21 強制レベリング
「えーっと……」
私とタルトのやり取りを見ていたサンゴが、戸惑いがちに声をあげた。どうやら、今すぐ自分のレベル上げをすることが決定してしまったことを察したのだろう。
そんな様子のサンゴに、タルトがこれから何をするのか説明してくれている。
「この〈火炎瓶〉はわたしの攻撃スキルで使いますけど、このまま投げても高い攻撃力があるんですにゃ! サンゴさんは、敵に向かってこの〈火炎瓶〉を投げるだけでいいんですにゃ」
「投げるだけ……」
そう簡単に言ってくれるなとサンゴの目が主張しているが、私は気づかなかったふりをして段取りの打ち合わせに入る。
今から始めるのは純粋なレベリングではなく、強い人にレベルを上げてもらう寄生と言ったほうがいいだろう。つまり油断すれば、サンゴはあっけなく死んでしまう。
「モンスターのヘイトがサンゴに向いたら大変だから、慎重にいくよ」
「ああ。つっても、ヘイトが俺からサンゴさんに移るとは思えないけど」
「基本的には大丈夫だけど、イレギュラーっていうものはつきものだからね。たとえば私やココアなんかなら、別に攻撃を受けても多少の怪我ですむからいいよ。なんなら、すぐヒールで治すし」
「サンゴさんは、多少の怪我どころか……軽い一撃で……」
私の説明を聞いたココアがすぐに理解し、ケントも顔を青くさせる。
これが現実世界でなくゲームであれば、サンゴが死んでも生き返ることはできる。アイテムを使えばいいからだ。しかし、現実となった今、アイテムがあったとしても本当にサンゴが生き返るかはわからない。
……ちょっと試してみるわけにもいかないからね。
だから私たちは、死なないように細心の注意を払って冒険をしている。
倒す敵は一体。それ以外のモンスターはココアたちに攻撃してもらって、サンゴが攻撃するときは必ず一体になる状態にする。これは絶対。
タルトの〈ポーション投げ〉だと範囲攻撃になってしまうので、今回はサンゴの護衛をしてもらうことに。サンゴが敵からタゲられたり攻撃が当たりそうになった場合、タルトがすぐ間に入ってフォローするという流れだ。
「それじゃあ、俺が敵を連れてくるっていうかたちでいいんだよな?」
「うん、それで行こう。全員で動くより、ここで待機してた方がサンゴさんが攻撃されるリスクは低いからね」
安全第一だ。
「一番戦いやすいのは〈枯れトレント〉かな。根っこだし、〈火炎瓶〉の火属性ダメージがよく通りそう」
「オッケー、任せろ」
サンゴはケントが敵を釣りに行ってる間、〈火炎瓶〉を投げる練習をしていた。私たちの期待に応えようとしてくれていて、めちゃくちゃ好感が持てる。
「でも、これは火の爆発なんですよね? タルトさんが投げたときはスキルだったからか大丈夫そうでしたけど、世界樹に燃え移ったりはしないのでしょうか……。もし燃えるようなことがあったら、私……」
サンゴが心配するのはもっともだ。
けれど、タルトの〈ポーション投げ〉を見ていた限り、意外にもこの世界樹のダンジョンは強く、攻撃で燃えてしまうということがなかったのだ。
世界樹という生命力に溢れた木だからなのか、それとも元々スキルを使う想定をしているダンジョンだからなのかはわからない。けれど世界樹の根は〈ポーション投げ〉で少し焦げても、しばらくしたら元通りになっていた。
「大丈夫だと思うけど、〈火炎瓶〉だけを投げるのは初めてだもんね。ココアは水属性の魔法を使うようにお願いしてもいい?」
「もちろん。水をかければ世界樹が燃えることもないし、周囲が熱くなることも抑えられるからね」
快諾したココアに、サンゴが「ありがとうございます」と目を輝かせている。
「とりあえずは、一度やってみて様子を見るのがよさそうですね」
サンゴが頷いたところで、ケントが「連れてきたぞ」と〈枯れトレント〉一体を釣ってきた。
ほかのモンスターの姿がないので、上手く一体だけ釣れたのだろうか。
「〈毒の天使〉もいたけど、そいつはどうにか倒すことができた。んで、残ったのはトレント一体。俺が一回攻撃したから、そこまで削らなくても大丈夫だとは思うんだけど……ココア、ルル、任せてもいいか?」
「もちろん! 〈空から落ちた瞳は、鋭さを増し敵を撃つ♪〉」
「ん。〈飾り切り〉」
ココアとルルイエが様子見というかたちでスキルを使う。一撃ずつなので、トレントは無事に生き残り、元気にケントを攻撃し続けている。
無事に生き残り、元気にケントを攻撃し続けている。
根っこの手を鞭のように伸ばしてびしびし当てているが、ケントもそれを剣でいなしている。時折ダメージをくらっているけれど、それは私が癒し、バリアを張って防げるようにするので問題はない。
「うーん……。あと〈火炎瓶〉一撃で死ぬかな? ちょっと微妙そうじゃない?」
ここに来るまでトレントは何匹か倒している。大抵ココアとルルイエのどちらかが二撃で片方が一撃と、タルトの一撃で倒すことができていた。
でも今回はケントが一撃入れているので、あと一撃ぐらい入れた方がいいかもしれないと考える。
「誰かもう一人攻撃してもらって、それでサンゴに〈火炎瓶〉を投げてもらおうか」
『そういうことなら私に任せてほしいのだわ!』
名乗り出たのはウンディーネだった。
今は主人のタルトが範囲攻撃しかできないため、自分が代わりに頑張ろうと思ってくれているのかもしれない。ウンディーネがハープを奏でて攻撃し、ダメージを負わせた。トレントはまだ生きている。
「よし、それじゃあ行きますか。〈必殺の光〉〈守護の光〉〈栄光の光〉!」
私はサンゴに支援をかけ直し、攻撃力ももちろん三倍にしておく。これならきっとトレントを倒すことができるだろう。
サンゴは緊張した面持ちで深呼吸を繰り返して、「いきます」と真剣な声で宣言をした。
腕を大きく振り上げて、火炎瓶をトレントに向けて投げる。ゴッと火柱が上がり、熱風が周囲に届くが、世界樹の根には焦げ跡が少しもついていない。スキルではないので判定がどうなるかわからなかったけれど、ポーション投げより火力は下と判断されたのかもしれない。
逆にポーション投げで根に焦げ跡がついたことの方がすごかったのだろう。
トレントは光の粒子になって消えた。
「ああっ! レベルが、レベルが上がりました!! しかも、5レベルも……!!」
目を瞬かせながら、サンゴが一気にレベルが5も上がったことに驚きの声をあげた。
そう、このゲーム……もとい世界は、一度に上がるレベルの上限が設定されている。それが5、というわけだ。
「よし、トレントへの攻撃は今と同じにして何体か倒そうか。ケント、お願い!」
「オッケ!」
サンゴが上がったレベルに感動やらなんやらしている横で、私は気にせずケントに次の指示を出す。さくさくっとレベルを上げて、取得したスキルの確認をしよう。
……この状態で〈スキルリセットポーション〉を飲んだら、またランダムでスキルを取得することになるのかな?
サンゴには申し訳ないけれど、街へ戻って〈冒険の腕輪〉を作るより先に試した方が楽だなぁ……と思うなどしてしまう。
そんなことを考えていたら、ケントがトレントを釣ってきた。




