102.コレット先生ふたたび
ジェラルド様とランドール様と別れた後、わたしはなんだかフワフワした気持ちで歴史の小テストを受けた。
いかんいかん、いい成績をとらなければ、騎士にも魔術師にもなれないんだから、気を引き締めなければ!
なんとか歴史の小テストを終えた後、わたしはタウンハウスへ戻った。
明日は魔術、馬術、剣術の小テストがある。これらはほぼ実技だから、体を休めてテストに備えよう。と思ったのだが、
「マティルド、リヴィエール侯爵家から使いの方がいらしていますよ。……本日、コレット様がこちらにいらっしゃるそうです」
「えっ!?」
わたしは驚いてグレース伯母様を見上げた。伯母様も困惑した様子で言った。
「今は小テスト期間中なのでしょう? いったい何のご用なのかしら。……シモン様との婚約の件も片付いたはずなのに」
まったくだよ!
とりあえず、慌てて使用人が花を買いに行き、わたしとグレース伯母様は玄関ホールと応接間の掃除をした。タウンハウスには二人しか使用人がおらず、一人は雑役、一人は料理人なので、急な来客があると本当に困る。
ていうか、何故コレット様がここにいらっしゃるんだろう。
先週、ミレー伯爵家の勉強会でお会いした時も特に問題はなかった。なんなら非常にご機嫌だったと思うのだが。
「マティルド、今日のテストはどうだった? あなた、地理や歴史もとっていたのよね」
公爵家の馬車で颯爽と現れたコレット様は、ニコニコしておっしゃった。よかった、今日も機嫌は良さそう。
随行の侍女と一緒に応接間にお通しし、グレース伯母様が運んでくれたお茶をお出しする。
「はい、なんとか無事に二つとも終えられました。……ところでコレット様、本日はどのようなご用向きでこちらに?」
「まあ、あなたってば呑気なのね!」
コレット様はくすくす笑いながら言った。
「忘れたの? 家政学の課題提出は来週よ。もう提出物は完成したの?」
うっ、とわたしは下を向いた。
そうだった……。家政学はペーパーテストではなく、手芸品を提出しなければならないのだ。その内容は多岐に渡り、刺繍、編み物、パッチワーク等どれを選んでもかまわない。かまわないのだが……。
「……まだ出来ていません」
そう、前世のわたしと同じくマティルドも手芸全般が苦手。
針や編針を持っただけで疲労感を覚えるんだよね。縫うのも編むのもダメみたい。
「やっぱりね」
ふふん、とコレット様は胸を張り、背後に控える侍女に合図した。
「今からじゃ編み物は間に合わないし、刺繍かパッチワークがいいと思うわ」
コレット様の侍女の差し出すバスケットを見ると、シルクのリボンやベルベットの端切れ、様々な色の刺繍糸などがいっぱい入っていた。
「これだけあれば、何でも作れるわよ。マティルドは何が作りたいの?」
「……あの、今日はそのために来てくださったのですか? わたしの家政学の提出物のために……」
わたしの問いかけに、コレット様はふんっと胸を反らした。
「だってこの前の家政学、マティルドったらひどかったじゃない。放っておいたら絶対、課題をやらないだろうなって思ったのよ」
おっしゃるとおりです。
わたしはつくづくとコレット様を見た。
将来、わたしを殺そうとする死神コレット様。でも、手芸が苦手なわたしのために、わざわざタウンハウスにまで来てくれたんだ……。
「コレット様……、ありがとうございます」
「別にいいわよ。先週、勉強会に誘ってくれたお礼だから」
誘ったわけではないんだけど、ここでそんなことを言うべきではないってことくらい、わたしにもわかる。
コレット様はニコニコして言った。
「ほら、それより早く何を作るか決めなさい。刺繍? パッチワーク? それともちょっとした小物でも作ってみる?」
何も作りたくない。……などと言うべきではないよね、さすがに。
ああ、でも手芸かあ、どうしよう……。




