第61話 団欒
続きです。
2018/02/06 読みにくい箇所を修正しました。
「よし、こんなものか」
自分の持ち場である店の掃除が終わった。
元々が物がいい店だったから、拭いて綺麗にするだけで見違えるほど綺麗になった。
流石に破れたり割れたりしたものはどうしようもないけど。
「皆の方はどうかな?」
住居スペースに移動する。
オードリー、アンジーが頑張ったおかげで、とても綺麗だ。
「あ、エーリ。終わったんですか?」
「ああ、何か手伝えることある?」
「じゃあゲムちゃんで手が届かない隙間とか拭いてください」
「はいよ」
しばらくするとルイーズも終わったのか、別の部屋に入っていった。
掃除はもうちょっとだな。
〜〜 1時間後 〜〜
「これでよし、と」
最後にテーブルを拭いて、掃除は終わった。
「見違えましたね」
「これなら床に寝転んでも大丈夫よぉ」
「やっとご飯を食べる環境が整いました」
「じゃあ次は食材の買い出しだ。オードリー、アンジーと一緒に行って買ってきてくれ」
「はい。行きますよ、アンジー」
「何を食べましょう……ふふふ」
2人を送り出し、俺とルイーズはクリザリスさんの様子を見に行く。
「魔法の効果が出たな。生気を感じる」
「私とエーリくんのダブルだものぉ。これが効かないのは死人だけよぉ」
そこには、こけてはいるものの、肌艶がいいクリザリスさんが寝ていた。
「まだかかりそうだ。料理の準備でもしておこう。ルイーズはたまに見にきてあげてくれ」
「はぁ〜〜い」
火を起こし、お湯を沸かしておく。
調理器具はここか。
調味料は……ダメだな。
オードリーに連絡し、ついでに買ってきてもらう。
「仲、良かったんだろうな」
食器や家具などを見ると、ペアのものが多かった。
来客用もあったが、夫婦で使ったであろうそれらの数が圧倒的に多い。
引退したのが30年前。
恐らくその頃に……。
「家族を失う……絶望だってするよな」
俺には今、大切な家族も、仲間もいる。
赤ん坊の頃、糞野郎どもに襲われた時の恐怖は、今でもはっきりと覚えている。
思い出すだけで魔力が溢れそうになるほど。
涙が出そうになるほど。
あんな気持ちになるのは2度とごめんだ。
ゴシゴシ
クリザリスさんは自分のことを『伝説の馬鹿野郎』と言った。
きっと何か後悔することがあったんだろう。
それが何かはわからないけど、出来るなら生きていてほしい。
ガチャ
「ただ今帰りました」
「早く料理しましょう。お腹がすきました」
そこへ、買い出しからオードリーとアンジーが帰ってきた。
「お帰り。少しだけど準備できているよ。クリザリスさんはまだ起きてない」
「あら、帰ってたのねぇ。手伝うわぁ。エーリくん、クリザリスさんをお願ぁい」
「ん」
料理は女性陣に任そう。
俺はルイーズと入れ替わりで寝室へ入っていく。
「んん……レン」
クリザリスさんは時々寝返りをうったり、寝言? を言いながら寝ていた。
回復したからだろう。
「カレン……行かないでくれ……」
「カレン?」
奥さんの名前だろうか。
そう呟くクリザリスさんは、うっすらと涙を流している。
何度か名前を呼んだ後、また深い眠りに落ちたようだった。
〜〜 更に1時間後 〜〜
すんすん
「あー、シチューかな?」
寝室にもいい匂いが入ってくる。
「ん……?」
匂いに釣られたのか、クリザリスさんが目を覚ます。
「目が覚めましたか?」
「君は冒険者の……。ここは、寝室か? 私は一体……」
少し記憶の混乱が起きているようだ。
「はい。『虹の絆』のエーリです。クリザリスさんは『エイミー』を生み出した後、力尽きて倒れられたんです。放ってはおけなかったので、運ばせていただきました。今昼食を作っています」
「昼食?」
ぐうううぅぅ
クリザリスさんのお腹が鳴る。
「え?」
何故かクリザリスさんも驚いていた。
「お腹が空くのが珍しいんですか?」
「あ、ああ。最近は空腹など感じたことがない。お腹の音なんて、何年ぶりだ?」
「まあ、何はともあれお腹がすいているのでしたらご飯を食べましょう。立てますか?」
ベッドから出たクリザリスさんは少しよろめいたが、その後はしっかりと自分の足で居間に向かった。
ガチャ
「クリザリスさんが目を覚ましたよ」
「あ、エーリ。こっちも今出来ました」
オードリーがエプロン姿で迎えてくれる。
居間はとてもいい匂いが充満していた。
「これは……?!」
部屋の変わり様に目を見開く。
「勝手ながら掃除させていただきました。割れたものや生ゴミなどは捨てましたが、それ以外は洗ったり拭いたりするだけに留めています」
少しの間辺りを見回していたが、
「!! つ、妻の部屋は……!?」
「ルイーズ?」
「そちらは入ってもいませんわぁ。あそこだけ扉が綺麗なままでしたものぉ」
「そ、そうか……。ありがとう」
やっと落ち着いて気が抜けたのか、クリザリスさんはよろよろと椅子にもたれかかった。
「まずはご飯です。ご飯は全ての始まりです」
辛抱堪らんアンジーが、テキパキとシチューを皿に盛っては並べていく。
ん〜〜、いい匂いだ。
ゴク……
クリザリスさんはその匂いに喉を鳴らした。
「では……」
「「「「「いただきます!」」」」」
「……いただきます」
パクッ
「んまい!」
とろとろに煮込まれた牛肉、口の中で甘さと旨味をもたらす野菜達。
ワインに似た酒のソースがそれらを包み、一体となった味は身体の隅々に巡り渡る。
「うん、我ながら美味しくできましたね!」
頰に手を当て、もきゅもきゅと食べるオードリー。
「んうぅう〜〜」
悶えながら食べるルイーズ。
「……おかわり」
無言で食べ、無言でよそうアンジー……。
寸胴鍋に作ったシチューが、着実に減っていく。
「クリザリスさんもどうぞ?」
「え? あ、ああ」
俺達の食事風景に圧倒されていたクリザリスさんだが、勧められるままにスプーンを口に運ぶ。
カチャ……ぱく
「?! ……おい、しい」
「本当ですか?! ふふふ、作った甲斐がありました。おかわり沢山ありますからね!」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして!」
褒められて上機嫌のオードリー。
こうしてると本当に可愛い。
クリザリスさんもこころなしか赤くなっている様に見える。
……オードリーはやらんぞ?
「あらあらぁ? エーリくん、私も見てくれなくちゃ嫌ぁ〜よぉ?」
しなだれかかってくるルイーズ。
腕を胸で挟むな!
気持ちいいだろ……。
「……おかわり」
ガチャ、ぽたた、もぐもぐ。
アンジーは今日も元気だな。
「はははは!」
クリザリスさんが、笑った。
「もう、クリザリスさんに笑われたじゃないですか! ルイーズも離れてください!」
「え〜〜? 最近スキンシップが足りなかったんだものぉ。ちょっとくらい、いいじゃなぁい」
「……おかわり」
「やめい! あとアンジー、速度落として!」
「ちっ! ……わかりました。……おかわり」
「ははは! 君達は、本当に不思議だね。50本の完全なバリスティックローズを集めたかと思えば、家の掃除に食事に。依頼にはここまで含まれていないよ?」
穏やかな笑顔。
誰かと食卓を囲むのは何年ぶりなのだろうか。
いや何十年ぶり、かもしれない。
「これはお礼です」
「お礼? 何のだい?」
「職人の仕事を見せてもらった、お礼です」
「普通見れませんしね」
「いい刺激になりましたわぁ」
「あれは感動しました」
実際、あんな状態であれほどの仕事が出来る時点で、この人が伝説、と呼ばれるのも頷けた。
「そう言ってもらえると、見せた甲斐があるよ。ああ、ご馳走さま。美味しかった」
久しぶりの団欒は、楽しんでもらえただろうか?
表情は穏やかなものに変わったし、まともな食事をしたからか、少しだけ元気になったようにも見える。
気のせいじゃないことを祈ろう。
その後2食分のシチューを小分けにし、それ以外はアンジーがすべて食べて食事は終わった。
やたらバリスティックローズ編が長くてすみません。
作者が気に入ったのか、気づいたら結構な文字数書いてしまったので、もう数話お付き合いください。
いつも見てくださってありがとうございます。
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