13 次のクエストへ
卵から生まれたシルフは、風の精霊の眷属だ。
殻についたままだった翼がぱっと消えると、シルフの背中から生えた。シルフは手のひらサイズの、可愛い女の子の姿だった。
薄いエメラルドグリーンの髪はくるくるしていてお人形のようで、頭には花が咲いている。花色の瞳と相まって、よく似合う。
空を飛んでいるゆえか、長い裾のワンピースドレスに身を包んでいる。折り重なったレースがシルフの風に揺れて、その存在を神秘的に見せた。
『わたしは風の精霊の眷属、シルフ。目覚めさせてくれたことに、感謝するわ』
シルフがにこりと微笑むと、タルトが「にゃっ!」と声をあげ私を見る。おそらく、クエストウィンドウが出たのだろう。
タルトは深呼吸をしてから、改めてシルフに向き合った。
「初めまして、シルフ様。タルトですにゃ。よろしくお願いしますですにゃ」
『わたしの主人はタルトというのね。覚えたわ。よろしく、タルト。わたしを卵から孵してくれて感謝しているのよ』
「もったいないお言葉ですにゃ!」
にゃにゃにゃと照れながら、タルトは私たちを紹介してくれる。
「わたしの仲間を紹介しますですにゃ! 〈聖女〉のお師匠さまで――にゃっ!」
タルトが私を紹介するのと同時に、私とケントの姿がケットシーから人間に戻っていく。どうやら効果時間の一時間が経ったようだ。
『二人はケットシーではなく、人間なのね』
「この島に来るときに、ケットシーの姿になっていたんです。ですが、本来の姿でご挨拶できてよかったです。私は冒険者をしている、〈聖女〉のシャロン。よろしくお願いします。シルフ様」
「俺はケント、〈竜騎士〉です」
「私はココア、〈歌魔法師〉です」
「ルルイエ。ルルって呼んで」
「私はサンゴ、〈世界樹の巫女〉です。この島のことで何かありましたら、私に相談してください。それから、あちらにいるのは先代の〈世界樹の巫女〉、大婆様のシャラ様、それから世界樹の神殿に仕える神官と巫女たちです。不自由があった際は遠慮なく何でもお申し付けくださいませ」
『挨拶頂きありがとう』
全員の挨拶を受けたシルフは、次にサラマンダー、ウンディーネ、ノームへと視線を向けた。自分と同じ精霊の眷属たちがいることに、どこかホッとした様子を見せている。
チラリと世界樹を見上げてから、シルフは口を開いた。
『わたしの目覚めが遅くなってしまってごめんなさいね、ウンディーネ、ノーム。それから、サラマンダー……』
『構わないのだわ。わたくしだって、ずっと貝の中にいたのだもの』
『……? そうなのね』
シルフはウンディーネが貝に閉じ込められていたことに不思議そうな顔をしたけれど、そんなに重要ではないと判断したのか流してしまった。
『目覚めたのだから、さっそく世界樹の世話をするわ』
シルフはそう言い終わると、サラマンダーの前へ舞い降りた。サラマンダーは私の杖の力からか、一回り体が大きくなっている。
『サラマンダーは、ちゃんとわたしたちの役目を覚えていてくれている?』
『がああぁ!』
シルフの役目は、サラマンダーの吐く熱を、その風の力で世界樹のてっぺんまで届かせることだ。
シルフとサラマンダーは連携が必要になってくる。もしかしたら、卵から孵化した二人ではあるけれど、昔からの相棒のような存在なのかもしれない。
『いきますよ』
『があ!』
静かなシルフの声に、サラマンダーが続く。
サラマンダーが吠えて、空に向かって炎を吐いた。シルフは風を操って、その熱風を世界樹の周囲と――ぐんぐん空の上まで運んでいく。シルフ自身が世界樹の上へと飛んでいって、一緒にその熱い空気を持ち上げていっている。
すると、見る見るうちに世界樹が元気になっていく。その光景はまるで開花を早送りで見ているようだった。
「すごい……まさに、再生してるみたい」
ずっと見ていたいような美しい光景だった。
「お師匠さま、みんな、ちょっといいですにゃ?」
シルフたちが世界樹の世話をしている間にと、タルトが私たちに出現したクエストウィンドウの話を振ってきた。
「そうだよな、〈創造者〉になるには、四属性すべての眷属の卵を孵化させるっていうのが条件だったもんな」
ケントの言葉に、タルトはすぐに頷いた。
「ということは、もしかしてもう〈創造者〉になってたりするの!?」
「確かに!」
今度はココアがハッとして、ケントも同意してタルトを見る。しかしタルト自身には何の変化もないため、二人して首を傾げた。
「まだなってないですにゃ! でも、条件はわかりましたにゃ」
そう言って、タルトはクエストウィンドウの内容を教えてくれる。
【〈創造者〉への転職】
すべての眷属を目覚めさせたあなたは、転職の栄誉を得ることができます。新たなポーションを作り、己の価値を示しなさい。
〈大樹の再生薬〉
素材:
サラマンダーの尾
ウンディーネの鱗
ノームの髭
シルフの花びら
どうやら〈創造者〉への転職は、指定された薬を作ることによって達成されるようだ。
ただ内容を見たところ、材料を精霊の眷属たちにもらわなければいけない。サラマンダーの尻尾とか、そう気軽にほしいと言えるものではないのでは……?
もしかしなくても、この材料集めが転職への最後の試練なのだろう。
「まじか、素材がえぐすぎるぞ……」
ケントがドン引きした様子で呟くと、ココアも眉を下げてタルトを見た。
「この中だと、ウンディーネ様の鱗とノーム様の髭が比較的手に入りやすい……のかな?」
「確かに。尻尾と花びらは、体の一部っぽいもんな」
鱗は生え変わりで落ちるかもしれないし、髭であれば痛覚はないためほしいと伝えるハードルは確かに低いと私も思う。
……あとはきっと、タルトと精霊の眷属たちの信頼関係とかかな。
「わたし、みんなと話をしてみますにゃ。時間がかかっちゃうかもしれないですけど、待っててくれますにゃ?」
「もちろん」
タルトの言葉に、私たち全員が頷いた。
「でも、協力は惜しまないから手助けが必要なときはちゃんと言ってね」
私が〈聖女〉になるときだって、みんなの力を借りたのだ。もちろん、一人でクエストを乗り越えて転職したいことだってあるだろう。私だって、〈癒し手〉の転職は一人でしたしね。……まあ、そもそも祈るだけだったけれど。
「タルトが〈創造者〉になるの、楽しみにしてるぜ!」
「転職したら、すぐレベル上げに行こうね!」
「ご馳走も作る」
「はいですにゃ!」
ケント、ココア、ルルイエがタルトに応援の言葉を伝えて気合を入れた。
***
――さて。
ひとまず世界樹の復活はタルトの〈創造者〉転職クエストを進めていけばどうにかなりそうだ。
私は神殿で用意してもらった部屋のベッドに腰掛けて、今後のことを考える。
「〈花降る鈴扇〉、かぁ」
名前からして装備なのだろうけれど、手がかりがまったくなくて詰んでいるのだ。トトンにも聞いてみはしたのだが、「知らない㌧」と言われてしまった。
「いったいどこにあるんだろう。報酬も〈カメラ〉の実装だしさぁ……!! このクエスト、いろいろと規格外すぎるんだよ!!」
神殿の部屋なので自重するけれど、ここが無人島だったら思いっきりなんなんだ~~! と叫んでいたことは間違いないだろう。
「伝説の鍛冶師トトンが知らない情報で、一応は前線張ってたプレイヤーの私も知らない装備とかさぁ。手がかりがあるとすれば……まあ、世界樹関連ってことだよね」
世界樹がなんらかの手掛かりにはなるのではないか、とは思う。
「世界樹、世界樹のあるここ〈大樹の島〉、それを守るケットシーたち、特殊職業の〈世界樹の巫女〉に………………ん?」
はたと気付く。
「いや、〈世界樹の巫女〉はサンゴさん一人だけ……ってことは、もしかしてユニーク職業なんじゃない?」
そう考えた方がしっくりくる。
「〈花降る鈴扇〉が専属装備だと考えると、さらにそれっぽいよね」
私に対してこのクエストが発動してはいるけれど、もし〈世界樹の巫女〉としても関係しているのならば……サンゴと行動を共にすることでフラグが立つのではないだろうか? それは、あくまで私は〈世界樹の巫女〉の協力者という立場でクエストを進めるということだ。
……うん。なんか、その可能性はあるような気がしてきたね。
「よし、明日はサンゴを誘ってみよう!」




