15 新たなるダンジョンを求めて
「〈花降る鈴扇〉は代々の〈世界樹の巫女〉が持っていたらしいんですけど、今はそれがなくて。サンゴのために探しているんですが、所在を知りませんか?」
『ああ、あの扇のことだったのね』
どうやらウンディーネの中で、〈花降る鈴扇〉が何か繋がったようだ。
『でも紛失してしまったの? あれで舞う姿は美しかったのに、残念なのだわ』
ウンディーネは舞を見たというので、やはり以前は〈花降る鈴扇〉がきちんと存在していたのだろう。
『姫様はまったく、〈花降る鈴扇〉は大切なものですぞ』
『わたくしが使うものではなかったのだもの。じいや、〈花降る鈴扇〉はどこにあるの?』
『あれはダンジョンの最奥にあるんですじゃ』
「「ダンジョン!?」」
じいやからもたらされた情報に、私とサンゴの声が重なった。
私はやはりダンジョンはあった! と、じわりじわりとテンションが上がっていく。しかし現時点でダンジョンの入り口は見当たらないので、こうしてクエストを進めていかなければ行くことのできない場所なのかもしれない。
私は目をわくわくさせながら、じいやに続きを急かす。
「それで? そのダンジョンはどこにあってどんなダンジョンでモンスターは――」
『落ち着くんじゃ!』
じいやはカッと目を見開いて、『うるさいぞい』と睨んできた。新しいダンジョンなんだから、ちょっとくらいは許してほしいのに。
『〈花降る鈴扇〉は、〈世界樹の巫女〉にだけ持つことを許された聖なる扇じゃ。〈世界樹の巫女〉であることを辞めると、扇は自分が眠るべき場所へ自動的に還るようになっているそうじゃ』
「代々受け継がれているわけではなかったのですか……」
「それじゃあ、いくら探しても見つからないわけだね」
つまり新たな〈世界樹の巫女〉になったら、ダンジョンの最奥へ行って〈花降る鈴扇〉を手に入れなければならないということだ。そしてそれはおそらく巫女から巫女へ語り継がれてきたのだろう。
……でも、なんらかの理由でそれが途絶えてしまった?
「じいや様、ウンディーネ様、〈花降る鈴扇〉のあるダンジョンの場所をお教えいただけますか?」
『ふぅむ……』
サンゴの懇願に、じいやは考えるそぶりを見せる。まさかここにきて勿体ぶられるとは……と思ったけれど、クエストならば突破していくしかないのかもしれない。
『じいや、そんな意地悪をしないで教えてあげなさいな』
「ウンディーネ様、ナイスアシストです!」
私がぐっと親指を立てると、ウンディーネは『わたくしも舞を見たいもの』と微笑んだ。それほどまでに美しい舞なのだと、私もどんどん気になってくる。
じいやは『そうではないのですじゃ』と渋い顔をした。
『ダンジョンの入り口が開いているか、わからないんですじゃ』
『あら、何か条件があるの?』
「いつでも入れるわけではないのですね」
ウンディーネとサンゴは目を瞬かせながら、どうすれば入れるのかじいやにその条件を聞いている。
……入場クエストか、もしくはアイテムがいるタイプのダンジョンかな?
あまり難しい条件じゃないといいんだけど……と思いながら、私もじいやの言葉に耳を傾ける。
『世界樹には、ダンジョンが二つあるんじゃ。姫様も、覚えがあるじゃろうて』
『もちろん覚えているのだわ。でも、わたくしは入り口すぐまでしか入ったことがないし……記憶にあるダンジョンは一つよ?』
いったいどうなっているのか? と、ウンディーネが首を傾げてじいやを見ている。
『一つは、誰でも入れる世界樹の根の合間に入り口のある地下のダンジョン〈世界樹の根〉。もう一つは、〈世界樹の巫女〉が神楽を舞うことで開かれる地上のダンジョン〈世界樹の雫〉じゃ』
「両方とも世界樹由来のダンジョンなんですね!」
まさかの新情報に、私はテンションがどんどん上がっていく。初めて聞くダンジョンが、二つも!!
「でも、今はいけないかもしれないって……どうすればいいんですか?」
私がぐいぐいいくと、じいやに『落ち着くんじゃ!』と叱られてしまった。
『〈世界樹の根〉の入り口は海の中じゃ。世界樹の状態が悪いと根が閉まって入り口を閉ざしてしまうんじゃ』
「じゃあ、世界樹を復活させないといけないってことですか?」
『いや……今の状態なら、おそらくダンジョンの入り口は開いているはずじゃ』
「それなら――」
「すぐにでも行きたいです!」
私の言葉を遮って、サンゴが大声をあげた。いつも落ち着いている彼女にしては珍しいけれど、それだけ〈花降る鈴扇〉を求めていることがわかる。
しかしすぐに、サンゴの表情が曇る。
「でも、海の中だと……ダンジョンにどうやっていけばいいのか。息が持つくらいの場所にあるんでしょうか?」
「あ、それなら水の中で息ができるポーションがありますよ」
「そんなポーションがあるんですか!?」
「タルトが作れるし、予備もあるからすぐに行けると思うよ」
私が説明すると、サンゴは「すぐに呼んできます!」と走っていってしまった。ケットシーというだけあって、めちゃくちゃ速い。サンゴの背中はあっという間に見えなくなった。
『せっかちじゃのう……』
『サンゴにとって、それだけ大切なものということなのだわ。また舞が見られるなら、わたくしも楽しみ』
そう言いながら、じいやとウンディーネはダンジョンに行くための準備を始めてくれているようだ。じいやは『たぶんこっちの方向じゃ』と世界樹の様子を見ている。
『わたくしは泳げるけれど、みんなは泳げないものね。じいやの背中に全員乗れるかしら?』
『儂はまだまだ若いですから、それくらい余裕ですじゃ! 姫様にも会えて、今は英気も養えましたからのう!』
じいやは思いの外やる気に満ち溢れていたみたいで、海の上で自分の身体をどんどん大きくさせていった。あっという間に私たちのパーティを全員背中に乗せても大丈夫! みたいになっている。
私はその間に〈水中ポーション〉の在庫を確認しておく。タルトは時間を作って素材を採取したりギルド等で買取をして、ポーションをいつもストックしてくれているのだ。
ちなみに私がタルトからもらってストックしていた〈水中ポーション〉は五つだった。私以外ももしものためにストックを持っているので、十分足りるだろう。
「お待たせしました!」
「ダンジョンがあるんですにゃ!?」
ちょうど、サンゴがタルトを連れてこちらにやってきた。その後ろには、ケントとココアとルルイエもいる。
「「新しいダンジョンに行きたい!!」」
ケントとココアの声が綺麗に重なった。私は笑いながら頷いて、〈水中ポーション〉の在庫状況を確認しつつ支援をかける。
「タルトにもらったのがまだあるから、余裕だぜ! ここにくる間に確認したから、ココアたちも問題ないぜ」
「さすがケント、把握してくれててありがとう」
改めて確認する手間が省けたので、私はさっそくじいやに声をかけた。
「じいやさん、いけます!」
『それじゃあ儂の背中に乗るといい』
「本当にポーションを飲んだだけで海の中で呼吸ができるようになるんですか……? なんだか不思議ですね」
私たちはじいやの背中に乗って〈水中ポーション〉を飲み干した。サンゴは訝しんでいるようだが、意を決した様子でじいやの背中にぐっと掴まっている。
じいやは『行くぞい』と言って、静かに泳ぎ始めた。そこから海に潜るまでは本当に一瞬で、飛沫も立てずに、私たちは気づいたら海の中にいた。
「わわっ、…………喋れますし、息もできます!」
サンゴが目をキラキラさせて、海の中を見回した。水中には色とりどりの魚が泳いでいて、珊瑚礁も目に入る。豊かな海、という言葉が当てはまるだろう。
『さて、もし根のダンジョンがあるなら……入り口は世界樹の根の合間を縫って進んだ先にあるぞい』
「……はい!」
じいやの言葉に、サンゴは緊張した面持ちで返事をした。




