5 ダンジョン〈トーラスの山頂〉
いざ、新たな武器を求めてトーラス山脈へ――といきたいところだけれど、問題があった。
それは、私たちが人間であるがゆえに島へ再入場できないということだ。現実世界のテーマパークであれば再入場可能なところが多いけれど、いざオンラインゲームとなるとそう上手くはいかないということだ。
「わたしが全員分の〈変身ポーション:ケットシー〉を作りますにゃ! サンゴさんが鍵も貸してくれましたし、それで早く帰ってこれるはずですにゃ!」
タルトの精いっぱいの言葉に、私は「ありがとう〜!」と抱きつく。が、みなさんは覚えておいでだろうか? 私たちがそのポーションの材料〈キラキラ花〉を手に入れるのに、どれだけ大変だったか。
「あ〜〜、あのときはかなり日数がかかったもんな」
ケントが苦笑しつつ言うので、私は思いっきり頷く。
「うーん。世界樹のことも心配だし、今回は二パーティに分かれるのがいいかもしれないね」
島に残る組と、伝説の鍛治師トトンに会いに行く組の二チームだ。
「えっ! 俺トトンに会いたい!!」
「ケントが一番楽しみにしてたもんね」
できればケントの気持ちも汲んであげたいけれど、いかんせんバランスが偏るのもよくない。ここは話し合って決めるのがいいだろう。
「とはいえ、トトンがいるのは〈トーラスの山頂〉というダンジョンの一番奥なんだよね。それを踏まえてパーティを分けよう」
「「待ってそれ聞いてない」」
ケントとココアの声がハモった。
***
「お〜、あれがトーラス山脈か! いつも遠くから眺めてただけだから、近くにくると不思議な感じがするな!」
空の上――ドラゴンに乗って声をあげるケントに、楽しそうだなぁという感想を浮かべる。
さて、私たちは無事にトーラス山脈の近くまでやってきた。話し合いの結果、情報を持っていて武器を作る私は外せないことを踏まえつつ、支援の私シャロン、前衛のケント、火力枠兼サラマンダーの主人としてタルト。今回はこの三人でやってきた。
ココア、ルルイエ、ウンディーネ、ノームはお留守番をしてもらっている。もちろん、その間にウンディーネたちは世界樹の世話もしてもらう。
ちなみにココアも「私だって新しいダンジョンに行きたい!!」と叫んでいたが、島への入場チケットのコストが重いこともあり我慢してもらった。
ちなみに帰るときは〈キラキラ花〉を入手してケットシーになり、サンゴから預かった鍵を使って戻ることになっている。
「そろそろダンジョンの入り口に着くから、降りようか」
「オッケー」
「はいですにゃ!」
ダンジョン〈トーラスの山頂〉は、トーラス山脈の中腹に入り口がある。
私たちは〈ファーブルム王国〉の〈王都ブルーム〉まで〈転移ゲート〉で移動し、そこからドラゴンに乗ってここまでやってきた。
中腹あたりに古びた門があって、ここをくぐるとダンジョンになっている。
「へえええ、これがダンジョン〈トーラスの山頂〉か!」
ケントの目がとてもワクワクしている。早くダンジョン攻略をしたくて仕方がないと、その顔が主張している。
私は横目でそれを見つつ、スキルを使う。
「もう一人戦力を呼ぶよ。〈聖女の祈り〉!」
すると、ぱあっと光り輝き天使が顕現した。
私、〈聖女〉のスキルで召喚できる天使は、戦闘において大いに役に立つ。性格は難ありだけど、それを圧倒する強さがあるのだ。
「あら、わたしの力が必要なのかしら?」
そう言って、天使は周囲を見回して不思議そうな顔をした。どうしてこんな場所に召喚した? とでも言いたそうだ。
「ちょっと今回はイレギュラーといいますか。メンバーが少ないから、天使ちゃんにもパーティに加わってもらいたくて呼ばせてもらったの」
「確かに、いつもより人が少ないですわね。シャロンったら、ついに見捨てられたのかしら?」
「見捨てられてません!」
イレギュラーだと説明したのに、この天使は。
私はため息をつきつつ、ことのあらましを天使に説明した。世界樹周りのことと、これから武器を作るため伝説の鍛治師に会いにいくこと。
「まあ、わたしは心優しい天使ですからね。協力してさしあげます」
「それはありがとうございます」
私と天使のやりとりが終わると、すぐにケントとタルトが天使に声をかけた。
「お久しぶりです、天使ちゃん」
「よろしくお願いしますですにゃ!」
「今回はケントとタルトがメンバーなのですね。わたしのために頑張ってちょうだい」
……そこは天使ちゃんも頑張ってくださいよ。
ダンジョンに入る前からなんだか疲れた気がするが、それはそれと気を取り直して私たちはダンジョンに足を踏み入れた。
出てくるモンスターは、下層に〈角ウサギ〉〈ゴブリン〉〈惑わしの蝶々〉。進むと〈ウィングウルフ〉〈疾風の鷲〉が追加され、ダンジョン内にある鉱石が掘れる洞窟内に〈炭鉱ネズミ〉と〈炭鉱キングベア〉が出てくる。
「モンスター情報サンキュな! いつもみたいに俺が先頭で進むから、何かあったら声をかけてくれ」
「オッケー! せっかくだから、ダンジョン探索もしつつ進もうか」
「うっし、気合が入るぜ!!」
私の言葉を聞いて、ケントは待ってましたとばかりに気合いを入れた。
古びた門をくぐった先に広がったのは、一面の花畑だ。そしてその端は山頂ゆえか、崖になっていて覗き込むと背筋がぞっとしてしまう。
雲より高い場所にあるここは、プレイヤーからは天空の花畑と呼ばれていた。同時に、なんで花畑にゴブリンがいるんだとキレ散らかされてもいたが。どうやら綺麗なので、一部のプレイヤーがデートスポットとして使っていたかららしい。
「綺麗なお花畑ですにゃ〜!」
「天使のわたしにこそ相応しいわね」
タルトと天使が花を愛でていたが、すぐ〈ゴブリン〉が現れた。しかも五体と団体さんだ。
私はその様子をのんびり見ながら全員に支援を回していく。ゴブリンなんて、このメンツならば目を閉じていても余裕で倒すことができるだろう。
「おわ! 一気にきたな!」
「〈ポーション投げ〉ですにゃっ!」
〈ゴブリン〉はタルトの攻撃であっさり光の粒子となって消えた。
「楽勝ですにゃ!」
「わたし、必要だったかしら?」
「奥に進んだら強くなるんですにゃ! 天使ちゃんの力は必要ですにゃ!」
「タルトは素直ないい子なのね」
天使がタルトの頭をいい子いい子と撫でているが、私の弟子をたぶらかすのはやめていただきたい。
「〈ゴブリン〉とかだと、〈挑発〉の必要もないな」
「バリアは張ってるけど、〈ゴブリン〉程度の攻撃じゃダメージなんてほとんどないからね」
歩き始めながら喋るケントの言葉に同意しつつ、「〈惑わしの蝶々〉も強くないよ」と情報を共有する。
「そうなのか?」
「うん。どっちかっていうと、厄介なのは……その名前についてる惑わしの方かな。幻覚を見せてくるんだよね」
「うへぇ、それは厄介そうだな」
状態異常は私のスキルで治せるとはいえ、実際にかかったときの自身の状況はきっと気分のいいものではないだろうと思う。
「ま、私が治すから安心して惑わされていいよ!」
ケントは私の言葉に「容赦ねぇ〜〜!」と笑った。
私たちは順調に攻略を進めていったところ、目の前に宝箱が現れた。
「おっ、これは!」
私がテンションを上げると、ケント、タルト、天使も宝箱を見て目を輝かせた。やはりみんな大好き宝箱、だ。
「開けていいか!?」
「わたしも開けたいですにゃ!」
「じゃあ、せーので開けようぜ!」
ケントとタルトが宝箱の前でしゃがみ込んで、一緒に手をかけている。そしてケントの「せーの」という合図で宝箱を開いた。
中から出てきたのは、鉱石の詰め合わせセットだった。このダンジョンは鉱石の採れる洞窟があるからか、宝箱から鉱石の出る確率が高かったりする。
「すごいお宝がでるかと期待したのに……」
そう言いながらケントががくりと肩を落としているけれど、宝箱を開けたときにエフェクトがなかったので最初から結果は……だったりする。
「ま、気を取り直して進もうぜ!」
「はいですにゃ!」
今は花畑ゾーンを過ぎて、風の強い山頂へと差し掛かったところだ。
突風とともに〈ウィングウルフ〉と〈疾風の鷲〉が現れるため、そのスピードには正直少し苦戦している。
「いくぞ、〈挑発〉!」
「〈ポーション投げ〉にゃ――って、避けられちゃったですにゃ!」
「仕方がないですね」
しっかり〈挑発〉をしていても、強風のためモンスターの位置が安定していない。そのせいで、タルトの〈ポーション投げ〉の精度がいつもより悪かった。
それをカバーしてくれるのが、天使だ。
天使は己の武器の薙刀に似た槍で鷲を斬りつける。そのまま思い切り体を捻り、地面にいるウルフも一刀両断してしまう。
「天使ちゃん、ありがとうですにゃ!」
「これくらい、当然です」
ふふんと誇らしげな天使だけれど、なんだかんだ戦力として活躍してくれている。
そのあとも出てきたモンスターを協力して倒し、私たちは山頂の奥地――トトンの工房の前まで辿り着いた。




