幕間 山賊騒動その後
宴の前の後始末回です。
読まなくてもその後の展開に影響はありません。
2017/12/10 読みづらい部分を修正しました
山賊を撃退し、家に戻ってきた俺は、赤ちゃんの特権を満喫していた。
睡眠、排泄、おっぱいである。
この3つだが、サイクルが非常に短い。
ひとしきり動くとすぐ疲れて寝てしまう。
そしておっぱいを飲んだり、寝ているとすぐに排泄が始まってしまう。
これらは自分の意思とは関係なく、1〜2時間の短さで回るのだ。
ほとんどミリアが行ってくれているが、母は偉大だなあ、と思った。
俺に合わせると睡眠時間がほぼ取れないのだから。
とはいえルークも、オムツ交換や洗濯、沐浴など出来ることをやってくれている。
前世で本当の両親の記憶がほぼない俺からすると、
人生で初めて親の愛を注がれていることになる。
最初の方こそ
こんな美人と赤ちゃんプレイ! ルーク、貴様は邪魔だ!
などと思っていたが、俺のすること全てに嬉しそうな顔をされては、
さすがに性的な感情を持続するのは難しかった。
何度目かのサイクルのあと、山賊の処遇について村人への説明が行われることになったらしい。
ミリアは俺のことを考えて参加を渋っていたが、
俺が山賊を撃退した立役者? のようになってしまっており、
断るのは難しいと言われ、渋々参加を了承した。
案内の村人についていくと、昨日の広場に村人が集まっていた。
「皆、よく集まってくれた」
目にクマをこしらえた村長が、村人に話しかける。
夜通し話してたのか?もはや死にそうに見えるぞ。
『おはよう、エーリ』
おお、ミルクか、おはよう。
ミルクも目の下にクマを作っていた。
昨日のミルクフェス(前夜祭)で精神に大ダメージを食らっていたからな。
『これ何の騒ぎ?』
山賊の処遇が決まったんだとさ。これから村人へ説明するらしい。
奴らどうなるんだろうな。
『まあ良くて奴隷落ち、普通は公開処刑ってとこかしら』
うえ、マジで?
『昨日国軍を追われたとか言ってたし、多分何かあって部隊ごと逃げてきたんじゃないかしら。それで山賊行為で捕まってるんだし、逃亡、犯罪のダブルパンチでほぼ処刑でしょうね』
……やっぱり、異世界なんだなー。
『エーリにはキツイかもしれないわね。日本ではこんなことなかったでしょう?』
まあな。でも、なんとなくこういうこともあるだろうって予想はしてたから。
俺が少し気落ちしていると、村長が口を開いた。
「昨夜我らを襲った山賊たちの処遇についてだが……」
処刑、か。見なきゃいけないのかな。
「我が村へ迎え入れることとなった」
ん?
村人がザワザワしている。
ん?
「我が村へ迎え入れることとなった」
大事なことだからか2回言う村長。
更にざわつく村人。
「村長、ど、どう言うことですか? 山賊を迎え入れると言うのは……?」
村人の一人が恐る恐る質問する。
そうだよ、どういうことだ?
「昨夜山賊たちから奴らの事情と、この村を襲った理由を聞いたのだ。それはな……」
村長の話が長かったので、要約する。
正直飛ばしてもいいと思う。
山賊は元国軍の辺境部隊。
上司が腐りきっていたので内部告発を画策。
バレて逆に不正の首謀者に仕立て上げられる。
他の国軍からも追跡を受け、命からがら逃げきってきた。
この村の近くにきた時にはこの村に要求してきた物が不足。
施しを受けようと思ったが、通報の危険と協力した村人に累が及ぶことを危惧して山賊に扮した。
物資を調達した後は、近隣の魔物を討伐して対価とするつもりだった。
ミルクの威光を受けて、村に護衛として関わらせてもらえないかと頼んできたという。
村長は悩んだ結果、これを承諾。
理由は、全能神ミルク様の威光で山賊が死ななかったこと。死が罰ならそれで終わっているはず。
村人にも影響が出たのは、ミルクの威光に頼るのではなく、自分たちの力で何とかせよ、とミルクが言ってると思ったこと。
というようなことをなんと3時間使って語ったのだ。
その間、俺は2サイクル消化している。
寝てる間のことはミルクに聞いた。
「しかし我々を害そうとした者たちと共存など!」
「だがミルク様のは我らにも罰をお与えに……」
「そういえば山賊たちはほとんど剣を使ってこなかったな」
「私たちや子供には暴力を振るおうとはしなかったわ」
村人も賛成派と反対派で議論が始まっている。
ミリアを斬ろうとしたあいつは何だったんだと思ったけど、
あまりに近距離で音魔法を喰らったせいで、錯乱状態にあったとミルクが言ってきた。
まあ、何でもいいよ。
その後何やかんやあって、結局山賊たちは村の護衛に収まった。
常駐者を残し、普段は村のほど近くに拠点を作って、そこに住むそうだ。
こうして初日から続いた山賊騒動は終焉した。
騒動が終わった。
つまり、
全能神ミルク様に捧ぐ感謝の宴、ミルクフェスが始まるのである。
『どうしてこうなったのよ……』
崇められるミルク様は頭を抱えていた。