67.魔術師たちの恋愛事情
「今回は、縦深攻撃における連携に重点をおいて訓練に臨む」
ルーディガー様は魔術師たちを前に、上機嫌に言った。
「騎士たちとの合同演習の前に、魔術師による模擬演習がある。通常はまず、最前線の敵兵に一斉に攻撃魔術を放つが、これは魔力の消費が大きく、せいぜい二回が限度だ。しかし」
ルーディガー様が、ずい、とわたしを皆の前に押し出した。
「今回は私の婚約者、マティルドにそれを任せようと思う」
集まった魔術師たちに動揺が走った。
「いや、あのルーディガー様、まだわたしは婚約者では……」
「いずれそうなるから同じだ」
違うよ!
「魔術師団長」
一人が手を挙げた。
「何だ? ああ、各人の役割についてはこれから説明を……」
「いえ、そうではなく」
どこかソワソワした様子で、その魔術師は言った。
「いったい、師団長はどうやってルブラン伯爵令嬢と婚約にまで漕ぎつけたのですか!? それも、あの王太子殿下を出し抜いて!」
そこ!? 聞きたいところ、そこなの!?
「うむ、まあ話せば長くなるが」
「詳しく教えてください!」
何故か自慢げなルーディガー様と、興味津々の魔術師たち。なんなんだこいつら。
「……マティルド様」
気づけば、ナタリー様が隣に立っていた。
「あ、ナタリー様、お久しぶりで……」
「ありがとうございます!」
ナタリー様に、いきなり深々と頭を下げられた。
「えっ?」
「マティルド様に魔術師の塔に入っていただければと、そう願っておりましたが……、まさか魔術師団長の婚約者になっていただけるとは! 魔術師団長がマティルド様を気に入っていらっしゃるのはわかっておりましたが、婚約はさすがに無理だろうと思っておりました……、ありがとう、本当にありがとうございます‼」
両手でしっかりと手を握られ、再度頭を下げられる。
いや、ルーディガー様はソラル王国の魔術師団長だし、ソレル魔法伯っていう爵位もお持ちなんだから、望めばどんなご令嬢とだって結婚できるでしょ、と思ったのだが、
「いいえ、マティルド様」
わたしの表情を読んだのか、ナタリー様は首を横に振った。
「地位や金だけで婚約できるのなら、魔術師は皆、婚約者持ちです。……そもそも魔術師は、興味が魔術にしかないため、結婚を前提とした人間関係を築くことが非常に困難なのです」
それは何となくわかる。
でも貴族なら、諸々の事由を犠牲にしても家門のために結婚するのでは。
「魔術師団長をご覧ください、マティルド様」
ナタリー様が静かに言った。
「あの方が、家門のために何かを我慢しようとか、そんな殊勝なことを考えるとお思いですか?」
「………………」
「他の魔術師たちも、皆似たり寄ったりです。自分から歩み寄る気は皆無のくせに、相手には魔術への理解を求めるのですから。全員独り身で当然です」
クセ強めな魔術師の皆さんに苦労しているのか、ナタリー様の口調には恨みがにじみ出ている。
う、うん……、いつもお仕事ご苦労様です。
「でも皆さん、ソラン王国の誇る魔術師として、素晴らしい功績を上げていらっしゃいますよね」
「それ以外に取柄がありませんから」
「………………」
「我々魔術師は、魔術以外に興味もなく、居場所もありません。すべてを魔術に懸けているのです。しかしそこまでしても、こうした演習や実際の戦場で一番の栄光を手にするのは、あの野蛮な騎士どもでした。……今までは」
ナタリー様はじっとわたしを見つめた。
「しかし、今回は違います! 魔術師団長が今回の訓練で試そうとしているのは、騎士の助けなしでは難しいと思われていた、連続的な縦深攻撃を魔術師のみで行うというものです! この試みは、マティルド様、あなたがいらっしゃるからこそ可能だと魔術団長が判断されたのです。今回の試みが成功すれば、あの高慢ちきな騎士どもに、一泡吹かせてやれるでしょう……!」
「そ、そうなのですね……、あの、その、頑張ります……」
連続的な縦深攻撃か。
なんとなく自分の役割が見えてきた。
ルーディガー様を見ると、魔術師たちに「婚約の際の贈り物は慎重に選べ!」と熱弁を振るっていた。
いい加減、本日の訓練について説明を始めて下さい。




