8 材料集め
「よ~し、おいらの全力を見せてやる㌧!」
トトンは気合の入った声をあげて、打ち合わせスペースから工房へと戻っていった。すぐにでも私の杖作りに取り掛かってくれるようだ。
私たちもその後についていき、早速段取りの説明を受ける。
「まず杖の作り方だが、やっぱり聖女様の〈芽吹きの杖〉を大元に作ろうと思う㌧。これは聖女様の手に馴染んでるいい杖だ㌧」
「私も愛着が湧いていたので、使ってもらえるなら嬉しいです」
「決定だ㌧!」
問題は次だ。
〈芽吹きの杖〉を素材として使うからそこまで無茶ぶりはないだろうけれど、かなりの素材を要求されるはずだ。
……んあ~、ヒヤヒヤする!
「次に必要な材料だ㌧。聖なる火柱は必須㌧。あとは、〈聖水〉〈楽園の雫〉〈オリハルコン〉。それから、何か羽根がほしい㌧」
「羽根ですか……?」
最後のアイテムだけやけに抽象的で、私はどういったものが必要なのかトトンに聞き返す。
小さな鳥から大きな鳥まで、羽の種類は様々だからだ。
使う羽によって杖の性能に差が出るのであれば、可能な限り上質な羽を手に入れるべきだろう。
「㌧……。聖女様の杖になるから、品質がいいに越したことはない㌧。杖に力を固定してなじませる触媒として使おうと思ってるんだ㌧。コーティングするイメージが近いかもしれない㌧」
「なるほどです」
つまり、塗装みたいなイメージだろうか?
あまりにもしょぼいもので加工してしまったら、杖本体が良くても側に使った羽根のせいで駄目になってしまうということもあるかもしれない。
これは気合を入れて羽根を探さなければならなさそうだ。
……うーん、何かいい羽根あったかな。やばそうなモンスターを倒してドロップを狙うのがいいのか、それとも自然界に住む鳥がいいのか。
私がうんうん頭を悩ませていると、タルトが「〈オリハルコン〉ですにゃ!?」と驚きの声をあげた。
……そうだった、〈オリハルコン〉もだったね。
ケントとココアは「〈楽園の雫〉って何!?」と慌てている。名前から考えて、かなり重要なアイテムだと思ったのだろう。
これは〈エルンゴアの楽園〉にある薬草庭園に行けば採取することができるので、私たちにとっては難しいものではない。
〈聖水〉はツィレで買った在庫があるし、なんだかんだどうにかなりそうという気持ちは大きいのだけれど、いかんせんタルトが驚いた通り材料の一つに〈オリハルコン〉をあげられてしまった。
まあ、そうだよね。聖なる火柱で聖女の杖を作るんだから、素材だって最高級のものを求められるに決まっているかい。
ゲーム時代も、トトンから〈オリハルコン〉を要求されたプレイヤーは少なくない。それもあって、炭鉱のゴーレムが湧くたびに瞬殺されていたわけだけれど。
「これは頑張って毎日炭鉱に通うしかないね」
「そうだな」
私の言葉にケントが気楽な返事をしてくれたが、一番の被害者になるのは前衛でネズミに齧られまくる自分だということを忘れているのだろうか。
でも、もしかしたら〈オリハルコン〉が出る頃にはケントもネズミに慣れて簡単にいなせるようになってるかもしれない。
……ケントの成長には無限の可能性を感じるよ!
ということで、私たちは毎日炭鉱で〈オリハルコンゴーレム〉に挑む日々を送ることとなった。
今の私たちがすべきことまとめ。
ボスの〈オリハルコンゴーレム〉を倒して〈オリハルコン〉が出るまで毎日狩る。
なんかすごい羽根を手に入れる。
この二つは杖の材料。
朝日とともにしか咲かない〈キラキラ花〉の採取。
こっちは〈大樹の島〉へ帰るための〈変身ポーション:ケットシー〉を作るための材料。
……なかなかにハードなスケジュールだね。
そんなこんなで、私たちは二日かけて〈キラキラ花〉の採取に成功し、タルトには〈変身ポーション:ケットシー〉を作ってもらった。
これで私の武器ができてもすぐ〈大樹の島〉へ戻ることができる。
……前回みたいに何日も〈キラキラ花〉が入手できない、なんてことにならなくて本当によかった。
***
〈キラキラ花〉を採取するためにダンジョンから出た私たちは、羽を求めて情報収集をすることにした。
訪れたのは〈聖都ツィレ〉の冒険者ギルド。モンスターはもちろんだけれど、自然動物の情報も多少ならばあるはずだ。
「鳥モンスターか、普通の鳥か……どっちがいいんだろうな?」
「わかんないよねぇ。トトンも、どっちがいい……みたいな雰囲気じゃなかったし」
私とケントでそんな話をしながら、受付嬢のプリムに話しかける。
「こんにちは、シャロンさん、ケントさん、タルトさん。本日はどのようなご用件ですか? 〈オークのぼろ布〉はすぐ在庫確認いたしますね」
さすがはプリム、私たちが来ただけでぼろ布の在庫をすぐさま確認してくれる優秀っぷりだ。
ここ最近は〈冒険の腕輪〉を持つ冒険者たちが増えてきたこともあり、以前より素材を入手しやすくなった。冒険者たちのレベルが上がってきたからだ。
「鳥の羽根が欲しくて情報を集めてるんです。できるだけ希少価値の高い羽根がいいんですけど、そういったアイテムとか、例えばモンスターじゃない自然の鳥で希少な種がいたら教えてほしくて」
「鳥の羽根ですか……?」
まったく想定外の質問だったようで、プリムはうーんと首を傾げて悩んでいる。
……まあ、確かに希少な羽根ありませんか。なんて突然言われても困っちゃうよね。
「鳥のモンスターがいないわけではないですけれど、希少な羽根、もしくは強い個体となると、なかなかこちらで情報をお渡しするのが難しいですね。むしろ、シャロンさんたちの方が詳しいと思いますし……」
「それはそう」
プリムの言葉に、ケントが即効で頷いた。
確かにこの世界のゲームで実装されていた情報であれば、全て私の頭の中に入っている。
アップデートされた内容については私にはわからないけれど……攻略難易度が高いので、この世界の住民である冒険者が情報を手に入れているとは思えない。
なので、冒険者ギルドで新しいモンスターの情報を得るのは難しいだろう。
となると、やっぱり誰かから情報を得ようとしたら普通の鳥になる。
「例えば山の主で、でっかい鷲がいるとか、そういう情報はないですか?」
「そうですね……鷲や鷹は生息してるでしょうけど、それが主かどうかって言われるとちょっと情報がないですね。かといって貴重な鳥っていう話もなくて……」
プリムが申し訳なさそうに話を続ける。
「私たち冒険者ギルドは、鳥の生態を守るというよりは、人間に害をなす鳥かどうかで判断してるところが大きいですからね。例えば小さくて希少価値が高くても、害がなければこちらから調査するということはほぼないです」
「そうですよね……」
確かにそれもその通りだと私は頷いた。
冒険者ギルドがすべきことは、モンスターの管理、モンスターの情報収集と人間に害を為す動植物の調査だ。
……仕方がないとはいえ、なかなか難航しそうだね。
「ありがとうございます。自分たちでどうにか探してみようと思います」
「お力になれずすみません……」
「いえ!」
私たちはお礼を言って、忘れずに〈オークのぼろ布〉を買い取ってから受付を後にした。
のんびり街中を歩きながら、露店などに目を向ける。
もしかしたら鳥の装飾品やアイテムを取り扱ってるかもしれないと思ったからだ。とはいえ、そんなすごい羽根が露店なんかでぽんと売ってるわけないよね。
天使は楽しそうに露店を見て、「なかなか良い品ではないですか?」と言っている。見ると並んでいるのはブローチで、どうやら気に入るデザインがあったようだ。
「ほしいものがあるなら、プレゼントするよ」
「! いいのですか、シャロン」
「もちろん。いつも助けてもらってるし」
私の提案に驚いたのか、天使がぱっちりした大きな瞳を瞬かせた。いつもの冷静な色とは違って、嬉しいという気持ちが見られる。
天使が手に取ったのは、白に青、緑、黄色と複数の色が混ざった鉱石をあしらったブローチだった。金額的には、そんなに高くない。だけど、色素が薄く神秘的で儚い天使にはよく似合う。
「これをお願いします」
「うん。天使ちゃんによく似合うね」
「素敵ですにゃ!」
タルトも魚の形のブローチを眺めながら、天使を褒めている。
その横では、ケントが「女はやっぱりこういうのが好きなのか……」と口元に手を当ててじいぃ~っとブローチを見ていた。
……ココアにプレゼントでもしようとしてるのかな?
可愛いじゃんと、ついついケントの視線を追ってしまう。可愛いピンクの鉱石、形をハートに整えている鉱石のブローチなどを見ている。
……わああああ、青春真っただ中の男子だ!
やばい、顔がニヤニヤしてしまう。
「ケントが見てるやつも可愛いですにゃ」
「でも、俺はお洒落とかあんまりわかんないからさ。うーん……こういう、値段が高いやつの方が間違いないんじゃね? って思っちゃうというか」
「気持ちが大事なんですにゃ! ケントがココアのために選んだっていう気持ちですにゃ!」
「えっ!? 俺、ココアになんて言ったか……?」
「にゃっ!?」
おっと話の流れが変わってきたぞ。
タルトが両手で口元を押さえて、「…………言ってましたにゃ」と目を逸らした。私は思わず笑った。
「んっふふふっ、ケントが選んだやつなら、ココアは喜んでくれるよ!」
「シャロンまで!」
「その通りですよ、ケント。人間はキラキラ光る石だったり、産出の少ないものが本当に好きですね。どの鉱石だって、大地の恵みから生まれたことに違いはないというのに」
自分が良いと思ったものを選べばいいのだと、天使が言う。
普段はツンケンしているのに、さすがは天使というだけあってその純粋な言葉に私はただただ頷くしかできない。
「ケントは心行くまでココアに似合うのを探せばいいよ。おじさん、このブローチをお願いします」
「毎度どうも!」
店主に代金を支払うと、天使は嬉しそうに微笑んでブローチを大切そうにしまった。
「ありがとうございます、シャロン」
「どういたしまして!」
なんだか天使との距離が近づいた気がするね。
今まで戦闘のときに天使を呼び出すばかりだったけど、普段から交流を持つのも楽しくていいかもしれない。
「シャロン、なんだかにやけていますよ」
「おっと、いけないけない」
私は手のひらで頬を軽く揉んで、表情をキリッとさせてみた。そして私の思考は羽根をどうするかというところに戻っていく。
「私は羽根が必要なんだよ、鳥の羽根が。でも、普通の鳥モンスターの羽根じゃなんかいまいち魅力に欠けるというか……」
「魅力、ですか?」
「ないわけじゃないんだけど、もっとこう……誰もが息を呑むような羽根がほしいというか」
ふと、ここから西に行った先に〈亜人のなれ果て〉というダンジョンがあることを思い出す。
ここは様々な亜人のモンスターがいるのだけれど、亜人が自我を失い凶暴なモンスターになってしまった……という設定の場所だ。そんな亜人たちが押し込められている島で、中には鳥の亜人もいる。
あまり気持ちのいいダンジョンではないけれど、モンスターのレベルはそこそこ高く、経験値もまあまあおいしい。
……鳥の亜人の羽根、か。
候補に入れてもいいかもしれないけれど、〈亜人のなれ果て〉にはケットシーのなれ果てもいる。
そんな場所にタルトを連れて行くのは、なんというか、あまり気分のいいものではないだろう。
……あれ?
そこで私はがばっと横を見る。視界に入ったのは、ケントがココアにプレゼントするのはどれがいいかと露店を見ている天使とタルト。
「ねえ、天使ちゃん。翼の羽根一枚、私にくれない?」
「…………」




