第82話 所持審査
続きです。
帝国に来てから1ヶ月が経った。
ヴォルテックワンちゃんを倒した後、南地区のギルドへチヨコを贈ったり、ノーマンさんの所へアンジーの里帰りをしたりした。
大体は東地区と同じだったが、やはり獣人が行うのは迫力が違った。
先頭で挨拶をするセシルは獣人化状態で、とても凛々しかった。
人化してしまうかと思っていたが、ギルマスから釘を刺されたそうで。
『次に職務中に人化などと言うはしたない事になったら、上級から落とす』
だそうだ。
基本は帝国ギルドの受付嬢だが、上級まではギルマスにも人事権が存在し、品行を鑑みて決定することが出来る。
あの笑顔で言われたんだと思うと、ご愁傷様という感じだ。
ノーマンさんへの里帰りに関しては、とても和やかに終わった。
と言うか、アンジーが店に入ってその顔をノーマんさんが見た瞬間に、
『本当にいい人に仕えていますね』
と、アンジーを抱きしめたのだ。
この人は魔法鞄の考えていることや感じていることが何となくわかるそうで、アンジーがとても幸せに過ごせていると一目見てわかったそうである。
もはや超能力の域だな。
他の魔法鞄、ジョアンナさんやエリザベータにも久し振りに再会し、互いの近況を話し合ったり、お土産を渡したりして終わった。
『あなたなら大丈夫でしょう』
そう言われたのが印象的だったが、その時は何のことかわからなかった。
そして今現在。
俺達、というか俺は、【皇帝】への謁見をするために帝城に来ている。
〜〜 1時間前 〜〜
「はい?」
ジャンヌさんの言っている意味がよくわからない。
今、何つった?
「『皇帝陛下への謁見がございます』、と申し上げました……」
「謁見? 何ででしょうか?」
意味がわからない。
「原因は私ですね」
「アンジー?」
スッと出て来て、暗い顔をしたアンジー。
「魔法鞄はその性質上、国が所有者を記録しています。特に容量が大きな魔法鞄は、所有に皇帝陛下の許可がいるのです。アンジーは恐らく記録されている魔法鞄の中で断トツ、歴史上一番の容量と目されていますから、皇帝陛下との謁見が必須となっております」
ジャンヌさんの顔からも緊張がうかがえる。
だとしても、何で今なんだろう?
「凡そ1ヶ月」
「?」
「帝国の暗部がエーリ様を監視し、アンジーを所持していいか判断した期間です」
「?!」
「家の中、外での依頼時などは対象外ですが、帝都内では基本見張られていたはずです。暗部には魔法鞄も所属しており、魔法鞄の観点からも判断されています」
「全然気づかなかった……」
「帝都内は監視魔法が常に展開されています。使った魔法、規模、密度なども記録されているのです」
…ヤバイなそりゃ。
「申し訳ありません。この事実は、当人には絶対に教えてはならないことなのです。アンジーも知らなかったはずですよ」
コク、と頷くアンジー。
「私達も、そこまでは……」
オードリーは困惑し、ルイーズは眉間に皺が寄っている。
「しょうがない、な。それで、皇帝陛下への謁見はいつになるのでしょうか?」
対策を考えなくては。
「1時間後です」
「は?」
「1時間後、なのです。準備一切をさせないため、です。この後帝国直轄部隊が迎えに参りますので、その後に付いて行って、皇帝陛下との謁見になります」
その表情を見るに、どうにもならなそうだな。
「わかりました……」
ちょっと覚悟を決めないといけないようだ。
俺は右耳を触った。
皆、ジャンヌさんの話を聞くに、俺が無属性魔法を使っていることや魔力が多いことはもうバレてると思った方がいい。
『でしょうね。帝都内での出来事は筒抜け、だったでしょう』
『まさか、ここまでされているとはねぇ……。変わったものだわぁ』
『申し訳ありません。私のせいで』
アンジーを求めたのは俺自身だ。そこは気にするな。
バカみたいに帝都内で魔法使いまくってたのは俺の責任だから。
そうだ、このリンクでの会話が聞かれている可能性は?
『それはあり得ません。このリンクは、魂が繋がらなければ不可能ですから』
そこまでは侵されてないか。
「エーリ様、来たようです」
俺が安心していると、帝国直轄部隊とやらがやってきた。
全身を純白の鎧に身を包み、帝国旗を持っている。
人数は……10人か。
「『虹の絆』エーリ殿ですね? 皇帝陛下がお待ちです。ご同行願います」
「はい」
暴れはしない。
話をつけてからだ。
「ご安心を。『虹の絆』の皆様、及び妹君に危害を加えるようなことは今のところございませんので」
「そりゃどうも」
チッ!
ステフは今アーノルドの所だ。
奥の手もあるから逃げるだけならなんとかなるかもしれないが……。
「皆、行こうか」
「「「はい」」」
「エーリ様」
ジャンヌさんが真剣な目で訴えかける。
「微力ながら、私達も働きかけますので、ご武運を」
「はい、きっと大丈夫です。認めてもらいますよ、皇帝陛下に」
絶対にな。
〜〜 現在 〜〜
コンコン
「はい」
入ってきたのは、厳格そうな老紳士だった。
「失礼します。エーリ様、どうぞこちらへ。メンバーの皆様は係りの者が呼びに来るまでこちらでお待ちください」
「そんな!!」
オードリーが叫ぶ。
「何か問題でも? オードリー・アール。おっと、今は『冒険者』オードリーでしたか。それでも、特級鑑定士とは思えない言動ですね。今回はエーリ様がアンジェリーナ様の主人たり得るかの審査なのです。メンバーがその場にいる必要などありません」
「くっ!」
呼びに来た老紳士から窘められたオードリーは、悔しそうに唇を噛んだ。
「いいんだ、オードリー。大丈夫だから、信じて待っててくれ」
「……はい」
ルイーズがオードリーを抱きしめてくれている。
なお、アンジーは帝城に着いた時点で別室に分けられている。
「では参りましょう」
老紳士が先に部屋を出て、俺を待っている。
俺は2人とアイコンタクトを取り、帝国皇帝へ謁見するために部屋を出た。
老紳士に連れられ長い廊下を進む。
両脇には甲冑や旗、調度品が飾り付けられており、見た目は豪華、皇帝の威厳を示すものになっているが……。
多分、有事の際は動くんだろうな。
戦闘型のゴーレムと言ったところか。
廊下の半分まで来たところで、ホールの様な場所が現れた。
そこには兵士が1名、何かを持って待機している。
「ご苦労」
「はっ!」
老紳士が兵士から受け取ったものは、懐かしい物だった。
「魔封環」
「はい。申し訳ありませんね。皇帝陛下に謁見する者は、貴賎の区別なく魔封環の装着が義務付けられております。国防の為ですので、どうかご理解ください」
俺は魔封環を受け取り、右腕に装着する。
カチ
グッと魔力生成が制限される。
この感覚、久しぶりだな。
「よろしい様ですね。では参りましょう」
また長い廊下を歩き、その距離が100mを超えた頃、重厚な扉が突然現れた。
正しい手順か、許可のある者が近づかなければ現れないとかだろうか。
扉の前に老紳士が立ち、何事か呟いた後指輪に魔力を流すと、
ゴコンゴコン……
と、ゆっくり開いていく。
開いたその先には、整然と並ぶ白鎧の兵士達と、奥に並ぶ4人の男女らしき姿。
そして、椅子に座っているアンジーの姿があった。
「エーリ様!」
立ち上がろうとするアンジーは兵士に止められ、何か囁かれた後、悔しそうな顔で座り直す。
リンク……は出来ないか。
何かで阻害されている。
アンジーを見て、笑顔で頷いた。
それを見て、アンジーも同じように微笑む。
大丈夫だよ。
絶対になんとかする
そう俺が決意し前を見た時、見知った顔と目が合った。
「よぉ! 元気にしてたか?!」
それは【雷帝】、ジェフリー・アーヴァンスレインその人だった。
いよいよ次回皇帝が登場します。
ここから場面が変わっていきます。
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