16 珍事件
世界樹が根を張る海は、太陽の光が降り注ぎキラキラ輝いていた。ところどころで根が太陽光を遮っているので、幻想的な光になっていると思う。根の合間は小さな生物が身を守るのにちょうどいいようで、魚が隠れている姿も目に入ってなんとも平和だ。
私たちは世界樹の根の隙間から先に進んでいく。
「あ……もしかして、あそこがダンジョンの入り口?」
「え、せまくねぇか!?」
視界に映ったのは、世界樹の根がトンネルのようになっている場所だ。それは根のさらに奥――世界樹の幹の方へ続いていた。ただ、ケントが叫んだ通り入り口部分がとても狭い。
『おお、そうじゃ。あそこを進んでいくと、根のダンジョンに出るんじゃ。しかし、ギリギリといったところかのう……? いや、ちと厳しいか』
「もしかして、世界樹の状態で入り口の大きさが変わるってことですか?」
『んむ。これでも最近は姫様たちが頑張っていたから、大きくなった方じゃろうな……』
じいやの言葉に、それは確かにと頷く。もしウンディーネたちが頑張ってくれていなかったら、この入り口自体見つけることが難しかっただろう。
『近くまで来てみたが、どうじゃ?』
「わたしは通れそうですにゃ」
「タルトはいけそうだね。私は……ギリギリ行けそう……かも!!」
私は穴を覗き込みつつ、腕を前に出して頭から入り口に入ってみることにした。
……うわ、私のサイズでギリギリだ。
いや、ちょっと待って。ギリギリいけるかと思ったけど、腰のあたりがちょっと引っかかって先に進めなくなってしまった。
……やばい、やばすぎる!
腕にぐっと力を入れて前に進もうとするも、動かない。かといって、戻ろうにも力が上手く入らず出ることもできない。詰んだ。
すると、後ろから「シャロン、大丈夫?」というココアの声が聞こえてきた。よかった、ココアに助けてもらおう。
「ごめんココア、動けなくなっちゃった!!」
「シャロン……」
私の言葉に、呆れたココアの声が返ってくる。それをぐっと耐えて、「助けて~!」と声をあげることしかできない。
「こうなったら、一気に押しちゃって!」
私はダンジョンへ進むぜ!
「いや押したらもっと詰まって駄目だろうが」
私の希望にケントから速攻でツッコミが入ってしまった。……うん。私もちょっとは、その方がいいかな? なんて思っていたよ。
「仕方ない、ひっぱってぇ……」
めそめそしながら告げると、私の腰下がガシッと掴まれた。
「オッケー、いくよ~!」
「ココア任せた~!」
ココアがぐっと力を入れて、私を引っ張った。が、うんともすんとも言わない。ココアの力が足りないのか、海の中だから上手くいかないのか……。
「んぐぐぐぐ~~!」
「頑張ってココア!」
「わたしも手伝いますにゃ!」
ココアだけでは無理だったようで、タルトも参戦してくれたようだ。しかし抜けず、私の脳裏に絶望の文字がよぎる。
……もしかして私、ずっとこのままなんじゃ……。
そう思っていたら――突然、世界樹の根がぐわっと広がって私の身体が抜けた。
「えっ!? どういうこと、何があったの――って、ルル!?」
「これで先に進める」
見たら、ルルイエが根を掴んで力業で広げているではないか。入り口を無理やり物理で広げる発想はなかったよ。さすが女神ともなると、考えることが違うね。
「ありがと。ルルのおかげで助かったよ」
私がお礼を告げると、ルルイエはピースして笑顔を見せた。
「それにしても、シャロンはもうちょっと考えて行動した方がいいぞ? 〈水中ポーション〉が切れるまでに抜け出せなかったらどうするつもりだったんだよ……」
「ひえっ」
それはまったく考えていなかったので、私はさああっと青くなる。もちろん予備の〈水中ポーション〉は持っているけど、手をまっすぐ伸ばして身動きがとれなかったのだから、ポーションを飲むなんて行為ができるはずもなく。
「ほんとにありがとう、ルル。命の恩人だよ……」
私が再度感謝したところで、『先へ行ってみるのだわ』とウンディーネが根のトンネルへ進んだ。ルルイエが広げたとはいえ通路はまだ狭いので、私たちはじいやの背には乗らず泳いで進んでいく。
体感で五分くらいだろうか。根の狭い通路を抜けた先で、根の上に上がれる場所があった。どうやらここからダンジョンが始まるみたいだ。
「この奥に〈花降る鈴扇〉があるんですね」
息を呑んだ、サンゴの震える声が周囲に響く。
おそらくサンゴはあまり戦いが得意ではないはずだ。私はそう思いつつ、全員に支援をかけていく。
……私が知ってるモンスターが出てきてくれたらいいんだけど、どうかな。
世界樹のダンジョンというだけで、敵のレベルは高そうだ。しかも、世界樹なんていうこの世界でも重要そうな場所で、世界樹をきちんとお世話していなければ入れない。なにもないわけが……ないよね。
「じいやさん、このダンジョンの内部って知ってますか? 構造とか、モンスターとか」
『残念だが、儂に言えることは何もないのう』
「そうですか」
自力で一から攻略していく必要がありそうだ。私はゆっくり深呼吸をしてから、全員を見た。
「目標は、〈花降る鈴扇〉を手に入れること。出てくる敵はボスを含め未知数。無理はせず、命大事に進んでいくよ。ケント、頼りにしてるよ」
「……おう!」
〈花降る鈴扇〉のためのダンジョン攻略、スタートだ。




