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第58話 綺麗な花から棘が出る

続きです。


バリスティックローズの採取を始めるエーリ達のお話です。


2018/02/06 読みにくい箇所を修正しました。

 メイガード家に向かった俺達は、ステフ、アルベルトさんに初依頼達成の報告をした。


「へぇ〜。アンジーちゃんが大活躍したんだぁ。アンジーちゃんは凄いねぇ。お兄ちゃんなにもしてないじゃない」


 テーブルに肘をついて、手に頰を乗せている我が妹。

 すっかりこの家に馴染んだようである。


「チームの勝利と言え」

「私やルイーズも何もしてないですしね」

「ご飯食べてただけだわぁ」

「ご飯は美味しかったです」


「まあ、初仕事が達成できて良かったじゃない。それに、マルス伯爵だっけ? その人とのアポも取ってくれてありがとう。最大限活かして見せるわ」

「ははは。ステフは頼もしいな。エーリくん。依頼達成おめでとう」


 そこへお茶を運んできてくれたアルベルトさんが、祝いの言葉をかけてくれる。


「ありがとうございます。まあまだあと2つ受けているんですけどね」


 残り2つも説明した。


「ふむ。ジャンヌが勧めたと言うことは、その依頼は『虹の絆』にとって有益な結果をもたらしてくれると思うよ。受付嬢は自分のお気に入りのチームや個人に対して、有益な情報を優先的に持ってくるからね」


「そう、なんですか?」


 贔屓をしていいってことか。


「ああ、だが何でもかんでも依頼を振るわけじゃあない。依頼が未達成なら、自分や自分のお気に入りの冒険者の評価が下がってしまうんだ」

「実力に見合った依頼を振って、それが達成されれば、依頼主、受付嬢、冒険者、三者が利益を受け取れて皆幸せ、と言うわけです」

「なるほど」


 全員が幸せになれる、か。

 ブラック企業時代は、客、会社、従業員の内、従業員が置き去りにされていたからな。

 この世界の冒険者は随分幸せなんだな、と実感する。


「そうだ。先輩からの助言をあげよう。残り二つの内、バリスティックローズは夜に取った方がいいよ」


 アルベルトさんがお茶を飲みながら言ってくる。


「夜、ですか? それはどうしてでしょう?」

「あのバラは名前にも表れているけど、棘を飛ばしてくるんだ。それ自体はそう問題じゃない。問題なのは、棘が抜けると、花の香りが格段に落ちてしまう。依頼には完全体、と書かれていたんだろう。だったら花が棘を飛ばす前、気づかれるよりも早く刈り取るしかない。夜は寝ていたりして比較的取りやすいんだよ」


 へぇ。そんな習性が。


「ありがとうございます。じゃあ今夜からやってみますね」

「ああ、頑張りたまえ」

「皆頑張ってね。……あれ? じゃあ私は夜も一人?」


「あっ……」


「ははは。依頼が達成出来るまで、ステフはここに居なさい。部屋はジャンヌと同じでいいだろう? あの子の部屋のは昔ライアンと使っていた名残りで2段ベッドだから、気にすることもない」

「ご迷惑をおかけします」


 マジで感謝だな。

 防衛面では多分大丈夫なんだけど、妹を一人で置いて行くのは凄い罪悪感がある。


「いやいや、今日もステフと一緒でとても楽しかったしね。迷惑じゃあないよ」

「ねーー!」


 我が妹は元Sランクの心をガッチリ掴んだようである。


「では何かお礼を」


 流石に恩恵を受けてばかりだとこちらの居心地が悪い。


 ふむ、とアルベルトさんは少し考えた後、


「いらない、と言いたいところだけど、報酬にアーノルド・クリザリスのローズオイルが含まれるとあらば、そうも言っていられないな。報酬は10本、だったね?」

「はい」


「では、そのうちの2本をいただけないだろうか。妻と娘にね」

「それは構いません。あの、アーノルド・クリザリスと言う人物のローズオイルは、希少、なんでしょうか?」


 マチルダさんに贈りたいと言うほどだから、凄いのは確かなんだろうが。


「確か30年ほど前に引退したはずの、伝説の香油士だよ。今では名を知る者が少なくなってしまったけどね。彼の作る香油は、出るたびたちまち売り切れになってね。転売価格が1000倍になったこともある。そして、その1000倍になった商品と言うのが……」

「バリスティックローズオイル、と?」


 アルベルトさんはゆっくりと頷く。


「どうして今になってまた作ろうと思ったのかは謎だが、これはとてつもない掘り出し物の依頼だ。我が娘ながら良くやったと褒めてあげたいよ」


 ジャンヌさんが知っていたのは、ご両親の影響かもしれないな。

 昔話で耳タコだったのかもしれない。


「後でまたお礼を言わなきゃな。よし、帰って少し寝よう。今夜から早速始める!」

「「「はい」」」


「頑張ってねぇ〜」


 気合が入った俺たちは、夜に備えるため仮眠を取りに部屋へ戻った。




 〜〜 深夜0時 ガイノスの丘から500mほど離れた場所 〜〜


「あれがバリスティックローズか……」


 望遠鏡を覗くと、月に照らされ、キラキラと光り輝く赤い絨毯が見えた。

 花弁、がく、葉っぱ、茎、全てが光り輝き、それは幻想的な光景だった。


「バリスティックローズは警戒心がとても強いです。根を半径50mほど外側まで張り巡らせ、振動などで敵の位置を特定して攻撃してきます。攻撃した花は急速に枯れていき、種は地中深くに潜って1年ほどは芽が出ません」


 どうやって近づいて、どうやって回収するか、だな。


「辺り一面刈り取るわけにもいかないのぉ?」


「そういう根こそぎ系はやめとこう。依頼とは言え、花も生きている。必要な分だけでいいさ。それに、もし一瞬で刈り取れなかった場合、全滅の可能性が高くなるだろ」


 こっちの都合で刈り取るのは変わらないけど、だからってどんなことをしていいわけじゃないしな。


「じゃあどうするか、ですね」

「うん、まずは実験からだな。距離感や使えそうな魔法、魔力の種類の把握、攻撃方法も情報通りか確かめないと」


 俺達は実験のために、ガイノスの丘にゆっくりと近づいていった。


 100m


 80m


 60m


 51m


「……とりあえずここまでは動く気配はないな」

「うーんとぉ、寝てるのが大半だわぁ。でも見張り役がいるみたいねぇ」


 寝ているものはあまり動かずじっとしており、花の中心からキラキラと輝く花粉が吹き出している。

 起きているものは時々クイっと首? を動かし、周囲の状況に気を配っているようだった。


「まずはゲムで50mを超えてみる」


 周辺をゲムで満たしていく。

 ……50m。


 ピク!


 起きている見張り役の花弁がこちらを向いた。

 まだ攻撃してくるわけではない。


 49m。


 ジャキン!


 見張り役が背筋を伸ばし、棘がせり出してくる。


 48m。


 パァン!


 まるで拳銃でも撃ったかのような音が響き渡り、ゲムの第1層に棘がくっついていた。


 撃った見張り役はゆっくりと萎れていき、やがて見えなくなった。

 見張り役がいなくなったためか、近くで寝ていた奴がビクン、と起き、こちらを向いて棘をせり出している。


「情報共有も出来るみたいだな」

「根の敏感さも凄いですね」


 ゲムをゆっくりと引いていく。

 第1層にくっついていた棘を見てみた。


「螺旋状になっているわねぇ。貫通力を上げているのかしらぁ?」

「多分そうだな。回転しながら突き刺さってきたから。一般人だと身体に穴があくと思う」


 これで『そう問題じゃない』んですか? アルベルトさん……。


「でもいい匂いがする……」


 すんすん、とアンジーが種をかいでいる。


「あ、確かにいい匂いですね。完全体だとどんないい匂いがするんでしょうか?」

「ふふふ。楽しみだわぁ」

「美味しいんですかね」


 女性陣はバリスティックローズへの興味が増したようだ。

 若干1名、違う興味になっているが。


「魔法はダメ、か。魔力ならどうだ?」

「広がって、それぞれ試してみましょう。せっかく魔法使いが3人も居るんですし」

「そうねぇ。いつもエーリくんに任せっきりってのもアレだしぃ」


 俺達は花畑を中心に三方に広がって色々試した。

 結果。


「全敗か……」

「手強いですね」


 試したもの全て、バリスティックローズに警戒される結果になった。

 魔力は根の上を通して20mまで近づくことができたが、どうやら花粉もセンサーの役目をして居るらしく、触れた瞬間に警戒度MAX。全ての花が起きてしまった。


 空からはどうかと思ったが、こちらも花粉のせいでダメ。

 風で花粉を吹き飛ばせばどうかと思ったが、魔法の風では魔力を含んで居るためアウト。

 普通の風では魔力を含んだ花粉は飛ばせず、こちらもアウト。


 ただの石を投げてみた場合、バリスティックローズに当たらなければ特に何もないが、魔力が付着していたり、当たったりした場合は攻撃が開始される。


「なるほど、わからん」

「八方塞がりねぇ」


 皆成果が出ないからか表情は暗い。


「しょうがない。一旦休憩しよう。アンジー、夜食を出してくれ」


 シュバッ!


「喜んで」


 早!


 一瞬でピクニックセットが展開される。

 お腹が減るだろうと思って、皆で夜食を作ってアンジーにしまっていたのだ。

 時間経過なしの魔法鞄に入っていたため、料理は作った時の温度を保っている。


「「「「いただきます」」」」


 もぐもぐ


「これからどうしようか」


 もきゅもきゅ


「そうですね。すっごく長い鎌を持ってくる……というのは現実的じゃないですし」


 ごくごく


「はぁ美味し。完全体じゃなくてもいいなら超スピードで行けるんだけどぉ。反応速度が異常だわぁ」


 むしゃむしゃバクバク


「土を掘って根っこに触れてもダメでした。根っこを退けるのも無理そうです」


「「「「ふぅ。ごちそうさまでした」」」」



 うん、突破口が見えん!



「あっ……」


 立ち上がろうとしたその時、俺は服の裾をふんずけて片足でけんけんとバリスティックローズのテリトリーに入ってしまった。


「ヤバ!」


 ……


 あれ?


 ジャキン! パパパァン!!


「おぉっと!」


 一足飛びに皆のところまで戻る。


「……いまの見たか?」

「反撃まで一瞬間がありましたね」

「気づいていなかったように見えたわぁ」

「花もビックリしてたみたい?」


 何だろう。

 今までとは明らかに違う。


 何だ? 何が違った?


 その後、何度か試そうとしたものの再現せず。


「エーリ、もう夜が明けます」


「しょうがない。今日は帰ろう」


 タイムアップとなったのだった。




「お帰りー! ……ってその顔はダメだったのね?」

「正解。ただいま。……はぁー、疲れたぁ」


 家に戻ると既にステフが起きていた。


「おはようございます。ステフ」

「おはよう〜」

「おあ〜〜ようございまぁふ」


「皆お疲れ様。お風呂湧いてるから入っちゃって!」


 なんて気がきく妹だろう。

 俺が感動していると、


「アルおじ様がね、『多分疲れて帰って来るから』って。朝食も作ってもらったから食べてね!」


 ああ、アルベルトさんの気遣いか。

 流石に先人にはわかるんだろう。


 もしくはアルベルトさんも通った道かな?



 ザバァ……


「「「「あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜……」」」」


 お言葉に甘えて皆でお風呂だ。

 あまりに疲れすぎて、ドキドキもせずリラックスして入れた。

 皆も疲れを取ることに集中していて、無口だったな。


 風呂から上がり、髪を乾かして朝食を食べる。


「なんか、やけに疲れたな」

「成果が出ないと、こんな風にドッとね……」

「謎が解けなかったわねぇ」

「ご飯が美味しいです」


「ほらほら、そんな頭じゃ何考えても無駄だって! 食べたら歯を磨いて寝る! 家事は私がやっておくから! キリキリ食べなさい!」


「「「「はぁ〜〜い」」」」


 小さいステフ母さんは元気である。

 まだ5歳なんだけどね。

 頼もしい限り。



 zzz



 昼過ぎに起きる。

 少しぼーっとするが、疲れは大分取れた。


「あ、おはよう。よく眠れた?」


「ああ、おかげさまで。あれ? 皆は?」


 ベッドには俺しかいない。


「皆はさっき起きて図書館に行ったよ。バリスティックローズの対処法を探して来るって」

「そっか。俺も行こうかな」


 いそいそと着替える。


「あ、お兄ちゃんには皆から別の仕事を頼まれてるよ」

「何?」


「夜食の材料の買い出し。はい、これがメモね」


 ニカッと笑ったステフ母さんから、メモとお金を受け取る。


「あ、はい」

「行ってらっしゃい。気をつけてね!」


 バタン! と部屋を追い出され、階段を降りる。


「皆が帰ってきたら、また会議だな」


 決意も新たに、俺は買い出しへと向かうのだった。

バリスティック、なんて英語を使っていますが、多分使い方は間違っているんだと思います。

そこはまあ、見逃してください。


3,0000PV、4,500ユニークを達成できました!


読んでくださった皆様、ありがとうございます!


気に入ってくださった方は、ブクマや最新話の1番下にある、評価をお願いします!

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