第6話 ミルクフェス(本祭)
楽しかったのでつい長くなりました。後悔は全然してません。
2017/12/15 今後の展開に関わる部分を修正しました。この話の内容には影響ありません。
山賊の処遇も決まったこの日、村はいつになく活気付いていた。
当然だ。村を救った全能神、ミルク様への感謝を捧ぐ宴が開催されるからである。
村長の陣頭指揮の元、舞台の設置、飾り付け、料理の準備などがテキパキと行われている。
子供から大人まで、まるで自分の仕事が分かっているかのようだ。
淀みなく準備が進むその姿は、こんだけ練度高ければ山賊なんて撃退できたんじゃ、と思わずにはいられないほどのものであった。
「アバブゥ(こりゃすげえな)バァ(なんか)アゥウ(生き生きしてる)」
「ふふふ。この子ったら、感謝祭がわかっているのかしら」
「そうかもしれないぞ。何たって、ミルク様の御力をこの身に通したんだからな」
俺の位置付けは、ミルク様の御力を顕現させた子供というものである。
触媒というやつか。何かしらの加護があるかは、鑑定士が判断するそうだ。
隠蔽するから関係ないけど。
因みに名前も決まってないが、これは村長が決めるらしい。
あの村長だと不安だったが、ミルクが何とかするとのこと。
その間も着々と続くミルクフェスの準備。
『こんな祭いらない。こんな祭いらない。こんな祭いらない。こんな祭……』
崇め奉られるミルク様は、先程から怨嗟の声を発し続けておられる。
そうとは知らず、ついにミルクフェスの準備が整った!
村人の顔が今までになく輝いている。
ミルク様の顔が今までになく黒くなっておられる!
そんな中、村長が広場にやってきた。
村人の注目が集まる。
「昨夜、村に危機が訪れた。その危機は全能神ミルク様の御力で去った。その結果にまだ納得出来ていない者もおるかもしれん。だが、ミルク様はその脅威とも、共に生きよと仰ったのだ。助けられた我らは、その意思に従わねばならぬ。誰も死なず、今日この日を迎えられたことを喜び、ミルク様に感謝を捧げよう。皆祝杯を掲げよ!第1回ミルク様感謝祭、開宴である!!」
「わああああああ!」
「ミルク様ーーーー!」
「ありがとうございますミルク様ぁぁーー!!」
村人から全能神ミルク様を讃える言葉が叫ばれる。
手に持った金属製のジョッキを打ち鳴らし、いい笑顔で酒を飲み干していく。
第1回ミルクフェスは盛況である。
第 1 回 !
ミルクフェスは盛況である!
つまり第2回も開催予定である!!
『やめてぇーーーーーー!!』
ミルク様も喜び酔っておられるのか、顔を真っ赤にして滂沱の涙を流されている。
一方祭では、様々な料理が供されていた。
牛、羊、鶏、魚、あと何かわからないやたらでかい肉など、丸焼きにされいい匂いを漂わせている。
煮物、焼き物、炒め物、ソーセージもある。パンにご飯? にお好み焼きの様なものまであるようだ。
異世界だから食の文化が心配だったが、これならこの先楽しみだな。
とりあえずはミリアのおっぱいで間接的に楽しめるから良しとしよう。
食べ物に気を取られていると、あちらこちらから音楽が聞こえてきた。
そこかしこで村人が踊り、騒いでいる。
ああ、いいな。
こういう祭を楽しいと思ったのは何年ぶりだろうか。
花見、夏祭り、ハロウィンにクリスマス。
ブラック企業時代はそれがどうしたって感じだったしな。
久しぶりにとても楽しい。
『それは……良かったわ』
ん? ミルク様? 復活なさったのですか?
『ふえぇ。エーリも私を苛めるぅぅ』
うわ、ガチ泣きしちゃってる。
ご、ごめん。あんまりにも展開とノリがアレだったから楽しくなっちゃって。
『ふん、だ! いいもん! エーリなんか鑑定士に捕まって国で人体実験されればいいんだもん!』
頬をぷん、と膨らましてぷりぷりと怒っている。
ミルクは可愛いなあ。
『や、か、可愛いなんて……。ほ、本当?』
ほんとホント。からかうのだってミルクの反応が可愛いからだし。
そもそも異世界に来ようと思ったのだって、こんな女の子に殺されるならそれでもいいかと思ったからだし。
『えへへ、照れるなぁ。そんなに言うんだったらぁ、許してあげないこともない、ぞ?」
指を背中で合わせながらモジモジしているミルク様。
とても可愛い。とてもチョロい。
そんないい雰囲気が、村人の一声で壊される。
「さあさあ、ミルク焼き! ミルク焼きはいかがかねー!全能神ミルク様を象った霊験あらたかな食べ物だよー! 1つ銅貨2枚! 銅貨2枚だ! 3つ買うなら銅貨5枚だよー!」
「こっちはミルクまんじゅうだ! 甘いクリームがたっぷり詰まってほっぺたが落ちること請け合い! 1つ銅貨1枚! 奥さん、お子さんにおひとつどうだい?!」
他にもミルクアイスにミルク飴、ミルク焼きそば、ミルク揚げと、このイベントに便乗した屋台からミルクミルクの大合唱が起きる。しかもどこもかしこも行列が出来ている。この村の人口は300人程度だったはずだが、どう少なく見積もっても1000人を超えているのではないだろうか?
見渡す限り人、人、人である。
「今日はなんだか人が多いわね? 」
「ああ、村長が近隣の村にも声をかけたそうだよ。ミルク様のご加護なんて、滅多にないことだし、めでたいことは分かち合わないとって仰っていた。まあ、便乗して儲けようとしている様にも見えるけどな」
ミリアは同じ疑問を持っていた様で、それにルークが答えた。
「元山賊さん達のことはどう話したのかしら? 」
「ばぁ(ああ)、あぶあぶ(確かに)」
「おーよちよち。魔物がやってきたけどミルク様のご加護が発現したってことにしたみたいだ。さっき村人に伝令がきてたよ」
それで誤魔化せるのか? まあいいか。
『村長、ふーん。い〜い度胸してるわねぇ。私に便乗して金儲け。ふーーん?』
村長逃げて! 全力で逃げてぇ(笑)!!
ミルクの顔が影で見えなくなっている。
あーあ、知ーらないっと。
そうして村人の熱気とミルクの怒気が最高潮となったところで、
村長が布をかぶせた何かと共に登場した。
なんだなんだと村人の注目が集まる。
ざわつく会場を手で制し、静かになったところで村長が口を開いた。
「この場にいる全ての者よ。今宵ミルク様への感謝の宴を共に楽しめていることを嬉しく思う。知っておろうが、我らの村は昨夜、全能神ミルク様のご加護に守られた。こうして皆で宴を催し、ミルク様への感謝の意を示していると思うが、我らは考えた。こうした一過性のものとは別に、何か恒久的に残すことはできないだろうか、と!」
おお、と、村人からどよめきが起こる。
ミルク様からは怒気がほとばしる!
「我らの感謝の意思! それを象ったものが、これである!!」
バッ! と布が取り払われ、とても大きな、高さ5mはある銅像が現れた。
わああああ! と村人から歓声が起こる。
地響きと勘違いしそうなほどだ。
長い髪に足首まであるワンピース。整った顔立ち。
なるほど。ミルクを象ったと言うのは本当の様だ。
様だ、が、色々違いも見受けられる。
まず身長が高すぎる。外見も、本物は10代だが銅像は多分20代後半と言ったところか。
背中からは翼も生えてるし、何より、何より……
胸はこんなにデカくない。
ブチん!!
その時俺は、切れてはいけない何かが切れた音を聞いた。
ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
雲ひとつない青天は、突如現れた真っ黒な雲に覆われた。
首をコテンと傾げ、黒髪が生き物の様にウネウネと動いていた。目が、目が怖いですミルク様!
『私、我慢、したわよね? 馬鹿みたいにミルク様ミルク様って言われても、エーリがこれから暮らす村だし、付き合っていく人間達だし』
う、うん。ミルクはいっぱい我慢したと思うぞ?
この時点で俺は漏らした。
『感謝の意を表してくれるからって言うからやらせてみれば、ミルク様感謝祭とかいうセンスのかけらもない名前だし。第1回? はあ?! なんで次回開催が決定してるのよ! 全能神様は望んでないのよ! それに……それにぃ!! 何なのよその銅像はぁ!!! 私の全身像なんて帝都に腐るほど置いてあるでしょうが!! 見た目そんなに年取ってないわよ! 翼なんか生やしたことないわよ! 胸は、胸は……!!!』
む、胸は……?
ゴクリ。
『大きければいいってもんじゃないのよぉおおおおおおおおおおおお!!!!』
うん、形とか張りとかも大事だよね!
ミルクの全身から虹色のオーラが迸る。
『全能神ミルクが命じる。我が魔力よ雷撃となり、森羅万象を灰燼とかせ。全能神を侮辱した罪、その身をもって思い知るがいい……【神雷】』
ピシャァーーーーーズガァアアン!!!
黒雲から虹色の雷が銅像に落ちた。
凄まじい音と光に、村人たちは何もできなかった。
もうもうと煙が上がる。
近くにいた村人達は、ひっくり返って倒れている。
村長も数メートル吹き飛ばされて目を白黒させている。
そして雷が直撃した銅像は……。
無傷だった。
しかもなんか虹色のオーラが銅像の周りに漂って、以前より神々しい姿になっている。
なんで?
『…………は?』
ミルク様も動揺を隠せない。
多分本気の本気、だったんだろうな。
全能神の本気を受けて無事って、どういうことなんだろう。
ミルクは何かに気づいた様で、食い入る様に銅像を見ている。
『最高になってる……』
ん? な、何がでしょう? ミルク、顔が怖い。
『この銅像を介して私への信仰心が最高になってる!』
目が血走ってる!!
それが、今回のことに関係、あるんですか?
『信仰心が最高っていうのは、極端に言えば私が死ねと言えば笑顔で死ぬレベルなのよ。私を信じてくれている者へ私自身が危害を加えることはできない。こんなこと、ほとんどなかったのに……』
そう言うとぺたん、と崩折れ、放心状態になってしまった。
恐るべし、ミルクフェス……!
そんなミルクをよそに、村人達は目の前の出来事を咀嚼し始めていた。
「だ、大丈夫か? !」
「虹色の雷……ミルク、様? 」
「見ろ! 銅像が虹色の光に!!」
「おお! ミルク様が祝福してくださっておる!」
村長、復活してる。
村人達は最初の方こそ驚きと恐怖もあった様だが、村長が祝福という言葉を用いると、まるでスイッチが入ったかの様に喜び始めた。
「ミルク様が我らの意思を汲み取ってくださったぞー!」
「やはりこの村はミルク様の守護があるのだ!」
「ミルク様ーーーー!」
「ミルク様ーーー!!」
「ミールクっ様! ミールクっ様! ミールクっ様!」
「ミールクっ様! ミールクっ様! ミールクっ様!」
「ミールクっ様! ミールクっ様! ミールクっ様!」
怒涛のミルクコール!
村人の興奮は留まるところを知らない。
ついには
「この村はこれよりミルク村と改名する!」
と村長がのたまう事態になった。
前の村名知らんけど、ミルク村になるらしい。
『もう、好きにしてよ……』
色を失った目でミルクが呟き、その日から数日間、ミルクは引きこもった。
尚、ミルクフェスは予定を大幅に超過し、3日間開催された……。




