寛容さを感じる。魔術師の塔に就職したら、けっこう自由が利きそう。
「私は敵陣の最後方を連続して攻撃し、退路を断つ。他の魔術師たちには、前線より少し後方に置かれた本陣を狙って攻撃魔術を打たせる。……そしてマティルドの役割だが、最前線の敵兵の一掃だ」
「はいっ!」
「見ろ、一番前に敵兵を模した人形が端から端まで置かれているだろう。まずはあれを焼き払え。残りの魔術師はおまえの攻撃と連動し、敵の反撃を受ける前に本陣を叩き、退路を断つ想定で動く。可能なら第二波、第三波と前線に攻撃魔術を放て。通常は魔術師を総動員してもせいぜい第二波までだが、おまえ一人で第三波まで攻撃できれば、騎士団に頼らずとも魔術師団だけですべてを終わらせることができるだろう」
「炎の剣だけでできるでしょうか」
訓練場に立てられた敵兵を模した人形は、けっこう広範囲に置かれている。単なる人形ではなく呪術による核を入れてあるから、ある意味人間より倒すのが難しいだろう。
「できる」
ルーディガー様がわたしの炎の剣をちらっと見て言った。
「一度、私の執務室でその剣を振るったことがあっただろう。あれで大体の威力はわかった。……遠慮はいらん、思いきりその剣を振るえ」
「わかりました!」
元気よく答えると、ルーディガー様は少し黙ってしまった。
「ルーディガー様?」
「いや。……おまえには、迷いがないな」
「わたしは北部の人間ですから」
前世の記憶では、誰かと戦うなんて考えたこともない人生を送っていた。しかし、今のわたしは苛酷な北部に生きる領主の娘だ。
戦うことが必要なら、まず自分が剣を持って戦場に立つ。
それができなければ、北部で領主を務める資格はない。
「そうか」
ルーディガー様はわたしをじっと見つめた。
「何ですか?」
「おまえは小さいな」
「これから大きくなります!」
この体はまだ十二歳なんだよ!
「そうか、……そうだな」
ルーディガー様は微笑んだ。
「おまえが成長するのが待ち遠しい」
「わたしも早く大きくなりたいです」
体が小さいと、どうしても剣が軽くなるというか、威力を出せないんだよね。炎の剣ならまた話は別なんだけど。
「学院を卒業する頃には、わたしの肩くらいまでは背が伸びるか?」
「それよりもう少し、大きくなりたいんですけど」
「では、それくらいを想定してドレスを作らせよう」
ん? 何の話?
「ドレスって?」
「結婚式用のドレスだ。兄から言われたのだが、女性のドレス、それも結婚式用のドレスは、出来上がるのに数年かかるものもあるそうだからな。早めに注文しておこう」
ルーディガー様が嬉しそうに言う。
いや、気が早すぎでしょ!
ていうか、もう結婚前提で話してるし!
「まだ婚約者ですらないんですけど!」
「時間の問題だ。魔術師は先を読んで動かねばならん」
どういう理屈だ!




