第69話 南地区へ
続きです。
2018/02/12 読みにくい箇所を修正しました。
「ステフ、ここがそうだよ」
「ありゃ、ボロっちいね。ほんとにここ?」
ここです。
「ステフ、失礼ですよ。30年放っておいたんですから、外観はしょうがないんです。中は私達が掃除しましたから、綺麗ですよ」
「ふぅーん。じゃ、入ろっか」
ガチャ
「おい、ステ……フ……」
「うわぁ! いい匂い!!」
扉を開けた瞬間、香油のいい匂いが通りに広がって来る。
昨日までが嘘のように、店の中には香油瓶が並び、瓶に入った琥珀色の液体が揺らめいている。
「見違えたわねぇ……」
「蘇ったんですね。良かったです」
「これでご飯が食べられそうです」
俺達が感慨に耽る中、ステフはあちこち見て ブツブツと呟いている。
「これ、何かな。ん? あっちと色が違う。素材の違い? 熟成年? 瓶の形が違うから、種類が違いそう。あっちは……」
「すみません。まだ店は……やあ、おはよう」
「「「「おはようございます」」」」
「おはようございます!」
昨日よりも断然肌艶が良く、活力に満ちた顔のアーノルドがいた。
こうして見ると、かなりダンディな雰囲気を出しているな。
「体調はどうなんだ? 見た感じ元気になってそうだけど」
「ああ、おかげさまですこぶる良いよ。まあこれは魔法で戻してもらっただけだから、これから自分で改善していくけどね。ところでそちらのレディーは?」
アーノルドがステフの方に目をやる。
「妹のステファニー。アーノルドの仕事に興味があるらしくて」
「お初にお目にかかります、アーノルド・クリザリス様。エーリの妹で、ステファニーと申します。ステフとお呼びくださいませ。素晴らしい香油をお作りになっていると聞きました。私、とても興味があります!」
「初めましてステフ。アーノルド・クリザリスです。私もアーノルドで良いよ。君の兄君にはとてもお世話になった。好きなだけ見ていくと良い」
「ありがとうございます! アーノルド様!」
こんなにはしゃぐステフも珍しいな。
よほど興味があると見える。
「じゃあ早速、『エイミー』と『カレン』を見に行こう。中々面白いことになっているんだ」
「それは楽しみですね」
「道中昨日の出来事を報告していきましょうかぁ」
「そうだな……凄かったもんな」
「話し振りから察するに、効果が強かったみたいだね」
「昨日あれから……」
螺旋階段を降りながら説明した。
「アーノルドの作る香油は普通と違って香りの広がりが段違いだな。香水かってくらい揮発性が高い。良い匂いなのは間違いないんだけど、もはや媚薬の域だったよ」
「うーん。若いから、かな。熟成が進むと落ち着くんだけどね。素材も良かったし、注ぎ込んだ魔力も質、量ともに桁違いだったから、若い『エイミー』はそっち方面で売り出してもいいかもしれないな」
「媚薬ってことぉ?」
左手を右腰、右手を左肩に当てたルイーズが目を細めている。
強調された山脈が、階段を降りることで生じる衝撃で上下に揺れる。
ルイーズ、エロいから。素晴らしいから。
「うん、効果を考えると一般販売は出来そうもないから、不能の改善薬、みたいな感じで医者の処方の元に売るとか……」
「ああ、それなら効果てきめんだろう」
あれで直立しないとか無理だしな。
風呂に垂らしてもいいな……。
ふう……いかんいかん。
「レシピは昨日書いておいたから、素材さえあればまた作れる」
へぇ〜、一点ものじゃないんだな。
なら今度また取りに行こう。
「レシピと言うのは、魔力の種類や込め方などですか?」
ステフが興味深げに尋ねる。
「そうだよ。薬液や魔力の種類、魔力込めのタイミング、長さ、濃さ、かき混ぜの速度、回数。その他にもあるけど、そう言ったものがレシピを構成している」
「それを、アーノルド様は毎回同じに出来るのですか?」
「ん? そうだよ?」
当たり前だろ? みたいな顔のアーノルド。
あれを毎回同じに……?
魔力を供給していた俺にはわかる。
針の穴に糸を通すような作業を、魔力の激流の中で平然と行わなければならない。
例えるなら、電車で片足立ちしながらダーツでど真ん中に3連続当てるような感じ?
うまく言えないが、自分が思うこれ無理じゃね? ってことを平然とやり抜いている、そう思えばいい。
伝説は、伊達じゃない。
そう考えると、確かに30年はサボりすぎだわ。
地下工房に着く。
そこには、昨日よりも濃く、まろやかな印象の『エイミー』と、昨日と全く変わっていない『カレン』の姿があった。
2つの香油は、対照的な姿で迎えてくれた。
「大分変わりましたね。『エイミー』は落ち着いたというか何というか」
「オードリーもそう思うか? ヤンチャしてた子が久しぶりに会ったら落ち着いた感じになってる、みたいな?」
魅力の方向性が変わった感じだ。
「ははは。確かにそうかもね。ここまでの変化をするのも珍しいんだけど、変化の仕方が面白いから、いくつかはこのまま熟成を続けても良いかもしれない。とりあえず、これ」
ゴト、とアーノルドが香油瓶を置く。一斗缶くらいの大きさの物が10本。
「報酬の10本か」
「ああ、アンジーがいるからあまり必要な知識じゃないかもしれないけど、使う時は小瓶に移して使うといいよ。量も調整がきくしね」
「わかった。あそこのバリスティックローズなら、取り方はわかってるからいつでも依頼してくれ」
「頼む。他の素材についても依頼をかけるから、詳しい話が聞きたい時は寄ってくれ」
お互いに頷き、ガッチリ握手する。
これからの『クリザリス香油店』、見ものだな。
「アーノルド様! 何点か聞きたいことがあります!」
「何かなステフ?」
「あそこの……」
ステフは工房にも興味があるのか、アーノルドにあれこれ聞いて回っている。
「エーリ様、ちょっと良いですか?」
「ん?」
アンジーが『カレン』の前で呼んでいた。
オードリーとルイーズもいる。
「どうしたんだ?」
「『カレン』なんですが、昨日と変化していないような気がするんです、全く」
言われて見てみる。
……確かに変わっていないように見える。
『エイミー』は変化が大きいけど、『カレン』は遅いのか、それとも変化しないのか。
「不思議だろう? どうやら『カレン』は熟成というものをしないらしいんだ」
ステフと一緒にいたアーノルドが、そう言いながらこちらに近づいてきた。
この優しい香りが、ずっと変わらない……。
「永遠の愛、か」
「何それ?」
「青いバリスティックローズの花言葉だそうです。元々は、あると信じたいけど誰も証明出来ない、と言う意味合いだったらしいんですけど」
「事実、変化してないわねぇ」
「変化にかかる時間がとてつもなく長いだけかもしれませんが、夢があって良いですね」
香油の中を揺蕩うその花は、今も優雅な姿で俺達を魅了していた。
ゴト
「ん?」
振り向くと、アーノルドが大きな瓶を持ってきている。
「これに『カレン』を入れて持っていってくれ。とりあえず1瓶でいいかな?」
「え? いいのか?」
「もちろん。また青を持ってきてくれるならいくらでもいいさ。供える分はもう移したしね」
その顔は優しく、本心であることは疑いようもなかった。
「じゃあ、ありがたくもらっておく」
「また来ますから、それまでちゃんと食べて寝て、少しは運動もしてくださいね?」
「ははは! アンジーには敵わないな!」
「私もまた来たいです!」
目が輝いているステフ。
珍しい機械もあるし、気に入ったらしい。
「ああ、いいとも。いつでも歓迎するよ」
ステフの頭を撫でてくれる。
うん、いい出会いになったようだ。
『クリザリス香油店』を辞した俺達は、一路南地区に向かうことにした。
ずっと東地区と中央区にいて、南、西、北地区を見ていない。
せっかく帝都に来たのだ、色々見て回ろうと言うのである。
南地区にしたのは、『クリザリス香油店』から近かったからというたんじゅんな理由だ。
いざ南地区へ向かう。
各地区は壁と門で区切られているらしい。
防衛の面が大きいのかな。
近いとは言ったが、その門まではここから3キロ程。
ちょっと遠いので、ゴーレム馬車で移動中である。
まあバス、みたいなものだ。
専用の道路まであり、結構人が乗っている。
「南地区には何があるんだ?」
東地区ですら広くて全部回れていない。
「南地区は他の種族の街が広がっています。見た目がかなり違うので、地区は分けられていますが、中身は私達と変わらない人です。……まあ、種族ごとに特徴があるので、分けた方がトラブルが起きにくいんですよ」
「そういえば東地区では全く見てないな」
というか人生で初めてになる。
「今は落ち着いていますが、昔はよく戦争してたらしいので、遺恨や禍根が多いんですよ。実際国防を考えたらわかる面もあります。そういった理由で彼等は南地区以外には住めません。今でも南地区から追い出せって老人達も多いですし」
「帝都内に敵がいるかもって思ったら、そういう考えも起こるわよねぇ」
歴史か。
こっちに生まれてからあんまり歴史の勉強してなかったからな。
今度図書館でも行こうか。
「あ、門が見えて来たよ!」
ステフの声で外を見ると、遠くに高くそびえる壁と、重厚な門が見えて来た。
俺達が住んでいる東地区にはない物々しさを感じる。
全身鎧に身を包んだ兵士や、壁の上で監視をする兵士などが十数名見え、同じ帝都の中とは思えない。
「随分と仰々しいんだな」
「あの壁は建国当時からあるものなので、どうしようもないらしいです。中はこちら側とあんまり変わりませんから」
オードリーが苦笑しながらも答えてくれる。
「行ってみればわかるわよぉ」
「どんな食べ物が待っているか……楽しみですね!」
そうだね……。
門のところでは南地区へ向かう理由(観光と答えた)と滞在期間が聞かれ、その内容を書いた紙を渡されただけだった。
こっちから出る時はチェックが緩めなのかもしれない。
「開門!」
門番の声に呼応して、とても分厚そうな扉が開いていく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
漫画にしたら、さぞ太い文字で書かれるであろう大きな音を立てる。
ゴコン
扉が開ききり、馬車が進んでいった。
両サイドには高い壁がそびえ、所々穴が空いている。
そこから兵士の姿見見える。
「あれは……?」
「見張り、迎撃用の物ですね。ここを許可なく通るものを監視し、必要ならあそこから魔法や矢が飛んで来ます」
銃眼のようなものか。
長い直線距離、およそ200m。
そこを渡りきり、反対側の扉に到達する。
「いよいよだね!」
「ああ、楽しみだ」
「どんなご飯があるんでしょうね!」
そっちじゃない。そっちじゃないよ!
心はワクワクしっぱなしだ。
ケモ耳、ケモ耳が俺を待っている!!
変な方向に興奮しながら、俺達は南地区へと足を踏み入れた。
いつのまにか40,000PV、6,000ユニークを超えていました。
これも見て下さった皆さんのお陰です。
いつもありがとうございます。
これからも毎日投稿していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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