24 新たなポーションの創造
〈花降る鈴扇〉を手に入れた私たちは、ダンジョンを出て地上へ戻ってきた。
あとはサンゴが世界樹の前で神楽を舞えばいいのだけれど、ここで問題が発生した。扇を手に入れるためのスキルは手に入れたけれど、肝心の舞のスキルが今度は取得できていなかったのだ。
なので、スキルをきちんと取得するために、サンゴはこれから〈冒険の腕輪〉を得るため一度島を出ることになった。
サンゴの腕輪の取得にはケントとココアが付き添うことになったので、何があっても安心だろう。
その間に、私はタルトが〈創造者〉へ転職するクエストの手伝いだ。そう、世界樹のための新たなるポーションを作る。
〈世界樹の再生薬〉を作る素材は、〈サラマンダーの尾〉〈ウンディーネの鱗〉〈ノームの髭〉〈シルフの花びら〉。
素材自体はわかるけれど、そのそれを手に入れる難易度はどうにも想像しづらい。おそらくタルトが精霊の眷属と信頼関係を築けているかが鍵だとは思うのだけれど。
……私が協力できることはするけれど、こればかりはタルトが頑張るしかない。
「ダンジョンの件で忙しかったので、全然話せてないんですにゃ。とりあえず、みんなにきちんと話してみますにゃ!」
「うん、それがいいね」
まずは話してみなければ始まらない。
『あら、私の鱗が欲しいの? それならじいやがたくさん持っているのだわ』
「じいやさんが持っているんですにゃ?」
まずは意思疎通がとりやすく、ある程度一緒に過ごしてきたウンディーネに聞いたところ、そんな答えが返ってきた。
なぜじいやが……と思ったけれど、どうやらウンディーネのお手入れをしている際に落ちた鱗をじいや保管しているようだ。
「じゃあ、新しく鱗を剥いだり怖いことをしなくていいんですにゃ!? 捨ててなくてよかったですにゃ~!」
タルトがほっと胸を撫でおろして、「貰ってもいいですにゃ?」と問いかけた。
『構わないのだわ。でも、わたくしの鱗なんて何に使うんですの?』
「〈世界樹の再生薬〉の材料になるんですにゃ!」
『そんな大事なものを作るためだったの!? そういうときは、問いかけではなく世界樹のために捧げろと命じればいいのだわ!』
遠慮など必要ないと、ウンディーネがタルトを叱咤する。
確かに命を取るような素材ではないから、ウンディーネの言い分も正しいだろう。私が頷いていると、タルトは「それから……」と言葉を続ける。
「それと作ったら、わたしが〈錬金術師〉から〈創造者〉に転職できるんですににゃ。世界樹のためでもありますけど、わたしのためにでもあるんですにゃ」
自分のためでもあったので、タルトは強く素材を要求しづらかったようだ。タルトらしくて優しい気遣いだ。
『まったく。タルトはお人よしなのだわ』
ウンディーネは少しあきれ顔をしながらも、海に向かってじいやを読んだ。
『じいや、じいや! すぐに着てちょうだい!!』
するとすぐ近くの海の中から、じいやが『どうなさいましたですじゃ!?』と慌てふためくように出てきた。ウンディーネの声にはかなり敏感なようだ。
『じいや、大変なのだわ。あなた、今まで抜け落ちたわたくしの鱗を保管しているでしょう? それを全部持ってくるのだわ』
『鱗を全部ですじゃ?』
ウンディーネの言葉に、じいやはきょとんとした様子で驚いた。
『確かにあれはウンディーネ姫様の魔力がたっぷりこもってますが、そんなにたくさん一体どうするんですじゃ?』
『〈錬金術師〉タルトが、〈世界樹の再生薬〉をそれで作ってくれるのだわ。
『そんな伝説級のものがあるというんですじゃ!?』
じいやがこれでもかと目を見開いて驚いている。
『ほら、じいや! 早くするのだわ!』
『すぐ持ってきますじゃ!!』
急かされたじいやが慌てて海に飛び込んだのを見送ると、ウンディーネは「タルト」と名前を呼んだ。
『それで、他には何が必要なのかしら? わたくしの鱗だけで薬ができるとは思わないのだわ。それとも、もっと難しい入手困難の素材があるのかしら?』
どうやらウンディーネには他の素材があるということもお見通しのようだ。
「簡単に言ったら駄目ですにゃ! 尻尾なんて、すごくすっごく大切なものですにゃ!」
『あら、尻尾が必要なのね? 尻尾っていうと、サラマンダーかしら。あの尻尾は自分の意思で切り離せるから、問題ないのだわ。あとは、ノームにシルフかしら?』
「ええっ!? 切り離せるんですにゃ!?」
トカゲのごとく尻尾を切り離せるかも……と私が考えていた可能性が見事に当たり、素材ゲットの難易度がかなり下がった。
「残りの素材は、〈サラマンダーの尾〉〈ノームの髭〉〈シルフの花びら〉ですにゃ!」
『なら、さっさと貰いにいきましょう』
「にゃにゃっ!?」
あっさり言うウンディーネに、タルトが慌てている。
『タルト、あなたは勘違いしているのだわ』
「勘違いですにゃ……?」
ウンディーネの言葉にタルトが首をかしげ、その瞳が少し不安そうに揺れた。けれど、ウンディーネはそんなタルトを気にすることなく言葉を続ける。
『わたくしたち精霊の眷属は、世界樹の世話をすることが役目。何に変えても世界樹を守り、慈しみ、この世界の要として尊ばねばならぬものなのだわ』
諭すようなウンディーネの様子に、タルトだけではなく、私も息を呑む。静かに、それでいて真剣に言葉を紡ぐウンディーネから目が離せない。
『もしわたくしの命を捧げ、世界樹が蘇るのであれば、わたくしは喜んで命を捧げるのだわ。――わたくしだけじゃない。精霊の眷属は、誰もが世界樹のために命を投げ出す覚悟がある。だから今更体の一部を素材に欲しいと言ったところで、誰も否とは言わないのよ』
――喜んで差し出すだろうと、ウンディーネは微笑んでみせた。
『それに、タルトが言った素材はそんなに難しいものではないのだわ。わたくしの鱗は手入れの際に落ちてしまうし、サラマンダーの尻尾だってまた生えてくるもの』
「そうなんですにゃ?」
『ええ。ノームの髭は伸ばせば元通りになるだろうし、シルフの花は次の季節が来ればまた綺麗な花が咲く――粗末なことなのだわ』
ウンディーネはサンタルトの前までゆっくり歩いて、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
『だからタルト――わたくしたち精霊の眷属の今の主人。命令なさい。わたくしたちに素材を差し出せと。そして一刻も早く、わたくしたちの世界樹を復活させてちょうだい』
そしてウンディーネは、それはそれは綺麗に微笑む。
『それがわたくしたち眷属を従える、あなたの本当の役目なのだわ』
***
ざざーんと波が揺れる海をぼおっと見ながら、私はのんびりしていた。まさかの怒涛の展開でタルトのポーション作り問題はあっさり解決したので、やることがなくなってしまったからだ。
「って、そういえば! カメラ機能が実装したんだった!!」
めちゃくちゃ大事なことを忘れていた。
……あ、どうせならさっきの美しすぎたウンディーネ様の写真も撮っておけばよかった。
そんなことを考えるが、もう遅い。
「とりあえず、使ってみようかな? 〈カメラ起動〉!」
私が指示を口にすると、視界にゲームの時とまったく同じカメラフレームが現れた。現実世界なのに、なんとも非現実世界だ。
「……ぱしゃ」
シャッター音を告げると、パシャリと私の見ていた風景が切り取られた。そして、シュッと視界の端にしまわれるように消えていった。
……いや、どこいったの写真データ?
謎だ、謎すぎる。
「撮った写真、見れるのかな?」
私は〈冒険の腕輪〉を操作していって、カメラ機能の箇所の写真保存を確認する。すると、撮った写真を確認することができた。
「ふぅ~ん……ちゃんとアルバムにはなってるんだ」
保存先については考えてもわからないので、今は頭の片隅においやっておくことにした。
「でもまあ、これからは写真をいっぱい撮れるってことだよね。私の目標は、この世界の絶景をあますことなく見ることだし!!」
カメラがあるなら、それを写真に収めることができる。自分で直接見た景色には到底敵いはしないけれど、そのときの思い出は蘇るはずだ。それはすごく楽しいだろうな、と思う。
「でも、これはクエスト報酬だから……私以外の〈冒険の腕輪〉のカメラは未実装のままだよね、きっと」
そこはそこで謎だ。
もしかしたらこの先、〈冒険の腕輪〉を持つ人たちに個別の実装クエストなんかがくるのかもしれない。
「……ま、とりあえず今は世界樹と海と、写真に撮っておきますか!」
あとはケットシーも撮っておきたいけど、さすがに嫌がられるかな? とりあえず、可愛い弟子はシャッターに収めねばならないが。
そんなことを考えていると、「お師匠さま~!」と私を呼ぶ声が聞こえてきた。声の主はタルトで、その手には従来のポーションより二回りくらい大きなポーションを持っていた。
「あれが、〈世界樹の再生薬〉……!」




