17 〈世界樹の根〉に挑む!
ダンジョン〈世界樹の根〉の中に足を踏み入れて、私はすぐさま周囲を確認する。
幸い、入口にモンスターはいないようだ。そのことにホッと胸を撫でおろして、どんなダンジョンなのか観察して予想を立てていく。地面も壁も天井も世界樹の根の部分でできている。ここはその名の通り、世界樹の根が入り組んだトンネルのような場所になっているらしい。足場が不安定なので、戦うときは注意が必要だろう。
根の合間からは葉が生えていて、生命の力強さを感じることもできる。しかしその一方で、まるでオブジェのように所々にヒビの入った卵が落ちている。その卵の大きさはだいたい一メートルほどで、一体何が生まれるのか想像するのが難しい。
大きな動物だろうか。ゲーム世界ということを考えれば、もしかしたらドラゴンのような存在かもしれない。もしこの卵はただのオブジェではなくて生きているものだとしたら、孵化してモンスターが生まれるという可能性も十分あり得る。
私がじっと卵を見ていたからか、ケントが「どうした?」と声をかけてきた。
「あの卵からモンスターが孵ることはあるのかなと思って見てたの」
「……確かに、ところどころに卵が置いてあるな。いきなり全部孵ったらさすがに苦戦するかもしれないけど、ヒビが入ってるから中身は死んでるんじゃないか?」
ケントの言葉はもっともだし、孵化しないならありがたくはあるのだけれど、死んでいる卵ですと言われたらあまりいい気分にはなれない。
……まあ、ダンジョンの作りに文句を言ったところでどうしようもないんだけど。
「いきなり孵化するとやばいし、無理やり卵を割ってみたらどうだ?」
ケントがコンコンと卵を軽くノックしている。しかしなんの反応も返ってこず、ケントは腕を組んで悩んでいるようだ。
「ちょっと力こめてみるな」
「大丈夫? 私たちは攻撃できるようにしておくからね」
「ああ、頼む!」
ココアが一歩離れつつ、武器を構えた。それを見たタルトも手に〈火炎瓶〉を手にして、ケントの様子をじっと見ている。ウンディーネもハープを構えているので、戦う気満々のようだ。ルルイエは包丁を構えつつ、私とサンゴとじいやを庇うように前にたってくれた。
「ありがとう、ルル」
「ん。わたしに任せて。シャロンたちは守る」
ルルイエがイケメンすぎた。
そんなことを考えていたら、ケントの「いくぞ!」という声が耳に届く。それを合図に、ケントは思いっきり剣を振り上げて卵を叩き割ろうとして――ガキン! と剣がはじかれてしまった。
「「「――っ!!」」」
「にゃにゃにゃっ!?」
卵に傷はついていない。
それどころか元々卵に入っていたヒビが広がることもなく、まるで人間の攻撃なんて受け付けないとでも言われているかのようだ。そんな様子に、一番驚いているのはケントだ。
「まじか。かなり強く殴ったんだけど……」
「ケントの力でもダメならあきらめた方がよさそうだね」
何か孵ったらそのときに戦うしかないけれど、強く攻撃して何も起きないのであればダンジョンのオブジェであると考えた方が自然だろう。
「おそらく卵が孵化することはないけれど、一応の警戒だけはして、モンスターがたくさん集まらないように動き回ってこまめに倒していくのが最善かな」
「わかった。敵の数を考えながら慎重に進んでいく。もし後ろで何かあればすぐに合図してくれ」
「了解」
私とケントが簡単に方針を決め、それを聞いていたタルトたちも「わかりましたにゃ」と頷いてくれた。
全員に問題なく意思疎通ができたようなので、私たちは改めてダンジョン〈世界樹の根〉を進み始めた。
世界樹の葉とヒビ割れた卵が根の合間にある中を進んでいくと、ケントが「あ」と声をあげた。
――きた、最初の敵か。
そう思って私が杖を構えると、すぐにケントの「〈プルル〉がいる!」という声が続く。
「へ?」
〈プルル〉。この世界で一番弱いモンスターの名前だ。
私の聞き間違いだったろうか。それとも〈プルル〉は〈プルル〉でも、〈プルル〉の亜種的ななにか強いプルルだったりするのだろうか。
ケントの足元にぽよぽよはねる〈プルル〉がいる。正真正銘、この世界で一番弱い〈プルル〉だ。
外見が同じだ。外見が同じでも強さが違うモンスターがいるのかと言われたら完全に否定はできないけれど、今までのゲームでそういったモンスターはいなかった。
ということは、あれは本当の本当に弱い雑魚の〈プルル〉なんだろうか。
と私が考えていたのも束の間で、ケントが軽く剣でつついたら〈プルル〉は光の粒子になって消えてしまった。
「よっわ……」
思わずそんな言葉が漏れてしまったのも仕方がないだろう。
私の声を聞いたココアがクスクス笑っていて、ウンディーネも『楽勝なのだわ』と楽しそうにしている。
少し離れていたサンゴは、目を瞬かせているところだった。おそらく恐ろしいダンジョンを想像していたのに、出てきたのが〈プルル〉だったので拍子抜けしてしまったのだろう。
「〈プルル〉であれば、私にも倒すことはできます!」
サンゴはやる気に満ち溢れているようだ。
今回、私たちはサンゴのおもりをするようなつもりで一緒にダンジョンに来たけれど……もしかしたら、一緒に戦って、サンゴのレベル上げをするのもいいかもしれない。
……とはいえ、未知数のダンジョンでレベル上げはリスクが高いよね。
どこか適当な狩場へ行ってレベルを上げる方が確実だし安全だ。とはいえこれは追々、という感じだね。
「まさか世界樹っていうすごいダンジョンに〈プルル〉が出てくるなんてなぁ。……まあ、先に進む――っと!?」
のんきな声で話していたケントの空気が一気に変わった。
「謎の小さいモンスター5体! こっちに走ってきてる」
『キイィィ、クライ!』
『キィキィ!』
ケントの警告と聞こえてきたモンスターの叫び声に緊張が走る。
前からこちらめがけて走ってきたモンスターは、その高さは膝丈ぐらいの小さな妖精だった。どたどた走り回っているが、異様なことにその妖精は自分の両手でしっかりと目を押さえている。
何も見えない、見てはいけないというように。異質な気配をまとったモンスターで、思わず嫌な汗が背中に伝う。
……初めて見る。強いのか、弱いのか、それとも特殊なスキルでも使ってくるか。
妖精はどたどた走り回って、ケントの周りをぐるぐる回る。攻撃する隙を探しているのだろうかと思いながら、私は支援をかけ直していく。
その横でタルトとココアが同時に攻撃をすると、妖精に命中した。
『クライイイイィィィ!!』
しかし妖精が攻撃を受けて光の粒子になる直前、耳をつんざくような叫び声に鼓膜を揺さぶられて――視界が暗くなった。




