22 〈世界樹の巫女〉のスキル検証
「サンゴさん、スキルはまだ使わないで〈火炎瓶〉を投げて攻撃してください」
「わかりました」
今はレベルも低いので、変にスキルで攻撃すると一撃でトレントを倒せず被弾する可能性がある。そのため、レベルが低いうちは〈火炎瓶〉で攻撃一択だ。
サンゴは素直に頷いて、トレントに〈火炎瓶〉を投げて再びレベルアップした。それを何度か繰り返すこと一時間。
「レベル61になりました……」
あまりにもレベルが上がったからか、サンゴの声が震えている。
「こんな簡単にレベルが? いえ、簡単ではないのでしょうけれど……私、島の誰よりも強くなってしまいました……たった一時間で……」
今までは護られていたのに、誰よりも強くなってしまったのか……。私はすごいことを成し遂げてしまったようだ。なんて冗談はさておいて、さてスキルチェックのお時間ですよ。
「サンゴさん、覚えたスキルはどうですか?」
「あっ、はい! スキルは……〈鈴花の舞〉〈鈴音色の結界〉〈磔〉〈花の寵愛〉〈虹の麓〉〈崩壊〉です」
「スキルの名前を聞くと、ちょっとそれっぽいのがあるね。とりあえず、一通り試してみようか」
私の提案に、サンゴは力強く頷いた。
「トレントに使うか?」
「そうだね……実は攻撃スキルで、祭壇に被害が出たらいけないから」
「了解!」
作戦としては、今まで通りみんなでトレントの体力を削って、サンゴが〈火炎瓶〉の代わりにスキルを使うというシンプルなものだ。
「スキルが複数あるから時間がかかるかもしれないけど、こればっかりは多少慎重にいかないとね」
サンゴは〈世界樹の巫女〉というユニーク職だ。以前、〈教皇〉のティティアがスキルを使った際に気絶するという想定外のことが起こった。思い込みでスキルを使うのは、危険だ。
ケントがトレントを連れてきたので、私は〈必殺の光〉をかけてからサンゴに指示を出す。
「まずは……〈鈴音色の結界〉」
「はい! 〈鈴音色の結界〉」
しゃんっ! と力強い音がして、私たちの周囲に鈴のなる小さな木がくるりと円で囲むように出現した。だいたい半径五メートルほどになるだろうか。おそらく、この中が結界になっているのだと思われる。
「これは……結界を張るスキルみたいですね。この中にいれば少しずつ回復もしていくみたいですね」
「しかもこれ、回復速度が上がってるのはマナだね。狩りの休憩にちょうどよさそう」
マナがあればあるだけスキルを連打できるからね。もちろんポーションでマナを回復することもできるけれど、ゲーム時のように素材を無限に得られないので数に限りがある。
「次は〈鈴花の舞〉を使おうか」
「はい! ――〈鈴花の舞〉」
すると、サンゴはくるりと軽やかに回り、舞いはじめた。
どこからともなく鈴の音が聴こえ始め、足元からふわりと小さな光が立ち上る。それは世界樹の根へと吸い込まれていって、わずかに光って消えていく。
サンゴの舞は時間にして五分ほど続いた。
……これ、スキル使用中は無防備になるっぽいね。
舞が終わると、全員が自然と拍手していた。サンゴは穏やかな笑みを浮かべつつ礼をして、その場に座り込んでしまった。
「サンゴさん!?」
……まさか、気絶した!?
最悪だ――そう思いながら慌ててかけよると、サンゴは肩で息をしていた。気絶はしていなかったので、その点だけはほっと胸を撫で下ろす。
「大丈夫ですにゃ!? ポーション飲んでくださいにゃ!」
タルトが慌ててポーションを差し出しているのを見つつ、私も一通り回復と支援をかけ直しておく。
「サンゴ、気分はどう?」
「はあ、はあ……。すみません、息切れが。一気に体力を使ったような、そんな感じです」
「ポーションも回復スキルも効いてないみたいだね。スキルを使った代償なら仕方ないのかもしれません」
私の見解に、サンゴはもう一度「大丈夫です」と微笑んで見せた。
「ただ、これも扇を手に入れるためのスキルではありませんでしたね。はっ、……使ってみた感じ、世界樹を活性化させるもの……というのはわかったのですが、もっと何かあるような気がするんです。ただ、スキルを使ってみてもそれがわからなくて……」
サンゴはもどかしそうに表情を顰めながら、「次のスキルを使います」と自ら申し出た。
「大丈夫ですにゃ? もっと休んだ方がいいと思いますにゃ」
「うん。せめて、呼吸が整うまでは待とう」
「……はぁっ、はっ、すみません」
タルトとココアの気遣う言葉に、サンゴは呼吸がままならないまま頷く。先ほどより少し落ち着いてはきているけれど、まだ肩で息をしたままだ。
……〈世界樹の巫女〉のスキルは、今回のクエストがあるから全部把握しておきたいね。
そのためにはサンゴのレベル上げと、〈冒険の腕輪〉は必須だ。ダンジョン〈世界樹の根〉でやることがすべて済んだら、タルトに頼んで腕輪を取得してきてもらおう。
「疲れてるときは、甘いものがいい」
「あ、ありがとうございます」
「俺も食べたい!」
「私も!」
ぐったりしているサンゴにルルイエがドーナッツを取り出すと、ケントとココアもはいはいと手をあげた。ウンディーネは「なんですのそれは!?」と言いつつも目を輝かせている。
「みんなでおやつタイムにしてからスキルを試すのがよさそうだね」
「それがいい」
ルルイエは〈鞄〉から全員分のドーナッツを取り出して配ってくれた。トレントを抱えているケントには、「気をつけて」と投げつけて渡している。
私はケントのためにバリアをときおり張り直しつつ、とチョコレートのかかったドーナッツを頬張る。口の中にチョコレートの甘さが広がって、疲れた脳に染み渡る。
「ん〜〜、美味しいね〜〜!」
「いくらでも食べれちゃいそうですにゃ!」
私とタルトがニコニコで食べていると、サンゴも少しずつ口にして水分補給もしている。だいぶ呼吸も安定してきたみたいだ。
それから一〇分ほどのんびりして、スキルの検証を再開した。
「――〈崩壊〉!」
「うおっ!?」
サンゴの力強い声に、スキル〈崩壊〉が発動した。これは召喚スキルではなく攻撃スキルだろうなと思っていたが、ビンゴだったようだ。
ケントが抱えるトレントの足元が突如崩れ始め、まさに字のごとく崩壊が始まった。周囲にある卵のオブジェがガラガラと崩れ、世界樹の根はゆっくりと、けれど確実に色を変えていき腐食していっている。
「えっぐいスキル……」
思わず口からそんな言葉がもれた。
この場所がダンジョンだったからよかったけれど、もし街中で使ったら建築物は間違いなく崩壊していただろう。
ケントが抱えていたトレントは光りの粒子になって消えた。
「今のを、私が……」
「強い攻撃スキルだけど、かなり範囲が広そうですね。使うときは慣れるまで十分注意した方がいいかもしれません」
「もちろんです」
サンゴは頷き、「あ……」と声を漏らした。
「今のスキルで最後でした」
「あーそういえばそうでしたね。ですがこればかりは運ですので、致し方ないです。〈リセットポーション〉を飲んだらもう一度スキルが取得できるので、チャレンジしてもらっていいですかか?」
「もちろんです!」
私の言葉に、サンゴは勢いよく返事をしてくれる。タルトもすぐさま〈リセットポーション〉を取り出して、「これですにゃ!」とサンゴに渡す。その手にあるリセットポーションの数は、五個。
『これでスキルを得たら、サンゴに舞を披露してもらえるのね。楽しみなのだわ!』
『儂も早くみたいものですじゃ』
ウンディーネとじいやも乗り気だ。
サンゴはみんなの期待に応えるべく、一気に〈リセットポーション〉を口にして咽せた。




