11 新しい杖
――ついに私の新たな杖の製作が始まる。
「おお、〈オリハルコン〉だ㌧! この美しい輝き、間違いない㌧!!」
宝箱から出た〈オリハルコン〉を持ち帰った私は、さっそくトトンに渡す。するとトトンは、目を輝かせて〈オリハルコン〉を見てうっとりした。
「すぐ作業に取り掛かる㌧! ほかの素材は揃ってる㌧?」
「はい」
トトンの言葉に頷いて、私は素材を取り出していく。
「まずは、私が使っている〈芽吹きの杖〉」
私が手に持つ杖を、トトンが恭しく受け取る。優しく撫でて、「何度見てもいい杖だ㌧」と目を細めた。
「それから、〈聖水〉と〈楽園の雫〉」
「確かに㌧」
これは私が持っていたストックから出している。やはりアイテムは一定数ため込んでおくに限るね。
〈オリハルコン〉はすでにトトンに渡してあるので、あと一つ必要なものは――
「天使ちゃん、お願い」
「仕方がないですね」
ふわりと、天使が私の眼前に舞い降りた。
天使の手を左手で優しく取って、背中から生える純白の翼に右手を伸ばす。ふわふわで、優しい感触の翼はずっと触っていたいと思ってしまう触り心地だった。
天使の翼をもらうなんて、背徳的だ。
「自分勝手な理由で、天使ちゃんの綺麗な羽根をねだってごめんね」
それでも、今はこの美しい羽根がほしくてたまらない。
「貸し一つ、と言いましたよ」
「はあい」
どうやら天使自身は私に羽を渡すことに、そこまで嫌悪はしてないようだ。
「……ん」
羽根に触れた手に力を込めると、ぷつりと音を立てて羽根が抜けて天使から声がもれた。
痛かったかもしれないと思い、私はすぐに〈絶対回復〉と〈治癒〉をかける。傷になったりしていても、これで治ってるはずだ。
「天使ちゃん、大丈夫?」
「問題ないです」
「ありがとう」
私がお礼を告げると、天使はふわりと微笑んで姿を消してしまった。
……もしかして、結構体力消耗したりしちゃったかな?
羽根をもらったことで召喚が解除されるほどの負荷がかかっていたのだとしたら、とてつもなく申し訳ない。貸しとは言われたけれど、次に召喚するまでに、改めてお礼に何か用意しておこう。
天使の純白の羽根は、キラキラ輝いていた。
すでに天使の身体から離れてしまったのに、圧倒する存在感に、美しさ。そして畏怖を覚えて――少し身体が震えた。
「まるで絵画のような光景だった㌧……! こんなすごい羽根だなんて、驚いた㌧!」
トトンは興奮がやまないようで、呼吸が荒い。そしてすぐに取り掛かりたいようで、「聖なる火柱はいける㌧か!?」と声をあげた。
「もちろん!」
私はすぐに頷いて、持ってきた世界樹の樹皮、枝、葉を作業机の上に出す。
「これが世界樹㌧? 初めて見たけど、思ってたより……㌧」
枯れている……とは、さすがのトトンも口にはしなかった。でも、枯れているというのは葉を見たら一目瞭然だし、樹皮だってかなりボロボロだ。
けれど、世界樹が枯れていますとサンゴの許可なく他者へ口にすることは憚られる。私はごまかす意味も含めつつ、「自然に落ちてきた葉ですから、そんなものなのでは?」なんて口にした。
「それは一理ある㌧」
まあ、今大事なのは聖なる火柱が立つかどうかってことだ。トトンは聖なる火柱ができれば問題ないと判断したようだ。
「工房の窯に入れて、そこで火柱をあげてほしい㌧」
トトンは世界樹の素材を窯の中へ丁寧に入れていく。ここでおこした火柱で、私の杖を作っていくのだ。
……楽しみすぎるね。
「タルト、お願い」
「はいですにゃ! サラちゃん!」
タルトは肩に乗っていたサラマンダーに呼びかけて指示を出す。
「サラちゃん、聖なる火柱を立ててほしいんですにゃ。窯の中にお願いしますにゃ」
『があっ!』
任せろと言わんばかりに、サラマンダーはタルトの肩から飛び降りる。一回転しながら床に着地し、窯に狙いを定めると大きく息を吸って『がっ!』と声をあげて炎を吐く。
『すごい㌧!』
サラマンダーの炎はあっという間に窯の中へ消えていき、入れてあった世界樹の樹皮や葉に火が灯った。その炎に、トトンが目を奪われている。
「きた㌧! きた㌧! きた㌧!」
トトンのテンションがどんどん上がっていく。それは立ち上がった聖なる火柱のように熱く色めいていて。
「すごい㌧! こんな輝きの炎、初めて見た㌧! ああ、もっともっと燃えて高温度に達していく㌧! 今ならどんなものでもおいらが武器にできる㌧!!」
星がパチパチと舞う火柱は、確かに世界樹の前で見たものと同じだった。何度見ても神秘的で美しいものはあるのだなと、私の頬が緩む。
トトンは何度か深呼吸をした後に、「始める㌧」と真剣な声で宣言する。
「聖なる火柱で聖女様の杖を作れる栄誉を与えられたことに、感謝します㌧」
トトンは〈オリハルコン〉に〈聖水〉をかけた。
不思議なことに、〈聖水〉は〈オリハルコン〉の外側に流れ伝うことなく、その内部へと吸い込まれていった。
いったいどうなってるのかわからないけれど、私はその作業から目が離せなくなる。
トトンは〈オリハルコン〉を聖なる火柱の中へ投げ入れて、しばらく時間を置いて取り出し、ハンマーで叩く。キィンという高い音とともに、〈オリハルコン〉から星が散る。
それを何度か繰り返して、次に手にしたのは〈芽吹きの杖〉だ。その杖の上に重なるように〈オリハルコン〉を置き、〈楽園の雫〉を振りかけた。すると、〈オリハルコン〉と〈芽吹きの杖〉がまるで磁石のようにくっついた。
トトンは杖の柄の部分を持って、再び聖なる火柱の中へ入れて、〈オリハルコン〉と〈芽吹きの杖〉を熱していく。
すると、〈オリハルコン〉が〈芽吹きの杖〉に浸食するように溶けていった。まるで〈オハルコン〉が〈芽吹きの杖〉を乗っ取るかのように。
聖なる火柱で熱し、トトンのハンマーで叩き形を整えていく。それを何度か繰り返し、トトンは新たな杖の形を作っていく。
だいたい三〇分ぐらい経ったころだろうか。トトンは杖の全体を聖なる火柱の中へ入れてしまった。
「ふぅ~㌧。さすがに扱いが難しい㌧! まだ時間がかかるから、みんなは休んでいるといい㌧。……タルトがそろそろ限界そうだ㌧」
「にゃふぅ……」
見ると、タルトは工房内の暑さでやられてしまったようでぐったりしている。私もケントもトトンの作業風景に目を奪われて、タルトの状態にまで目がいってなかった。私は慌てて冷たい水を取り出し、タルトの背中を支える。
「ごめん、タルト! 気づけなくて!! 水飲んで、向こうで休もう」
「すみませんですにゃ……」
「大丈夫、大丈夫。ゆっくりでいいから」
タルトに水を飲ませると、大きく息をはいて少し落ち着けたようだ。よかった、重度の熱中症みたいな酷い症状まではいっていなかった。
「杖のことはおいらにまかせて、三人はゆっくりする㌧」
「ありがとうございます。杖、お願いします!」
トトンの言葉に甘え、私たちは居住スペースへ移動した。
私たちはそれぞれゲストルームを貸してもらっているので、タルトの体を冷やして水分をたくさん飲ませてから、それぞれ休むことにした。
私は一人ベッドの中に入って、もうすぐ出来上がるだろう新しい杖に思いを馳せる。
目を閉じてそろそろ眠らなければと思うけれど、ワクワクする気持ちが多くてなかなか寝付けない。
体感で三〇分、いや一時間は経っただろうか。
小さくだけれど、カンカンとトトンがハンマーを振るう音が聞こえてきた。そのなかに時折キィンという甲高い音が混じって、あ、私の武器を作ってくれているのだなということがわかる。
私はそのハンマーの音を子守唄のように、気付いた時にはすっかり眠りの中にいた。
***
「完成だ㌧~~!」
――朝、トトンの大声で私は勢いよく目が覚めた。
「私の、杖っ!!」
すぐさまベッドから起き上がって顔を洗い、服を着替えて部屋のドアを勢いに任せて開ける。ちょうどケントとタルトも飛び出してきて、タイミングが同じすぎてついつい笑ってしまう。
杖が楽しみすぎる三人で走って工房のドアへ我先にと飛び込むと、トトンが誇らしげに私たちを待ち構えていた。
「トトン、杖……が……」
言葉を全部言い終えるよりも先に、私の視界に入ったソレに、感情のすべてを奪われる。
トトンの手にしっかり持たれているその杖は、元々の〈芽吹きの杖〉の雰囲気を残しつつも、一段階進化しているように見えた。
まるで、芽吹いたあとの成長した姿のようで。私はトトンの持つ杖に手を伸ばし――新しい杖を受け取った。
「これは〈花兆しの聖杖〉㌧。〈聖女〉に相応しい、良い杖になってくれた㌧」
「……はい。ありがとう……ありがとうございます、トトン。大切にします。私だけの、〈花兆しの聖杖〉を……」
杖をぎゅっと抱きしめて、私はじんわり目頭が熱くなるのを感じた。私はまだ、これからもっと強くなれる。
〈花兆しの聖杖〉
回復系スキルの効果+20%
ヒール系スキルの回復量+20%
聖属性+5%
闇属性耐性+5%
自然マナ回復量+5%
マナ量+5%
マナ消費量-5%
やっと新しい杖が完成した……!!




