第68話 朝市
続きです。
2018/02/06 読みにくい箇所を修正しました。
大変な1日の翌日。
俺達は朝市に来ている。
東地区にもいくつか市場はあるが、ここは家からほど近い場所にあり、食材を買いに、よく来るのだ。
「すみません。飛び玉ねぎ、ドリル人参、岩石ジャガイモを2箱ずつ。鞭ネギ、風船ナスを1箱下さい」
「おお、アンジーちゃん! 今日も豪快な買いっぷりだねぇ! こっちの鉄キャベツもどうだい?」
「1箱いただきます」
「毎度!」
アンジーはここの常連である。
魔法鞄であることは、市場に来た初日に大量の食材を買い込み、それを一瞬で収納したため、市場の全員に知られている。
目利きでもあるため、良い品を出す所以外では買わないらしく、アンジーに買ってもらっている店は繁盛しているらしい。
「なあアンジー、そんなに買う必要ってあるのか?」
「あります。収納は魔法鞄にとって絶対に必要な行為です。私は容量がアレなので、いっぱい入れないと満足できません。たくさん買っても怒らないエーリ様は、私にとって最高のご主人様です」
ギュ
抱きしめられる。
頭は心臓の位置である。
「……許そう」
「もう、エーリったら」
「男の子ねぇ」
「お兄ちゃんてほんとに胸好きだよね……。
他も好きだぞ。
だってしょうがないだろう?
中身おっさんだぞ?
市場を回って色々買った。
野菜、魚、肉各種。きのこに粉類、調味料、飲み物、酒、油。
多分食材に関しては1年分くらい買ったのではないだろうか?
「じゃあ次は食事と行こう。何食べたい?」
「私は焼き魚ですかね」
「私は肉厚ステーキねぇ」
「私はパン!」
「私はいっぱい」
若干1名食べ物ではなかったが、ものの見事にバラバラである。
「じゃあ食堂に行こう。あそこなら何でもある」
「「「「はぁーい」」」」
大抵の市場にはデカい食堂があり、働いている人や近隣の住民が食べに来る。
食材は新鮮で、調理する人もプロに認められたプロばかりなので、どれも美味しい。
「じゃあそれぞれ買って来てくれ。席は取っておく」
食堂はいつも混雑しているが、結構広いので探せば席はある。
朝ごはんを食べに来た家族や夫婦、仕事前か仕事後かわからないプロ達。
皆美味そうに食べている。
「お、ここが良いか」
結構広めの長テーブルが空いており、そこに座る。
何を食べようかとキョロキョロしていると、周りにチラチラ見られていることに気づいた。
明らかに席を探しているのに、こちらに来ようともしない。
というか座ろうとした人に耳打ちして、された方は慌ててどこかに行った。
何だろう?
避けられているような?
「お待たせしました。エーリもどうぞ」
焼き魚の定食を持ったオードリーが戻ってきた。
湯気が上がり、良い香りを出している。
「ああ、ありがとう。じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい」
疑問は残るが、とりあえず空腹を満たそう。
俺は……麺類かな。
針エビのかき揚げが乗ったソーバ(そば)を注文し、席に戻る。
「なんだ? これ……」
そこには、オードリー、ルイーズ、ステフと、長テーブルいっぱいに料理が並べられた料理に目を輝かせているアンジーの姿があった。
10メートルはあろうテーブルに、次々と料理が追加されていく。
「あれはこのせいか……」
恐らく皆知っていたのだ。
こうなることを。
「お、お待たせ」
「揃いましたね? では……」
周りの目が痛い。
「「「「「いただきます!」」」」」
その声とともに、アンジーがとんでもない速度でご飯を食べていく。
食べた後の皿は舐めたように綺麗だ。
「スゲェ!! 本当にあの量食べんのか?」
「お前知らないのか? あの子に店の食材全て食われた店もあるんだぞ?」
「どこに入ってるんだよ……腹の形変わってねぇぞ?!」
「あの子は魔法鞄だよ」
「「「「「ああ……」」」」」
もはや大食いタレントのイベントみたいになっている。
テーブルの端で、俺達は静かに料理を堪能した。
10分後、俺達は朝ごはんを食べ終わった。
アンジーも含めて。
しめて45品。
金貨5枚程をペロリと食べたのだ。
食べ終わった後の
「とりあえず今日はこのくらいにしましょうか」
というアンジーの言葉が衝撃的だったな。
俺達は食後のお茶、アンジーは各店に感想を言いに行っている。
「なあ、いつからこんななんだ?」
オードリーに聞いてみる。
「バリスティックローズの採取中からでしょうかね」
「は?」
朝帰りしてたあの時?
「え? あの時って、朝に帰って寝てたろ?」
「私達が寝入った後、アルベルトさんやステフと一緒に来ていたらしいですよ。私も一度同行したんです。初めて見た時は、自分の頬をつねりましたよ」
「だろうね……」
アンジーの食に対する執念が凄いな……。
「アンジーちゃんは市場の人気者だよ。綺麗に食べてくれるし、料理への造詣も深いしね。最近じゃああやってアドバイスもしてるの」
「自分では作らないにのにねぇ。不思議だわぁ」
「アドバイスに沿って作ると、本当に美味しいんですよ。この前のシチューもそうですし」
そうなのだ。
アンジーは料理をしない。
以前聞いた時、
『私は食べる側です』
と自信たっぷりに言っていたっけ。
幸いお金なら冒険者稼業で稼げるし、最悪魔石を売れば何とかなる。
そこら辺を気にしなくて良いのは精神的にだいぶ楽だ。
「お待たせしました。次行きましょうか」
「え?」
目が点になる。
「場外にある屋台です。あそこも美味しい食べ物がいっぱいあるんですよ。食べないまでも、いざという時のために買いだめしておきましょう」
「(毎回買いだめしてるんだよ)」
ステフがこっそり教えてくれる。
「毎回……」
いくら消えたんだろう。
まあ、いいか。
ここら辺のは『安くて美味い』がモットーだからな。
エンゲル係数がどれほど高くなろうと、アンジーと契約したからにはその責務と思って頑張るか。
「アンジー、美味い店に連れてってくれ!」
「お任せください!」
やる気に満ちた顔のアンジーに連れられて、場外屋台でもいっぱい食べたし買った。
どこも美味しくて、大満足だった。
「それじゃ、そろそろアーノルドのところに行こう」
「いよいよだね! 楽しみだなぁ……」
ステフは俺の理性すら吹っ飛ばす『エイミー』を生み出したアーノルドに興味が湧いたようで、会えるのを楽しみにしている。
道中も買いだめしながら、『クリザリス香油店』に向かった。
朝市って楽しいですけど、まず早起きが出来ません。
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