20 サンゴのスキル
「私が使えるスキルは、〈花祈り〉です。毎日、世界樹に祈るときに使っているスキルです」
「どんな効果なんです?」
私の問いかけに、サンゴはう~ん……と悩みながら、「上手く言語化できているかわからないのですが」と前置きをして説明してくれる。
「このスキルを使うと、世界樹が元気になって、その力で私も少し回復している……のだと思います」
「世界樹の活性化と、自身の回復、みたいな感じですかね?」
「そうだと思います」
頷いたサンゴを見て、私はなるほどと納得する。
私たちプレイヤー、もしくはこの世界で〈冒険の腕輪〉を手に入れた者は、自分で取得するスキルを選べ、その際にスキルの説明文を読むことができる。
しかし、腕輪を持っていないサンゴはスキル情報を文章というかたちで確認することができない。その場合は、スキルを使った際に自分の中に生まれる感覚で知ることができるのだという。
そのため、うまく言語化できないと人に自分のスキルがどういったものか説明するのが難しい。
……特に、サンゴはユニーク職業の〈世界樹の巫女〉だもんね。
逆にこれが〈癒し手〉や〈魔法使い〉、〈料理人〉など……その職業に就いている人間が多いものほど言語化がされていて、どんなスキルかというものが世界で共通認識としてされている。
普通の職業スキルなら私もゲーム知識があるから悩む必要はないのだけれど、こればっかりは仕方がない。
ひとまず職業スキルはいいとしても、サンゴには早く冒険の腕輪を取得してもらって、任意でスキルを取得し、説明をしてもらう方がよさそうだ。
まさかここにきて冒険の腕輪のない弊害が起こるなんて、思いもしなかった。
……こんなことなら、ツィレで会った時にサンゴに腕輪の取得をお願いしておけばよかった。
そうは思うけれど、すでに後の祭りだ。今はただ、サンゴの説明した〈花祈り〉で〈花降る鈴扇〉が手に入ることを祈るしかない。
サンゴが数回深呼吸をしてから、私たちを見て「いきます」と告げて祭壇の前で跪いた。
その傍らにはいつの間にやらピピが座っていて、一緒に祈りを捧げようとしていることがわかる。
ピピが一体どこにいたのだと思ったけれど、どうやらサンゴの大きな帽子の中に隠れていたらしい。なるほど、確かに帽子の中なら安全地帯だけれど、ずっと頭に猫が乗っていて、サンゴは重たくなかったんだろうか……なんて思ってしまった。
「世界樹のダンジョンへ来れたことに感謝いたします。私は〈世界樹の巫女〉サンゴ。世界樹に祈りを捧げ、この地を守り抜きたいと思っています。世界樹に幸あらんことを――」
静かで、それでいて力強いサンゴの祈りの言葉に、世界樹がわずかに光り輝いた。
どうやらこれがサンゴの言う、世界樹が元気になっている、という活性化のようだ。そして、わずかではあるが世界樹からふわっとした光がサンゴに降り注いだ。
それは時間にしてたった数秒だったけれど、確かに〈世界樹の巫女〉と世界樹は繋がっているのだということがよくわかるシーンだった。
まさに神秘的という言葉が合うだろうか。
「…………」
その場に沈黙が落ちる。
サンゴが〈花祈り〉のスキルを使ったけれど、〈花降る鈴扇〉が出現しなかったのは誰の目にも明らかだったからだ。
きっと、このスキルを使っただけでは扇を得ることができないのだろう。ということは、別に扇の召喚スキルがあるのか、スキルとは関係ない全く別の要因があるのかのどちらかだ。
私はうーんと考える。今から街に戻って〈冒険の腕輪〉を得て、レベル上げをして、またここに来る。まあ、それが一番理に適ってはいる。スキルを選ぶことができるので、最短でそれらしいスキルを得て扇を取得できるからだ。
でも、せっかくダンジョンの最奥まで来たのに……という気持ちもある。
「……〈花降る鈴扇〉は、現れませんでしたね。すみません、みなさん。私をここまで連れてきてくださったのに……」
ひどく落ち込んだサンゴの声に、私は「そんなことないですよ」と首を振る。しかし、サンゴの悔しい気持ちがわからないわけでもない。やはりここは、早急にレベル上げをして、扇を得るためのスキルがないか確認するのがいいだろう。
私が方針を固めつついると、「お師匠さま」とタルトの呼ぶ声が耳に入った。振り向くと、タルトは両腕いっぱいに〈火炎瓶〉を抱えていた。
「――だよね!」
私はとびきりの笑顔を見せた。
ちょっと短いんですが、あまりにもキリがよかったので。
モンスターがいるんだから、火炎瓶投げちゃうしかないよね。
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