106.魔術の小テスト
「バベット先生、その評価はおかしくありません?」
「テスト前に、勝手に生徒が使った魔術を評価なさるなんて!」
デルフィーヌ様の取り巻き令嬢たちが騒ぎ立てたが、バベット先生はにこやかに言った。
「あら、それじゃもう一回、マティルドさんにユニーク魔術を披露してもらおうかしら。気象系、転移系、創造系、なんでもかまいませんよ。……屋外で魔術を使えば、学院中の注目の的でしょうね。王太子殿下もご覧になるかもしれないわ」
バベット先生の言葉に、令嬢たちが押し黙った。
あー、わたしが注目を浴びたり王太子殿下に褒められたりするのがイヤなんだな。
まあわたしもこれ以上、悪目立ちしたくないけど。
「わたしはどちらでもかまいません。……バベット先生、屋外でもう一度、ユニーク魔術を使ったほうがいいですか?」
「うん、僕はそのほうがいいと思う! もっとユニーク魔術を見たいからね!」
ガブリエル様が嬉しそうに言ったが、バベット先生はスルーして言った。
「わたしは先ほどの魔術で十分だと思いますよ。……でも、生徒の不満を無視するのもどうかと思いますから……」
「もう、結構ですわ」
デルフィーヌ様が突然言った。
「バベット先生、失礼いたしました。先ほどのわたくしたちの発言を撤回し、謝罪いたしますわ。……マティルド様のユニーク魔術は、素晴らしいものでした。A+の評価がふさわしいと、そうわたくしも思います」
「まあ、デルフィーヌ様」
「そんな……、突然どうなさいましたの」
取り巻き令嬢たちが慌てたように言ったが、デルフィーヌ様はそれ以上語らず、黙って教室を出ていってしまった。取り巻き令嬢たちも、慌ててその後を追う。
「……えーと、それでわたしはどうすればよろしいでしょうか?」
わたしの問いかけに、バベット先生は肩をすくめた。
「生徒の不満も収まったようですし、マティルドさんの魔術の評価はA+です。あなたがもう一度、ユニーク魔術を使いたいというなら、止めませんが」
「いえ。そういうことなら、わたしは皆さんの魔術を見学したいと思います」
ガブリエル様だけは「いや、もう一度ユニーク魔術を使ってくれないか?」「今度は雨を降らせてみないか?」とうるさかったが、
「ガブリエルさん、あなたも早く外に出て準備なさい。いくらあなたでも、テストを受けなければ不合格ですよ」
バベット先生に当たり前のことを言われ、「そうだった」と慌てて教室を出ていった。わたしもその後について外に出る。
一年生の学舎と訓練場の間にある中庭に、魔術クラスの生徒が集まっていた。
バベット先生はパンパンと手を叩き、
「それでは今から、魔術の小テストを行います。準備ができた方から順に、魔術を見せてください。どんな魔術でもかまいません。今、自分にできる最上の魔術を披露してください」
そうおっしゃった後、右手を掲げて「『結界』」と魔術を発動させた。
おおお、すごい! 簡単な詠唱で、中庭ぜんぶを強固な結界で覆ってしまった。これは……、わたしが思いっきり炎の剣を振るっても、一回では壊せないかもしれない。うーん、二回くらいならなんとかなる……、かな?
「……マティルドさんの評定はもう終わりましたからね。これ以上、魔術を使う必要はありませんよ」
まるでわたしの考えを見透かしたようにバベット先生が言った。
いやいや、もちろん大人しく見学しますとも。
「皆さま、工夫をこらした魔術ばかりで勉強になりました」
「そうかなあ。授業で教えられた魔術ばかりでつまらなかったよ」
ガブリエル様は不満そうだが、ふだん他人の使う魔術などめったに見られないわたしにとって、魔術の小テストはとても興味深かった。
魔術師の塔に所属する魔術師たちに比べれば、魔術の質も魔力の制御も劣るかもしれないが、その分、簡単に理解できるものばかりだった。これは魔力属性さえ合っていれば、ルブラン家の皆も使えるかもしれない。魔術は学院でしか習えないから、この知識はきっと役に立つだろう。
「ガブリエル様の魔術は素晴らしかったです。水と光、二つの魔術を掛け合わせるなんて、他の誰にもできませんわ」
ガブリエル様は美しい虹を作り出し、バベット先生からA+をもらっていた。さすがだ。
「ああ、あれか。あの魔術は、この間の勉強会で使ったものの応用だ。叔父上が使った水の魔術に光魔術を重ねたのだが、一人でも同時に二つの魔術を発動させれば、似たようなことができるだろうと考えたんだ。……マティルド嬢、この間の勉強会は実に楽しかった。よければまた、勉強会に招待したいのだが」
「ありがとうございます。喜んでお伺いいたします」
「そうか、楽しみだ」
良かった。この前はうまくいかなかったけど、ランドール様のスキル覚醒のために、他のやり方も考えてみよう。
この後は馬術の小テストがある。わたしは一旦、着替えのために校舎に戻ることにした。ガブリエル様はこのままタウンハウスに戻るそうだ。
校舎に入り、一階にある更衣室に向かうと、
「……ラクロワ公爵令嬢」
なぜか更衣室の入り口前に、ラクロワ公爵令嬢デルフィーヌ様が立っていた。
デルフィーヌ様だけで、取り巻き令嬢たちの姿は見当たらない。
「ルブラン伯爵令嬢」
思いつめた表情でデルフィーヌ様が言った。
「お話があるの。……少しお時間をいただいてもよろしいかしら?」




