6 トトンの試練
トトンの工房は鉱石の外壁で、どっしりした造りだ。工房の中には居住スペースもあり、この中で生活のすべてが済む。
カーンカーンと武器を作っているであろう作業の音が聞こえてきて、期待に胸が高鳴る。
しかしケントが待ったをかけた。
「あれ? 俺たちまだ炭鉱? に行ってなくないか? ネズミとクマと戦ってないし、そもそもボスは?」
ケントの疑問はもっともだが、そこまでダンジョンを渇望していたとは……と苦笑する。
「炭鉱は、トトンの工房の裏手にあるんだけど……まずはトトンと会ってからかな」
「シャロンがそう言うなら、なんか理由があるんだろうな。よし、会いに行こうぜ!」
「行きましょうですにゃ!」
トトンの工房のドアをノックすると、しばらくした後に「は〜い㌧」という返事が聞こえてきてドアが開いた。
「お客さんなんて、久しぶり㌧!」
「こんにちは。冒険者のパーティで、私はシャロンといいます」
「ケントです」
「タルトですにゃ」
「天使ちゃんと呼んでいいですよ」
私たちが順番に名乗ると、トトンは「こんなに大勢㌧!?」と驚いている。
「おいらはトトン! ここで武器を作ってる鍛治師だ㌧!」
ダンジョン〈トーラスの山頂〉の奥に工房を構える小人のトトン。
身長は八〇センチほどと小さく、その体はだいたい三頭身だろうか。外見年齢は一四歳くらいに見えるけれど、小人であること、伝説の鍛治師という特性のNPCということもあって実際の年齢は不明だ。
グレーの髪は後ろで簡単にくくっていて、オレンジの瞳はずっと鍛治の火を見ていた色だと言われている。厚手の皮で作られたエプロンには大きなポケットがついていて、鍛治道具がたくさん詰められている。
……実物のトトン、可愛い系男子だね!
私はそんな感想をいだきつつも、話を進めていく。まずは依頼を受けてもらわなければ、ここに来た意味もなくなってしまう。
「はい。噂を聞いて訪ねてきました。ぜひ、武器を作ってくれませんか?」
「仕事の話㌧ね」
トトンはなるほどと頷いて、「いい㌧よ」と私たちを見た。
「だけど、おいらの生み出す武器は一級品だ㌧! そんじょそこらの冒険者には、打ってやらない㌧」
そう言いながら、トトンは手に持っていた〈星降りの金槌〉でどんと地面を叩いた。その叩いた衝撃で星のエフェクトが現れて散る。
「このダンジョンのボスを倒す㌧! そうすれば、おいらの武器を持つ資格をやる㌧!!」
もう一度、金槌が地面を叩いて星が散った。
タルト、ケント、天使は突然突きつけられた条件に驚いたようだが、すぐ余裕そうな笑顔を見せた。
「はいですにゃ!」
「ボスくらい、朝飯前です!」
「この地上に、わたしより強い存在なんていないのですよ」
……みんなめっちゃ強気〜〜〜〜! でもそこがイイ!
そして出てくるクエストウィンドウ。
【トトンからの挑戦状】
〈トーレスの山頂〉のボスを倒し、伝説の鍛治師トトンの武器を持つ資格を手に入れろ!
「なんだ、ずいぶん余裕そうだ㌧」
「ボスくらい倒せなきゃ、トトンの武器に相応しくないですからね。すぐに倒してきます」
「お前……確かシャロンといった㌧か。いい㌧ね。戻ってくるのを楽しみに待つ㌧!」
トトンはケラケラ笑いながら、「工房の裏手の崖に階段を作ってあるから、そこを通るといい㌧」と先に進む道を示してくれた。
工房の裏にある崖の中腹に、炭鉱の入り口があった。
「中は……明かりもないし、真っ暗だな」
先頭のケントがまず炭鉱内へ足を踏み入れて、五メートルほどのところで呟いた。
入り口から入ってくる外の光しか光源がないため、少し先へ進んだら真っ暗になってしまうだろう。
「ランタンを持つしかないですにゃ」
「そうするか」
タルトの提案にケントが頷き、〈簡易倉庫〉からランタンを取り出している。私とタルトも自分の分は持っているので取り出し、私は予備を天使に渡した。
「これだけ明るければ大丈夫そうだな」
「だけど、ここはモンスターも出てくるからね。戦闘中に放り投げちゃわないように気をつけてね」
「了解! でもまあ、大丈夫だろう! なんたって、俺たち結構強いし!」
ケントは自信満々に告げると、私が全員に支援をかけ終わるのを待ってから「いくぜ!」と歩き始めた。
そして五分後。
「ぎゃああああああああああ!」
炭鉱内にケントの悲鳴が響き渡った。
「〈守護の光〉〈星の光〉! 頑張って、ケント!」
「いやいやいやいや、待ってこのクマめっちゃ強いしネズミは数が多すぎるんだけどなんなんだよこれ!! 痛い痛い痛い痛い痛い!!」
「……トトンの試練だよ」
私がケントを回復しながらも冷静に返すと、「うわあああ」と悲鳴があがる。
そう、実はこのクエスト――上級者向けだったりするのだ。
中堅のプレイヤーが六人くらい集まっていくレベルの難易度で、初心者なんて歯が立たない。上級プレイヤーでもソロはかなりきついし、職業によっては絶望的なものもある。
ケントが悲鳴を上げながら戦っているとおりなのだけれど、炭鉱内のモンスターは桁違いに強くなるのだ。なので、先ほどまでのダンジョン内部と敵のレベルが同じだと思っていると一瞬でやられてしまう。
「〈炭鉱キングベア〉はでかくて攻撃力が高いから、ごりごりHPを削ってくる。〈炭鉱ネズミ〉は攻撃力こそクマには及ばないけど、その分めちゃくちゃ数が多いから……バリアが一瞬で食い破られる」
そう、バリアが一瞬で防御回数に達してなくなってしまうのが一番辛いポイントなのだ。ネズミの攻撃でバリアが消えちゃうから、クマの強い一撃も必然的にくらうことが多くなる。
今までも数が多いモンスターとの遭遇はあったけれど、ネズミはそのときの倍以上。しかも今はパーティを二つに分けているため、メンバーが少ない。
殲滅速度が遅いため、前衛のケントにかかる負荷も必然的に重くなっている。タルトが〈ポーション投げ〉をしているけれど、ここは炭鉱の中。何も考えずに連続で投げて炭鉱の内部が崩れでもしたら大変だ。
そのため、タルトも多少セーブをしながら〈火炎瓶〉を投げている。逆に天使は薙刀の槍で遠慮なくクマとネズミを攻撃している。
私はケントに〈癒しの光〉をかけてから、天使に〈必殺の光〉をかける。これは次の攻撃力が三倍になるスキルだ。
「天使ちゃん、まずはクマを倒しちゃって!」
「それが良さそうですね。ケント、ネズミの小さい攻撃くらい耐えてみせなさい」
天使は慈愛の笑みを浮かべると、手に持つ薙刀の槍でクマに力強い一撃を入れる。そのまま吹っ飛んでいったクマは、『グオォロロロ』と低い声を上げて虫の息になった。
「あら、あの攻撃で全部削れないなんて」
「〈ポーション投げ〉ですにゃ!」
しかしすぐにタルトが反応して、天使のフォローに回る。
「あら。タルト、ありがとう」
「どうしたしましてですにゃ!」
タルトのポーション投げがとどめになったようで、吹っ飛んでいったクマは光の粒子になって消えた。
「よし、よし……!」
ケントがよくやったと言わんばかりに拳をぐっと握っている。
これにて一件落着。なんてなればよかったのだけれど、残念ながらケントの元にはクマがあと二体もいる。
足元のネズミは遠慮なくケントに齧りついていて、ときおり「痛い痛い!」と声をあげている。
私はそんなケントを見て適度にヒールをかけつつ、タルトにも〈必殺の光〉をかける。
「やってやりますにゃ! 〈ポーション投げ〉にゃ!」
今日は一段とタルトの気合が入っている。いつもはココアとルルイエがいて火力はだいぶ余裕はあるが、今二人はいない。必然的にタルトの攻撃力がパーティの火力に直結する。
タルトの〈ポーション投げ〉がネズミに命中し、ケントの足元で小さな爆発が起こった。その威力でネズミが吹っ飛んでいくが、さすがに高レベルのケントはケロリとしている。
「やったな、タルト!」
「はいですにゃ! でも、まだクマがいますにゃ!」
気を抜くには早すぎると、タルトが〈火炎瓶〉を構える。私も間髪入れず〈必殺の光〉をかけて、攻撃の威力をあげる。
タルトが〈ポーション投げ〉をするのと同時に、ケントと天使も攻撃に入った。
「〈竜の咆哮〉!」
「〈天使の執愛〉」
ケントの攻撃は重く強い一撃を一体のクマに。天使の攻撃は上部から降り注ぐ鋭利な翼で鋭い一撃をクマに。二人の攻撃はそれぞれ違うクマに向けられた。そしてとどめとばかりに、タルトの範囲攻撃が二体のクマを葬り去る。
「ナイス~!」
私は叫びながら支援をかけなおすと、タルトが嬉しそうに「やりましたにゃ~!」とピースサインをしてみせた。弟子が可愛い。
ケントはふいーっと息をつきながら、「ハードだったぜ」と少しぐったりした様子だ。
「まさか大量のネズミに足を齧られるとは……。夢で魘されそう」
僅かに視線が足元を気にしているので、攻撃されたというよりは、大量のネズミに群がられて恐怖したのかもしれない。
……うん。控えめにいっても大量のネズミに群がられるのは恐怖だね。
しかしここはネズミがたくさん夢の炭鉱。ケントには、もう少し耐えてもらわなければならない。すまぬ。
それから私たちは迷路のような炭鉱の中を必死で進み、一番奥――ボスがいる場所までやってきた。
「やっと、やっとここまできた!!」
私たちの前に現れたのは、このダンジョンの炭鉱のボス――〈オリハルコンゴーレム〉だ。
〈オリハルコン〉。
それはファンタジーでよく耳にする伝説級の鉱石。このゲーム世界にもオリハルコンは存在しているが、その入手難易度は高い。上級プレイヤーでもそう簡単に手に入るものではない。
そんなオリハルコンの名前を冠するこのボスは、低確率ではあるがドロップアイテムに〈オリハルコン〉が含まれる。
そのドロップ率は三パーセントと、まぁ悪くない数字だ。
トトンの試練として〈オリハルコンゴーレム〉を倒さなければいけない。けれど、試練でなくてもゴーレムを狙って狩りに来る冒険者のプレイヤーは多かった。
目の前に君臨するゴーレムを見て、ケントが口を開けて呆けている。
それもそうだろう。〈オリハルコンゴーレム〉という名に相応しい、強い輝きを持つ、がっしりとした硬い体を持つゴーレムだからだ。
おそらく、その体自体がオリハルコンで出来ているだろうということはすぐにわかる。
だというのに、倒しても〈オリハルコン〉が手に入る確率が少ないのはどういうことなのか。
何度も、プレイヤーたちが生きたままあの〈オリハルコン〉をはぐことはできないのかと考えたものだ。
周囲にクマとネズミがいないことを確認しながら、私は支援をかけ直していく。
「〈守護の光〉〈聖女の加護〉〈月の光〉〈星の光〉〈必殺の光〉!」
ケントがぐっと地面を蹴ってゴーレムへ突撃した。
「〈竜の鱗〉〈挑発〉――」
「曝け出しなさい〈天使の赦し〉」
「――からの〈竜の咆哮〉!!」
「〈ポーション投げ〉にゃ!」
ケントの〈挑発〉からちょうど半テンポというタイミングで、天使が何かスキルを使った。しかしスキルの直後にゴーレムの身体ががくんと揺れて膝がわずかに曲がったので、弱体化だったのだろう。
……最高のタイミングでスキル使うじゃん!
勢い止まらぬまま力強い声と共に、ケントがゴーレムへ一撃を入れる。それにタルトが続き、初撃で想定よりもダメージを入れることができた。
ときおりネズミが湧いてくるけれど、それは天使が薙いで倒してくれる。タルトが安心して攻撃できる環境を整えていく。
「行きますにゃ!」
「〈必殺の光〉!」
「〈ポーション投げ〉にゃ~!」
「わたしの前に膝つくといいですよ」
タルトと天使の攻撃で、ゴーレムのオリハルコン部分に亀裂が入った。こんなに早く亀裂が入るとは! と私は驚いたが、きっと天使のスキルが強力だったのだろうと推測する。
……さすがはユニーク職業〈聖女〉の召喚スキルだね。
タルトと天使の攻撃は見事ゴーレムに命中し、後ろによろめいた。
「お、思った以上に利いてるんじゃないか?」
ゴーレムの攻撃を剣でいなしながら、ケントは周囲の状況を確認する。
モンスター、特にボスと戦うときは、自分たちの置かれた状況や戦う場所、そういった情報が実はかなり大切なのだ。
「ゴーレムの身体に亀裂が入ったから、でかい一撃がくるよ。ケント!」
「任せろ! 〈卵の守り人〉!!」
ケントは大幅に防御力を上げるスキルを使って、ゴーレムの攻撃に備える。オリハルコンの身体だけあって、その一撃は通常時でも重いのだから。
『グロオオォォ!』
「うぐっ、おおおおぉぉっ!!」
ゴーレムの拳をケントが剣で受け止めて、ぐっと耐える。おそらく気を抜いたら地面に叩きつけられてぺちゃんこにされてしまうんじゃないだろうか。
「おらあぁっ! 〈輝きの追撃〉!!」
「上手い!」
ケントは二撃与えるスキルを使い、ゴーレムを押し返してひっくり返して見せた。ちょうど亀裂の入ったオリハルコンがあらわになったので、遠慮なくスキルを叩きこむ。
「〈竜の咆哮〉!」
「〈ポーション投げ〉!」
「〈天使の執愛〉」
すると亀裂が広がっていき、パキパキと音が響く。物理的にゴーレムの身体が割れていき、そのまま砕け散った。
キラキラ光の粒子になって、〈オリハルコンゴーレム〉が消える。その場に残ったドロップアイテムは、〈赤石〉と〈青石〉の二つ。
……さすがに初回で〈オリハルコン〉ドロップは無理か~。残念。
「うっしゃ、倒せた!」
「やりましたにゃ~!」
「当然です」
ケント、タルト、天使は誇らしげだ。私も「お疲れ様~!」と声をかけて、〈オリハルコンゴーレム〉の初撃破を喜んだ。




