第70話 獣人!
続きです。
ついに本編70話!
南地区へとやって来たエーリ達。
念願の獣人に会います。
2018/02/12 読みにくい箇所を修正しました。
扉が開く。
テンションが否応なしに高まっていく。
深夜のアニメで見た、あのユートピアが!
この扉の先に!
そこで、俺は目を瞑った……。
なぜか?
だってさ、馬車の車窓からたまたま見えるとか、夢がない。
もったいない。
「エーリ?」
「オードリー、頼みがある。通りがよく見える場所についたら教えてくれ」
「え? なんでですか?」
「初めての獣人だからな。特別なものにしたいんだ……」
「あ、はい……」
恐らく残念なものを見る目で見られているのだろうが、どうだっていい。
初体験は1度しかないのだ!
初めてがなし崩しだなんて嫌だ!
特別なものにしたいんだ!!
「わぁー! 凄い!獣人さんがいっぱい!」
「耳がピクピクしてますね!」
ステフとアンジーがはしゃいでいる。
くっそう!
早く着きやがれ!
ガタン!
「エ、エーリ。着きました。え、と……こっちです」
手を引かれ、南地区に降り立つ。
ガヤガヤと喧騒が聞こえるが、周りの音が東地区とは何か違う。
「多分、ここからなら全体的に見えるかと……」
ゴク……。
いよいよだ。
ついに、その時が!
ゆっくりと目を開ける。
ずっと瞑っていたせいか、開けた直後は磨りガラス越しのようだ。
肌の色が違う人が歩いているのがわかる!
体の大きさ、手足の形が違うっぽい!
そして……
「……おぉ……おおおおおおおお!」
全て推定だが、虎、蛇、狼、鳥その他いっぱい。
色々な姿をした獣人が通りを歩いている。
ぱっと見で見えているのは男ばかりだ。
初体験が男と言うのは非常に残念……。
だが、いいところも見つけている。
見えている男達、想像していたのと違うのだ。
俺の想像では、男は獣を二足歩行させた感じだったが……。
大部分が俺達とほとんど変わらない。
腕や足、顔の一部などに種族の特徴が入っている程度。
しかもイケメンばかりである。
これなら、女性達への期待が天井知らずに高まっていくぜ!
「お兄ちゃん! 皆カッコいいね!」
ステフが目を輝かせながら大声で聞いてくる。
近くを歩いている人達が、微笑んで通っていく。
「こらステフ。はしたないぞ」
「だってぇ〜。あ、女の人だ!」
「何?! どこだ?!」
グリン! と効果音が聞こえそうな速度で首をそちらに回す。
「お兄ちゃんだってはしゃいでるじゃん……ほら、あそこ」
指を追ってその先を見る!
そこに見えたのは……。
獣を二足歩行させたような姿の女性達だった……。
あれ?
男は人間多めで、女は獣成分多め?
いや、ちょっと待って。
それって……
「逆だろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?!!!」
通りに俺の魂の叫びが木霊した。
膝から崩折れる。
歩いていた人達がビクッとしてこちらを見ている。
ある者は苦笑し、ある者は吹き出している。
俺はと言うと、絶望に打ちひしがれ、orzの格好をして泣いていた。
地面についた手に涙が落ち、止まらない。
「ちょ、ちょっとエーリ!」
「夢が、崩れたのねぇ……」
「お腹空いたんですか? エーリ様?」
「はしたないのはどっちよ……」
皆の感想が聞こえているが、聴いてはいない。
俺が絶望に打ちひしがれていると、ぽん、と肩を叩かれた。
何かを感じ、顔を上げる。
そこには、タバコを咥えた御者のおっちゃんがいた。
尚、帝都まで連れてきてくれた人とは別人物である。
「坊主、今お前が感じている絶望、人間族の男なら誰もが通る道さ」
悲しみを知った漢の顔がそこにはあった。
「でも、ここからどうすれば……」
この絶望を抱えたまま、生きて行けと言うのか?
この世界に、希望はないのか?
俺の頬を、何度目かわからない涙の筋が伝う。
すると、フッと笑ったおっちゃんは、俺の耳元に顔を近づける。
『……………………だぜ?』
「……え?」
おっちゃんの言葉がリフレインする。
「それは、本当、ですか?」
「ああ。俺の嫁さんがそうだからな」
目が細められ、眉が上がる。
ゆっくり頷く。
知っている者の、余裕。
この人が言っていることは本当だ……!
「俺に出来たんだ、小せえ坊主なら可能性はまだまだある。諦めちゃ、いけねえよ?」
「……はい!」
ゴシゴシと涙を袖で拭く。
絶望の中に差した一筋の光。
これを胸に、俺は生きていける。
「ありがとうございます。……立ち止まってしまう所でした」
ゆっくりと立ち上がり、手を差し出す。
おっちゃんはその手を握り、
「頑張れ、夢を掴めるよう、祈ってるぜ」
そうエールをくれた。
「はい!」
そこにいるのは、打ちひしがれた弱々しい少年ではない。
夢を追いかける男の、いや漢の姿だった。
おっちゃんは別れ際、サムズアップしていった。
その期待に、応えなければな。
「皆ごめん。取り乱したようだ。もう大丈夫、さあ、行こうか!」
キリッとした顔で皆を見る。
「(なんか、凄く……)」
「(下世話な話をしていた感覚がありますね。)」
「……男の夢、よねぇ。本当に男の子って、いつの時代も変わらないわぁ」
「お腹が空きました」
一部の女性陣が不潔なものを見る目で見ている気がするが、気にしない!
俺は先達から聞いたのだ!
珠玉の情報を!
おっちゃんはこう言っていたんだ。
『獣人の女はな、感情が高ぶると、人間族みたいな姿に変身するんだぜ?」
感情が高ぶる。
つまり……
興奮すると人間みたいな姿になる!
あそこの女性達も、その時には……ふふ、ふふふふふふふ。
生きてて、良かった。
転生して、良かった……!
「人生万歳!!」
俺は両手を天に突き上げ、高らかに吠えた。
ステフとオードリーの視線が痛い。
周りの視線も先ほどより生温かくなっている。
この日、俺は南地区でプチ有名人になったらしい。
変な人間族の小僧がいる、と。
すんなり想像通りのケモ耳娘とは会えないようです。
人生思い通りにはいきませんね。
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