第72話 赤毛の獣人
続きです。
2018/02/12 読みにくい箇所を修正しました。
「おう! いるじゃねぇかセシルゥ。今日も良い女だなぁ」
ズン、ズン、と振動させながら、2mはある赤毛の獣人がやって来た。
筋肉隆々、骨太な感じで、格闘技やってた札付きのワル、みたいな感じか。
俺達のことは全く眼中に入っていない。
これは、無視しているんじゃないな。
存在すら認識していない感じだ。
「ゾラさん……。今は接客中です。ご用件なら後で伺います」
険しい顔になったセシルさんが、ゾラと呼ばれた獣人に言い放つ。
「ああ? 客ぅ? そんなのどこにいるって……ん? これか?」
真下を指差し、俺達を見るゾラ。
「すみませんね。ゾラさん? もう少しで終わりますから、もう少々お待ちいただけますか?」
「おいおい。お前人間族か? ここは人間族、ましてやガキが来ていい所じゃねぇぞ? ガキは家に帰って母ちゃんのおっぱいでも吸ってな!」
フン、と鼻を鳴らして、またすぐセシルさんに視線を戻す。
安い挑発だ。
この程度、怒る価値すらない。
「セシルゥ。いつになったら俺の女になってくれるんだよぉ〜。なぁ、いいだろう? 今夜いいレストラン予約してんだよ。ちょっと付き合ってくれりゃあそれでいい。頼むぜ〜」
見た目の風体からして犬系なんだろうが、猫なで声出してるな。
似合ってないぞ、犬っころ。
「ですから、何度もお断りしております。私はあなたの女になることも、今夜レストランに行くこともありません。お引き取り下さい」
凛とした表情で拒絶するセシルさん。
とりあえず現状は見守る。
このまま帰ってくれるなら、まだよし。
「……チッ! おいセシル。俺がこんだけ下手に出てやってるんだぜ? そろそろいい返事してくれても良いんじゃねえか?」
声のトーンがだいぶ低くなった。
口の間からグルル、とうなり声が上がる。
それと同時に、魔力が膨れ上がって行くのがわかる。
「! ……それでも、私は嫌です」
少し声を震わせながら、ゾラの眼をしっかりと見て言い切るセシルさん。
強い人だ。
「ああそうかい。わかったよ」
肩をすくめ、やれやれ、と言った表情に変わる。
「そんじゃ……」
頭をカリカリとかき、
「攫うわ」
そう言ってセシルさんに急速に手を伸ばした。
バシ!
ギュル!
キン!
俺はゾラの手を掴み、腕、身体はルイーズが木魔法で、足はオードリーが氷魔法で止める。
「ああん? 手前ぇら、こりゃ何の冗談だ?」
ギロッとした目で俺達を見下ろす。
「少々不穏当な言葉が聞こえましたので、止めさせていただきました。このままお帰りいただけませんか?」
にっこり笑って語りかける。
「非力な身体、短い寿命、大した魔力量も持たない脆弱な種族の癖に、偉そうに講釈垂れてんじゃねぇよ。手前ぇらみたいなゴミは、俺ら獣人にへこへこしてりゃいいんだよ。わかったらさっさとコレ退けろ」
止められたこと自体にはさして興味なさそうだ。
自分が絶対的な強者であると信じきっているからだろう。
こいつからしたら、ヒーロー気取りの子どもが、手を広げて通せんぼしているような感覚なんだろうな。
しかし、俺達は引かない。
沈黙が流れる。
しばらく大人しくなっていたゾラだが、ふう、と一息つくと駄々っ子のようにグネグネしだした。
「あーーーー、たすけてくれー。にんげんぞくにころされるー。たいへんだー。じえいしないところされるーー。だからーーーーーーー……死ねぇ!!!」
ゴウッ!
ゾラの身体から炎が吹き上がる。
と同時にバキバキと身体が変化していった。
体毛が全身を覆い、鼻がせり出し、牙が太く伸びて行く。
筋肉はより大きく、爪もより獰猛さを増した。
赤毛の狼男のような状態だ。
その全身からは赤の魔力、即ち火属性魔力が吹き出し、その魔力が炎となって全身を覆う。
オードリーとルイーズの魔法は、一気に膨れ上がった魔力と熱で掻き消えた。
瞬間的に全員で後ろに飛び、その炎から離れる。
セシルさんはと言うと、俺が抱えて避難させた。
「さっきからうだうだうだうだ……何様のつもりだゴラァ!! 命の危険を感じたからよぉ〜、正当防衛しねぇとな。……ここじゃ狭ぇか。セシルゥ、練兵場借りるぜぇ」
耳元まで裂けんばかりにニヤついたゾラが、俺達に言い放ち、ズンズンと先に行く。
『! あなた達、ギルマスに連絡! 近くにSランク以上の冒険者がいればすぐに来てもらって!」
「「「「「はい!」」」」」
ハッと気づき、見習い達に指示を出すセシルさん。
見習い達がバタバタと方々に散って行く。
周りの受付嬢達は、依頼者や住人、低ランクの冒険者達を避難させていた。
その姿を見ながら、俺達も後を追う。
「申し訳ありません。個人的な事情に巻き込んでしまいまして……」
シュンと耳を垂らし、謝罪してくる。
どう考えてもゾラが悪いし、ジャンヌさんの同期を助けるいい機会だ。
まあ、未だ同期と言うのは確定していないし、ゾラとセシルさんがグルで、俺達を試す、もしくは嵌めているという可能性もあるけどな。
「獣人の方と戦えるいい機会ですので。それに、ここで引いたらジャンヌさんが悲しみますよ」
「ありがとうございます。ゾラさんの戦闘スタイルですがh「いえ、その情報は必要ありません」……なぜでしょう?」
せっかくの情報を止めて悪いが、こういう手合いには正々堂々真っ向勝負で完膚なきまでに叩かないと、条件がどうとかあいつらズルしやがったとかとてもうるさい。
「ゾラさんには真っ向勝負した方が、いいからですよ。そこは後でステファニーから聞いてください。ステフ、解説してあげて」
「うん、お兄ちゃんが戦うの?」
目立ちたくないんでしょ? という顔でこちらを見てくる。
「そうなんだけどね。ゾラさんにはこの中で1番ショボそうで、しかも男の俺が戦った方が良さそうだから」
「……勝てる?」
珍しく心配してくれている。
あんな見た目凄そうな魔法使ってるし、そもそも大きいしな。
山賊達とは訳が違うけど……
「勝つさ。俺は規格外なんだろ?」
ウインクしてあげた。
「大丈夫ですよ、ステフ。エーリは強いですから」
オードリーが優しくステフを撫でる。
メンバーは誰一人不安そうな顔をしていない。
信頼してくれている証拠だ。
嬉しいね。
そうこうしていると練兵場に着く。
広さは学校の体育館程度か。
闘牛場みたいな感じだな。
少しだが観客席もある。
真ん中辺りまで来て、ゾラが振り返る。
「後ろから襲わなくて良かったのかぁ?大チャンスだったんだぜ?」
「俺達の会話聞いていたでしょう?」
耳がピクピク動いていたからな。
「それに、負けた後で文字通りキャンキャン喚かれてもいけませんから」
「あ゛あ゛?!」
火の勢いが増した。
随分乗せやすいやつだ。
「大人しく帰っていただければ、こんなことにはならなかったんですが……」
「うるせぇ!……どうせ覚えねぇが、ガキィ、名は?」
「Cランク『虹の絆』リーダー、エーリ」
「Aランク『極炎』ゾラ」
お互いに名乗り、場の緊張が増していく。
「エーリ、属性、気をつけてくださいね」
「ああ、わかってる。皆はセシルさんとステフを頼む」
「はい」
俺は公式には雷水土の3つしか属性を使えない。
それでも十分多い方か。
まあ大丈夫だろう。
「エーリくん頑張ってぇ〜」
「エーリ様、お腹が空きましたので手早くお願いします」
「お兄ちゃんファイト!」
「無理はなさらないでください。ギルドに掛け合えば済む話ですから」
皆それぞれに言って、観客席に向かった。
「お待たせしました。では、始めましょうか」
ゾラに相対する。
数m離れているが、威圧感がある。
身長、体躯。
恵まれた身体に、それに見合った力。
正直羨ましい。
だが、それを欲望を満たすためだけに使うのは駄目だろ。
躾けてやるよ、犬っころ。
「じゃあ行くぜぇ……はぁ!」
対ゾラ戦は、こうして幕を開けた。
でっかいわんちゃんの登場です。
いつも見て下さってありがとうございます。
お気に召しましたら、ブクマ、評価をよろしくお願いいたします。
感想もお気軽にどうぞ。




