14 手がかりを探せ
次の日、私は早速サンゴに声をかけることにした。
サンゴは毎朝、世界樹の前に行って祈りを捧げている。私はその様子を後ろから見て、ひとまずお祈りが終わるまで同じように手を合わせることにした。
何を祈ればいいかはわからないけれど、早く世界樹が元気になるようにと心の中で呟く。
時間にして一五分ぐらいだろうか。サンゴはお祈りを終えると、後ろに立つ私の方へ振り向いた。
「あら、シャロンさん。おはようございます。すみません、気づかなくて。もしかして、待たせてしまいましたか」
「いいえ、私も世界樹にお祈りさせていただいたので大丈夫です」
「聖女のお祈りならば効果が期待できますね」
サンゴが嬉しそうに言うので、私は「だと嬉しいです」と笑顔を返す。
世界樹を見上げると、四大精霊の眷属すべてが揃ったことにより、私たちが来た当初よりも生き生きと力強さを取り戻していた。このままではタルトのポーションがなくても復活するのでは。なんて思ってしまうほどには、私の目には回復しているように映っている。
サンゴは世界樹に近づき、その幹に触れた。
「……私がこの島で生まれてからずっと、世界樹は衰弱していくだけだったんですよ。私たちケットシーが何をしても、世界樹は応えてくれなかったんです」
悲しそうなサンゴの声に、私は胸がきゅっと締め付けられる。
頑張っても報われない辛さというのは、心がどんどん疲弊していく。それを今までずっと抱えてきたサンゴは、とても強い女性だと思う。
……私なんて、ゲームで数日行き詰まっただけで発狂しそうだったのに。
「綺麗な水をあげても、肥料を改良しても、祈りを捧げても、愛を捧げても、ポーションを捧げても、世界樹に私たちの声は届かなかったんです」
一呼吸をついてから、サンゴは続ける。
「私は〈世界樹の巫女〉だというのに、無力でした。タルトさんやあなたがいなければ、世界樹は枯れていたかもしれません」
力なくサンゴが呟くと、足元で『にゃぁ』という可愛らしい声が聞こえた。見ると、ピピがサンゴを元気づけるように足にすり寄っている。その可愛い姿に、自然と頬が緩む。
「サンゴさんとピピは、もう長い間一緒にいるんですか? 相方だと言っていましたよね」
冒険者ギルドで初めてサンゴとピピに会ったときのことを思い出す。そしてピピはこう見えてダンディだと言っていたので、可愛い白猫だけれどきっと雄なのだろう。たぶん。でも真実は闇の中にしておく。
「ええ、どこへ行くにもいつも一緒よ。……ピピとは、私が小さな頃に世界樹の近くで出会ったんです」
「ということは、野良猫なんですか?」
こんな可愛い猫ちゃんが野放しになっているとは! と私は思ったけれど、サンゴは「うーん」と少し困り顔になった。
「野良猫とは……私たちは呼ばないけれど、人間から見たらそうかもしれないですね。ケットシーになれなかったのか、それとも私たちが猫になれなかったのか、どちらかわからないけれど。私たちはケットシーも猫も、対等な存在だと思っているんですよ」
「ごめんなさい、無遠慮でした」
「気にしてないですよ」
サンゴはピピを抱き上げると、私に向き直った。
「シャロンさんは、私に何か用事がおありでしたのではないですか?」
「私がサンゴさんに会いに来たのは、頼まれていた装備、〈花降る鈴扇〉について話をしたかったからです」
「もしかして、何かわかりましたか!?」
パッと表情が明るくなったサンゴに、私は申し訳ない気持ちになる。だって、まだ何の手がかりも掴めていないのだから。こればかりは正直に話して、現実を受け止めてもらうしかない。
「ごめんなさい。随分珍しいものみたいで、手がかりはまだないんです」
「そうでしたか……。私もずっと探しているんですけれど、見つけることができませんでしたから」
そんなすぐに見つかるとは思っていないと、サンゴは気遣うように微笑んでくれた。
「いくつか質問をしてもいいですか?」
私の問いかけに、サンゴは「どうぞ」と先を促してくれる。
「サンゴさんは〈花降る鈴扇〉を見たことはありますか?」
「いいえ、ありません」
「昔、〈花降る鈴扇〉はこの島にありましたか?」
「……先代の大婆様は持っていませんでしたけれど、何代か前の〈世界樹の巫女〉は扇を持っていたと聞いたことがあります。ただ、それが鈴扇なのか、その巫女が用意した普通の扇なのかは判断できません」
「ありがとうございます」
話を聞いて、私はなるほどなるほどと頷く。
何代か前の巫女の持っていたものが〈花降る鈴扇〉かは判断できないけれど、元々あったことは確かだろう。でなければ、〈花降る鈴扇〉の情報が口伝のようなかたちとはいえ残ることはないからだ。
……でも、文献くらいならあるかな?
「そうですね……この島に、貴重な物がしまわれているような部屋や、ダンジョン、もしくはそれに類するもので何か心当たりはありませんか?」
推理というわけではないけれど、地道な調査というのは必要になる。灯台下暗しというし、案外手がかりはこの島のどこかにあるのでは……と思う。
「心当たりですか?」
「正直、依頼の品を探すのは手がかりがなさすぎますからね」
そう。〈花降る鈴扇〉は不自然なくらいに手がかりがないのだ。
そしてもう一つ、私には気になっていることがある。それは、なぜこの島にダンジョンがないのか? ということ。
……ゲーム的に考えたら、絶対この島にダンジョンあるよね。
もちろん、世界樹が復活したらダンジョンが出現する――というパターンも大いにあり得る。クエストを進めなければ発生しないというのも、ある種お決まりのパターンではあるからね。
「うーん……あ!」
考え込んでいたサンゴが、何かを思いついたように声をあげた。
「もしかしたら、じいや様なら何か知っているのではないですか? ウンディーネ様がいない間は活動されていませんでしたが、ずっとこの島にいたわけですし……。どのくらい昔から島にいらっしゃるのかはわかりませんが……」
「じいやさんか、確かに何か知ってるかも!」
それって、手がかりとして大正解では!? と私はテンションを上げる。一刻も早くじいやの元に行って、この島や世界樹のこと、いろいろ聞いてしまおうと考えた。
***
『なんじゃ、儂は忙しいんじゃぞ』
『あら、シャロンにサンゴじゃない。おはようなのだわ!』
「「おはようございます」」
じいやはその甲羅にウンディーネを乗せて、海の上にぷかぷか浮いていた。どうやら、仕事をしているウンディーネの乗り物係になっているらしい。
……人魚なんだから、ウンディーネは自分で動けばいいのでは?
なんて思ったけれど、それは心の中にとどめておいた。
「実はお二人に聞きたいことがあって。〈花降る鈴扇〉って知ってますか?」
『ああ、懐かしい名前じゃの』
『聞き覚えはあるのだわ』
ビンゴ!




