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第83話 皇帝

続きです。

 20m先で、【雷帝(ぱしり)】さんが手を上げている。


 久しぶりだなぁ。

 今もパシリ道を極めているのだろうか?


 俺がそんなことを考えていると、【雷帝(ぱしり)】さんはツカツカと近づいて来た。


「【雷帝】、もうそろそろ陛下が参られる。勝手なことをするな」


 苛立った声で制止をかけるのは、歴戦の軍人です、と言わんばかりの体躯と傷を負ったデカい男だ。

 頭はハゲているが、その分髭が凄い。

 こいつも将軍とかだろうか。


「別にいいだろゴルドン(・・・・)。昔話しただろうが。あいつ、ミルク村でお前の部下だった奴らとミルク様の依り代として戦ったやつなんだぜ?」

「……ああ、あれか。チッ! アレのおかげで陛下に叱られてしまったんだったな」


 心底嫌そうな顔をして、ゴルドン(・・・・)が答えた。


 その名前、よぉ〜く覚えてるぞ?

 糞野郎どもの上司に当たるやつの名前だ。


 手前ぇの無能のせいで、俺らがどれ程の迷惑を被ったか分かってるのか?


 ズッ……

 ピーーーーーーーー!!


 怒りで思わず魔力を練ってしまうが、魔封環から鳴るけたたましい音で我に帰る。


 鳴った瞬間、並んでいた白鎧が皆、持っていた矛を俺に向けた。


「貴様! 謁見の場で魔力を練るとは何事かぁ!!」


 あり得ないほどの声量で恫喝される。

 自でこんな声が出るのかよ。


 俺に向けて一歩踏み出そうとするゴルドンを、【雷帝】が手で制する。


「おいおい坊主、落ち着けよ。ここで魔力を練るのはご法度だ。敵意ありとみなされて、その状態(・・・・)で俺ら全員を相手取ることになっちまうぞ?」


 全員が油断なく俺を見ている。


「申し訳ありません。私が赤子の頃、村を襲いに来た帝国軍辺境部隊がおりまして、ミルク様や【雷帝】様のお力で撃退出来たそうなのですが、その上司に当たり、部下も御しきれない無能(・・)の名が、ゴルドンだった様に思えましたので、つい。勘違いでしたら申し訳ありません。何分赤子の頃の記憶ですので、ご容赦ください」

「テメェ……」


 ゴルドンが魔力を練っていくのがわかる。


「【地帝】! 注意した貴様が魔力を練ってどうする!」

「……チッ!」


 ゴルドンは【地帝】か。


 ゴルドンを注意した人物は、耳が長ければ見た目エルフの女性だった。

 その細い身体からは想像できないほどしっかりとした声だな。


「【風姫】。サンキュー!」

「貴様も五月蝿い。黙れ。」

「へいへい」


 見た目に通りと言うのか、見た目に反してと言うのか。

 結構キツい性格らしい。


「小僧! 次はないぞ?」


 おっと、矛先がこちらにも来たか。


「はい、ご配慮痛み入ります」


 深々と一礼する。


「うむ、良い心がけだ」


 あら、礼儀を弁える人には優しくなるタイプか。


 ゴーン! ゴーン! ……


 重厚な鈴の音が部屋に響く。


「戯れはそこまでだ。陛下が参られた」


 その言葉に俺とアンジー以外の人間は真剣な表情に戻り、直立不動となった。

 最後の1人、全身鎧を纏った人物からは、どこか機械的な声が出ている。



 ゴコン…ゴコン…


 ゆっくりと扉が開き、その人物は現れた。


 40代位、この世界は基本不細工な奴は余りいないが、その中でもかなりの美形。

 若い頃はさぞ透き通った肌をしていたのだろう。

 今は年相応の皺があるが、それは深みとなっていて老いた印象はない。


 髪は艶があり、王子様の髪型で色が黒と言えばいいか。


 眼光は、鋭い。


 皇帝が部屋に入った瞬間、ザッと俺以外が跪く。


 皇帝はゆっくりと玉座へと向かい、座る。

 バッチリと目が合った。


 これがこの国の皇帝か。


 前世の俺の国には天皇陛下がいたが、受ける印象が真逆だな。


 そんなことを考えながら、俺はゆったりと跪いた。




ミルク帝国(・・・・・)皇帝、ジョージ・M・ミルキスタだ。お前が『エーリ』か?」


 そう、この国の名前はミルク帝国。

 最初ミルクに聞いて大笑いしたっけ。


 皇帝から発せられる威厳のある声、物言い。

 普通に聞いていたら飲まれていたかもしれないな。


 気が抜けたことで飲まれずの済んだ。

 ありがとな、ミルク。


「はい。ミルク村、ルークとミリアの子、エーリでございます。先月この帝都にて冒険者となり、チーム『虹の絆』のリーダーを務めております」

「うむ。知っておる。【炎帝】」

「はっ」


 鎧の人は【炎帝】だったか。

 これで全員わかったな。


「まずは皆、下がって良い」


 その一言で白鎧達は下がっていく。

 何が起こるんだ?


「本日これより、冒険者エーリの、魔法鞄アンジェリーナ所有の可否を定める。まずはアンジェリーナの能力について」


【炎帝】が指を滑らすと、空中にアンジェリーナのステータス映像が映し出された。

 おおよそ合っているか。


「……聞きしに勝る能力よな」


 容量、不明。収納不可の物、恐らく皆無。収納速度、瞬時。寿命、恐らく無限。対応属性、不明。


 改めて見るととんでもない能力だ。

 寿命は初めて知ったが。

 当のアンジーはボーッとそれを見ていた。


「続いてエーリの能力について」


 今度は俺の公式の(・・・)能力が表示された。

 可もなく不可もなく。


「ほう、3属性とな」


 おや、皇帝陛下の関心を引いたようだ。

 珍しいことでもあるまいに。


「これに、調査結果を足すと……」


 ブン


 チッ! ダメか……。


 属性に精、性、音が加わり、体力、魔力量の表記が測定不能に、特記事項に無属性魔力生成が加わった。


 ピクっと皇帝の眉根が動き、口元が引き上がる。


ジェフ(・・・)、これがお前が言っていた、『ミルク村の面白いやつ』か?」

「ああ、面白いだろう? 音魔法に関しては、赤ん坊の頃から使っていたようだからな。戦闘の映像も見させてもらったが、雷属性上手くなってたじゃないか」

「恐縮です」


 急に皇帝の口調が変わる。

【雷帝】との話し方からすると、友人であることは間違いなさそうだ。


「おいガキ……これは一体どういうことだ?」


 ゴルドンが苛立ちを隠さず聞いてきた。


「どういうことだ、というのはどういうことでしょう?」


「テメェ、赤子の時の【鑑定】を誤魔化したのか?! ……テメェを鑑定したのはオードリー・アールだったな? 陛下、こいつらは極刑に処すべきです。帝国を、陛下を騙していたんだ!」


 デカい図体でまくし立て、皇帝へ俺達の極刑を進言するゴルドン。

【風姫】は迷惑そうに目を逸らし、【雷帝】は耳を塞ぐ。

【炎帝】はステータス画面を凝視し、皇帝は面白そうにそれを聞いていた。


「だ、そうだが申し開きはあるか?」


 肩をすくめて楽しそうに聞いてくる皇帝。

【雷帝】の友人だけあっていたずら小僧の顔になっている。


「はい、ございます。私が属性を偽ったのは、私自身の考えではございません」

「ほぉ……では誰の考えだと?」


 ゴルドンは俺の口から適当なごまかしが出るのを待っている。

 残念。


「ミルク様です」




「あぁ?!」


「ですから、ミルク様です。私の属性が多いことを知り、無用な混乱を避けるために隠してくださいました」


 ゴルドンのこめかみがピクピクと動き出す。

 おー、怒ってる怒ってる。

 こいつなんで【地帝】になれたんだろ。


「エーリよ。この国(・・・)でその名を口に出すことがどんな意味を持つかわかっているか?」


 にこやかに、だが刺すような目で俺を見る。


 ここはミルク帝国。

 全能神の名を冠する国。


 唯一絶対の全能神、ミルクを崇め奉る国。

 この国でミルクを馬鹿にすれば、裁判なしで殺してもいいという法律すらある。


 国教の名はミルク教。

 全帝国国民が信者であり、【雷帝】含め狂信者も数多い。


 そんな国でミルクの名を騙ることは馬鹿以外の何者でもない。


「勿論です。【鑑定】していただいてもいいですよ?」


 事実だしな。


「…………」

「どうぞ?」


「良い。恐らく真実だろうからな」

「陛下?!」


 ゴルドンは信じられないのか、俺と皇帝を交互に見て慌てている。


「ゴルドン、少し落ち着け。そもそも今回は魔法鞄の所持審査だ。ステータスがどうのという話ではない」

「ですが、虚偽を働くものであるならば、そもそも魔法鞄の所持は許可できません!」

「お前の言いたいこともわかるが、他にも見なければいけないことがあるであろう? そちらの方で存分に確認せよ。此度はお前に任せよう」

「……であるならば、わかりました。陛下の御心のままに」


 ニタァっと気持ち悪い笑みを浮かべ、大人しくなるゴルドン。


「私は準備がありますゆえ、これにて失礼いたします」

「うむ、ご苦労だった」


 恭しく挨拶をし、謁見の間を出て行く。

 なーんか嫌な予感がするぞ。

 とても面倒くさくなりそうな予感が。


「そんな顔をするな。アレはアレで面白い」


 俺の考えを読み取ったのか、皇帝は苦笑いして言う。


「陛下、審査の続きを」


【風姫】が次を促す。

 うん、俺も早く終わらせたい。


「ん? 私は特に反対ではないから、合格だ」

「宜しいのですか?」


 これだけ物々しい感じで呼び出して、ステータスのこととか気になること色々あるし、俺がアンジー使って帝国滅ぼしにくるかもとか考えなかったのか??


「何、暗部やエーリの関係者への聴取によるとな、全員エーリがアンジェリーナの主人になることに異論はないそうだ。所持に賛成したのは、スレイン商会、マルス伯爵、東、南地区ギルドのギルマスと受付嬢全員。中央ギルド受付嬢全員。特級受付、【女帝】マチルダ・メイガード。その夫、元S級冒険者【確殺】のアルベルト。『ココア・ド・コ』店主、ココア・ショコラと店員一同。伝説の香油士アーノルド・クリザリス。面白いところでは、お前の家に近い市場の人間一同。『へべれけ』の店主と店員。そして、『異世界への扉』店主、ノーマン・ベルウッド他魔法鞄全員。ここには暗部所属の魔法鞄も含まれている。随分と好かれているな」


 皆の顔が次々と浮かんでくる。

 この1ヶ月、やってきたことは無駄ではなかったと言うことか。


「この国の重要人物からの推薦もあるし、以前ミルク様からもエーリの邪魔はするなきつく言われているしな。私が見てもエーリがこの国に何か危害を加えるということもないだろう。そもそも契約出来なければ意味がないしな」


 意外とあっさりなんとかなりそう。


「では」

だが(・・)


 来たよ……。


「それでは納得しない者もいる。私が認めようが、国防の点を考えると不安材料にはなる。アンジェリーナの容量は不明。どこまで入るのかわからんから、もし他国の軍勢や大量の魔物を収納して来たら、と考えると夜も眠れん者がいるのだ。」


 扉の方をみやり、誰と言うこともなく暗に示す皇帝。


「古来より、容量の大きい魔法鞄の所持者にはそれに見合った実力を示さなければいけないと言う法律がある。無理やり奪われて他国の魔法で契約を結ばれるなどしたら困るしな。そこで、所持においては面接での審査と実技審査が行われている」


 何となくわかるけどさ。


「実技、とは?」


「「実戦だ」」


 楽しそうに笑いながら、皇帝と【雷帝】ハモった。

 この2人、もう小学生くらいにしか見えんわ。

【風姫】はため息をつき、【炎帝】は頬? をかいていた。


「誰と……は何となくわかるのでいいのですが、合格の基準はなんでしょう?」


「それはその時の審査官に任せている。奴に聞いてみるのが良かろう」


「【炎帝】、ゴルドンはどこにいる?」


【雷帝】が楽しそうに【炎帝】に近づき、タブレット? の様な物を覗き込む。

 指を滑らせ、何か押した。


 ブン


 ステータスが映っていたのが映像へと切り替わり、映し出されたそこには腕を組み、こちらを向くゴルドンの姿があった。


「どうやら練兵場の様だな。では参ろう。そうだ! どうせだから兵達にも見せよう。ゴルドンが戦うのも久しぶりであろう? 士気の向上にも一役買ってもらおうではないか」

「そりゃいいな! 最近たるんでる奴も多かったからな。【炎帝】、連絡頼んだぞ」

「はぁ、わかった。陛下、宜しいですか?」

「ああ、頼む」


 ゴゴゴ……


「うわ! なんだ?!」

「ははは! 凄いだろう!」


【炎帝】が何か押した瞬間、謁見の間が下がり(・・・)始めた。


「このまま練兵場まで行けるのだ」


 エレベーターか。

 この感覚、久しぶりだな。


 懐かしさを感じながら、練兵場へゆっくりと降りていった。



次回、久しぶりにあの方が登場します。


いつも見て下さってありがとうございます。

お気に召しましたらブクマ、評価をよろしくお願いいたします。

感想もお気軽にどうぞ。

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