第67話 お礼=大惨事
続きです。
お礼の度合いって、人それぞれですよねぇ。
2018/02/06 読みにくい箇所を修正しました。
急に「お礼」がしたいと言い出したマチルダ母さん。
正直想像が付かなすぎて怖い。
「え? 俺達はただ依頼を達成しただけですよ?」
「いいえ。アーノルドとカレンを救ってくれた。それは依頼に含まれていないでしょう?」
「そう、ですけど。でも、アーノルドの仕事を見て、話を聞いて。生きていてほしいと思ったのは、俺達の意思ですから」
皆頷く。
そもそもあの時点では、マチルダ母さんが絡んでることなんて知らなかったしな。
お礼は魅力的だけど、そのためじゃなかったんだし。
「それじゃあ私の気がすまないの。お礼させて? お願い」
手を合わせ、その横から顔を出すマチルダ母さん。
魅力が溢れ出る。
ズキュウウウウン!!
凄腕狙撃手に頭を撃ち抜かれたような衝撃。
フラ……
グッ!
飛び出そうとする身体を抑える。
今すぐ襲って、彼女を俺のものにしたい……!
ゆら……
「はぁ……はぁ……」
隣を見ると、オードリーがヤバい目でマチルダ母さんを見ていた。
お前もか?!
アンジーは自分を抱きしめて震えていて、ルイーズは静かな顔をしているようで、ピクピク動いている。
……達してるな。
このままじゃマズい……!
【賢者時間】×4!!!
俺の全力でなんとか抑えこむ。
それでも、歯を食いしばらなければならない程どんどんと精神が削られていく。
「か、母様……わかりましたから、そんな目で、見ないでください……」
汗を垂らしながら懇願する。
マジで、限界だ……。
「ふふふ。よく耐えました。じゃあロビーまで行きましょう。そこでお礼させてもらうわ」
「は、はい」
おねだりポーズをやめてくれたおかげで、俺達は何とか正気を取り戻した。
この日1番の疲労感を感じながら、後に続いてロビーまで戻る。
ガチャ
「『虹の絆』の皆様、こちらです」
扉を開け、仕事モードに戻ったマチルダ母さんが、俺達を先導してくれる。
「なっ?!」
その姿を不意に見た人々が、目と口を大きく開けた。
腹芸が得意であろう上流階級の人間達が、揃ってそんな顔をしているのだ。
ザワ……ザワザワ……
その衝撃はロビー全体にまで広がっていった。
来た時は高級ホテルの様だったが、今では大衆酒場の様な喧騒である。
「あれって……」
「嘘だろ。伝説の【女帝】?」
「【女帝】に先導してもらってるのはどこのチームだ?」
などなど。
そこかしこから声が漏れまくる。
「(エーリ、なんか、私達を見てませんか?)」
「(私達と言うよりは、マチルダを見てるようねぇ)」
「(有名人だからでしょうか?)」
「(わからないけど、堂々としておこう)」
努めて平静に。
涼しい顔を必死で作って進んでいく。
早く帰りたい!!
ロビーの中程まで来たところで、くるりとこちらを向くマチルダ母さん。
なんだ?
「『虹の絆』の皆様、本日はご足労頂きまして、誠にありがとうございました。このマチルダ・メイガード、謹んで御礼申し上げます」
そう言うと深々と頭を下げられる。
ザワ!!
周りが慌てふためいている。
受付嬢の人達も、とんでもない光景を見た、と言う顔だ。
俺達は微笑んだまま動かない。
というか動けない。
これ、どないせえっちゅうんじゃい!
「(『ありがとうマチルダ、また頼むよ』そう言いなさい)」
マチルダ母さんから、小声でそう命令される。
そんなこと言うの?!
この状況で?!
「(エーリ、早く!)」
この空気に限界を感じたのか、オードリーから急かされる。
よ、よし……頑張れ、俺!
余裕な顔で、大きく、ハッキリと。
音魔法【拡声】!
「ありがとう、マチルダ。また頼むよ」
ザワついたロビーにハッキリと、俺の声が響いた。
ロビーが静寂に包まれる。
目の端に、ガクガク震える男の姿が見えた。
多分、俺は今とんでもないことを言っているんだと思う。
10歳のガキが【絶対強者】に上から目線で下の名前呼び捨て……。
俺の精神力でもなければ、漏らしながら気を失っていることだろう。
「はい。いつでも、なんなりとご用命下さい。お待ちいたしております」
そんな俺の事などお構いなく、再度深く頭を下げるマチルダ母さん。
その言葉を合図に、俺達はロビーを抜け、扉から外へ出る。
一切後ろは見ない。
そうしなければいけないと感じたからだ。
外に出て、通りを進む。
通行人がギルドの異変に気付き、訝しんでいる。
正直大声で叫びながら走りたいが、本能が囁いている。
【家までは油断するな!!】と……。
後ろでどよめきが起こっているが、振り向かず、涼しい顔で家まで戻った……らしい。
玄関が目の前に見えるまでの記憶がない。
ガチャ
パタン
音魔法【遮音】!!
コクリ
「だぁああああああああああああああああああ!!!」
「わぁああああああああああああああああ!! ああああああああぁああああああ!!」
「うおぉおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおあおおおお!!」
「んううううぅうううううううううううううん!!」
それぞれが叫び、悶え続けた。
およそ10分間。
「何、だったんだ……アレは……」
「わか、りません。ただ、周りの、皆さんにとっては……どだい信じられない光景だったみたいですね」
「エーリ様……とてもお腹がすきました……。もう、限界です」
「よく、耐えたわねぇ……。今までで、一番の……修羅場だったんじゃなぁい?」
もはや俺達の肉体、精神は限界である。
ヤバい、一歩も動けない。
ガチャ
「たっだいまーーーー! あ、お兄ちゃん達帰ってたんだ?! って、どしたの?」
「ステフ……今、お兄ちゃんにはお前が女神に見えるよ」
「え? ホントにどしたの? 気持ち悪いよ?」
ぐっ! なけなしの精神力で褒めたのに……。
「ステフ……お腹が……お腹がすきましたぁ。うっうううう……」
「ちょっ?! アンジーちゃん泣いてるの?! わかった! 今ご飯もらってくるから!!」
ドタバタと出て行くステフ。
その後運ばれたご飯により、アンジーがまず復活。
そのアンジーに俺達はベッドへと運んでもらい、少し寝た。
寝てる間にステフとアンジーはお風呂に入ったようである。
現在俺とアンジーはご飯中で、オードリーは疲れがひどいので魔法をかけて就寝中。
ルイーズはお風呂だ。
「それで、こんな状況になったのは何で? 依頼主に会いに行っただけじゃなかったっけ?」
「もぐもぐ……それはだな、まず……」
〜〜 東地区ギルドでの一件まで説明中 〜〜
「なるほどねぇ。とりあえず私は『エイミー』を塗らないほうが良さそうね。お兄ちゃんに襲われそうだし」
「……ツッコみたいところだが、実際魔法を使わないと抑える自信がない……」
「うわぁ……」
ドン引くステフ。
「まあそれはいいや。で、そのあと母様に会いに行って、こう、なったと」
「あれは凄かった……」
〜〜 中央ギルドでの一件を説明中 〜〜
「……というわけでこうなった」
思い出すだけで吐きそうだ。
「うーーーーーーーん……」
ステフは腕を組み、何か考えている。
「ステフ?」
「ん? ああ、ごめんね。……ねえお兄ちゃん。母様って、本当に何なんだろうね」
……ドユコト?
「だってさ、特級って言っても受付嬢でしょ? それが専用の部屋を持っていて、他支部ではエース級の受付嬢を顎で使う。そこまでならまあ、年齢や実力を考えれば説明できなくもないけど。でもSクラスの護衛が付いていて、お兄ちゃん達を先導しただけでどよめきが起こり、頭を下げるという行為が周りの度肝を抜く……。どう考えてもおかしくない?」
「まあ、確かに……」
うーん……わからん。
「とりあえずハッキリしてるのは、母様が私達の想像よりも凄い人ってことと、私達がそのご寵愛を受けてるってことだけね。多分、私達から詮索しない方がいいと思う」
「賛成だ。話をしに行っただけでこの惨状だからな。詮索したら護衛達が何かしてくるかもしれないし、アルベルトさんやジャンヌさんにも迷惑がかかるかもしれない。そういうのは避けよう」
家族内の意見がまとまり、一息つく。
そこへ
「はぁ〜〜、いいお湯だったわぁ」
風呂上がりのいい匂いをさせたルイーズ。
「……」
ぽけーっとした顔で起きてきたオードリーが加わり、話し合ったことを伝えていく。
「マチルダに関してはなんとな〜く想像がついているんだけどぉ。確証がないからやめておくわぁ」
「気にはなりますが、今日のことを考えると、頷きざるを得ませんね」
「ご飯がおいしいです」
よし、これで大丈夫だ。
今日やることは、もうない。
ドッと疲れが押し寄せる。
まだまだ疲労は残っているようだ。
「とりあえず、疲れたな……」
皆で頷く。
誰ともなくベッドに潜っていく。
お風呂は……後でいいや。
オードリーと入ろう。
「最後の依頼の期限までまだあるので、ゆっくり休みたいです」スースー
「『へべれけ』でいっぱい食べたいです……」むにゃむにゃ
「明日アーノルドの所で香油を受け取ったら、少しオフにしましょうかぁ……」……
「私もアーノルドさんに会いたい!」すぴー
「わかった……。皆、お疲れ……おやす……み……」グーグー
とてつもなく濃い1日を乗り切って、俺達は泥のように眠るのだった。
いつも見て下さってありがとうございます。
お気に召しましたら、ブクマ、評価をよろしくお願いします。
感想もお気軽にどうぞ。




