103.可愛いひと
「コレット様、逆にお伺いいたします。……わたしでも作れそうな手芸品って何でしょう?」
「ええ? マティルドでも作れそうなもの? ……そうねえ……」
コレット様は頬に手を当て、考え込んだ。
わかっていたけど、わたしの手芸レベルが低すぎてコレット様も困っているみたい。うう、自分が情けない。
「時間的にいって、あまり大きな作品は作れないわよね。……とすると、前回と同じく手巾に刺繍とかかしら。……でも、それじゃちょっとつまらないわね」
「いいえ!」
わたしは慌てて言った。手芸に面白さなど求めていない。できるだけ簡単であればそれでいい。
「今回も手巾に刺繍でいきます!」
「そう? ……それじゃ、せめて前回とは違う種類の刺繍にしなさい。布もシルクにして、端はレースを縫い付けて豪華にするの」
はい、と手触りのいいシルクとテープ状に編まれたタティングレースを渡された。
「まず、このシルクの縁にタティングレースを縫い付けなさい。それだけでぐっと華やかになるわ」
たしかに。バラ模様のタティングレースを縁にあてただけで、シルクの端切れが上品な手巾に変わる。
「最初に、中心と角にしつけ糸でレースを軽く固定して」
「マチ針では駄目ですか?」
「駄目よ。レースが歪むわ」
少しでも楽をしようとしたが、コレット先生に却下された。
「そんなにキツく糸を引っ張っては駄目! そっと、優しく扱いなさい」
「はい……」
「表側に糸が出ないように気を付けて。ほら、ここ、目の山があるでしょう? ここをちょっとだけすくって、ハンカチに縫い付けるの」
「ちょっとだけ……」
「外側のピコを利用して、点で留めるの。細かく……、そうねえ、五目おきくらいに留めると型崩れしないと思うわ」
う、うう……、難しい。表側に糸が出ないようにするのって、不可能じゃない?
しかしコレット様が針を持つと、とたんに簡単そうに見えるから不思議だ。
「そうじゃないわ、ちょっと貸して。……こう。ほら、わかる? ここを少しだけすくうの」
「えっと……、こうでしょうか?」
「……まあいいわ。続けて」
コレット先生がわたしの技術の拙さを我慢してくれているのがわかる……。ううう、おおお、すみません! でも、これで精一杯なんです! けっして手抜きしているわけでは……!
「そうね、縁取りはこれでいいでしょう。あとは手巾に刺す刺繍ね」
「え! 刺繍もですか?」
「当たり前じゃない!」
コレット先生に怒られた。
「タティングレースを作ったのならともかく、ただ端切れの縁に縫い付けただけじゃない。そんなのを提出するつもり?」
おっしゃるとおりです……。
「前回とは違う刺繍にしたほうがいいわ。そうねえ、簡単で見栄えのいい……、リボン刺繍なんてどう?」
「リボン刺繍、ですか」
コレット様がバスケットから色とりどりの綺麗なリボンを取り出した。
「リボン刺繍なら華やかだし、それほど難しくもないわ。リボンでバラの花を作るのはどうかしら」
「バラの花……」
そういえばジェラルド様は、わたしの贈ったバラの花をとても喜んでくださったっけ。一生大切にする、とおっしゃってくれた。でもいくらユニーク魔術で創ったとはいえ、バラの花は一生も持たない。
それなら、手巾にバラの花を刺繍して贈れば……。
コレット様がくすっと笑った。
「誰か、この手巾を贈りたい相手がいるのね?」
「えっ!?」
「マティルドったら、すぐ顔に出るんだもの、気を付けなきゃ駄目よ。……でも、そういうところ、可愛いと思うわ」
「えええ!?」
まるで春の女神のように麗しいコレット様に、可愛いと言われた!
ええ……、えええ……、ほんとに?
わたしはコレット様を見た。
くすくす笑うコレット様は妖精のように愛らしく、どう見てもわたしの百倍は可愛かった。




