第81話 お礼とプリン
続きです。
2018/02/12 読みにくい箇所を修正しました。
ヴォルテックウルフを解体業者に渡した後、市場へと向かった。
[ジュリアンヌ]ちゃん捜索の際、協力してくれた動物達へのお礼の品を買うためだ。
市場で新鮮な魚やら肉やら穀物やらを買い込み、中央区へと向かった。
中央区の門番さんが俺達の姿を見ると駆け寄って来る。
「『虹の絆』の皆様。本日はどのようなご用件でしょうか」
やや緊張気味に、質問される。
『正直入れたくないっす』そんな声が聞こえそうな顔だ。
「依頼時に協力してくれた方々へのお礼と、『ココア・ド・コ』へ行く予定ですが、何か問題でも?」
「いえ、その。先日の中央ギルドでの件で皆様は少々有名人になっておりまして、このまま入るとちょっとした騒ぎが起きる可能性がございます。その点ご承知おきくださるなら、中央区への入場を許可出来る、との上のお達しです」
「何が起きても自己責任、というわけですね?」
気持ちはわかるよなぁ。
人気俳優が原宿をスタッフ無しで歩いているようなものだから。
そりゃ混乱が起きますよ。下手すりゃ警察出動だからね。
でも、
「構いません。隠れなきゃいけないようなことはしていませんし、その内他の地区にも広がって行くことですから。ここで慣れて起きますよ。教えてくださってありがとうございます」
「いえ、仕事ですから」
「あの、よろしければこれをどうぞ」
俺は教えてくれた門番に以前買って残しておいたチヨコレイトの包みをを渡した。
「こ、これは!」
「いつも気を張って大変でしょう。休憩時間に甘いものでも食べて、リラックスしてはどうですか? どなたかに差し上げてもいいですし、お任せします。同僚の方の分も入っていますから、皆さんでどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「いいえ、いつも任務お疲れ様です」
そう言って中央区に入って行く。
後ろでは門番がビシッと敬礼で見送ってくれていた。
あげたチヨコは、奥さんや恋人、意中の相手に贈るだろう。
「これであの門番も俺達の味方だ」
「エーリくん悪い顔になってるぅ」
「ふふふ。褒めるなよ」
後でチヨコを補充しなくてはな。
「あ、そうだ。アンジー、『カレン』を出してくれ」
「はい。塗るんですか?」
小首を傾げながら、小瓶入りの『カレン』を出してくれた。
「ああ、多分俺達は今すごい有名人なんだと思う。だから、『カレン』の力を借りようと思ってな」
「なるほど。あの香りなら興奮した心を沈静化させる効果があるでしょうね」
「そういうこと。じゃあ皆、ちゃんと塗っといてね。俺達自身も落ち着いていこう」
アンジーから少量ずつもらい、外に出ている部分はほとんど塗った。
俺達の身体から、とてもいい香りがしているのがわかる。
「うん、いいようだ。じゃあ行こうか。まずはお礼からだね」
中央区の街中を進む。
周りを見ると、俺達を見ながらヒソヒソと話している人、指差す人、声をかけようとして来る人などがいて、やはり有名人になったんだと自覚するような状態となっていたが、『カレン』の効果は絶大で、そのほとんどが優しい顔になっていった。
「『カレン』は凄いですね」
「アーノルドには後でお土産を買っていってやろう。アンジー、前回の時と同じように、動物と話してくれるか? お礼を持ってきたと伝えてくれ」
「了解です」
ごにょごにょ
アンジーが近くを通った鳥と話をして数分後……。
「前より増えてないか?」
「……増えてますね」
「2倍増しぃ?」
「もっとかも知れませんよ?」
アンジーの周りが動物だらけ……というかアンジーが動物に食われている様にしか見えない。
ハイソな中央区で繰り広げられるホラー映像だ。
見ろ、周りがドン引きして近づくこともできんぞ。
「また新聞に載りそうねぇ……」
「エーリですから……」
「そこ俺なの?!」
「終わりました」
身体中に毛や羽根を付けたアンジーが戻ってくる。
一見して襲われた後である。
「お疲れ。動物さん達はなんて?」
「『あんたらのためなら喜んで力を貸すぜ!』だそうですよ」
「そ、そりゃどうも」
餌付けって大事だなぁ。
「じゃあ動物さん達は大丈夫みたいですから、さ、とっとと行きましょうか」
「そうねぇ」
「ええ。すぐ行きましょう」
「え? ちょっ!」
スタスタと俺を待たずに歩き出す女性陣。
歩速が速い!
俺は走って追いかける。
「ハァ、ハァ……」
は、速ぇよ。
「チッ! 遅いですよエーリ」
「えぇっ?! いや、ご、ごめん?」
「はぁ……早く入りましょう」
いつもは優しいオードリーが、チヨコが関わると人が変わってしまう。
人の人格まで変えてしまうなんて。
チヨコ、恐ろしい子……!
『ココア・ド・コ』に近づくと、前回もいたドアマンがにこやかに迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、『虹の絆』の皆様」
「え? ああ、ただいま帰りました……」
カラン、とドアが開けば、あの香りが出迎えてくれた。
「はぁ〜……これです」
「んぅ〜〜〜〜。何度かいでも良いわねぇ」
「早く食べましょう、早く」
「お帰りなさいませ、皆様」
スカートの裾をちょっと持ち上げて、ココアが挨拶して来る。
「ただいま。えと、ドアマンの人といい、なんで『お帰り』なんだ?」
メイドカフェみたいだぞ?
「家の様にくつろいでいただきたいというのはあるのですが、お得意様にはこの様にお声がけさせていただいております」
「お得意様ったって、1回しか買ってないけど?」
「1回の購入金額は、冒険者の中では断トツの1番ですよ? それに、南、西、北の受付嬢にも贈り物をしてくださるのでしょう? であれば確実にご来店頂けますから」
冒険者の中ではってことは、貴族とか王族とかはもっと買ってるんだな。
良かった、まだ普通で。
「まあ、今日はプリンの進捗確認がメインだけどね。あ、その前に。この間の配達、中央ギルドにはココアが行ってくれたんだってな。ありがとう」
「いえ! 私が好きでやったことですから! でも、喜んでいただけて、嬉しいです」
右手で耳にかかった髪を直しながら、目を逸らすし顔が赤い。
こりゃステフが言ってたことも本当かもしれん……。
10歳の子どもがこんなにモテるって、何なんだろう。
「エーリ、そんなことはどうでもいいです。早くプリンを」
「そんなこと……。わ、わかったよ。ココア、プリンの進捗はどうだ?」
照れていたココアも真剣な表情に戻る。
「はい。自信作ができたと思っております。確認していただけますか?」
「ああ、じゃa「さ、行きましょう!」確認するよ……」
ズカズカと先に厨房に入っていく女性陣。
ココアも呆気に取られている。
「ごめんな。前回ここのチヨコを食べてから、随分と入れ込んでいるみたいでさ」
「ふふ。気に入っていただけて光栄です。さ、私達も参りましょう」
ココアと連れ立って厨房に向かう。
そこには、さまざまなプリンと共に、ショコラティエが勢揃いしていた。
「エーリ様、自信作と自負しております。ご確認を。可否はこちらに」
メモを渡される。
これに書いていくんだな。
「はい」
俺の目の前には、色、固さが違うプリンが並んでいる。
全部で10種類か。
右から左にかけて色味が変わっているのは、チヨコの含有量か?
どうせなので右から食べていく。
一番色味が薄いものだ。
ちょっと硬めかな?
パク……
うん、美味しい。
チヨコの味も感じるが、プリン本来の味もして、バランスがいいな。
判断は……他のプリンも全部食べてからにしよう。
パク……パク……パク……
そうやって全てのプリンを食べ終わり、評価していった。
ショコラティエは固唾をのんで見守り、アンジーは涎を垂らし、オードリーは貧乏ゆすりをしながら早くしろと睨みつけている。
カリカリ……うん。
「終わりました。全体的に高水準で、レシピを知ってから1週間ちょっとだと考えると、流石だと思います。この10種類中、商品として出せると思うのは……」
「1番、7番の2つですね。他は少しですがバランスが悪く感じました」
「2つ……」
ここで妥協するとプリンの未来を狭めてしまうことにもなりかねないから、ちょっと厳しめにしてみた。
ショックを受けているのか、ココアとショコラティエは言葉を失っている。
「私もいいですか?!」
「私も!」
「それじゃあ私もぉ」
「あっ……」
女性陣が残ったプリンを食べていく。
「全部美味しいですよ?! どこがダメなんですか?」
オードリーが信じられないという顔で言ってくる。
「確かに美味しいわねぇ。……でも、エーリくんの言っている意味もなんとなくわかるわぁ」
「はい。1番と7番以外は、乳、卵、チヨコのバランスが少しだけ悪いですね。それによって舌触りもザラっとしたものになっています。固さももう少しと言ったところでしょうか」
「そんな……」
なぜかオードリーがショックを受けている。
「ごめんな。2つだけになっちゃって。でもこの店に相応しい商品と考えると、妥協は出来ないんだ」
「いえ、私達が驚いているのは寧ろ、2つも残ったことについてです」
ショコラティエは頷きながら互いの肩を叩いていた。
「そうか……では、1番と7番はレシピ提供者の俺が、商品として出すことを許可します。販売先や値段とかは俺が決めることじゃないから任せる。多分最初は貴族とかお得意様中心になるのかな?」
「そうですね。皇帝への献上品が最初になります。その後上級貴族や大商人などに降りてきて、その後市民にもといった流れに。値段も最初に高く、その後ゆっくりと下ろして、チヨコと同じくらいか少し高い程度に収まる様に持っていく予定です」
大方予想通りだな。
「1年くらいで庶民にも回る様になってくれればいいかな。あ、俺達には……」
「もちろん優先販売させていただきます」
パァっとオードリーとアンジーの顔が明るくなった。
「あ、じゃあ1,000個くらい作ってもらえる? 練習も兼ねてさ。とりあえず今日のところは作れる分だけ
でいいよ。アンジーがいるから、俺の村の皆にも食べさせてやれるし、俺達も食べたいしね。勿論残りはすぐじゃなくていいし、値段も言い値で構わないから」
急に来た大口注文に、言葉を失うショコラティエ。
ココアだけは脳内でそろばんを弾いている様だ。
「……では今日のところは10個。残りはこちらの練度を上げる為、1週間後からお渡ししていきたいと思います。期間は10日でどうでしょうか。値段はその時にお伝えします」
「ああ、それでいい。ちょうどいいから他の注文もいいかな? 南地区ギルドの受付嬢の方へ東地区と同じものを。セシル・ブラック上級受付にはメッセージカード付きで。メッセージは『先日の感謝を込めて』かな。あとチヨコを普通のと小さい『ミルク』を合わせて金貨100枚分欲しい。割合は7:3で」
注文しておいてなんだが、こんなにもチョコレートに金をかける10歳児は恐らく俺だけだろうな。
「かしこまりました。お支払いは現金で?」
「うん、今日は現金で。アンジー、ココアについて行って支払いを頼む」
「はい」
ココアとアンジーが連れ立って厨房から出て行く。
「豪気ねぇ……」
「エーリ……大好き」
ほう、と顔を上気させる上2人。
「皆ここのチヨコ好きだからな。勿論俺もだけど。依頼とかで外出てる時も食べられるようにしておこうと思ってさ」
うんうん、と2人も頷いてくれた。
食は大事だからなぁ。
アンジーがいれば劣化の恐れもないし、大量に買っても問題なし。
そうこうしていると、ココアとアンジーが戻って来た。
「エーリ様、終わりました」
「ありがとう。じゃあプリンが出来るまで、ちょっとお茶してから帰ろうか」
「「「はい」」」
「ではこちらへどうぞ。この数日間のお話を聞かせてくださいませ」
そうして、プリンが出来るまでの間、ココアと俺達は互いの話で盛り上がり、楽しい時間を過ごすのであった。
いつも展開が遅くて申し訳ないなと思いつつ、ついつい楽しくなって書いてしまいます。
ここら辺が上手い方との違いですかねぇ。
いつも見て下さってありがとうございます。
お気に召しましたらブクマ、評価をよろしくお願いいたします。
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