18 強さを求めて
突然訪れた暗闇にぞくりと背筋が震える。体に力が入らなくなったわけではないのに、足元がおぼつかなくなって体がぐらつきそうだ。
そんな感覚に呼吸が乱れそうになるよりも先に、私の思考が動いて叫ぶ。
「――〈治癒〉!!」
力強く紡いだ言葉は、いとも簡単に私の視界を取り戻した。
すぐさま周囲を確認すると、全員の動きがおかしい。私と同じように視界を奪う弱体化がかかっているのだろう。
「〈治癒〉〈治癒〉〈治癒〉〈治癒〉……」
全員に〈治癒〉をかけて「もう大丈夫!」と声をかける。安堵の息をついているところを見ると、視界は元に戻ったようだ。
「サンキュー、シャロン。まさか突然視界がなくなるとは思わなかったから、めちゃくちゃ焦った。でもあのモンスター、両手で目を塞いでたもんな」
ケントはほっとしたのも束の間で、すぐ考えるポーズを取った。
「そういう攻撃が来るかもしれない……ってことを、想定してなきゃいけなかったんだ。考えて戦ってるつもりだったけど、全然駄目だ」
「確かにそうかもしれないけど、こればっかりは難しいね。経験も必要になってくるし、とっさに判断しなきゃいけないから」
私は頷きつつ、思っていたより高いケントの理想に近づくにはどうすればと考える。
例えば、事前に図鑑などでモンスターの姿を確認しておけば、どういった攻撃をしてくるという予想が立てられるかもしれない。属性を推測できるだけでも攻撃方法を絞ることができるし、属性耐性などの対策だってしやすくなる。
けれど、今は初見のダンジョンに初見のモンスター。前知識は何もない。そんな中で襲いかかってきたモンスターを見て、どんな攻撃をするかと戦闘に入って考えなければいけないのはなかなかにきついものがある。
……現に私だって、死ぬ直前に視界を奪う弱体化が来るとは思ってもみなかった。
この場合はもう、事前調査もできないことが大前提になってくるので――やっぱり経験が一番ものを言ってくるのだろうとは思う。
……もしくは、周囲の環境からの推測か。
今回は世界樹と根というキーワードと、ダンジョン内部のオブジェクト――ヒビの入った卵の存在。卵から生まれると推測できるモンスターや、世界樹なので妖精やトレント系の強いモンスターがいると考えることができる。
……ま、今は数をこなすことを考えよう。推測はできるけど、私たちは圧倒的に経験が足りてないからね。
「にゃ~! びっくりしましたにゃ。このダンジョン、とっても怖いところですにゃ!!」
「……うん。いきなり視界を奪われるなんて、今までの戦い方とはまたちょっと違うもんね。あのモンスターを倒すと、目が見えなくなるのかな?」
「倒したときの叫び声を聞いてから暗くなったから、そうだと思いますにゃ」
「ん」
「だとしたら、あいつを倒すのは一番最後がよさそうだな」
タルトとココアの話にルルイエが相槌を打って、ケントがひとまずの対策を告げた。
こうやってすぐにモンスターの倒す順番を考えることができるのは、状況把握が早くて頼りになる。
「あのモンスター。えっと、名前は――」
ケントが言いかけて、名前がわからないと言葉に詰まっている。呼び名がないのは不便なので、きっと何か適当に付けるはずだ。しかし、私の後ろから「〈目隠し妖精〉じゃ」と声が聞こえた。
「! じいやさん、教えてくれるのか?」
「まあ、名前くらいならよかろうて」
「ありがとうございます!」
モンスターの名前がわからないのは不便だったので、じいやが教えてくれてよかった。ダンジョンの詳細は教えてくれないけれど、攻略に直接関係のない名称程度であれば助言をくれるようだ。
……というかじいやさん何も言ってなかったけど、やっぱりダンジョンのこと知ってるんだね。
ウンディーネは私たちの味方なのだから、じいやも味方であってくれたらよかったのだけれど。
おそらくじいやはじいやなりに、このダンジョンにおける自身の役割があるのかもしれない。
ウンディーネにも、世界樹に対する海の水を綺麗にするという役割がある。
それならばじいやにも、まあウンディーネの世話というものはあるけれど、何かしらの役割が与えられていてもおかしくはない。もちろんゲームには重要でないNPCもいるけれど、クエスト中に出会うNPCはその行動になんらかの意味を持っていることがほとんどだ。
「うし、それじゃあ先に進むか!」
「あ、待って!」
腕をぐるぐる回しながら、やる気に満ち溢れたケントに私は待ったをかける。
今ここで話しておかなければならないのは、目隠し妖精から視界を奪われた際の自由の順番だ。
「状態異常の暗闇の〈治癒〉ね」
「ああ! 確かに話しておいた方がいいよな」
ケントがすぐに頷き、真剣な顔つきになる。
「申し訳ないけど、私の目を1番最初に治すよ。周囲を把握しないといけないし、そもそも目が見えないとスキルを使えないからね」
基本的に支援スキルは対象を目で捉えて使う。そのため、私の視界が奪われていると上手くスキルを使えないはずだ。
「それはそうだよな。わかった」
「うん、ありがとう。それと……ケントには申し訳ないけど、もしほかのモンスターがいた場合はその攻撃に耐えてもらうことになると思う〈治癒〉で視界を戻す順番は、私が一番、二番がケント。もし後衛の誰かが攻撃でダメージを受けてる場合はそっちを優先するから、ケントには耐えてもらう時間が少し伸びるよ」
これは単純に、モンスターの攻撃に耐えられるかどうか、ということも大きい。後衛でも余裕で攻撃から耐えられて、なおかつ新しいモンスターが湧いてきていたらケントの〈治癒〉を優先する。
ということも説明に加えつつ、私はみんなを見た。
「うん、私たちも問題ないよ」
「大丈夫ですにゃ!」
「無問題」
ココア、タルト、ルルイエも問題はないということで、ひとまず〈治癒〉の順番は臨機応変にしつつ、私とケントを優先することになった。
「ということで、狩り再開だな!」
「よ~し、ガンガン行こうぜ!」
気合の入ったケントの声に乗っかると、「そこは慎重にしないと駄目だろ!?」とツッコミを入れられてしまった。
……まあ、そうだよね。
ダンジョンの中を歩きながら、私は隣にいるサンゴに声をかける。
「サンゴは〈世界樹の巫女〉だよね? レベルを上げて強くなりたいって思ってる? もしよければ、今のレベルとスキルも教えてほしいんだけど……」
〈世界樹の巫女〉というのは、おそらくユニーク職業だろう。この島に住むケットシーが代々受け継いできた職業ではあるので、もしかしたら部外者に話すことは禁止されているかもしれないけれど。
「それは……」
私の質問に、サンゴは耳と尻尾を下げてしまった。
聞いてはいけない質問だったろうか。でも、答えられないならばそう言ってくれても問題はない。
「私のレベルは、6です」
「あー……なるほどね」
言いづらかったのは、単純にレベルが低かったからのようだ。ちょっと顔を赤らめていて、恥ずかしそうにしている。
「この島はモンスターがほとんどいませんから。それこそ、〈花ウサギ〉や〈プルル〉がいる程度です。ときおり海から強いモンスターが現れますが、巫女の私は一番に安全な場所へ移動させられてしまって……戦う、ということをしないんです」
「巫女もですけど、女子供は安全な場所に……みたいな感じですか」
「そうです」
それは確かにレベルなんて上がるわけがないと、私は苦笑する。
……ということは、サンゴは生まれてからたまに倒す〈プルル〉と〈花ウサギ〉でレベル6になったてこと!?
それもそれで頑張ったのだなぁ……な気持ちになる。
「シャロン……私はもっと強くなりたいです。ですが、戦うすべなんて何もしらなくて……私でも、シャロンたちのように強くなることはできるでしょうか……っ!?」
「……レベリング、しよっか」
私はにっこり微笑んだ。




